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傭兵連中の動き

 9月28日 1022時 エジプト カイロ西空軍基地


 AH-64EとCV-22B、HH-60Wがローターを回し、エプロンから離陸していった。救難機が行うのは通常の航法訓練及び無人機とのデータリンクの訓練だが、アパッチ・ガーディアンにはAGM-114Lロングボウ・ヘルファイア対地ミサイルを搭載したランチャーが2機、APKWS2.75インチレーザー誘導ロケットM261ロケットポッドが1機、そして増槽が1つに加えて、両翼端にはFIM-92スティンガー空対空ミサイルも搭載されている。更には、30㎜チェーンガンの弾倉にも劣化ウラン弾がしっかり装填されていた。この措置も不意に敵に遭遇した時に自衛できるようにするためだ。

 デイヴィッド・ベングリオンは兵装システムをしっかりと確認した。基本的に、操縦は後席に乗る相棒のシモン・ツァハレムに任せ、自分は敵を攻撃するのが主な仕事となる。

 この前まで乗っていたAH-64Dと比較すると、操縦系統や兵器系統には変化は無い。ところが、このAH-64Eにはデータリンクシステムが追加され、司令塔であるE-737ウェッジテイルや無人機のMQ-9リーパーとリアルタイムでのデータのやりとりが可能だ。


 続いて滑走路に進入したのは"ウォーバーズ"のMQ-9リーパーだ。この機体にも武装が施され、ヘルファイア対戦車ミサイルが4発、そしてEGBU-12ぺイヴウェイレーザー誘導爆弾2発が搭載されている。

『カイロタワーより"ドロイド"、離陸を許可する』

『"ドロイド"了解。離陸する』

 当然のことながら、この飛行機にコックピットは無く、パイロットは基地に置かれた無人機管制システムのコンテナの中にいる。管制官に対して応答したのは、管制システムコンテナで操縦桿を握る高橋正だ。


 スペンサー・マグワイヤと高橋正は、MQ-9リーパーのコントロールシステムのモニターを注視し、ゆっくりと操縦桿を動かした。操縦桿とスロットル、そして兵器の操作は全て操縦桿に取り付けられているスイッチで行う。

 マグワイヤは元々、アメリカ空軍で飛行機の整備員からMQ-9リーパーのオペレーターに転向した身であり、この機体の操縦はお手の物だった。それに対して、高橋の方は、海上自衛隊のP-1対潜哨戒機の整備士だったが、"ウォーバーズ"にやって来てからマグワイヤがリーパーの操縦士に抜擢したのだ。

 無人機の操縦は、従来の航空機と違ってよりゲームのような感覚があり、アメリカ空軍においても、無人機の操縦適正は有人機を経験したパイロットやWSOよりも、ゲームにより慣れ親しんだ人間の方が高いとするデータもあるようだ。

「よし、方位337に回頭。地上と上空、両方に注意しろよ」

 エジプトの情勢がこの通りのため、いついかなる時に敵の攻撃を受けるかわからない。自分たちが日ごろ世話になっていて、友好関係にある"アーセナル・ロジスティックス"が物資の輸送と一緒にもたらしてくれたちょっとした世界情勢の動きによると、パキスタン軍がアフガニスタンの一部を占領し始めた複数の傭兵組織と衝突し始めたらしい。アフガニスタンでは、未だに過激派連中が重武装化し、政府を脅かし始めたが、その傭兵連中は過激派をハイテク兵器で駆逐しつつ、勢力を広げて地域の占領をしているらしい。

 その連中が何を考えているのかは不明だが、アフガン政府にとって脅威であることに変わりは無い。アフガンから多国籍軍が引き上げつつある今、何か良からぬことを始めなければ良いのだが。

 無人機の操縦コンソールのモニターは、下半分が殺風景な黄色混じりの白い砂漠、上半分が雲一つない藍色の空のツートンカラーで塗られて、それに緑色のグリッドや記号が重なるという絵が描かれている。

 リーパーのカメラは、光学、赤外線の両用のため天候昼夜に左右されずに偵察を行える他、レーザー指示器も搭載されているため、戦闘機が運用するぺイヴウェイシリーズやKAB-250L、KAB-500L、KAB-1500Lを誘導することもできる。正に、"ウォーバーズ"が行う作戦の支援に無くてはならない飛行機の一つと言えるだろう。


 9月28日 1044時 エジプト カイロ西空軍基地


 訓練を終えた"ウォーバーズ"の戦闘機が戻ってきた。F-15C、F-15E、F/A-18C、タイフーンFGR.4がオーバーヘッドアプローチで着陸した後、残りの5機の戦闘機はストレートインで着陸することを選んだ。

 相変わらず滑走路では次から次へと旅客機が離発着を繰り返している。エジプトが攻撃されていることをあまり気にしていない連中もいるようだ。だが、そこで攻撃に巻き込まれて怪我をしようが命を落とそうが、結局のところは自己責任だ。


 "ウォーバーズ"の戦闘機はエプロンに並んでエンジンをカットした。そして、コックピットから降りてきたパイロットたちが整備員と共に機体の状態を確認する。勿論、オレグ・カジンスキーはフルクラムにやや大きな負荷をかけてしまったことを整備員に申告することを忘れなかった。

MiG-29Kはトーイングされ、格納庫へと運ばれていく。この機体の状態の確認と整備が終わるまでカジンスキーはフライトすることはできない。

 パイロットたちは戦闘機から降りると、早くも両手を飛行機に見立てた身振り手振りで訓練の内容を話し始めていた。

 "ウォーバーズ"のメンバーが基地の建物へ向かっている中、3機のラファールと1機のラファールBがAPUを作動させ始めた。翼と機体下には増槽を3つ、右翼端のランチャーにMICA-IRのキャプティブ弾が搭載されている。

 エプロンにあるアラートハンガーには実弾を搭載したラファールCが4機、待機しておりスーダンからやって来たテロリスト連中が侵入してきた場合に備えている。


 続いて、"ウォーバーズ"のC-17Aグローブマスター輸送機が着陸した。この中に入れられている貨物はJAS-39Cグリペンに搭載するMRPS偵察ポッドや各戦闘機が使用する増槽などだ。

 実は、"ウォーバーズ"の弱点の一つが偵察能力の低さだ。MQ-9リーパー無人機と外部偵察ポッドを搭載できるJAS-39C以外、偵察能力を持ち合わせていない。とは言え、そう簡単に偵察能力を向上させることは簡単ではないのだ。


 9月28日 1046時 エジプト カイロ西空軍基地


 ゴードン・スタンリーは自分用に確保された個室の机の前に座り、エジプト軍とスーダンを占拠している武装集団が本格的な衝突をした場合のシミュレーションを行っていた。

 問題は、敵の戦力とその目的が全くもって不明なところだ。スーダンの状況だが、南スーダンの政情は至って不安定で、クーデターが数か月置きに発生しているような状態だ。北スーダンは北スーダンで、政権崩壊が起きた後、怪しげな連中が入り込んだ、という情報以外は全くもって不明。まあ、早番こうなる事はだいたいわかり切ったことだ。例えば、アフガニスタンでは多国籍軍が撤退してからは、タリバンが勢いを盛り返すと思いきや、力の空白地帯となったことを見た多数の傭兵組織が入り込み、更に地元の複数の過激派組織と交戦状態になって更なる混迷を深めているという。

 そんな事より、現在、自分たちにとって大きな脅威となっているのは北スーダンにいる連中だ。この連中は重武装し、目的が不明ながらもエジプトに対して攻撃を仕掛けてきている。

 演習のため、戦闘機に搭載する実弾は自衛用の空対空ミサイルと機関砲弾しか用意していなかったが、もしかしたら対地攻撃用の実弾が必要になるかもしれない。

 問題は、実際に軍事作戦を行うことになった場合、エジプト軍司令部が自分たちに対してどこまでの支援を要求してくるのか不明な点だ。場合によっては、スーダン国内に入り込んでの作戦を行うこと、または早期にエジプトから引き払うことも想定せねばならない。

 いずれにせよ、この先どうしていくかはエジプト軍次第だ。自分たちはあくまでも演習でアグレッサー役を引き受けているに過ぎない。とはいえ、全く自衛をせずに、座して死を待つつもりは毛頭無い。状況によっては、エジプト軍の指揮下には入らず、独自の判断で動くつもりでいた。

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