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砂漠の猟犬たち

 10月3日 0911時 エジプト カイロ西空軍基地


 エプロンで戦闘機のエンジンが一斉に回り始める。AIM-120CやAIM-9M、CBU-105/BやAGM-65Dを搭載したF-16Cに混ざって"ウォーバーズ"の戦闘機も出撃の準備をしていた。


 作戦の開始が決まったのは、前日の夕方だった。スーダンにいる武装勢力の地上部隊が北に向けて動き出しているのを"コスモウォッチャー"というPMCの偵察衛星が発見し、エジプト軍に通報した。

 エジプト国防省は、この連中を南の国境線付近で迎撃する作戦を決定し、陸軍と空軍にこの連中を撃滅せよとの命令を下した。また、傭兵部隊にも報酬上乗せという条件で参戦するよう要請を出したという訳だ。


「IFFの設定確認・・・・・間違っても味方の戦闘機を撃たないように、とはいえ、地上部隊を攻撃するんじゃ、誤爆のリスクは常にあるんだけどな」

 ウェイン・ラッセルはF-15Eの計器盤の表示を見て、エンジンの回転がタキシングに適切な状態であることを確認した。

 ラッセルとケイシー・ロックウェルは現役のアメリカ空軍パイロットだった時、AWACSの管制官の指示ミスと地上にいる空軍のコンバットコントローラー部隊の座標入力ミスという二重のミスが重なった命令を受けた結果、誤って味方の部隊の頭上にJDAMを1発落としてしまうことになった。だが、不幸中の幸いだったのは、その1000ポンドのMk84弾体は不発に終わったという事だ。

 今回、このF-15Eが搭載しているのはGBU-54。GPS/INSとセミアクティブレーザー誘導のデュアルシーカーが組み込まれているLJDAMと呼ばれる精密誘導爆弾だ。二種類の誘導方式を使用するため、誤爆の危険性が従来のJDAMに比べて低下している爆弾だ。


 まるでアルファストライクだな、とF/A-18Cのコックピットの中でF-16Cやラファールがタキシングしていく様子を見ながらパトリック・コガワはぼやいた。

 海軍にいた頃、訓練こそはしたものの、実戦でアルファ・ストライクを行ったことは無かった。


 先に出撃するのは、アフマド・アリー・シャリク大尉率いるラファールの飛行隊だ。ラファールにはIRとEMの2種類のMICA空対空ミサイルに加え、SBU-54というフランス製の精密誘導兵器を搭載している。

『"サンド1"、"サンド2"。滑走路へ進入してください。風は方位177から6ノット。離陸後は周波数113.33で"ブラックアイ1"とコンタクトしてください』

 "ブラックアイ1"は、既に離陸してエジプト南部を哨戒飛行中のE-2Cホークアイ早期警戒機のコールサインだ。

「"サンド1"了解」

『"サンド2"了解』

 2機のラファールは滑走路の端で停止し、エンジンを2回蒸かして状態を確認した。どちらのスネクマM88エンジンの状態も良好で、急に回転数や温度が低下したり上昇したりするようなことは無い。

 誘導路では12機ものラファールCが列を成していた。ここカイロ西空軍基地以外からも、F-16やラファールなどが出撃する計画となっている。

『"サンド1"、"サンド2"離陸を許可します。"サンド3"、"サンド4"。No4Twyで指示があるまで待機してください』

 2機のラファールCが轟音を響かせて離陸する。ラファールが全て離陸すると、"ウォーバーズ"が離陸する番になった。


『"ウォーバード1"、準備ができ次第離陸せよ。離陸後は方位081に向かいつつ、9800フィートまで上昇。周波数113.33で"ブラックアイ"とコンタクト。指示に従え』

「了解。離陸する」

 佐藤勇のF-15Cには増槽2基にAMRAAMとパイソン5がそれぞれ4発、そしてAN/ALQ-131電子妨害装置が1基、搭載されている。

 佐藤はスロットルレバーを押し、エンジンの回転数をアフターバーナー推力まで徐々に上げた。HUDを注意深く眺め、V1、V2と速度が上がりVRになった時に軽く、操縦桿を引き、やや低めに離陸した。

 風向きが北風だったため、ゆっくりと西に向けて旋回しつつ、機首を南に向けてバーナーを切り、高度を上げていく。そして、自機の左側にジェイソン・ヒラタのF-16Vが約200mほど離れて2番機の位置に入るのが見えた。


 10月3日 0913時 エジプト上空


 佐藤はHUDを見て、高度と速度、自機の方位を確認し、スロットルレバーに付いているノブを操作し、無線機の周波数を事前に指示された113.33に合わせた。

「"ブラックアイ"、聞こえるか?こちら"ウォーバード1"だ」

『"ウォーバード1"、こちら"ブラックアイ"だ。事前のブリーフィング通り、君たちには敵の地上部隊の排除をしてもらう。敵の部隊に9K37や2K12、96K6、2K22、ZSU-22が確認されているから注意してくれ。情報によれば、一部の敵地上部隊は既に国境を越え、こちら側に侵入している。そして・・・・・ああ。たった今、情報が入った。アスワンから出撃したF-16が、敵のフランカーやフォックスハウンド、フラウンダーなんかと交戦中と報告してきている。更に、未確認だが、敵はAEWかAWACSを用意しているとの情報も入って来てるようだ』

 厄介なことになった、と佐藤は思った。まだAWACSやAEWに統率されている敵部隊との交戦は経験が無い。と、言うのも、AWACS、AEWなんていう高価な機材というものは、確かに市場に出回っているが、数も少なく、高価で運用にもノウハウを要するため、かなりの金持ちかつ、運用の経験がある人員を要する連中にしか扱えるものでは無い。

 つまり、スーダン北部に駐屯している輩には、そういった機材を持ち、運用できる連中が揃っているということになる。中国空軍やロシア空軍の出身者とは限らない。米海空軍や航空自衛隊、フランス空軍、イギリス空軍、イスラエル空軍の出身の連中がいる可能性があるのだ。

『"ウォーバード2"より一番機へ。厄介なことになったな』

「ああ。まさか奴ら、早期警戒機や空中管制機まで出して来るとは予想外だ」

『こんなことなら、R-37Mを用意しておくんだった。今から発注して間に合うか?』

 ニコライ・コルチャックがこんな時だというのに、やや冗談めかしたことを言い始めた。

『それよりも、今は目の前の敵に集中した方がいいわ』

 レベッカ・クロンヘイムは、あくまでも現実主義者だ。遠く離れた味方からもたらされる情報よりも、まずは、自分の目と、自分が乗る戦闘機のレーダーで捕捉できる目標に集中する。それが彼女のモットーでもある。

『"ウォーバード4"よりみんな、味方機だ。9時の方向』

 ニコライ・コルチャックの言葉に、佐藤はふと左を向いた。翼に増槽やミサイルを満載した8機のF-16Cがやや低空を飛んで行くのが見える。更に後ろには爆装をしたラファールCの編隊も確認できる。

 やがて、エジプト空軍のF-16が1機につき2発のミサイルを連続して発射するのが見えた。ミサイルを撃ったF-16Cは、そのまま直進を続ける。

『"ウォーバード2"よりウォーバード全機へ。あれはSEADを担当したんだな。多分、撃ったのはHARMだ』

 続いて、ラファールも対レーダーミサイルを撃つ。こちらはフランス製のARMATだ。無論、敵のレーダーサイトは目視できないので、それらを排除できたどうかは撃った部隊にしかわからない。

『こちら"ブラックアイ"。エリア・ゴルフ・ファイブで作戦中の各機へ。対空兵器の掃除がほぼ終わったとの報告が入った。だが、まだ生きているSAMやAAガンがある可能性もあるから、十分注意して作戦を行え。以上だ』

 エリア・ゴルフ・ファイブは自分たちの作戦空域だ。ここでスーダン側からエジプト側に侵入しつつある敵の機甲部隊を空爆する。


 暫く飛んでいると、向こうから味方の戦闘機が飛んで来るのが確認できた。F-16Cとラファールだ。遠目だったのでよく確認できなかったが、翼の下に搭載しているのは空対空ミサイルだけらしく、地上の目標を空爆して、補給に戻る最中のようだ。

『あいつら、俺たちの分も残しておいてくれたのか?』パトリック・コガワが軽口を叩く。

『当然だろ』とワン・シュウラン。

『"ウォーバード9"、どうしてわかるんだ?』

『攻撃命令は取り消されていないし、ターゲット変更のオーダーも無い。つまり、向こうには敵の戦車や装甲車がわんさかいるはずだ』

『なるほど、賢いね』

『"ブラックアイ"より"ウォーバード1"、そろそろターゲットが見えて来るはずだ。M1A2やM113、EIFV以外は全部吹っ飛ばしてしまって構わん』

「了解だ。みんな、聞こえたな・・・・・・・ハンティング開始だ」

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