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国境沿いの防衛戦

 10月6日 1011時 エジプト カイロ西空軍基地


 戦闘機のAPUの音が一斉に鳴り響き、エプロンに駐機しているそれらの機体の周囲では整備員たちが慌ただしく駆け回っている。幾つかの機体は燃料の補給や兵装、増槽の搭載が行われている途中だ。

 作戦が決まったのは今日の早朝だ。エジプト軍の偵察部隊が、国境沿いの地域に敵の戦車部隊が多数集合しているとの情報を送って来たのだ。そして、偵察部隊はこの敵の集団がエジプト領内に侵入したのを確認したのが0314時。その2時間後にはエジプト陸軍と傭兵部隊の戦車部隊や砲兵部隊と交戦が始まり、双方に大きな損害が出た。そして、敵の航空部隊の爆撃が始まり、多数の死傷者が出たところで空軍と"ウォーバーズ"に応援要請が入ったという訳だ。


 ニコライ・コルチャックはSu-35Sのエンジンを起動し、兵装選択画面を呼び出した。R-73とR-77が4発ずつという、空対空戦闘を意識したレギュレーションだ。翼端のR-73用のランチャーがあったところは、L265M10-02ヒービヌイMジャミングポッドに換装されている他、無線機とデータリンク装置、レーダー警報装置及び電子防御装置がフランス製とイスラエル製のものに換装されている。

 さて、今日の仕事は爆撃に向かうエジプト空軍機の護衛だ。ついでにエジプト南部で迷子になっているはずのシュウランを見つけることができれば良いのだが・・・・・・。


 佐藤勇はF-15CのAPUのスイッチを押して起動させたが、その様子がおかしかった。普通ならば、甲高い吸気音の直後にF-1のレーシングカーのエンジン音のような音が鳴るはずなのだが、それに交じって大きなカラカラという、内部で何かが転がっているような音が鳴っている。周囲にいる整備員たちもすぐにそれに気づいたのか、慌ててF-15Cの正面でエンジンを切るように大きなジェスチャーで合図をした。佐藤は即座にF-15Cのパワーをカットオフし、キャノピーを開けた。整備員の一人がタラップをかけ、佐藤に降りてくるように合図をする。


「くそっ、何だこれ?こんな事になるのは初めてだ」

 佐藤はパワーを切られたF-15Cの周囲を歩き回った。整備員の一人であるウォルター・マーチは手早くF-15のアクセスパネルを開き、状態を点検する。

「まだエンジンの温度が高いから、エアインテイクの中を調べるのは無理だな。だが、一つだけ言えるのは、こいつで出撃したら、あんたは間違いなくお陀仏になるだろうな。エンジンが空中で爆発して空中分解か、それともエンジンがストップしてしまうか。エンジンに異常があるのか、それともAPUに異常があるのかは、一旦、分解してみないとわからない」

「くそっ、予備機は持って来ていないぞ」

「とにかく、今、あんたを出撃させる訳にはいかなくなったな。ボスには報告しておく。おまけに、こいつはそこそこ年季が入った機体だからな。実際、こいつはイスラエル空軍が手放した、あんたよりも10年は年上の機体なんだ。そろそろガタが来てもおかしくは無い」

「畜生。僕が行けないとなると、ジェイソンに指揮を執ってもらうしかないな」

「だな。取り敢えず、あんたのイーグルは俺たちが預かっておく。多分、エンジンとAPUはバラして点検しないとダメだろうな」

 マーチが合図をするとトーングカーがF-15Cに取り付き、真っすぐ"ウォーバーズ"に貸し出されている格納庫へと引っ張って行った。暫くすると、ジェイソン・ヒラタ以下、他の"ウォーバーズ"のパイロットたちが戦闘機をタキシングさせ、誘導路へと向かうのが見えた。ニコライ・コルチャックがSu-35Sのコックピットから飛行隊長に敬礼をする。佐藤はエプロンでそんな彼らを見送るしかなかった。


 10月6日 1029時 エジプト カイロ西空軍基地


 佐藤のF-15Cが異常を起こしたとの知らせは、ゴードン・スタンリー司令官にもすぐに届いた。スタンリーは佐藤への出撃命令の取り消しとF-15Cの整備点検を即座に指示した。スタンリーは今回はE-737には搭乗せず、基地の指令室から作戦をモニターすることになっていた。

「ううむ、ユウをこっちに呼んでくれ。ここからモニターさせる。それと、基地、ディエゴガルシア島だ。基地に連絡して、F-15の予備機を持って来させる手配もだ」

 とはいうものの、輸送機を使ってF-15を運ぶのは簡単ではない。そのままでは輸送機には入らないので、主翼や尾翼、エンジンなど幾つかの部品にバラして運ぶ必要がある。

「いえ、もしかしたらエンジンとAPUの交換だけで済むかもしれません。いずれにせよ、あのF-15は点検が必要ですし、復帰させるとしても、状態次第ですが最低でも数日はかかります。それに、修理点検が終わったとしても、最低でも数回はテストフライトをしなければならないでしょう」

 確かにその通りだ。大規模な修理をした飛行機は、いきなり実戦投入することは不可能で、テストフライトを数回行い、問題が無いことを確認せねばならない。

「それなら尚更だ。予備機を基地から持って来て、今のイーグルを送り返して、基地の工場で修理した方がどう考えても早いだろう。まあ、いずれにせよ、制空型のイーグルは備品取りに使える物だけ残して、後は廃棄する予定だし、ユウもそれを了承していたからな」

「わかりました。では、そのように」

 やがて、オペレーション・ルームの扉が開き、佐藤が入ってきた。近くにいたエジプト空軍の憲兵が敬礼し、佐藤も答礼する。スタンリー司令官は、ここでは中佐待遇、飛行隊長である佐藤は少佐待遇、他のパイロットたちは、少なくとも大尉待遇を受けている。

「さて、散々だったな」

「機体が爆発して、あの世行きになるよりはずっとマシですよ」

「そりゃそうだ。さて、技術班にはF-15を点検しておくように指示しておこう。それと、予備の機体を持ってくる手配もな」

「で、僕はどうするべきですかね?勿論、要撃管制官の訓練なんて受けてないですし、ここでパットたちの指揮なんてできそうにもないですよ」

 佐藤のいう事は正しい。佐藤はあくまでも、戦闘機のパイロットであり、要撃管制官であるスタンリーや原田とは戦場の『見え方』が違う。

「とにかく、イーグルをどうにかできるまでは、お前を空に上げるわけにはいかない」

「わかりました。仕方が無いですね」

「今日は、そうだな。取り敢えず、ここで作戦の様子をモニターしておいてくれ。今日の命令はそれだけだ」

「では、そうしておきます。それと、余計なことはなるべく言わないように気を付けます」

「懸命だな。では、ここに座って、コーヒーでも飲んでくれ」


 10月6日 1033時 エジプト上空


 ジェイソン・ヒラタはF-16Vの機内で、ひっきりなしに計器を確認し、周囲の様子を見回した。そろそろ接敵する頃合いでもある。畜生。ヒラタは戦闘機飛行隊の副長ではあるものの、ここに来て、普段、飛行隊長である佐藤に依存しきりだったということを痛感した。勿論、空軍にいた頃は大尉で、自機を含めて4機以上の編隊を率いる資格も持っていたが、ここで長く二番機として飛んでいた結果、飛行隊長の指示で飛ぶことに慣れきってしまったのだ。

「畜生・・・・・・」

 ヒラタはHUDと多機能ディスプレイに映る情報を眺め、大きく息を吸った。高度を考えると、まだ酸素マスクを使う必要な無いが、思いっきり酸素を吸い込みたい気分だ。

『大丈夫か?ジェイ』無線で声をかけたのはオレグ・カジンスキーだ。

「ああ、あんとかな」

『まあ、無理も無い。今日は隊長がいないんだからな』

 今日は空対空戦闘を意識した装備だけだ。AIM-9Xを2発とAIM-120Cを4発ずつ、増槽が2つとセンターパイロンにはAN/ALQ-184電子妨害ポッド。

『こちら防空司令部"バンカー"だ。"ウォーバード2"、聞こえるか?』

「"バンカー"、こちら"ウォーバード2"だ。どうぞ」

『"ウォーバード2"、こちらのレーダーサイトで敵機を捉えた。高度8900フィート、方位171、数4。そちらの部隊が一番近い迎撃せよ』

「"ウォーバード2"了解。攻撃する」

『ジェイ、AMRAAMを使おう。いつも通りだ』無線でヒラタが話しかける。

「わかった。パット、ニコ、オレグ、攻撃に加わってくれ。いつものやり方だ。他は回りを警戒」

『了解だ。やるぞ』

 "ウォーバーズ"の7機の戦闘機が、横一列に並びつつも、徐々に距離を離していく。中距離での空対空戦闘の時に行う編隊の組み方だ。

『"ウォーバード4"より"ウォーバード2"へ。攻撃のタイミングは任せる』

「わかった。敵をロックオンしたら教えてくれ」

 ヒラタはレーダーを使い、一番手近な敵機をロックした。そして、FCSでAMRAAMを選択する。

「"ウォーバード2"、レーダーロック!」

『"3"、敵機を捉えた!』

 やがて、僚機から次々と敵をロックオンしたとの報告が入った。

「撃て!」


 "ウォーバーズ"の7機の戦闘機からミサイルが放たれた。それぞれのミサイルはロケットモーターの推進力で加速しながら、母機がロックした目標へと向かう。戦闘機の速度は速い。もう数秒後には、赤外線誘導式ミサイルの射程内に入る。

 やがて、1機、また1機と敵機の反応がレーダー画面から消えていく。敵の戦闘機がどんな機体なのかは不明だが、油断ならないことには変わりは無い。


 ジェイソン・ヒラタは、2機の敵機の輝点がレーダー画面に健在だということに気が付いた。2発のミサイルが外れたらしい。

「"ウォーバード2"より各機へ。2機の敵機(バンディット)が健在だ。あと10秒で視界内に入る!交戦に備えよ!」

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