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ウォーバーズ離陸

 9月23日 1055時 エジプト カイロ西空軍基地


 甲高い音を立てながら戦闘機が移動を開始した。砂漠迷彩を着た誘導員が順番にそれらを滑走路に向かわせる。

『カイロタワーより"ウォーバード1"へ。ランウェイ28に向かえ。離陸後は方位360に転進し、高度1万3000フィートまで上昇。その後、周波数115.22で要撃管制とコンタクトせよ。要撃管制のコールサインは"バンカー"だ』

「"ウォーバード1"了解」

 F-15CにはAMRAAMとパイソン5が4発ずつ、翼の下には増槽が2基ずつ搭載されている。胴体のパイロンに搭載されているのは、EL-8212電子妨害ポッドだ。後ろからは、ジェイソン・ヒラタのF-16Vをはじめ、仲間が乗る8機の戦闘機が続いている。

 非常事態という事なのだろうか、旅客機の発着は全て停止され、地上に留め置かれているようだ。やがて、4機のラファール戦闘機がオーバーヘッドアプローチで着陸態勢に入るのが見えた。佐藤がちらりとそれらの機体の下を見ると、ミサイルも増槽も吊り下げていないのが確認できた。

『カイロタワーより"ウォーバード1"へ。4機の戦闘機が着陸する。誘導路で一旦停止してくれ』

「"ウォーバード1"了解」

 4機のラファールはすぐに着陸し、かなりの高速でカイロ西空軍基地のエプロン地区へと向かう。燃料補給と兵装の搭載、パイロットの交代を終えると、この戦闘機はすぐに飛び立って行くだろう。


 "ウォーバーズ"の戦闘機には、増槽と空対空ミサイルという装備が殆どだが、ジェイソン・ヒラタのF-16VにはAN/ALQ-184、ウェイン・ラッセルとケイシー・ロックウェルが乗るF-15EにEL-8212が搭載されている。"ウォーバーズ"はエスコート・ジャマーを持たないため、これら戦闘機に搭載する電子妨害装置は必須だ。

『カイロタワーよりウォーバード各機へ。離陸を許可する。方位171へ転進後、周波数115.22で"バンカー"とコンタクトした後、"バンカー"の指示に従え』

 まずはF-15Cがアフターバーナーに点火し、前進を開始した。佐藤はコックピットの中で、慎重に2基のF100-GE-220エンジンの出力を観察し、速度がVRに達するとすぐに操縦桿を引いた。イーグルはあっという間に白い砂の大地から離れ、水色の空に向かって上昇していく。そのすぐ後ろからファイティング・ファルコンやホーネット、フランカーといった仲間たちも続く。

「"ウォーバード1"より"バンカー"。離陸した」

『こちら"バンカー"。方位171のまま、真っすぐ南へ向かってくれ。君たちの仕事は、上空を飛ぶ敵機の排除だ。こちらにいくらか損害は出ているが、まだ敵をなんとか押しとどめられている。敵の地上部隊も確認されているようだが、こちらは陸軍がなんとかできているから、君たちは心置きなく上空の蠅を撃ち落としてくれ』

「"ウォーバード1"了解。ジェイ、パット、聞いたか?」

『"ウォーバード2"了解』

『"3"』

 9機の戦闘機は、4機、5機の編隊に分かれて旋回し、南東方向へ向かう。詳しい状況は未だに不明確だが、エジプト空軍は苦戦していることに変わりは無い。


 9月23日 1057時 エジプト南部


 MiG-29Mから放たれたR77がJ-10Bを直撃し、F-16AMが炸裂したPL-10の破片を食らって墜落する。パイロットは運よくACESⅡ射出座席を作動させ、戦闘機と共に火だるまになってしまう前に空中へ飛び出すことができた。

 

 9月23日 1059時 エジプト南部


 謎の武装勢力とエジプト空軍が空中戦を繰り広げている間、エジプト陸軍の機甲部隊が国境線沿いに防御陣地を構築しつつあった。前線には戦車や歩兵戦闘車を配置し、その後方を自走榴弾砲や多連装ロケットランチャー、更に後方にSS-1E"スカッド"ことR-17VTO短距離弾道ミサイルのランチャーが配置されつつあった。

 防空用の装備も、エジプト防空軍のアベンジャー防空システムとシルカ自走高射機関砲、SA-15トール地対空ミサイルも揃っている。

 ところが、これらが活躍するとなると、空軍の戦闘機が敵機の迎撃に失敗したということを意味している。防空軍の兵士たちは、空軍の戦闘機が、どうにか敵機を押しとどめてくれますように、と祈っていた。


 9月23日 1102時 エジプト南部上空


 基地から飛び立ったエジプト空軍のミラージュ2000Cが南に向かっている。これらもカイロ西空軍基地から出撃した機体だ。

「こちら"コンドル1"。戦況を知らせてくれ」

『"コンドル1"こちら"バンカー"だ。敵機は方位171から接近している。4機編隊を2つ、合計8機の敵機がやって来ている。全て迎撃せよ』

「"バンカー"、了解だ」

『"バンカー"より"コンドル1"へ。軍の上層部が、正式に傭兵部隊への支援要請を出した。連中がやって来るまでどうにか持ちこたえてくれ』

「くそっ、誰でもいいから、すぐに援軍を寄越してくれ!さもないと、みんなやられちまう!」


 9月23日 1105時 エジプト南部上空


 佐藤勇はF-15Cの機内で兵装システムや燃料系統、レーダーやECM装置の状態を確認していた。全て異常無し。獲物をレーダーに捉えれば、すぐに撃墜可能だ。

『"バンカー"より"ウォーバード1"へ。敵機接近。高度9500、距離450マイル、敵は全部で8機だ』

「"ウォーバード1"了解」

『隊長、随分と敵が多いようだな』

 無線からジェイソン・ヒラタの声が聞こえてきた。

「奴らの目的はわからんが、とにかく依頼されたからにはやっつけるしか無いな。交戦規定はいつも通り。IFFに反応が無かったり、向こうが仕掛けて来たら即座に攻撃だ」

『当然だな。俺たちは俺たちのやり方でやらせてもらうだけだ』

 佐藤は燃料計にちらりと目を走らせた。燃料は両翼に吊り下げた燃料タンクから消費している。空中戦になったら、これらのタンクは砂漠にポイ捨てすることになる。これは価格も安いし、そもそもがミサイルと同様に消耗品だ。


 やがて敵機がAN/APG-63(v)3レーダーの覆域に入ってきた。佐藤は兵装選択画面を表示させ、AMRAAMを選択する。

『こちら"ウォーバード2"。敵機補足。IFFで確認済みだ。奴を撃ち落としてしまってもいいか?』

『"ウォーバード1"、こちら"ウォーバード7"だ。こちらも攻撃準備完了。いつでもぶっ放せるぜ』

「"ウォーバード1"より全機へ。攻撃せよ!攻撃せよ!攻撃せよ!」

 佐藤は操縦桿にあるミサイル発射ボタンを親指で押し込んだ。


 "ウォーバーズ"の戦闘機から、一斉にミサイルが放たれた。AMRAAMにR77、ミーティアにMICA-EM。まるで中射程空対空ミサイルの見本市だ。ミサイルを放った傭兵部隊の戦闘機は、即座に回避機動をする。


 "ウォーバーズ"からの攻撃に備えていなかった武装勢力の戦闘機は、あっさりと空対空ミサイルの餌食となった。鋭い金属の破片を食らったJ-7やJ-8Ⅱ、Su-33が火を吹いて落下していく。

 敵のパイロットのうち数名が新手を探して思わず空を見回した。そうしているうちに、遠くから飛んできたミーティアを食らい、射出座席を作動させる羽目になる。

「"ランス1"より各機へ!新手だ!」

『くそっ、どこから来たんだ!?』

『ECMだ!くそっ、レーダーがやられてる!』

『だめだ!ミサイルアラート!回避する!』


 佐藤は2発目のAMRAAMを放った。ミサイルは前方にいたJ-11Bに食らいつき、至近距離で弾頭を破裂させて敵機を切り刻む。"ウォーバーズ"はミサイルの性能と、何よりも不意打ちという状況が追い風となり、驚くほど簡単に敵機を排除していく。

『ターゲットロック、IFF確認済み、Fox1!』

 ジェイソン・ヒラタが乗るF-16VがAMRAAMを放つ。ミサイルはあっという間にJ-8Ⅱに接近して近接信管を作動させ、テロリストの戦闘機を破壊した。

「"ウォーバード1"より"バンカー"へ。敵の新手が来た様子は無いか?」

『"バンカー"より"ウォーバード1"へ。方位177から4機の敵機が接近している。高度15000フィート、速度はマッハ0.8だ。迎撃してくれ』

「了解だ"バンカー"。"ウォーバード1"より各機へ。方位177、高度15000フィートの敵を迎撃する」

『"ウォーバード2"了解』

『"ウォーバード3"了解。奴をぶっ飛ばしちまっていいんだな』


 9月23日 1107時 エジプト南部上空


 8機のJ-10Bが北に向かって飛んでいた。この機体には、PL-8とPL-12の二種類の空対空ミサイルと増槽、そしてBM/KG300Gジャミングポッドが搭載されている。このジャミングポッドは、機体サイズの関係で、機体内部にECM装置を搭載できないF-16用に開発された、AN/ALQ-184とほぼ同じ性能を持っていると言われている。

 今のところ、戦況は五分五分といったところだ、とスーダン北部に設置したレーダーサイトのオペレーターが伝えてきた。

 ここで上空のエジプト空軍部隊を排除しておけば、後で地上部隊が進撃しやすくなる。勿論、自分たちの目的は、エジプト南部にある鉱山や油田の占領だ。これができれば、あとはスーダンから南に向かって領域を広げ、新たに国を建国する宣言をする。

『"オルカ1"よりオルカ各機へ。敵機を見つけ次第攻撃・・・・・』

 だが、先にJ-10Bのコックピット内でミサイル警報装置が鳴り響いた。

『畜生!ミサイルアラートだと!?どこから・・・・・・』


 J-10Bの正面から飛んできたAMRAAMが弾頭を炸裂させた。鋭い金属の破片が、戦闘機のコックピットごとパイロットを切り刻む。続いて2番機がミーティアを食らって落下する。

『"オルカ3"よりオルカ隊各機へ!指揮を引き継ぐ!攻撃せよ!』

 残った6機のJ-10Bはコンバットピッチの要領で編隊を解き、アフターバーナーに点火して高度を上げた。パイロットがレーダー画面に目をやると9個の光点がこちらに向かって来ているのを確認した。

『"オルカ3"よりオルカ隊各機へ!方位011に9個のターゲット!高度11000!攻撃せよ!』 

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