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迫りくる戦車の車列

 10月3日 0931時 エジプト南部 サハラ砂漠


 ワン・シュウランはパラシュートに吊り下がり、ふわふわと空中を漂っていた。ギリギリのところで射出ハンドルを引いて、何とか命だけは助かったようだ。

 くそっ。頭の上は見渡す限りの真っ青な空、そして足の下には、砂しか無い黄色い大地が広がっている。ワンはどこかに町や村、または幹線道路のようなものは無いかどうか探してみたが、それらしきものは全く見当たらない。


 戦闘機の音が聞こえてこないとなると、一時的に空の戦いは終わったらしい。地上に降り立ったら、まずは安全を確保し、救難用のビーコン信号を発信しなければならない。

 少しずつ、黄色い大地が迫ってきた。まず、体に頑丈なワイヤーで繋がった、大きなサバイバルバッグが接地する。そして、かなりの衝撃がワンの足首から全身に走った。畜生。


 ワンは立ち上がり、パラシュートをハーネスから外した。そして、サバイバルバッグを取りに向かったが、歩くたびに右足首に激痛が走る。どうやら捻挫したか、そうでなければ、骨に亀裂が入っているのかもしれない。

 ワンはバッグの中を確認した。800mlのミネラルウォーターが入ったペットボトルが3つ。非常食の味気ないブロックビスケットが5箱、浄水剤、応急処置キット、懐中電灯、乾電池、ナイフ、ワイヤー、釣り針、虫よけ剤、マッチ、灯油が入った600mlのボトル、信号弾、発炎筒、コンパス、分度器、鉛筆数本、野帳2冊、日焼け止めクリーム、そして9mmのシグザウエルP228拳銃と9mmのホローポイント弾が13発装填された弾倉4つ。


 ワンはまず、露出している顔と首に日焼け止めを塗り、コンパスを手のひらに載せた。自分が向かうべき方向は北だ。ここはスーダンとの国境から、僅か数マイルしか離れていないはずだ。よって、敵の地上部隊がこのあたりをうろついている可能性もあるのだ。


 10月3日 0951時 エジプト カイロ西空軍基地


 捜索救難の許可は出なかった。と、いうのも、スーダン北部に複数のSAMサイトがあると、偵察に向かったエジプト陸軍の特殊部隊の小隊が報告してきたからだ。

 救難ヘリを出すにしても、地対空ミサイルの射程圏にエジプト南部が入ってしまっており、例の連中が国境越しにミサイルを撃ってこないとも限らない。それがエジプト空軍司令部の考えだった。


 スタンリー司令官が格納庫に戻ってきた時、"ウォーバーズ"のメンバーが一斉に彼を見た。司令官は被っていた黒いベレー帽を手に持ち、ゆっくりとかぶりを振った。

「捜索救難の許可は出なかった。なんでも、奴ら、びっしりと国境沿いにSAMサイトを構築したらしく、エジプト領空内も射程範囲に入っているらしい。それも、S-400、S-300、HQ-9がびっしりのようだ。何も用意せずに突っ込んだら、それこそ自殺行為だ」

 格納庫にいるパイロットたちは勿論、航空機整備員、兵器管理員たちも落胆の表情を浮かべた。

「くそが・・・・・・・」ウェイン・ラッセルが頭を掻きむしり、唸り声を上げて立ち上がると、近くにあった黒いプラスチックのバケツを思いっきり蹴飛ばした。

「すまない、みんな。どうにか奇跡が起きて、シュウランがエジプト陸軍か国境警備隊に拾ってもらっていることを祈るしかない。バリス大佐を通じて、シュウランの顔写真をエジプト陸軍と国境警備隊に公開して、発見次第ピックアップしてもらうよう手配してもらった。俺たちができるのは、あとは奇跡頼みだ・・・・・・」


 10月3日 0958時 スーダン北部


 8両のT-90M戦車と10両のBMP-3歩兵戦闘車が、灼熱の砂漠をかなりの勢いで進んでいた。これらの車両には、元々塗られていたサンドイエローの塗料の上から、スプレー缶の塗料で蛇や髑髏、車両によっては裸の女性の絵が描かれている。

 戦車のハッチから上半身を出している部隊の隊長の気分は上々だった。つい先ほど、航空部隊がエジプト空軍の戦闘機を撃退し、かなりの痛手を負わせたという。

 目的が達成されるまであと少しだ。目標の鉱山はエジプト領内。部隊は間もなく国境を超える。

 だが、エジプト陸軍の部隊は、既に迎え撃つ準備を整えているだろう。よって、この小隊は別動隊との連携によって、エジプト陸軍部隊の防壁を突破する予定だ。


 具体的には、エジプトとの国境近くに数多く設置してある前方展開基地から航空支援のため、Mi-24VやMi-28といった攻撃ヘリが待機しており、更に後方には2S19自走榴弾砲、BM-30多連装ロケット砲、03式300mmロケット砲システムが砲撃支援のために展開している。

 一方で、スカッドやノドン、DF-11といった弾道ミサイルは後方に温存されることとなった。これらの兵器は極めて戦略的価値が高く、使いどころを見極める必要がある。その代わり、効果的で比較的安価な3M54カリブル(NATOネームSS-N-27"シズラー")巡航ミサイルの地上発射ランチャーを用意を用意していると説明された。


 指揮官であるセルゲイ・ゼニフは周囲を見回した。先ほど、航空攻撃で戦車部隊にかなりの損害が出てしまったとの情報が来ている。だが、敵の航空部隊はこちらの航空部隊の反撃で撤退したらしい。

 この作戦が成功した暁には、ゼニフはエジプト南部の金山の権益を得る契約をグラントと交わしていた。だから、ゼニフはこの作戦に対して人並外れた心血を注いでいるのだ。

 ゼニフは衛星電話機を取り出し、ダイヤルを押した。そろそろ司令本部との定時連絡の時間になる。ゼニフはポケットから分厚い野帳を取り出し、今日のコールサインを確認した。

「"サンドハウス"、"サンドハウス"、こちら"ブラックアロー1"」

『こちら"サンドハウス"、"ブラックアロー1"へ。定時連絡をチェック』

「"ブラックアロー1"より"サンドハウス"へ。現在位置を送信」

『こちら"サンドハウス"、そちらの現在位置を確認した。予定通りやれ』

「"ブラックアロー1"了解」

 ゼニフはあと2時間程部隊を走らせたら休憩させる予定でいた。これだけ大規模なコンボイを率いるのも楽ではない。特に、このような過酷な環境では人間はすぐに疲弊していしまう。攻撃を行う前に、前線への移動だけで部隊がへばってしまったら元も子もない。

 特にエジプト領内に入った時に注意が必要だ。エジプト陸軍は、地上部隊の侵入に備え、陸軍の戦車部隊を用意しているだろう。そのため、地上戦に突入するときは航空部隊の支援を受けることになっている。

 問題は、その航空部隊がしっかりと作戦のタイムラインを理解しているかどうかだ。ゼニフが見たところ、航空部隊の連中はまるで地上部隊のことを考えておらず、手当たり次第に爆弾をそこら辺にぶちまけるようなアホ共だ。実際に・・・・・。

 轟音が鳴り響いたため、ゼニフは身構えた。部下たちが慌ただしく動き回り、スティンガーミサイルが入ったコンテナの蓋を上げる。だが、轟音は南の方から飛んできた味方のSu-24Mだった。可変後退翼を持つ巨大な攻撃機は、増槽とミサイルを吊り下げている。4機の攻撃機は、これよりエジプト南部に爆撃に向かうのだろう。やがて、部下から無線が入った。

『ボス、気象情報をダウンロードしました。この先、北に砂嵐の兆候があるようです。予報によれば、この先3時間はスーダン北部は砂嵐に見舞われるようです』

 くそっ。どんな精強な部隊であっても、自然に勝つことはできない。これはどう頑張ってもそのまま進軍することはできない。

「わかった。1時間半後に一旦休憩し、砂嵐をやり過ごす。どうせそれだけの砂嵐なら、敵も飛行機を飛ばすことはできないはずだ。砂嵐が過ぎ去ったタイミングで行動を開始する。以上だ」 

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