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要撃と交戦

 9月19日 1014時 エジプト カイロ西空軍基地


 基地でサイレンがけたたましく鳴り響いた。パイロットたちが一斉に戦闘機に向かい、エンジンを回し始める。その中には"ウォーバーズ"の傭兵たちもいた。サイード・バリス大佐はこれは我々の戦いだと主張したが、スタンリー司令官が座して死を待つ気は無いことと、エジプト空軍の指揮下にパイロットたちを置くという条件で出撃させたのだ。

 レーダーサイトからの情報によれば、かなりの数の不明機がエジプトに侵入してきているらしい。また、アスワン基地のラファールが既に交戦を開始したとの情報も来ている。

 整備員たちは、スクランブル発進の手順を踏んで機体の点検をしていた。空対空ミサイルからセーフティピンを抜いてパイロットに掲げて見せる。


『サンド1、サンド2、ランウェイ16に向かえ。風は西南西から2ノット。離陸後は高度1万2000フィートまで上昇し、周波数112.33で防空指揮所と交信せよ』

「サンド1了解」

『2了解』

 滑走路からラファール戦闘機が次々と離陸していく。エプロンでは"ウォーバーズ"の傭兵たちがエンジンを回す戦闘機の座席に座り、離陸前のチェックリストを確認している。


 それにしても、だ。自分たちはどうしてこうも行く先々でトラブルに巻き込まれるのだろうか。きっとメンバーの誰かが疫病神なのかもしれない、とF-15Cのコックピットの中で佐藤勇は思った。F-15CのAPUが回りだし、電源が入る。コックピットのディスプレイ、HUD、頭に装着したJHMCSび表示を確かめる。全て正常だ。システムをひとしきり確認した後、左エンジンを始動させた。聞きなれた、甲高く心地よい音が聞こえてくる。

『チェックリストを確認しろ。いつも通りにな』

 目の前で合図を送っている整備員の声がインカムから聞こえてくる。ブレーキをかけた状態でペダルと操縦桿を動かし、後ろを確認した。ラダー、フラップ、エレベーターは正常に動いているようだ。

『動翼はOKだ。次はスピードブレーキを確認しろ』

 佐藤は再び後ろを向き、F-15の巨大なスピードブレーキがしっかり立つのを見た。こちらも問題無いようだ。

『よし、そのまま待機しろ』

 周囲の整備員が機体のアクセスパネルの各所を開けては内部を確認し、閉じていく。続いて、武装担当の係がAIM-120CとAIM-9Xに付けられた安全ピンを引き抜いていく。他の機外搭載装備品は増槽が3つだ。他の"ウォーバーズ"の戦闘機も、増槽と空対空ミサイルという、迎撃・制空戦闘仕様になっている。

 機体を点検していた整備員のうち二人が、後輪の輪止めを一つずつ持って前に出た。間もなくタクシーの許可が出るだろう。

『"ウォーバード1"、こちらカイロタワー。準備ができたら急ぎ滑走路に向かえ。"ウォーバード2"、君は"ウォーバード1"に続いて滑走路に向かえ』


 戦闘機は全て動き出し、滑走路を目指した。E-737を離陸させる余裕が無いため、管制は基地とレーダーサイトにいる要撃管制官が行うことになる。状況は切迫しているようだが、パイロットと整備員、そして管制官たちは極めて冷静に航空機を動かすための指示を出している。


 滑走路の端で待機していたラファールCがアフターバーナーを炊いて滑走し、離陸速度に達するとほぼ同時に機首を急角度に上げて晴れた空を目指す。

『カイロタワーより"ウォーバード1"、"ウォーバード2"滑走路に入れ』

「"ウォーバード1"了解。滑走路に入る」

『"2"了解』

 佐藤は滑走路の端までF-15Cイーグルをタキシングさせ、一旦停止させた。左後方を見ると、ジェイソン・ヒラタが乗るF-16Vがあり、誘導路には他の仲間が乗る戦闘機が列を成している。

 エンジンや電子装備のシステムの最終点検を行った。全て問題無い。後は、離陸許可をもらい、この巨大な鳥を羽ばたかせるだけだ。

『タワーより"ウォーバード1"、"ウォーバード2"、離陸せよ。"ウォーバード3"以下、ウォーバード隊は許可を待たずに離陸せよ。上空では編隊を組み、地上の要撃管制官の指示に従え』

「"ウォーバード1"了解。離陸する」

『2、了解』


 9月19日 1021時 エジプト上空


 佐藤勇はF-15Cイーグルのキャノピーから周囲を見回した。高度は12000フィート。マッハ0.85で巡航している。本来なら急ぐところだが、燃料の消費を考えるとそこまで高速を出すのは得策ではない。

『ウォーバード隊へ。こちらアスワンのレーダーサイトだ。既に敵機は領空内に侵入し、こちらの犠牲がかなり出ている。注意せよ』 

「何機やられた?」

『今のところ、4機が撃墜された。既に救難信号を捉え、救助のヘリを向かわせている。奴らはスーダンから来たと見ている』


『聞いたか、隊長』

 ニコライ・コルチャックの声が無線から聞こえてきた。

「ああ。だが、スーダン空軍はどうやってこれだけの装備を・・・・・いや、軍とは限らないか」

『だな。現に、スーダン空軍なんて、イギリスやイスラエルの安全保障専門のシンクタンク連中が言うには、持っている戦闘機はMiG-29が10何機か。そのうち、まともに飛ばせるのはほんの数機、MiG-21やJ-7はそれなりに飛ばせるだろうが、経済危機で闇市からまともに買う事すら難しいはずだ』

「まあ、接敵すればわかる話だ。それに・・・・・・」

『ぼーっとしないで!IFFに反応しないのが4機、正面から来るわ!』

 レベッカ・クロンヘイムの声が佐藤は現実に呼び戻した。敵がやって来ている。まずは、これを排除せねばならない。あれこれ考える時間は、無事に地上に戻って来てからいくらでも残っているはずだ。

「正面に敵機だ。射程に捉え次第、攻撃。ニコライ、オレグ、ハンス、そしてウェイン。やってくれ」

『ラジャー!』

『任せろ!』

『援護頼むぜ、隊長!』


 Su-35SからR77が、続いてタイフーンからミーティアが放たれた。ミサイルは猛烈な速度で敵機に向かい、あっという間に姿が見えなくなる。放たれたミサイルは全部で4発。撃ちっぱなし性能を備えているため、発射次第、パイロットは次の標的を探すことや敵の攻撃の回避に専念できる。

『敵機からのミサイルを確認!ECM!』

 ニコライ・コルチャックがSu-35Sの翼端に搭載したL265M10ヒービヌィMジャミングポッドを作動させた。EA-18Gが搭載するAN/ALQ-249NGJに届くようなレベルの性能ではないが、それでも敵に対して非常に厳しい電子戦環境を作り出すことができる装備だ。

 続いて、ジェイソン・ヒラタがF-16Vの胴体下に搭載したAN/ALQ-184を作動させる。敵の反撃に備えての事だ。

 強烈な電子戦環境を作り出したことにより、なんとか敵のミサイルは全て外れてくれた。だが、今度はこっちが敵機を撃ち落とさない限り、危険であることには変わりない。

『こちら、"ウォーバード7"、敵戦闘機ロックオン・・・・・ファイア!』

『"ウォーバード8"、攻撃!』

 グリペンとタイフーンが1発ずつ、ミーティアを放った。"ウォーバーズ"が持つ、空戦用の槍で最も長いものだ。もう暫くすれば、敵機はAMRAAMやR77の射程に入ってくるだろう。無論、敵の槍がこちらよりも短いという話が前提になってくるのだが。

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