争いの前
9月20日 0913時 エジプト カイロ西空軍基地
レコNG偵察ポッドと2つの増槽、そしてMICA-EMとMICA-IRを2発ずつ搭載したラファールC戦闘機がアフターバーナーの轟音を轟かせながら離陸した。別の滑走路には尾翼にトリコロールをイメージした模様が描かれた、エールフランス航空のエアバスA330-200がアプローチしてきている。
昨日の攻撃の件もあり、エジプト空軍のデフコン2の体勢を敷いていた。アラートハンガーには空対空ミサイルフル装備のラファール戦闘機が待機し、定時の警戒飛行も行われている。
"ウォーバーズ"もまた警戒態勢に入っていた。戦闘機には増槽とミサイルが搭載され、パイロットたちはすぐに戦闘機が入れられている掩体壕に駆け付けられるような場所で待機していた。
「さて、どうなるか。少なくともスーダンに何者かが活動していて、エジプトを攻撃してきた。そいつらの目的はわからないが、ロシア製や中国製、ヨーロッパ製の戦闘機などを持っている。かなりの重武装で、危険な奴らだ」
ゴードン・スタンリーがエプロンに立ってE-737を見上げた。この空中管制機は燃料を入れられ、いつでも離陸できるようになっていた。
パイロットたちは整備員とともに、戦闘機の状態を確かめていた。佐藤勇はF-15Cの下面にしゃがみこみ、ランチャーに搭載されたミサイルの状態を見ている。胴体側面のにはAIM-120Dが4発、翼の下のランチャーにはパイソンが4発、それぞれ搭載され、増槽は3つ、吊り下げられている。
「ユウ、そっちはどうだ?」
佐藤に話しかけたのはウェイン・ラッセルだ。
「機体の状態は問題無い。もしスクランブル発進が命令されれば、すぐにでも離陸できるさ」
「ああ、そうでも無ければ困ったことになるからな。それじゃ、俺はあっちで待機しているからな」
9月20日 0922時 スーダン 某所
舗装された滑走路からJ-10Bが2機同時に離陸した。この飛行場は、数日前までは未舗装の滑走路が数本通っている程度だったものだったが、既に移動式管制レーダー装置や格納庫、エプロン、弾薬庫まで整備され、更にはILS誘導装置の建設まで開始されている。
エプロンには様々な種類の航空機が並んでいた。J-7やMiG-21MFといった旧式機から、Su-30MK、J-10C、MiG-35S、コウサルといった新鋭機の姿も確認できる。
グラント・ウォーマーズは大きな黒いサングラスをかけ、灼熱の砂漠の日差しの下にいた。空は薄い青色に晴れ上がり、雲は全くかかっていない。
先日の作戦はほんの小手調べだ。航空部隊はそこそこ揃ってはきたが、地上部隊がまだ足りない。勿論、ウォーマーズは様々な情報網を駆使し、人員と兵器をかき集めた。兵器を手に入れるのは非常に簡単だ。スマホとクレジットカード、そして十分な資金さえあれば良い。
そこで問題は人員だった。ウォーマーズは闇サイトを使い、様々な方面から人をかき集めた。戦闘機やヘリ、輸送機のパイロットや戦車、装甲車の乗員。そして、特殊部隊員までもだ。
ウォーマーズはこの活動に必要な資金を、主に違法な株式や証券取引の操作によって得ていた。つまりは、意図的にある会社の株をサイバー攻撃によって大幅に下落させる。そして、その株を買い、ある程度買いそろえたところで再びサイバー攻撃を行い、今度は手持ちの株式の価格を吊り上げ、そこで売り払う。そうすることによって、ウォーマーズは非常に潤沢な資金を手に入れた。
だが、ウォーマーズの野望は他にあった。それは、豊富な天然資源を抑え、その供給をコントロースすることだ。そうすれば、石油やレアメタルの市場を完全に手中に収め、更に金を稼ぐことができる。そのためには、エジプト南部にある鉱山や油田も押さえてしまう必要があるのだ。
ウォーマーズは基地の中を歩き、作戦司令部になっている建物へと向かった。基地の各所にはS-300やHQ-9、9K330トール、9K37M1-2ブークM、2K22ツングースカといった地対空兵器が配備されているのが見える。
「ボス、例のブツが届きました。ご覧になりますか?」
「ああ。何処に置いてある?」
「G9の格納庫です」
「わかった」
ウォーマーズは周陳玄という中国出身の部下と共にひと際大きな格納庫へと向かった。それは非常に巨大な建物で、長さが3000m、幅が500m、高さが50mもある。他に、同じような建物が5つもあった。
倉庫の中は様々な兵装が並べられていた。R77やR73、PL-10、PL-13、等々、ロシア製や中国製のミサイルが大半を占めている。
「ボス、これです」
ウォーマーズが案内された場所に置いてあったものはC-705KD、中国製の対艦ミサイルであるC-704の射程を延伸し、対地攻撃ミサイルに改造したものだ。
「J-10やSu-30MKから発射できる他、移動式のランチャーにも装填できます。勿論、大量に発注しています。それとこれも」
周が指示した先には大小様々なアンテナを取り付けられたロシア製のタイフーンKやリンザ装甲車だ。
「こいつにはイラン製のECM/ESM装置を取り付けてあります。それと、あっちの、丸いアンテナを取り付けた車両。あれは中国製の翼竜UCAVの管制車両です」
「よし、他の基地の状況はどうなっている?」
「スーダン空軍はもう機能不全になっているも同然です。既にMiG-29EやSu-35SK、Q-5などは接収しました。MiG-21やJ-6、J-7は動かすことができない訳では無いですが、整備状態が悪く、電子機器もアップグレードされていないので、エジプト空軍のF-16やラファールに対抗するのは難しいでしょう」
「ならば廃棄しろ。機体の数が足りないというのならば、ウクライナのリヴィヴかイランのヘサーに発注をかければいい」
「わかりました」
「作戦の方はどうなっている?」
「侵攻作戦のタイムラインは、既に細かい部分まで出来上がっています。後は、ボスが確認し、細かい部分の修正さえ終えればいつでも実行可能です」
「了解だ。では、今日はそのタイムラインと、そうだな。作戦にあたって必要な物資や人員の確認をしよう。それが完了したら、いよいよ攻め入るだけだ」
「どんなにトラブルが起きようとも、作戦実行までに1週間もかかりません。最低で48時間、長くとも5日あれば実行に移せます。72時間もあれば十分なはずです」
「俺の予想よりも早いな」
「侵攻の第一撃を放つ、地対地ミサイル部隊と、敵のレーダーサイトを破壊する航空部隊、それとレーダーサイトや通信施設にジャミングを仕掛ける電子妨害部隊は既に出撃可能な状態で待機しています」
「大変よろしい。では、全部隊に侵攻作戦開始の待機命令を出してくれ」
「わかりました」
9月20日 1001時 スーダン北部某所
砂漠に半分埋められるように設置された掩体壕の扉が開き、その中から奇妙なアンテナを乗せたトラックが現れた。ここには、数カ所に渡って同じような掩体壕が設置されている。
AK74を背負った兵士たちがトラックのアンテナを立ち上げ、素早くケーブルで発電機とつなげていく。このアンテナはロシア製のECM装置だ。ロシアはアメリカに比べてこの手の電子戦、特に航空機に搭載する電子攻撃用の装備が遅れていたが、近年は、このような地上配備、移動式の電子攻撃装備の開発に力を入れているようだ。
「急げ!予定より15分早いが、早ければ早いほど良い!」
「こっちの装置は大丈夫だ。これを立ち上げたら、一度テストしろ。作戦を始めて使い物にならなければどうにもならんからな!」
「Aブロックの接続完了!」
「Cブロックの電源ケーブルはどうなっている?」
「あと15分もあれば完了する」
「いいか、完成させても早まって作動させるな!まずはシステムチェックモードでやるんだ!そして、ボスの命令を待て・・・・・どうした?」
班長の一人が無線機を手に取り、耳を傾けた。
「わかった。計画通り、近づいてくるようなら撃て。死体は砂漠に埋めておけ」
マームード・ビン・ラッシードはジープを運転して荒涼とした砂漠を走っていた。車に取り付けたカーナビを確認し、直射日光のせいで蒸し風呂のようになった車内をもっと冷やすべく冷房の強度を上げるが、焼け石に水だ。
ラッシードは、ここから300km以上離れたケルマー市まで機械の部品の配送に行き、ポートスーダン市に戻るところだった。本来ならばハイウェイを通るのだが、それだと遠回りになってしまうため、ラッシードは十分なガソリンと水、食料を積んで砂漠をショートカットするルートを通ることを好んでいた。
ふと、正面を見ると、おかしなアンテナが整然と並んでいるのをラッシードは見た。しかし、こんな所に衛星通信施設や携帯電話の基地局のようなものがあるという話は聞いたことが無いし、GPSと地図で調べてみても、こんな施設があるという表示は無い。
ラッシードは好奇心に駆られ、その施設に近づいた。ゆっくりとトラックを前進させ、建物に近づく。だが、それが命取りとなった。500m先から放たれた7.62mm×54R弾がラッシードの頭を撃ち抜き、そのコンマ数秒後に銃声が鳴り響いた。
SV98狙撃ライフルを伏射の姿勢で構えたテロリストの狙撃手は、ゆっくりとボルトを動かして薬室から大きな薬莢を排出した。
こんな取るに足らない奴に計画を邪魔される訳にはいかない。おまけに、この国では誰かが突然、行方不明者になったとしても、誰も気にかけやしないだろう。
「こちらスポット11、侵入者を排除した」
『スポット11、了解した。死体と車はすぐに片づけさせる。オーバー』
「スポット11、了解。引き続き警戒する」
作業チームの周囲には、複数の監視チームが警戒しており、設備の設置ポイントに接近してくる者は全て排除せよとの命令を受けていた。数分後、AK-74アサルトライフルを持った6人のテロリストが死体をトラックから引きずり出し、スコップで砂漠にやや深く掘った穴に埋めていくのを確認した。トラックの方は、そのまま放置することにしたようだ。
狙撃手はペットボトルの蓋を開け、すっかり温まってしまった水を一口飲んだ。あと数時間はここで警戒せねばならない。だが、自分と同じことをしているのは他にもいるのだ。
そして、ここに近づく不届き者は、誰であろうと排除せねばならないのだ。




