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防空戦闘-2

 9月19日 1037時 エジプト南部


 敵は様々な機体を繰り出してきているようだ。J-10AやJ-10B、J-11Bの他、Su-27SKM、Su-27SM、更にはクフィルC7やミラージュF.1、テジャスMk1、JF-17サンダーも編隊に加わっている。

 E-737ウェッジテイルを離陸させる暇が無かったのが苦しい。今日の訓練では、空中管制機を使う予定は無かったため、地上で整備していたのだ。

 後は、エジプト空軍の防空司令部の指示に従うか、飛行隊長である自分が判断して戦う他無い。佐藤勇は、F-15CのAN/APG-63(v)3レーダーを索敵モードに切り替えた。正面に敵機が4機いる。まずはこいつらを叩くことにしよう。

「"ウォーバード1"より"ウォーバード2"、"ウォーバード3"、"ウォーバード4"へ。正面の敵機を叩く」

『任せとけ、隊長!やってやろうじゃないか!』

『"ウォーバード3"、AMRAAM発射スタンバイ』

『"ウォーバード4"、攻撃準備完了』

 まだミサイルを1発も撃っていないので、余裕は十分にある。中距離ミサイルでさっさとケリを付けるに限る。航空自衛隊にいたときは、特にドッグファイトでの訓練に長い時間を割いてきた。コープノース・グアムやレッドフラッグ・アラスカなどの日米豪との訓練に参加したとき、アメリカ空軍のアグレッサーの教官からも、ドッグファイトの重要性についてはみっちりと説かれていた。その教官はこう言っていた。

"確かに、今は中距離ミサイルの性能が格段に向上し、また、F-35やF-22の登場により、実戦の場でドッグファイトが起きることは少なくなった。だが、それを疎かにしたらどうなってしまうのかは、歴史が証明している。我々は決して、ドッグファイトの可能性を捨てていない。それに、このF-35Aだ。確かに、この機体の空戦ドクトリンは、敵のレーダーに捉えられる前に敵を撃墜することだ。だが、こいつはF-15やF-16と同様、9Gの機動で動き回ることもできるし、サイドワインダーや、そして何より25mmの機関砲も備えている。そいつを使えば、例え近距離での戦闘になったとしても、諸君らのような最高のパイロットが乗ってさえいれば、どんな戦闘機でも打ち負かすことができるだろう"

 レーダーが敵を捕らえ、ロックオンする。操縦桿の発射ボタンを押すと、F-15Cの胴体側面のランチャーからAMRAAMが離れ、即座にロケットモーターに点火して敵機に向かった。F/A-18CやF-16V、Su-35Sもミサイルを1発ずつ放った。ミサイルを放った戦闘機は敵からの反撃から逃れるため、上昇しながら方向転換した。


 ミサイルが向かった先にいたミラージュF-1CやテジャスMk.1、J-10Bがチャフを撒き、急旋回や急降下をして回避しようとした。J-10Bやテジャスといった比較的新しい世代の戦闘機はECM機能の性能が高く、ミサイルの回避に成功した機体もある。しかしながら、MiG-21bisやJ-7、Su-22などは機体の問題で新世代の電子装置を搭載できず、追いすがるミサイルを避けることはできなかった。

 まず、MiG-21bisのすぐ近くに到達したR77が近接信管を作動させた。弾頭が炸裂し、小さな戦闘機に金属の破片を浴びせた。鋭いフラグメントが機体を貫通し、コックピットの中のパイロットの腹部にまで突き刺さった。パイロットはそのまま外傷性ショックで死亡し、戦闘機は真っ逆さまに落下していった。


 テロリストの戦闘機部隊は、重たい爆弾や対地ミサイルを搭載した爆撃を担当する機体と、その護衛を担当する機体とで大きく明暗が分かれた。護衛のため空対空ミサイルのみを搭載したJF-17やMiG-29SM、J-10Bはやすやすとミサイルを避けた機体が多かったが、重たい大型爆弾、空対地ミサイルを搭載したSu-24M、Su-25SMなどは新世代の高機能ミサイルの餌食となった。AMRAAMやミーティアを食らい、煙を吐きながら墜落していく。

 生き残った護衛をしていたテロリストの戦闘機は猛然とエジプト空軍に襲い掛かる。PL-12やR-77、R-27ETが放たれた。


 9月19日 1039時 エジプト南部


『ミサイルアラート!避けろ!』

 ラファールCやF-16Cなどがチャフやフレアを散布し、低高度と高高度に分かれて逃れる。ラファールに内蔵されたECM装置が、F-16Cのセンターパイロンに吊り下げられたAN/ALQ-184電子妨害ポッドが、見えない電波のシールドを張り、襲い掛かるミサイルから戦闘機を守ろうとする。

 数発のミサイルのシーカーはその妨害電波によって標的を見失い、螺旋を描くような動きで地上に向かって落下していった。だが、現代のミサイルは対妨害性能に優れていた。R77やPL-12のうち何発かは標的を正確に捉え、アクティブレーダーを作動させてF-16CやラファールCをロックオンする。

『くそったれ!振り切れない!』

『"キャメル4"!逃げろ!』

 ブレイクが遅れた1機のラファールCがミサイルの"ノーエスケープ・ゾーン"にはまり込んでしまっていた。しかし、その若手パイロットはこの事実に全く気付かず、PL-12の餌食となった。爆発した弾頭が撒き散らした無数の金属片に機体が刻まれる。

『くそっ!機体損傷!』

 "キャメル4"ことマームード・アリー・ユセフ中尉は機体に大きな衝撃が走るのを感じた。後ろを見て様子を確認したが、黒煙で遮られて損傷具合がよくわからない。デジタル画面にはいくつもの警告表示が出て、赤いランプが点滅し、耳障りな電子音が鳴り続ける。

 ユセフ中尉は不安定ながらも、飛行を続けることができるので脱出せずに基地に向かって離脱することを選んだ。低空飛行しながら、北に向かって行く。ところが、戦闘機の外板を繋ぎ止めていたリベットが被弾の衝撃の影響なのか、いくつか外れてしまった。そのため、機体下面の外板がベロリと剥がれた。しかしながら、ユセフ中尉は全くそのことに気づくことなく、カイロ西空軍基地を目指して飛び続けた。


 2機のエジプト空軍のミラージュ2000Cが苦境に立たされていた。後ろからは2機のフランカーが追いかけてくる。この機体はロシア製のSu-27SMでは無く、中国製のJ-11Bだ。電子装備とエンジンが中国製のものに換装され、運動性と攻撃能力が向上している。

 J-11BがPL-12を放った。ミサイルは正確に標的を捉え、ミラージュのエンジンノズルと垂直尾翼に鋭い金属片を浴びせる。ミラージュは推力を失い、パイロットは緊急脱出を選んだ。しかし、彼の僚機はそれほど運が良くなかった。ミサイルを食らった戦闘機は燃料に引火して炎に包まれ爆発し、パイロットもろとも空中に破片となって散った。

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