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最初の一撃

 9月19日 0834時 エジプト カイロ西空軍基地


 昨日、行方不明になったエジプト空軍戦闘機に関する情報は全く上がってこない。今朝早く、またブラックホークが2機編隊で離陸していった。

 小耳に挟んだ程度だが、行方不明になる直前、件の戦闘機は司令部との通信やデータリンクが途切れた状態だったそうだ。


 今日の訓練に関してだが、午前中は見合わせになった。そのため、"ウォーバーズ"の戦闘機は掩体壕で待機状態になっていた。

 だが、単なる待機では無く、増槽と空対空ミサイルを満載させられ、F-16やF/A-18、F-15EにはGBU-39SDBまで搭載させられていた。

「なあ、本当にこんな用意をする必要があるのか?」

 F-15Eの機体のアクセスパネルを開き、中の状況を入念に調べていたケイシー・ロックウェルがウェイン・ラッセルに話しかけた。

「さあな。だが、ボスはすぐにでも出撃できるようにしておけと言っていただろ。何が起きているのかは知らんが、十中八九、厄介ごとだろ」

「だろうな。それにしても、俺たちはどうしていっつもこんな事ばかりに巻き込まれるんだ?」

「部隊の中に疫病神がいるんだろ。誰なのかはわからんけどな」

 格納庫に収められていたAH-64Eが牽引車に押され、エプロンに姿を現した。前席ではシモン・ツァハレムがハンドリングをしている。

「ところでウェイン、今度、俺たちとユウのF-15に搭載する近代化改修パック、いつ到着するんだ?」

「さあな。だが、今すぐに搭載するってものじゃないだろ。あれは売れ筋商品だから、メーカー側でも在庫がスカスカだって話だぞ」

 やがて滑走路の方から轟音が聞こえてきた。MICA-EMとMICA-IR、そしてAASMと増槽、ダモクレス・ターゲティングポッド、偵察ポッドを搭載したラファールCが2機、凄まじい勢いで連続して離陸していった。

「なあ、今上がったラファール、実弾を積んでいなかったか?」ラッセルが相棒の方を見て言った。

「ああ、俺にもあれは実弾に見えた。確か、今日の訓練は中止だったはずだが、何かあったのか?」

「わからん。だが、何かおかしなことが起きていると俺は見ている。隊長はどうしているか、わかるか?」

「呼んだかい?」

 ラッセルとロックウェルがいる方へ佐藤勇が歩み寄ってきた。彼は眼鏡を外し、ウェットティッシュで細かい砂塵を拭いとり、レンズに傷がついていないかどうか丹念に調べてからかけ直した。

「やあ、隊長。今日のこのおかしな事態について何か聞いていないか?」

 佐藤はかぶりを振った。

「いや、まだボスから説明は無い。さっき上がったラファールのことか?」

「ああ。国籍不明機へのスクランブルなら、MICAを二種類2発ずつ、全部で4発でこと足りるだろ?なのに、何でAASMやターゲティング装置なんて搭載する必要があるんだ?」

「僕に聞かれても・・・・・」

「隊長、いたの?」

 佐藤たちは声がする方を見た。そこにいたのは、美貌のスウェーデン人、レベッカ・クロンヘイムだ。

「やあレベッカ、どうしたんだ?」ロックウェルが話しかける。

「ケイシー、それにウェインも。さっきのは見たかしら?」

「さっきのって、ラファールのことか?」ロックウェルが返す。

「当たり前よ。それから・・・・・・」

 再び轟音。また2機のラファールが離陸した。当然の事ながら、こちらの編隊も完全武装していた。

「今ので、何というか・・・・・・本格的にヤバいことになったみたいだ、と思ったぜ。ウェイン、レベッカ、隊長、君らは?」ロックウェルは、その大柄な体躯に似合わないくらい不安そうな顔になった。

 佐藤は右手で、剃り残した髭が僅かに残った顔に触れた。何が起きているのかは不明だが、歓迎すべき事では無いのは確かだ。


 9月19日 0853時 エジプト カイロ西空軍基地


 サイード・バリス大佐はゴードン・スタンリーを呼びつけた。考えた結果、隠しだてするのは有益では無いという結論に至ったからだ。それに、事態が悪い方向に向かった時、彼らの力が必要になるかもしれない。そう自分の直感が告げていたからだ。

「スタンリー司令官。今日の演習が中止になり、ここに君を呼んだ訳を話そう。昨夜、領空に急速接近する国籍不明機をレーダーサイトが捉え、2機の戦闘機が緊急発進した。しかし、だ。計算上、燃料を使い切っているはずなのに、基地に戻って来ていない。他の基地や空港にダイバートしたかも知れないと思い、今朝早くから、国内の空港や空軍基地などに片っ端から電話をかけた。だが、どこからも、ラファールなど緊急着陸していないとの回答があった」

「だとしたら・・・・・事故でしょうか」

「いや。それ以上に問題なのは、戦闘機がレーダーから消える前にパイロットから何も連絡が無かったことだ。無線機やデータリンク装置が故障しただけかも知れないが、それだけならば飛行には支障は無い。直ちに緊急着陸をするはずだ。もし、機体の不具合ならば、無線機で連絡し、緊急脱出しているならば、救難信号も出ているはずだ」

「と、いうことは何者かが、戦闘機を撃墜した、と?」

「結論にはまだ早いが、可能性はある。君の部下たちは、しばらく待機させていてくれ」


 9月19日 0933時 エジプト南部上空


 AREOS RECO NG偵察ポッドを搭載した2機のラファール戦闘機が編隊を組み、荒涼とした砂漠の上を高速で飛行した。要撃管制官からの情報によれば、間もなく件の戦闘機の信号が消えた地点に接近するはずだ。

「こちらキャメル1、間もなく墜落地点に到達する」

『ネストからキャメル1へ。何か見えたか?』

「キャメル1からネストへ。まだ機体の残骸らしき物は・・・・何だ?」

 戦闘機と早期警戒レーダーがそれを捉えるのは同時だった。

『こちらネスト。レーダー上に国籍不明機出現。キャメル隊、目視で確認せよ』

『キャメル1了解。確認する』


 思った通りだ。奴らは戦闘機をけしかけてきた。そして、自分が放つ"矢"が、この計画における最初の1発となる。IRSTとレーダーで捉えた敵機をそいつは追い始めた。

「ビートル1よりHQ。敵の偵察機を確認した」

『こちらHQ、準備は全て完了している。先ほど言った通り、君らが最初の一撃を放つことになる。では、君のタイミングで攻撃せよ。以上だ』

「ビートル1了解。攻撃する。ビートル2、聞いたな?」

『ビートル2了解。攻撃します』

 2機のJ-11BはPL-13の発射準備を整えた。そして、目標をロックオンすると、ミサイルをそれぞれ1発ずつ、標的目掛けて発射した。


「くそっ!ミサイルアラートだと!?バカな!?」

 まさか攻撃を受けるとは思ってもいなかったキャメル1のパイロットは驚愕した。耳障りな電子音がコックピットの中を満たす。

「畜生!ECM!チャフ!」

 キャメル1はすぐに回避機動を取り、防空司令部に攻撃を受けたことを知らせた。ミサイルはラファールの一番機を掠め、チャフの雲に突っ込んで爆発した。しかし、キャメル2はそうはいかなかった。2番機のパイロットは敵の攻撃に対して、致命的な程反応が遅れた。そのため、空中で爆発したPL-13の破片がラファール戦闘機にまともにふりかかった。

『メーデー!メーデー!こちらキャメル2、被弾した!繰り返す!こちらキャメル2!攻撃され被弾した!』

 ミサイルを食らったラファール戦闘機は、黒い煙を引きながら、エジプトの黄色い大地に向かって落下した。

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