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押し寄せる鋼鉄の濁流

 9月23日 1011時 エジプト カイロ西空軍基地


 "ウォーバーズ"のパイロットたちは、未だに地上で待機させられていた。と、言うのも、エジプト空軍司令部は、この有事下で、アグレッサー部隊として招聘した傭兵連中の扱いをどうするのか決めかねていた。

 当然ながら、基地が直接攻撃される危険性がある場合のみ、サイード・バリス大佐は"ウォーバーズ"が自衛戦闘を行うことを許可した。


 シェルターの中に置いてあるF-15Cには、パイソン5短射程空対空ミサイルとAMRAAMがそれぞれ4発ずつと、増槽が3本搭載されている。パイロットである佐藤勇は、その周囲を整備員たちと共に歩き回り、機体の状態を確かめていた。既にコンバットエッジやGスーツ、JHMCSを身に着け、命令さえあればいつでも離陸できるようにしていた。

 "ウォーバーズ"が利用している区画では、HK416を持つ完全武装の警備員が歩哨として立っている。また、C-17A輸送機でディエゴガルシア島から持ち込んだアベンジャー防空システムやNASAMS地対空ミサイルも設置されていた。


 突如として、基地に航空機の爆音が轟いた。佐藤と近くにいたワン・シュウランは敵機が基地上空にまで到達したかと思い身構えたが、4機でオーバーヘッドアプローチをする機体はエジプト空軍のF-16AMだ。よく見ると、ミサイルも増槽も搭載していない。戦いで全てのミサイルを撃ち尽くし、増槽も砂漠のどこかに捨ててきたのだろう。

 エプロンの向こう側では、エジプト空軍の整備兵たちが増槽とAMRAAM、サイドワインダー、タンクローリーを用意して、すぐにF-16に搭載できるよう準備していた。しかし、いくら機体の整備が順調でも、パイロットの体力には限界もある。特に、激しいGが体全体にかかる空戦においては、例え訓練であっても、パイロットを極度に疲労させるのだ。


 9月23日 1015時 エジプト カイロ西空軍基地


 サイード・バリス大佐は指令室で戦況の報告を受けていた。エジプト空軍側はかなり激しいECMに晒され、戦況は芳しいとは言えない。正体不明の敵機を8機撃墜したとも報告を受けていたが、こちらは既に3機のMiG-29Mと1機のF-16Cを失っている。

 報告によれば、敵の方はSu-30MKやMiG-35S、J-10Cなどを装備しているらしい。また、ミラージュ2000やJAS-39グリペンの姿もあるとの報告もある。敵が何者なのかは不明だが、かなりの戦力を整えていることは明らかだ。

「大佐、戦闘空域を監視中のE-2Cホークアイから報告が入りました。敵が激しいECMを仕掛けてきたらしく、レーダーでの探知が難しくなっているようです」

「ECCMは?」

「試してはいるようですが、状況は良くないみたいです。また、無線通信にも妨害が仕掛けられているようで、部隊と上手く連絡ができないようです」

「くそっ、奴らが何者かはわからんが、厄介な連中なことに変わりは無さそうか」

「そのようです」

「少しあの傭兵連中と話して来る。少し席を外す。何かあったら、すぐに連絡してくれ」

 バリスは立ち上がり、"ウォーバーズ"がいる待機室へと向かった。


 9月23日 1017時 エジプト南部上空


 4つのターボプロップエンジンを搭載し、背中に大きな円形の物体が取り付けられた支柱を背負った奇妙な飛行機がのんびりとした様子で飛行していた。この飛行機はKJ-500早期警戒機。中国製のY-9ターボプロップ中型輸送機に、小さな対空レーダーを搭載して、エジプト侵攻部隊の指揮を執っていた。

 また、この飛行機の更に北の空域では、同じY-9をベースに設計された、Y-9G電子妨害機やY-9JB電子偵察機が活動していた。

 これらの特殊な用途の航空機は、いずれも中央アジア某国の闇工場で製造され、ブラックマーケットで売り出されたものだ。当然ながら決して安くは無いが、この組織は潤沢な資金を持っているおかげで、この機体を複数調達することができているのだ。


 9月23日 同時刻 スーダン某所


 グラント・ウォーマーズは、基地にある指令室で作戦状況の報告を受けていた。現在、エジプトに深度侵攻するダミーの飛行隊が攻撃を仕掛けており、この部隊がエジプト空軍及び防空軍を引き付けているという。

 当然ながら、本番はこれからだ。これより出撃する本隊が、エジプトの防空網を破壊する。その役目を担うのが、YJ-91対レーダーミサイルを搭載したJH-7"フラウンダー"やKh-31対レーダーミサイルを搭載するSu-24M"フェンサーD"だ。

 あらゆる軍用機や戦車、フリゲート、ミサイル艇などが簡単に手に入れられる世の中になったものの、やはり西側の兵器を導入するのは難しい。F-16Vやラファールといった欧米諸国製の戦闘機は、中国製やロシア製のそれと比較すると、出回っている数もやや少なく、値段も高い。

 だが、ウォーマーズからしてみたら、むしろロシア製や中国製兵器の方がスペアパーツや対応する兵装も比較的安価で楽に手に入るため、そちらの方を導入していた。


 航空作戦が上手くいけば、地上部隊の侵攻を開始する。既にT-14アルマータやT-80UM、ZBD-04やナメルといった戦闘車両が揃い、それを援護するヘリや無人機も多数用意してある。

 また、昨日は切り札となるスカッドやDF-11、シャーヒーン1といった短距離弾道ミサイルも基地に到着した。通常弾頭しか無いが、それでもエジプト南部の都市を破壊するには十分な兵器だ。間違いなく、エジプト軍と戦うための切り札となるだろう。


 やがて、航空作戦の責任者である、アンリ・ポンドールがやって来た。今、行われている攻撃について、何か進展などがあったようだ。

「報告だ。敵の防空レーダー網を幾つか破壊した。目標に対して、予定通り巡航ミサイルを放つ」

 ウォーマーズは頷いた。作戦は予定通り。地上部隊はエジプト南部を急襲し、鉱山やガス田、油田などを占領する。

 必要な装備は、闇市場で簡単に手に入れることができるし、現在、支配下に置いているスーダンの貴金属鉱山から産出されるレアメタルやダイヤモンドなどを闇市場で売りさばくことで活動資金は用意できている。また、手に入れた兵器はスーダン各所に分散して配置しているため、2回や3回報復攻撃を受けても、一度に壊滅するとこは無いはずだ。

 だが、やはりアフリカ随一の戦力を持つ空軍を相手にしているだけあって、そこそこ被害が出ている。しかしながら、完全に負けているという訳ではない。それに、これからカザフスタンやパキスタンから密造された兵器が支配したスーダン国内の各地域へ届く。

「ポンドール。とにかく、エジプトの防空施設を破壊しろ。そして、地上部隊を国境付近に集結させる。補給線の計画はどうなっている?」

「パヴェンコフによれば、スーダン国内での補給線は、全て構築済みだそうだ。地上部隊はいつでも動かすことができる」

「そうか。それでは、地上部隊に連絡してくれ。航空部隊からの合図で侵攻を開始せよと。それから、早期警戒機のクルーには、自分の判断で地上部隊に侵攻開始の判断をしてくれと連絡しろ」


 9月23日 1019時 スーダン北部 前方展開基地


 何もなかったはずのスーダンの荒れ地に、大規模な燃料庫と弾薬庫、駐車スペースが設置されていた。そこには、T-90やT-80、T-84といった主力戦車、2K22ツングースカ自走対空システム、M113やWZ534といった装甲兵員輸送車まで並んでいる。

 それらの軍用車両が一斉にエンジンを回し、列を成して北へ向かい始めた。これより作戦のタイムラインに沿って待機エリアに向かい、司令官の指示でエジプト国内へと侵攻を開始する予定だ。


 地上部隊の司令官は、BMP-3のハッチから頭を出し、青く晴れ渡った空の下に広がる黄色い砂漠を進む軍用車両の列を眺めた。その迫力は圧倒的で、町一つなど簡単に踏みつぶして進んでいきそうな雰囲気すら醸し出している。間もなく、自分たちはエジプト軍を粉砕し、目的のガス田を占領し、スーダン国内の基地に向かって伸びるパイプラインの建造に入ると確信していた。  

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