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次なる襲撃への備え

 9月28日 0901時 エジプト カイロ西空軍基地


 突然の襲撃から5日が過ぎた。ゴードン・スタンリーは飛行場のエプロンで持ち込んだ飛行機を眺めている。戦闘機には全て空対空ミサイルと増槽が搭載され、オスプレイとヘリもいつでも飛び立てるように待機状態になっている。


 轟音を立ててF-16Cが4機、離陸した。増槽が3つにサイドワインダーとAMRAAMを2発ずつ搭載している。厄介なのは、スーダンを勢力圏としている武装集団なり傭兵なりの情報が全く得られていないということだ。とはいえ、中央アジア、アフリカ、中東の一部地域は傭兵部隊のたまり場となり、その国の主権が及ばない地域が幾つも存在しているのは確かだ。

 例えばアフガニスタン。タリバンが再び実権を握ってしまってからだいぶ経つが、幾つかの傭兵部隊がバグラム空港など複数の拠点に現れて活動しているらしい。そいつらがどういう連中なのかは不明だが、ろくでもない奴らなのは確かだ。


 スタンリーは今後、どのように活動するのかを思案していた。スケジュール上は、まだ1週間程エジプト空軍との演習の日程を残している。エジプト空軍の要請があれば、報酬次第でここに留まって戦い、更に、他に手を貸してくれそうな傭兵部隊を呼び寄せる仲介をしてもよいだろう。但し、それにはエジプト軍がどういう方針で作戦を進めていくか次第という条件がある。

 スタンリーはスマホを取り出し、いつも利用している武器売買サイトを開いた。そして、AN/ALQ-184の予備部品やスナイパーXR、M299ランチャー、LAU-128ランチャー、そして最近、滅多に見られなくなったDEWSの部品が出品されているのを確認した。次に、部隊の装備品用として開設しているケイマン諸島の口座の残金を確認する。それには、バングラデシュの国家予算の10年分程の資金がプールされていた。

 この戦いに参加した場合、自分たちがどの程度消耗するのか、正直見通しが立たない。おまけに・・・・・・。

「スタンリー司令官?」

 いつの間にかアフマド・アリー・シャリク大尉が近くに立っていた。彼が来たという事は、恐らくはバリス大佐が何か用事があって寄越したのだろう。

「大尉、何か用かな?」

「バリス大佐がお呼びです。何でも、話があると」

「わかった。すぐに行こう」


 数分後、スタンリーとシャリクはサイード・バリス大佐の応接間に通された。至ってシンプルなレイアウトで、扉の正面には大きな窓があり、中央には対面するように2つの黒い革張りのソファが置いてあり、その間に木でできたテーブルが置いてある。

 白い壁には大きなコルクボードがあり、アラビア語で書かれた連絡事項と思しきメモが幾つも画鋲で留められている。スタンリーには、その内容を読み取ることはできなかった。


 バリス大佐はものの数分でやって来た。飛行服を着て、やや無精ひげが目立つ。バリス自身、F-4EファントムⅡとF-16Cファイティングファルコンに乗り、訓練生だった頃を含めると合計4500時間以上の飛行経験を持っている。基地の司令官となり、多くの部下を抱える身となっては飛行時間はめっきり減ってしまっていて、今後は操縦桿を握ることすら叶わないだろう。

「二人とも楽にしてくれ。政府は今朝早く開かれた緊急の安全保障会議で、先日、エジプトを襲撃してきた連中を我が国に対する切迫した脅威だと改めて確認した。しかしながら、問題は、連中の目的と正体が掴めていない点だ」

 バリスはそこまで話し、一旦言葉を切った。

「奴らはスーダン北部で活動をしているのは間違いない。ところが、今やスーダン北部は暗黒地帯(ダークゾーン)だ。南スーダンが独立して以降、政治的にも経済的にもスーダンは不安定になって、政府というものが機能しているかどうかも怪しい状況だ。そういう所に強力に武装した連中がやって来て、我が国への攻撃拠点を構えてもおかしくはないと情報部はみなしている。そして、我が国を攻撃する理由だが、まずはこれを見てくれ」

 バリスは手に持ったA4サイズの封筒を開き、テーブルの上にその中の写真と書類を数枚広げた。写真は偵察機か観測用の小型飛行機で撮影されたようで、地上にある施設を俯瞰した構図で撮影したものだ。そして、書類はその施設に関する書類のようだ。

「これは、我が国が1年ほど前に発見した鉱山だ。それにはクロムやニッケル、更にはダイヤモンドまで見つかっている。埋蔵量は、測量を行った調査会社によればアフリカでも指折りの量に達するだろうという推測が出ている。そして、この油田。これも我が国が今年に入って行った、国土の大規模測量によって存在が確認されたものだ。こういったものは、誰でも喉から手が出る程欲しいものだろう。勿論、君たちも」

 バリスはスタンリーの方を見て言った。確かに、このような天然資源が埋まってる場所は、スタンリーもチャンスさえあれば手に入れたいものである。そして、当然ながら、スタンリーは今まで手にした資金をもとに、ディエゴガルシア島周辺12海里の海域の海洋調査を行っているのもまた事実だ。自分たちの縄張りにガスや石油が発見されれば、すぐにでも試掘調査を行い、埋蔵量次第では本格的に油田やガス田を設置、可動させて、市場取引をして、活動資金に充てるのも悪くは無いだろう。

「ええ。当然です。事実、我々も、今までの依頼の報酬として天然資源の利権を幾つか得ています」

「ふむ、そうか。さて、最も重要な部分である奴らの目的は明らかとなった。連中は我が国南部の油田や鉱山を手中に収め、占領することにあるだろう」

「そして、それを闇市場に流して活動資金を得て、更に勢力圏を拡大する、と」スタンリーがバリスの言葉を継いだ。

「その通りだスタンリー君。さて、話は変わるが、君の部下たちが飛行訓練を行う許可を出すこととした。だが、条件がある。部下には武装させ、必要とあれば我が国に侵入してくる連中を空軍が要撃、識別、場合によっては強制着陸や撃破をする手助けをするという事。そして、我が国が必要とする物資の調達を、君が持つ裏ルートを使って手助けをする事。これらが条件だ」

「良いでしょう。その代わり、私の部下に対する指揮系統は、基本的には独立したものとさせてもらいます。勿論、共同で作戦を進めることには変わりありませんが」

「君の部下には、我が国に侵入してくる敵機の要撃の手伝いをしてもらう事とする。勿論、状況によっては攻撃作戦に加わってもらう可能性もあるが、基本的には防空戦闘をしてもらう。では、早速準備に取り掛かってくれ」

「イエッサー。他に何か要望は?」

「以上だ。部下たちに指示を出し、飛行機を出撃させられるよう手配してくれ。今、すぐにだ。準備が完了したら、私に報告するのを忘れずに。では、下がってよいぞ」

「イェッサー」

 スタンリーは敬礼し、踵を返して部屋を出た。とにかく、まずは命令が出た。その命令に従うのが、スタンリーたちの今の仕事だ。


 9月28日 1033時 エジプト カイロ西空軍基地


 基地の掩体壕に4機の戦闘機が牽引されてきた。F-15CとF-15E、そしてMiG-29KとタイフーンFGR.4だ。空対空ミサイルと増槽を搭載し、いつでも出撃準備完了といった様子である。"ウォーバーズ"が持つ他の5機の戦闘機は、格納庫で毎日行われている、通常の整備点検を受けているところだった。


 佐藤勇は、フライトスーツと耐Gスーツ、サバイバルベストを着たまま、格納庫近くの待機室のソファで伸びをした。さて、航空自衛隊にいた頃と、ディエゴガルシア島で過ごしている時と、何も変わらないことが始まった。ヘルメットと他の装具は、部屋のロッカーの中に入れられている。

 同じ部屋にいるジェイソン・ヒラタは護身用のシグP226から弾倉を外し、スライドを引いて状態を確認していた。今回、支給されているこの拳銃は、アメリカの民間市場で出回っている、SEALsが採用しているものと同じモデルで、9mmのハイドラショック弾が15発装填されている。

「それで、何か新しい情報は?」ヒラタが佐藤に訊く。

「無いね。僕らがアラート待機のローテーションに組み込まれてしまったということ以外は」

「くそっ。いっつもだ。俺たちは何かに巻き込こまれる呪いでもかけられてやがる」

「どうせ他の仕事をやっても同じさ。見てくれ。『正体不明の武装集団、パキスタンを空爆。市街地と軍の施設に甚大な被害。死傷者多数』だとさ」

 オレグ・カジンスキーが手に持ったスマホを二人に見せた。記事によれば、突如としてパキスタンのカラチ市に複数の戦闘機と攻撃機から成る編隊が飛来、市街地を無差別空爆して飛び去ったのだそうだ。

 パキスタン空軍は、急遽、F-16CやJF-17を出撃させ、1機を撃墜したものの、仕返しに1機のF-16を撃墜され、1機が中破。武装集団の機体の殆どがアフガニスタン方面に飛び去って行ったのだという。

「畜生。全く、どうしてこんな事になっているんだ」ヒラタが吐き捨てるように言う。

「一番の問題は、奴らの目的だ。ここまでの武力を使って達成したい程の目的が何か」と、カジンスキー。

「エジプトという国の乗っ取り?いや、それをするなら更に多くの武力が必要だ。それに、それなら初手でカイロを無差別に弾道ミサイル攻撃した方が手っ取り早い。議事堂や大統領府を吹き飛ばして政府機能を破壊して、その後の混乱に乗じた方がやりやすい」佐藤が言う。

「言えてる。そして・・・・」

 ハンス・シュナイダーがそこまで言ったところで、待機室のドアが開き、ゴードン・スタンリーが入ってきた。

「よし、みんな、聞いてくれ。バリス大佐から、我々がここで飛行訓練をする許可を取り付けてきた。だが、我々がエジプトの防空任務に加わり、エジプト軍の物資の調達を支援するという条件付きでのことだ。まずは、持ち込んできた兵装の点検から始めてくれ」


 "ウォーバーズ"の装備整備班が占有している弾薬庫の中に入り、ずらりと並んだ兵装のチェックを始めた。20mm機関砲弾からAGM-158Bまで様々な兵器が並んでいる。整備班の隊員たちはタブレットPCを持ち、持ち込んだ兵装を一つ一つ調べていく。

「HARMの数は何発だ?」

「20発だ。演習だけの予定だったから、実弾はそれだけ。だが、もっと持ってこないといけなくなった」

「地上戦になるだろうから、ハープーンは明日の朝の便でディエゴガルシアに返送しても大丈夫だろう。代わりに、マーヴェリックとJASSM、クラスター爆弾にぺイヴウェイとJDAMを沢山持ってくるようにした方がいいだろう」

「増槽とECMポッド、飛行機のスペアパーツもたっぷり持ってくる必要があるな」

「何なら、いつものイスラエルとインド、ウクライナのメーカーに発注しても問題無いだろう。リストを作って、ボスに確認してもらってOKを貰い次第発注だ。それと、燃料の心配はしなくていいみたいだ」

「後は、活動資金の残りと相談、といったところか。さて、これをボスに見せに行こう」

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