防空戦闘-1
9月19日 1029時 エジプト上空
F-15EがAIM-9Xサイドワインダーを放った。ウェイン・ラッセルとケイシー・ロックウェルの二人が乗るこの機体は、通常であれば空対空ミサイル4発とJDAMやSDBといった精密誘導兵器を大量に搭載して運用されるのだが、今回は空対空ミサイルを8発搭載する制空戦闘仕様となっている。
サイドワインダーがJ-8Ⅱの近くで炸裂し、機体に激しい損傷を負わせた。左主翼から真っ白な燃料が噴き出る。J-8Ⅱのパイロットは射出座席を作動させて、危険極まりない空へと飛び出した。
「まずは1機だ!」
「ウェイン、11時の方向にいる奴をやるぞ!」
「おう!」
ラッセルは操縦桿を動かし、自分たちから見てやや左前の方向にいるJ-10Bに狙いを定めた。エンジンの出力がミリタリーパワーになるまでスロットルレバーを動かし、目の前の標的に狙いを定める。後ろからついてくるのは、僚機を務めるワン・シュウランのミラージュ2000Cだ。
J-10Bは狙われていることに気づき、アフターバーナーに点火して逃亡を図った。おまけにECMを作動させ、レーダー誘導ミサイルのロックを妨害してくる。AN/APG-82(v)1レーダーが妨害され、ミサイルのロックオンが上手くいかない。
「ウェイン、ダメだ!ECMのせいで、AMRAAMのシーカーが奴を見失ってしまう!」
「じゃあ、ドッグファイトでケリをつけるまでさ!おい、ハンス!」
『ああ、援護する!後ろは任せな!』
F-15Eとユーロファイターの2機がアフターバーナーに点火し、J-10Bを追跡した。奴は僚機と2機で飛んでいる。敵は上昇したのちスプリットSの機動をとり、逃れようとした。この中国製の戦闘機は機動性に優れている。かつて渡り歩いていた戦場で何度か交戦したことがあるが、腕の良いパイロットが乗ると恐るべき空戦機動を繰り出してくる。
ところが、ラッセルとロックウェルはここで敵機と戯れる余裕があるわけでは無かった。ウェイン・ラッセルは素早く標的までの距離を詰め、JHMCSを起動した。ヘルメットバイザーに映るボアサイトの真ん中にJ-10Bが来るように操縦し、敵を追い回す。やがて、四角い目標指示ボックスの色が緑から赤に変色し、ミサイルのシーカーが標的を捕らえたことを知らせる電子音が鳴る。
「ウェイン、やっちまえ!」
「Fox2!」
LAU-128に搭載されたAIM-9Xがロケットモーターに点火して滑り出し、標的を追いかけ始めた。勿論、そいつはミサイルに気づいてフレアを撒き、躱そうとしたが、タイミングはほんの1、2秒だけ遅かった。そのせいでエンジンの中腹辺りに炸裂したサイドワインダーの破片を食らい、パイロットは戦闘機を捨ててパラシュートで空中を漂う羽目に遭った。
9月19日 1031時 エジプト上空
アフマド・アリー・シャリク大尉は3機の僚機を引き連れ、ラファールCを標的に向かわせた。レーダーサイトからのデータリンクにより、RBE2パッシブフェーズドアレイレーダーの覆域外にいる敵の情報を戦術マップに映し出すことができる。
E-2Cホークアイ早期警戒機があれば良かったのだが。実は、訓練飛行中のホークアイが1機、ここから380マイル程離れた空域にいたのだが、侵入してきた敵機に撃墜されてしまっていた。
高価な機体であると共に、乗員の訓練には長い時間とコストがかかるので、エジプト空軍にとっては非常に手痛い損失となってしまった。現在、捜索救難のためにヘリが出動しているが、クルーの生存は、恐らくは絶望的だろう。
「"サンド1"からサンド隊各機へ。奴らを撃ち落とせ!これが初めての実戦になるが、それは俺も同じだ!いいか!撃つときは躊躇うな!さもないと、自分が死ぬぞ!」
4機のラファールCがフィンガーチップ編隊を組み、標的へと向かった。エンジンをミリタリーパワーまで上げ、侵入者までの距離を詰める。
ラファールにはMICA-EMが6発、MICA-IRが2発と増槽が1つ搭載されている。空戦機動を重視した形態だ。
『"サンド2"、了解』
『"3"了解』
『"4"了解』
「"サンド1"から"サンド4"へ。いいか、訓練通りやればいい!とにかく俺たちから離れるな!」
ラファールのレーダーが標的を捕らえた。だが、まだMICA-EMのシーカーはまだ標的を捉えていない。
だが、敵は既にエジプト空軍機を捉えていた。まだこちらのミサイルの交戦距離に入る前に敵の火器管制レーダー電波が機体を叩く。
『くそっ!レーダー照射だ!』
『ECM作動!』
『ミサイルアラート!避けろ!』
J-11BがPL-12空対空ミサイルを放った。このミサイルは射程が長く、アクティブレーダー誘導の撃ちっぱなし機能や対電子妨害機能などを備えており、性能はAMRAAMやR77に匹敵すると言われている。ミサイルは猛烈な勢いでラファールへと向かって行った。
ラファールのパイロットはチャフとフレアを撒き、ECMを駆使してミサイルを避けるべく、バレルロールに急上昇や急降下、急旋回を繰り返した。
だが、ミサイルはそういった妨害に騙されず、真っすぐに標的を目指した。PL-12は弾頭を炸裂させ、ラファールに無数の金属片を浴びせた。主翼とエンジン、胴体を損傷したラファールは飛行を続けるのがやっとの状態だ。
『"サンド3"被弾!』
「"サンド1"より"サンド3"へ!大丈夫か!」
『こちら""サンド3"、なんとか飛べそうです。しかし、これ以上戦うのは無理なようです』
『"サンド1"より"サンド3"へ、基地へ帰還しろ。"サンド4"、"サンド3"を援護しろ』
2機のラファールCが基地に向かって飛んで行った。戦力がその分低下してしまうが、こればっかりは仕方が無い。
「"サンド1"より"サンド2"へ。傭兵連中と合流して奴らを仕留めるぞ。くそっ、早期警戒機を呼び出すか?」
『今更遅いですよ、隊長。それよりも、目の前の敵に集中しましょう!』
9月19日 1033時 エジプト・スーダン国境付近
慌ただしく動いているのは空軍の戦闘機部隊だけでは無かった。MIM-104パトリオットやS-300、9K37ブークといった地対空ミサイル部隊が展開し、侵入してくる敵の攻撃機に備えていた。
今のところ国境付近で戦闘機が抑え込んでいるらしく、こちらに敵機がやって来る様子は無い。
まさか、スーダンが侵攻してきたのだろうか。だが、スーダンは既に国力が低下し、エジプトを攻撃するほどの戦力など持っていないはずだし、そもそも、軍そのものが機能しているのかどうかも怪しい状況だ。
だとしたら、傭兵か?しかし、これ程の戦力を持つ傭兵集団がいるのだろうか?それに、スーダンにいるとしたらどうやって拠点を作ったのか?そもそも連中の目的は何なのか?様々な思考がこの防空部隊の指揮官の頭の中で渦巻いていた。
「中佐、迎撃用意が完了しました。いつでも射撃可能です」
報告に来た部下の声が彼を現実に呼び戻した。その中佐は周囲を見渡し、兵士たちがしっかりと防空陣地を築き上げたことを確認する。
「よろしい、大尉。では、目を皿のようにしてレーダーと目視で敵機を探し出せ。奴らがこっちに向かって爆弾を落下させて来る前にな!」
「イエッサー!」
まだこちらのレーダーで敵機を捉えてはいない。だが、油断しているとすぐに侵入してきた敵がこちらに向かって対レーダーミサイルを射撃してくるかもしれない。自分たちにできるの限りのことはしなければならない。このために毎日、厳しい訓練を積み重ねてきたのだから。




