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再びの攻撃

 9月30日 1001時 エジプト カイロ西空軍基地


 エプロンに並んだ戦闘機が一斉にエンジンを回し始めた。周囲ではミサイルを搭載し、燃料補給をした整備員たちが慌ただしく走り回っている。アラートハンガーの扉が開き、ラファールCがかなり速い速度で滑走路に向けてタキシングしていく。

『カイロタワーより"サンド1"へ。滑走路へ進入せよ。離陸後は周波数112.44で防空指揮所とコンタクトし、その指示に従え』

 2機のラファールが滑走路に入って、かなり前進した。その後ろに20メートル程離れた後ろに、別の2機のラファールCが並び、停止する。

 最初の編隊は管制官の指示とほぼ同時にエンジンを全開にし、急角度で離陸していった。後続の戦闘機も即座に離陸していく。


 攻撃の一報が入ったのは20分前の事だ。南から突如として国籍不明機の編隊が侵入し、アスワン基地から離陸したF-16Cファイティング・ファルコン戦闘機と防空軍のS-300地対空ミサイルが交戦した。

 敵機をそれなりに撃墜できたとの報告と同時に、対レーダーミサイルによってS-300が少なからず被害を受けてしまったという。他の基地からもF-16やMiG-29Mが離陸し、侵入してきた敵機に対応しているという。


 9月23日 1004時 エジプト カイロ西空軍基地


 "ウォーバーズ"が占有している掩体壕地区でも動きが慌ただしくなってきた。戦闘機に燃料が入れられ、増槽や空対空ミサイルが搭載されていく。勿論、カイロ西空軍基地のすぐ近くまでやって来たら自衛のために戦闘機を即時発進させ、戦う準備をしている。

「よし、F-15にはパイソン5を4発搭載させろ!AMRAAMも4発だ!フルクラムにはR77とR74を4発ずつ!」

「フランカーにはR73を4発、R77を6発だ!タイフーンにはミーティアを4発、ASRAAMを2発だ!」

 整備員たちは、素早く、かつ正確に機体の点検を進めていく。タブレットPCを眺め、技術指令書(TO)通りに出撃前整備を完了してく。

「くそっ、まさかこうなるとは!」

 向こうのエプロンから甲高いエンジンの音が聞こえてきた。空対空ミサイルと増槽を搭載したF-16AMが4機、滑走路に向かってタキシングを開始した。滑走路の端に到達すると、殆どホールドすることなくアフターバーナーに点火して離陸していく。


 掩体壕の左側にあるドアが開き、戦闘機用の装具一式を身に着けた佐藤勇がF-15Cイーグルの近くに歩み寄った。機体のアクセスパネルを開閉し、素早く機体の状態を確認する。近くにいる整備員も彼を手伝い、何度も手順通りにF-15Cの状態を確認し、いつでも飛び立てることを確認する。ミサイルと増槽は既に戦闘機に搭載済みで、あとは飛行前最終点検さえ終えれば発進可能だ。


 戦闘機の爆音が鳴り響き、ラファールCが連続して飛び立っていく。エプロンに出て様子を確認していたゴードン・スタンリーはちらりと見ただけだが、増槽とMICA-EM、MICA-IRが搭載されているのを見た。

 基地の司令官と管制官には、いざという時は自分たちも離陸して戦うことを伝えてはいたが、許可が無ければ飛び立つのは難しい。

そこへ、エジプト空軍将校がやって来た。スタンリーの方を見て敬礼し、スタンリーもそれに応える。その将校は若く、階級章を見たところ中尉のようだ。

「ミスタースタンリー。バリス大佐より伝言があります。現状は戦闘準備のみ認め、待機すること。但し、この基地に対する攻撃の脅威が切迫していると考えられる場合は退避、若しくは戦闘を行うことを許可するとのことです。飛行機を離陸させる準備は続けていて問題ありません。以上です」

将校は再び敬礼し、踵を返して去って行った。何はともあれ、これで自衛戦闘を行う許可は出た。スタンリーは基地をざっと見回してから戦闘機を離陸させる準備をしている部下たちのもとへと向かった。


 9月23日 1006時 エジプト カイロ西空軍基地


 ウェイン・ラッセルとケイシー・ロックウェルはF-15Eストライクイーグルに搭載されている兵器を確認していた。両翼の下のパイロンにはAIM-120CとAIM-9Xがそれぞれ2発ずつ、そして普段はJDAMやペイブウェイといった精密誘導爆弾を搭載するコンフォーマルタンク内側の兵装ステーションには4発のAMRAAMという空対空戦闘用のレギュレーションだ。この二人の普段の任務は地上ターゲットに対して精密誘導爆弾を投下することが仕事であるものの、勿論、日常から空対空戦闘の訓練を怠っている訳では無い。

 ディエゴガルシア島では、様々な距離での空対空戦闘の訓練をやっているし、無人標的機を使った空対空ミサイルの実弾射撃訓練も行っている。

「よし、ミサイルと増槽はOKだな。これでいつでも出撃できる」

 ラッセルはストライクイーグルをざっと見回して言った。いざ敵機がやって来たら自分たちは出撃して戦うことができるが、アパッチとオスプレイ、ジョリーグリーンⅡはどうすることもできない。退避のために離陸させても、さっさりと撃墜されるのが関の山だ。そうなった場合、ディエゴガルシア島から予備機を持ってくるしか無くなる。

「ところで、JASSMの方はどうだ?」ロックウェルがラッセルに訊く。

「ああ。ディエゴガルシアから持ってきているぜ。LRASMの方は、あっちは使う可能性が低いから基地から持ってくるリストには入れていない」

「確かに、あれはここでは必要無さそうだな」


 "ウォーバーズ"が借用している区域では、簡易的な弾薬庫も既に建造されていた。薄いアルミニウム合金とチタニウム合金、セラミックタイルを重ね合わせた構造で、極めて簡単に建て、分解できる倉庫セットだ。そこには様々に種類のミサイルや精密誘導爆弾、通常爆弾、クラスター爆弾が収められている。短期間で大きな倉庫を設置できるのが、このセットの強みだが、当然ながら12.7mm弾クラスの銃弾による複数発の直撃に耐えるくらいの強度しか無い。そのため、Mk84通常爆弾の直撃を受けてしまえば、こんなものなど簡単に吹き飛んでしまう。

 ディエゴガルシア島には、鉄筋コンクリートに主力戦車に使われる複合装甲を重ねた、ガチガチに強固な弾薬庫が設置されているが、それと同じ弾薬庫を設置しようとすると、コストも時間も恐ろしく跳ね上がってしまう。


 カイロ西空軍基地に併設されているカイロ国際空港では、空爆の危険があるとして全ての旅客便の離発着が停止されていた。


 9月23日 1008時 エジプト南部


『ターゲット確認!IFF応答無し!』

『"ブルーアイ1"より"スパイダー1"へ。こちらでもその機体がIFFに反応しないことを確認した。迎撃せよ』

 4機のラファールCが南に向かい、レーダーで捉えた不明機に接近する。正体不明のこいつらは、全部で8機。編隊を組んで南から接近してくる。

『"ブルーアイ1"より"スパイダー1"へ。ホエール編隊をそっちへ援護に向かわせた。到着まで7分』

『"スパイダー1"、了解した』

 簡単に言ってくれる。敵がこちらをミサイルの射程に捉えるまで、恐らく1分。空中戦では、そのくらいの時間で簡単に決着がついてしまう。運が悪ければ、味方の援護を待つまでも無く、自分たちは正体不明のテロリストに殺されてしまっていることだろう。

『"ブルーアイ1"よりスパイダー隊へ。識別不明機との交戦を許可する』

『"スパイダー1"了解・・・・・・ミサイルアラート!回避する!』


 エジプトに侵入したSu-30MK2がPL-12を放った。このフランカーはウクライナの違法な兵器工場で製造され、中国製の電子機器が搭載されているため、このミサイルを運用することができた。

 更に、自己防衛装置にフランス製のミサイル及びレーダー警報装置、チャフ・フレアディスペンサーを備えるという仕様であるが、闇市場で出回っている戦闘機としては別に珍しくも無い装備の取り合わせだ。

 ミサイルは凄まじいスピードでラファールに向かって飛翔する。当然ながら、エジプト空軍の戦闘機は編隊を散開させ、チャフとフレアをばら撒きつつ、ECMを作動させて回避機動を取る。

 このPL-12は、実は中国で作られた純正のものでは無く、パキスタンのこれまた不法武器工場で製造されたものだった。


『畜生!ミサイルアラート!』

『チャフ!フレア!』

『"サンド3"、ミサイルだ!避けろ!』

 雲一つ無い薄いブルーの空は、あっという間にミサイルと戦闘機が飛び交う戦場となった。エジプト空軍のF-16AMが機関砲を食らって離脱し、正体不明の武装集団が持つJF-17がAMRAAMの破片の直撃を受けて墜落していく。

 テロリスト側も、エジプト空軍側も、燃料が厳しくなってきた機体が現れ始め、1機、また1機と引き換えしていく機体も目立ってくるようになった。   

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