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侵攻開始

 9月19日 0938時 エジプト カイロ西空軍基地


 サイレンと共にラファールCとラファールBが2機ずつ、完全武装の状態でタキシングを開始した。更に、UH-60ブラックホークが2機、離陸していく。何が起きているのかは不明だが、明らかにおかしなことが起きているようだ。


 佐藤勇はF-15Cの状態を点検した。翼の下のLAU-128にはパイソン4短距離空対空ミサイル、胴体のLAU-106A/AにはAIM-120Cが搭載されている。その隣に置かれているF/A-18Cも増槽と空対空ミサイルをフル装備しているという状態だ。

「さて、何が起きたって言うんだ?」

 パトリック・コガワが周囲を見回して佐藤に話しかけた。"ウォーバーズ"が持つ戦闘機にはタンクローリーが近づき、燃料の補給を始めた。

「わからないが、かなり厄介ごとになっているのは確実だな。いつものことだな」

「やれやれ。そいつはどうも」

「みんないるか?」

 ゴードン・スタンリーが後ろから戦闘機乗りたちに話しかけた。全員が一斉に振り返って敬礼する。

「たった今、南の方、つまりスーダンとの国境地帯へ向かって緊急発進したエジプト空軍の戦闘機がレーダーから消滅した。原因はわからん。事故の可能性もあるが、2機同時に消えるだなんて普通は考えられんな。まあ、空中衝突でも起きたかもしれんが・・・・・念のため、出撃の準備だけは整えておけ。全部空対空装備で問題無いだろう。ミサイルと、増槽だ。機関砲には劣化ウラン弾をしっかり装填しておけ。あとは、指示があるまでいつでも出撃できる体制を取って待機するんだ。以上だ」


 9月19日 0954時 エジプト上空


 4機のラファールが編隊を組み、南のスーダン国境付近を目指して飛行していた。エジプトらしく良く晴れていて、青空が広がっている。レーダーには今のところ何も映っていないが、何が起きてもおかしくない状況だ。

「こちら"キャメル1"。トータスへ。何か変わったことは無いか?」

 ラファールの編隊の隊長がスーダンとの国境付近のレーダーサイトと連絡を取ろうとした。しかし、反応が無い。

「"キャメル1"よりトータス、聞こえるか?」

 沈黙。

「"キャメル1"より"キャメル2"へ。レーダーサイトトータスと連絡を取って見てくれ。こちらの無線機の不調かもしれない」

『了解した"キャメル1"、レーダーサイトトータスだな』

 二番機もレーダーサイトに呼び掛けてみたがやはり反応は無い。

『ダメだ。反応無しだ。一体、何が起きているっていうんだ・・・・・?』


 9月19日 0957時 エジプト上空


 J-16EWの編隊がエジプト領内に侵入した。この電子攻撃機は一見、Su-27UBやSu-30MKにも見えるが、搭載可能な武装は空対空ミサイルと対レーダーミサイルのみで、機体のあちこちにアンテナフェアリングが生えている。

「こちら"コード1"、地上のレーダーサイトを片づけた」

『HQより"コード1"へ。予定通りに攻撃を開始せよ』

「了解だ」


 J-16EWの後ろからはJ-11B、そしてJ-10Cの編隊が近づいてきていた。空対空ミサイルと誘導爆弾を翼の下に搭載し、胴体下に増槽をぶら下げている。

 J-16EWは妨害電波の照射を始めた。この分野の航空機は、つい最近まではアメリカの独占状態であった。しかし、中国はSu-30MKKを国産化したJ-16を独自に改造し、電子攻撃機を生み出した。それがこのJ-16EWだ。西側の軍やシンクタンクは、EA-18Gグラウラー並みの性能があるという評価を下している。

「"コード1"、妨害電波照射開始」

 J-16EWの後席に座るECMOがタッチパネルを操作し、妨害電波の照射を開始した。まずは予めIL-20"クート"電子偵察機が収集していたレーダーサイトの周波数に合わせてある。

「妨害電波照射中。レーダー周波数合わせろ」

「了解。妨害電波送信開始・・・・・・」


 9月19日 0959時 エジプト レーダーサイト


「何だ!?これは!?」

 レーダー画面に急に真っ白な靄がかかったように見えた。いきなり何者かが電子攻撃を仕掛けてきたらしい。

「ジャミングです!しかし、何者が・・・・?」

「防空司令部に知らせろ!何者かが我々に電波妨害を仕掛けていると!」

「無線も通じません!電話に切り替えます!」

 空軍の伍長が司令部に直通になっている電話に手をかけて、ボタンを押して受話器を手に取った。しかし、空電音が鳴るだけで、肝心の司令部に繋がらない。

「だめです!電話まで妨害されています!」

「畜生!何が起きているんだ!?」

「とにかく、司令部にこのことを早く伝えろ!」

「了解!」


 9月19日 1002時 エジプト南部


 J-16EWがYJ-91対レーダーミサイルの発射準備を整えた。ミサイルのパッシブシーカーが防空レーダーが放つ電波を捉え、ロックオンする。このミサイルはAGM-88Eと同様に、レーダー電波の発信源を記憶する機能が備わっているため、例え敵がミサイル攻撃に気づいてレーダーのスイッチを切ったとしても、正確に標的を目指すよう設計されている。

「"コード1"、攻撃準備完了」

『"コード2"、ミサイルロックオン』

『"コード3"、ターゲットロック』

『"コード4"、いつでもやれます』

「"コード1"よりコード隊各機へ。攻撃せよ!攻撃せよ!攻撃せよ!」


 J-16EWから一斉に対レーダーミサイルがリリースされた。元々は対艦ミサイルとして設計された弾体のため、対レーダーミサイルとしてはかなり大型の部類に入る。ミサイルは猛スピードで飛翔し、エジプトの国境沿いに設置されたレーダーサイトのアンテナを目指した。


 対レーダーミサイルはあっという間にレーダーサイトに到達した。レーダーアンテナを直撃して爆発し、周囲にあったものを破壊し、すぐ近くにいた兵士を殺傷した。


 9月19日 1005時 エジプト南部


 J-16EWとJ-11B、J-10Cはそのままエジプトの上空を飛び続けた。ターゲットは南部の陸軍の駐屯地だ。そこに爆弾を落とし、破壊して戻るまでが任務だ。まだエジプト空軍機はこちらに向かってきては無いが、時間の問題だ。

「"コード1"より各機へ。敵機に注意しつつターゲットを目指せ。まだ接近してきてはいないが、じきにやって来るだろう。来た場合は予定通りに」

 この部隊は、とにかく攻撃するのが任務だ。そして、後続の飛行隊が上空哨戒を行い、地上部隊が南部に侵入し、鉱山や油田を抑えるという算段だ。

『"コード2"了解。全員、警戒を怠るな』


 9月19日 1006時 スーダン


 グラント・ウォーマーズは各部隊から入ってくる報告を満足げに聞いていた。今のところは予定通りだが、これからはそうもいかなくなる。それは、南アフリカ陸軍にいた頃に既に学んでいたことだった。そして、傭兵稼業を始めてそれを痛いほど味わってきた。

 だから、この作戦は慎重に慎重を重ね、全ての準備が抜かりなく整ったと判断した時点で実行に移った。それまでの間、誰にも部隊の展開を気づかれぬように行動していたのだ。

 そして、今日、ついにパーティーが始まった。後は、電撃的にターゲットを抑え、エジプト政府を脅迫して利益を得るだけだ。

「ボス、地上部隊の出撃準備が整いました。どうしますか?」

「まずは向こうの出方を窺いたいところだが、もたもたしていると反撃に移られてしまう可能性があるな。よし、フェーズ2開始を許可する。但し、予定外の行動はさせるな。あくまでも、作戦通りに行動させろ。決して不用意なことはさせるな」

「イェッサー。では仰せの通りに」

 ウォーマーズはペットボトルのキャップを開け、水を一口飲んだ。後は、向こうの出方次第だ。あまりガンガン進まずに、慎重に事を運ぶべきだ。戦場で確かな事が一つだけあるとしたら、決して自分の考えた予定通りに事は進まないということだけだ。

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