射撃訓練-2
8月4日 1134時 インド洋上空
"ウォーバーズ"の戦闘機が編隊を組み、無人標的機を待ち構えている。無人機が、空域のどの辺りから射出されるのかは、パイロットたちは当然の如く知らされていない。標的を確認したら、1番機から、中射程と短射程、そして機関砲で3機ずつ撃ち落としていく手はずになっている。それほど時間のかからない訓練になるはずなので、待機している空中給油機は1機だけだ。
佐藤勇はF-15Cのコックピットから、ディエゴ・ガルシア島を見下ろしてみた。自分たちだけしか住んでいない、この環状の島には、取引相手の傭兵部隊や海運・航空貨物業者以外の者は、近づく事すらしない。ここから最も近い国は、北に600km行ったところにあるモルディブ共和国だ。時たま、遠洋漁業のために近海に来る漁船を見かけることがあるが、攻撃を恐れてか、戦闘機やヘリの姿を見ると、逃げ出すケースが殆どだ。
『"ゴッドアイ"より"ウォーバード1"へ。間もなく訓練を開始します』
リー・ミンの声が、無線から聞こえてきた。
「"ウォーバード1"了解。作戦開始」
佐藤は、F-15Cのマスターアーム・スイッチをオンにした。
8月4日 1135時 ディエゴ・ガルシア島
ランチャーから無人機が射出された。全部で3機。予め入力されたプログラムに倣い、南の方へマッハ0.85で飛んでいった。
基地では、スペンサー・マグワイヤ以下、技術班が無人機から送られてくる画像と位置情報を確認していた。プログラムは"Flight Program-Take Priority Avoidance Auto"(飛行プログラム・回避優先・自動)と画面に表示されている。無人機に搭載されているミサイル警報装置がレーダーロックやミサイルの発射を感知すると、チャフやフレアをばら撒き、回避行動を自動的に行う設定だ。
「今の所、エラーはありません。訓練を続行します」
モニターでデータを監視している技術員がマグワイヤに報告した。
「よし。まずは、お手並み拝見と行こうか」
8月4日 1139時 インド洋上空
佐藤は、訓練空域に無人機が向かってきているのをレーダーで確認した。まずは3機。自分が撃ち落とすターゲットだ。
「"ウォーバード1"、エンゲージ!」
佐藤は、レーダーモードをLRSで交戦距離を160nmに設定した。3機の無人機が光点で表示される。まだAIM-120Cの射程には入っていないので、向こうがやって来るのを待ち構えることにした。
「さあて、ロボット野郎。どうする気だ?」
佐藤は、外の景色とレーダー画面を交互に確認した。やがて、無人機がAMRAAMの射程圏内に入り込んだ。
「レーダーロック」
しかし、佐藤はすぐにミサイルを撃つようなことをせず、無人機の反応を伺うことにした。レーダー画面の"TGT"と表示される光点が、滅茶苦茶な動きを始め、更に画面に白い靄のようなものも表示され始めた。どうやら、チャフをばら撒いているらしい。
「なるほど。こちら"ウォーバード1"。みんな、見てるか?」
『"ウォーバード2"、ターゲットの動きを確認した。なるほどな。面白い』
『こちら"ウォーバード3"。それで?どうするんだ?隊長』
「まずは様子見だ。奴の行動パターンを見極めよう」
戦闘機の編隊は、2~3機のグループに分かれ、遠巻きに無人機の様子を観察した。戦闘機乗りたちには、無人機が地上から操縦されているのか、それとも訓練プログラムによって自律飛行しているのかは分からないし、どのタイミングで切り替えになるのかも知らされていない。だが、どう無人機が飛ぼうと、どうってことはない。ただ、いつも通り撃ち落せばいいだけなのだから。
無人機の方は、チャフを巻くのをやめ、今度は戦闘機から遠ざかっていく。一方、有人機の方は、向こうの出方を伺い続けていた。
「おい、どうする?」
ケイシー・ロックウェルがF-15Eの後席で相棒に訊いた。ロックウェルは、じっと無人標的機を観察し、どのように動いているのかを見ていた。
「まだプログラム通りに動いているな。見てみろ」
無人機は、真っ直ぐ北に飛んだと思ったら、西に進路を変え、更に南東を目指し、30マイルほど進んだところで再び北に向かうというパターンを繰り返していた。
「ふむ。で、どうする?」
「一度、ロックオンして様子を見るか。スペンスがどう考えているかはわからんが・・・・・・」
F-15EのAN/APG-82(v)2レーダーが、対空モードでUAVを補足した。MFDにレーダーが標的をロックしていることを知らせる文字が表示される。
「レーダーロック。さて・・・・・・ほう?」
ウェイン・ラッセルは、無人機の動きに舌を巻いた。ほぼ垂直に急上昇し、そのまま鋭い角度でループした。普通ならば、10Gを軽く超える負荷がかかっているはずだ。
「ちいっ、人が乗っていないから、どんな無茶な機動もできるって訳か。厄介な野郎だ」
これが高機動化した無人機の特徴であり、長所とも言える。人間が乗っていないので、機体が空中分解しない限りは、重力負荷の制限が無い。
「落ち着いて、ゆっくり狙え。しかし・・・・・・これなら、AMRAAMよりもサイドワインダーの方が命中させやすいかもな」
ケイシー・ロックウェルは、レーダーを近距離交戦モードに切り替えた。ミサイルもAIM-9Xを選択する。
HMDストライカーⅡのバイザー・ディスプレイ越しにターゲットを睨んだ。緑色のボックスマーカーがターゲットに重なり、ロックオンを知らせる電子音が聞こえてきた。
「ターゲットロック・・・・・・Fox2」
AIM-9XがLAU-128から発射され、真っ直ぐ飛んだかと思ったら、急に右に曲がった。UAVがチャフとフレアをばら撒きながら急降下し、逃れようとする。が、サイドワインダーは騙されること無く、標的を捉え、撃墜した。