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小手調べ

 9月19日 1022時 エジプト上空


 エジプト空軍のラファールCが編隊を組み、敵に向かって飛行していた。地上のレーダーサイトからのデータリンクにより、敵機の位置が判明している。

 奴らは何者で、何を目的としているのかは全くわからないが、そんなことは問題ではない。まずは、領空に侵入してきた奴らを追い払わねばならない。

『"ビートル1"より"キャメル"へ。状況を知らせてくれ』

『"キャメル"より"ビートル1"へ。敵は方位197から北に向かって飛行中。間もなく国境を超えると考えられる』

『こちら"ビートル1"、ROE(交戦法規)について何かあるか?』

『"キャメル"より"ビートル1"へ。まずは警告をしろ。ただし、敵対行為をしてきた場合は攻撃してもよい。繰り返す。まずは警告を与え、退去するよう指示しろ。但し、敵対行為をしてきた場合は、各自の判断での交戦を許可する』


 ラファールの編隊は真っ青な空を飛び続けた。下には赤茶色の砂漠が広がっている。雲は全く無く、視界はこの上ない。視界の邪魔になるのは眩しすぎる太陽のみだが、遮光機能があるヘルメットマンテッドディスプレイのおかげで眩しさを感じない。レーダー画面に目を向けると、どうやら敵機はこちらのレーダーの覆域に入ってきたようで画面の端に僅かに輝点が表示された。


 9月19日 1024時 エジプト上空


 J-11BとJ-10Cの編隊も迎撃に向かって来たエジプト空軍の機影をレーダー画面上で捉えた。J-11Bはエアインテイク下に吊り下げた電子妨害ポッドを作動させた。これにより、敵の迎撃機とレーダーサイトの画面は砂嵐になるはずだ。このポッドは中国製の最新型で、アメリカ空軍のAN/ALG-184に匹敵するほどの性能があるとされている。

 ここでJ-16EWは反転し、スーダンに向けて引き返し始めた。この機体の役目はレーダーサイトを潰すことだけなのでここで仕事は果たしたことになる。

『"コード1"より"ベリル1"へ。予定通り基地に帰還する』

「"ベリル1"了解。こちらは攻撃を続行する」


 9月19日 1025時 エジプト上空


 レーダーサイトからのデータリンクのおかげで、エジプト空軍のラファールの編隊は自らのレーダーを使うことなく敵機へ接近することができた。

『"キャメル"より"ビートル1"、間もなくそちらのレーダーの覆域に目標が入るはずだ。確認せよ』

 "ビートル1"のパイロットはレーダーを操作し、前方を走査した。レーダースコープに輝点が表示されるが、それと同時に白い靄のようなものもうっすらと映っているのも確認できる。

『"ビートル1"よりビートル隊各機へ。敵のECMだ。ECCMを作動させ、レーダーを回復させろ』


 9月19日 1026時 エジプト上空


 "ウォーバーズ"の編隊は敵機と偶発的に所謂"ナイフで切り合う距離"まで接近していた。そのおかげで敵の機体が良く見える。S-100サーエゲやJF-17サンダー、そしてJ-11かSu-27と思しきフランカー系の機体。中にはF-5EタイガーやMiG-21MF、ミラージュⅢのような、旧式の機体の姿も見える。

『"ウォーバード4"、Fox2!』

 オレグ・カジンスキーがヘルメット照準システムで敵機を睨んだ。電子音と共に目標指示キューが敵機に重なると、操縦桿の発射ボタンを押し込む。MiG-29Kの翼の下からR-73が1発、放たれた。ミサイルはしっかりと敵機の姿を捉えて飛ぶ。狙われたことに気づいたJF-17はフレアを撒きながら急上昇したが遅すぎた。小さなミサイルは弾頭を爆発させ、戦闘機に金属の破片を浴びせた。機体を刻まれた機体は、翼の燃料タンクから霧状の航空燃料を噴出させながら高度を落としていく。やがて、そのJF-17からキャノピーが外れ、パラシュートが飛び出した。


 佐藤勇のF-15Cとパトリック・コガワのF/A-18Cが編隊を組み、2機のフランカーを攻撃し始めた。フランカーは小さくジグザグに動き、敵から狙いを付けられるのを避けようとする。

 フランカーを相手にするときは、無暗にドッグファイトを仕掛けるべきでは無い。距離を取って中射程ミサイルで仕留めるべきだ。F-15CとF/A-18CからAMRAAMが続けざまに放たれる。最近、このミサイルの後継機種としてアメリカを中心に採用され始めたAIM-260JATMも何故か闇市場に流れ始めたという。何故、そんな最新鋭の装備が闇市場にもう出てきたのかは不明だが、手に入るのなら試すことに越したことは無いと"ウォーバーズ"の司令官であるゴードン・スタンリーは考えていた。

 AMRAAMは少しだけAN/APG-79やAN/APG-63(v)3に誘導された後、自身の先端に装着されたアクティブレーダーを作動させた。その直後、F-15CとF/A-18Cは旋回し、敵の攻撃を回避する機動を取る。


 J-11Bのコックピットの中でミサイル警報がけたたましく鳴り始めた。パイロットは落ち着いてECMを作動させ、回避機動を始める。2機の中国製戦闘機は編隊を解き、ミサイルを避けようとする。やがて、1発のAMRAAMがフランカーを捉え、近接信管を作動させた。弾頭が炸裂し、金属片を大きな戦闘機に浴びせる。翼の上面に無数の穴が空き、そこから燃料の霧が吹き出している。損傷したフランカーは高度を下げて離脱していった。


 9月19日 1027時 エジプト上空


 オレグ・カジンスキーのMiG-29Kとレベッカ・クロンヘイムが操縦するJAS-39Cが標的に狙いを定めた。正面にいるのはMiG-21かJ-7と思しき戦闘機だ。

 カジンスキーは、この獲物が普段、模擬空戦で相手にしているF-16VやF/A-18Cと比べて小さいということに留意した。HUDの目標指示ボックスの横に表示される距離スケールの数字に注意を向ける。そして、スーラヘルメット搭載照準ディスプレイ越しに敵機を睨むと、程なくしてR73の赤外線シーカーが小さな戦闘機の排気熱を捉えたことを知らせる電子音が鳴りだした。操縦桿についている発射ボタンを押し込み、ミサイルを放った。R-73が翼の一番外側のランチャーから飛び出し、標的を追いかける。旧式の小さな戦闘機は簡単に新鋭の空対空ミサイルの餌食となった。

「"ウォーバード4"、敵機撃墜」


 まだ敵機はこっちにやって来ている。だが、この襲撃者が、飛行時間が短く、敵にとって捨て駒としても良いパイロットが、いい加減な手法で製造された使い捨てのような戦闘機に乗ってやってきているに、"ウォーバーズ"の傭兵たちもエジプト空軍の戦闘機乗りたちも、全く気付いていなかった。

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