表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/84

息切れ

 9月19日 1127時 エジプト南部上空


 エジプト空軍のF-16CからAMRAAMが放たれた。ミサイルは真っすぐ敵機のJ-11Bに向かう。このJ-11Bは中国で生産された純正の機体ではなく、アフガニスタンの闇工場で大量生産されたものだ。そのため、オリジナルのJ-11Bと違い、ウクライナ製やパキスタン製の電子装置が組み込まれている。

 J-11Bのパイロットはミサイルアラートに素早く反応した。このパイロットは、元ウズベキスタン空軍に所属しており、現役の時はSu-27Sを操縦していた。

 J-11BはECMを作動させ、チャフをばら撒く。AMRAAMはこの囮に騙されてしまい、フランカーを追い越して弾頭を炸裂させた。金属のフラグメントは敵機の機体に少数が食い込んだものの、飛行や激しいドッグファイトに影響させるほどの損傷を与えることはできなかった。


『"カウ3"、ウィンチェスター!帰投する!』

『"カウ1"より"カウ4"へ。"カウ3"を援護せよ』

 激しい戦闘により、エジプト空軍の戦闘機は燃料やミサイルを使い切った機体が出てきた。ラファールCやMiG-29M2が基地へと引き換えしていく。

『作戦中の各機へ。こちら空中管制機"ブルーアイ"。これより作戦の指揮を執る』

『遅いんだよ!司令部の奴らは何をしていた!』

『機体トラブルで到着が遅れた。現在、敵機は高度12000を飛行中。数は8、方位171だ』

『ところで、防空司令部の要撃管制官の連中、なんで急にだんまりを決め込んだ!おかげでこっちは目隠しで戦わされているんだぞ!』

『敵の対レーダーミサイルで早期警戒レーダーが破壊された。我々はその代わりだ』

『くそったれが!』


 JAS-39CからIRIS-Tが放たれた。これに気づいたSu-33のパイロットはフレアを撒きながらインメルマンターンの機動で逃れようとする。しかしながら、IRIS-Tは反転し、再びシーカーでフランカーのエンジンの排気熱をターゲットとした。

 Su-33はたまらずフレアをばら撒く。だが、IRIS-Tは画像赤外線誘導機能があるため、従来のミサイルと違ってこういった囮に騙されにくいという特徴を持つ。赤外線誘導ミサイルはフランカーの左エンジンノズルの真下に潜り込むと近接信管を作動させた。無数の破片がSu-33のエンジンを切り刻んだ。

 Su-33は煙を引きながらその場から離脱していった。このフランカーはこれ以上、戦闘を続けることはできないだろう。クロンヘイムはヘルメット装着照準装置ごしに周囲を見回してから、ミサイルの残弾を確認した。そこで、ミーティアとIRIS-Tが残り1発ずつになってしまっていることに気づいた。

「"ウォーバード8"より"ウォーバード9"へ。ミサイルがもう2発しかない。基地まで護衛してもらえる?」

『了解だ。こっちはまだミサイルを残しているからな』

 クロンヘイムは僚機のミラージュ2000Cを見た。ワン・シュウランが乗るこの機体には、マジック550を2発、MICA-EMを2発残している。

「隊長、こちら"ウォーバード8"、ミサイルと燃料の補給に向かいます」

『"ウォーバード9"、"8"を援護します』

『"ウォーバード1"了解。気を付けてな』


 佐藤勇はF-15Cのキャノピー越しに周囲の様子を観察した。後方には、僚機のF-16Vがいる。そこら中で戦闘機とミサイルが乱舞し、爆発が起きる。

 レーダーを確認すると、正面から敵機が接近中らしい。ミサイルの残りは十分だ。とっととやっつけてしまおう。

「"ウォーバード1"より"ウォーバード2"へ。敵機正面、距離200だ」

『了解だ。AMRAAMを使おう』

 敵機は2機。時折、単独で飛んでいると思しき機体も幾つかレーダーで捉えた。双方ともに混戦となって、僚機からはぐれた者も増えてきた。これだけ激しい戦いが続いていると、敵機の数が減っているのかどうかさえ把握することすらできない。

『作戦中の戦闘機へ。こちら"バンカー"だ。奴らも息切れしてきたらしい。こちらのレーダーでスーダン側へ引き返していく敵機を幾つか確認した。このまま粘り続ければ、奴らも諦めるだろうが、その前に自分が息切れしないように注意せよ』


 9月19日 1132時 エジプト上空


 テロリストのパイロットは燃料計の警告灯が点滅するのを視界の端で捉えた。クフィルC.7には3つの増槽を搭載しておいたが、空中戦では邪魔になるので燃料がまだ残っているうちに砂漠の上に投棄したのだ。だが、そのせいで使える燃料が少なくなってしまったのだ。

 そのパイロットは、僚機に燃料が少なくなったことを報告し、基地へと帰還することを決めた。自分たちの指導者である、グラント・ウォーマーズは決して無理な作戦を立てるような人間では無い。

『こちら"サンダー3"、燃料が残り少ない』

『"サンダー1"了解。サンダー隊、帰還する』

『"サンダー2"了解』

『"サンダー4"、帰還します』

 4機のクフィルは一旦ブレイクし、上昇しながら機首をスーダンに向ける。他にも、MiG-21MFやMiG-29SMEといった機体も引き返し始めていた。


 9月19日 1134時 エジプト 防空軍レーダーサイト


「大尉、敵機が引き返していきます」

「奴ら、ようやくここで息切れし始めたか。だが、油断するな。後続の敵機が押し寄せてくるかもしれん」

「了解です。防空軍にも警告を出しておきます」

 アフマド・アル・サルマン大尉はレーダーサイトの画面を見ながら腕を組んだ。スーダンからやって来た連中が何者なのかは不明だが、恐らくは重武装化したテロリストだろう。


 スーダンは3年前に首都ハルツームで起きた大規模な暴動がきっかけとなって内戦が発生した。これにより、軍と政府、更には国民までもが真っ二つに分裂し、大規模な衝突を起こした。


 二つの大勢力は、それぞれムハンマド・ビン・バーレ率いる『自由スーダン連合』とハッサン・アル・アリー・カーン率いる『全スーダン人民評議会』と呼ばれていた。他にも、無数の中小の武装勢力が乱立し、それぞれが各々の主義主張を掲げ、対立する組織に攻撃をし続けていた。


 一時期はアフリカ連合(AU)が、軍を派遣して内戦の火消しをしようとしたが収まらず、スーダンが第二のソマリアになって泥沼化することを恐れたアフリカ各国は軍の派遣に二の足を踏んだ。

 そこに入り込んできたのが、重武装した得体のしれない連中だという噂が飛び交った。そいつらは、周辺国が反応する隙を与えることなく、内部で対立していた連中を攻撃し、スーダンを制圧していったのだと。しかしながら、この内戦からAU軍が完全に手を引いてしまって以降、スーダンの国内情勢を知る手段はほとんど無くなってしまっていた。わざわざ内戦中で、危険極まりない国の取材をするジャーナリストなんて、片手で数えるほどがいるかどうかさえもわからないからだ。


 9月19日 1202時 エジプト カイロ西空軍基地


 ゴードン・スタンリーはサイード・バリス大佐から、敵機が引き返していったために出撃させた全ての戦闘機を引き上げさせたとの知らせを受けた。スタンリーは冷房の効いた部屋の窓からエプロンの様子を眺めていた。これを開けたら、あっという間に乾燥した熱気が部屋に入り込み、クーラーの努力を水の泡にしてしまうだろう。


 真昼の太陽光線がジリジリと地表を焼き続ける。エプロンに引き出していたAH-64Eアパッチ・ガーディアンの機体の表面温度は、目玉焼きを作れると思えるほど高くなっている。

 轟音と共にボーイング777-300ERが離陸した。ここは国際空港と滑走路を共用しているため、様々な航空会社の旅客機が頻繁に離着陸を繰り返している。

 そのうち、この光景も見られなくなるのだろうか、とエプロンに駐機されたAH-64Eのすぐ近くに立っていたシモン・ツァハレムは思った。

 自分たちは、いつもトラブルに巻き込まれる。若しくは、外からトラブルを持ち込まれてしまう。付近では、タンクローリーとミサイルを搭載したウェポンローダーが並び、戻ってきた戦闘機に対する補給に備えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ