侵攻計画
9月15日 1033時 スーダン北部
4機のJF-17サンダーが編隊を組み、砂漠の上を飛んでる。翼にはKh-58対レーダーミサイルを搭載している。空は砂漠らしく、カラっと晴れ渡っている。荒れた砂漠では馬を連れた遊牧民が走り回っている。都市部は比較的発展しているが、地方はまだまだ伝統的な遊牧生活や農耕生活を営んでいる人間が少なくない。
スーダンは南部独立後から政情不安と世界的な経済危機のダブルパンチによって、ほぼ無政府状態になっていた。
そんな中、グラント・ウォーマーズはこのスーダンに目を付けた。無政府状態となった国に傭兵が入り込むのはよくあることだ。ウォーマーズは仲間を集め、資金を使って武器を買い叩いた。ミサイル、戦車、装甲車、自走砲、戦闘機、ヘリ・・・・・。
Il-76輸送機が滑走路に着陸した。これはタジキスタンから兵器を運んできたものだ。他にも同じ輸送機が向こうで上空待機をしているのが見える。兵器を買った先は様々で、ウクライナ、パキスタン、中国、イラン、カザフスタンなどだ。このような国には闇工場が多くあり、軍に納入する兵器を製造する傍ら、正体不明の連中に密かに武器を販売している。しかも、それらの国の政府はそれを知っておきながら黙認しているのだ。おまけに、これらの国から兵器を買い叩いて、第三者に売りさばくバイヤーも多く存在している。
ウォーマーズのような傭兵にとっては、これは有難いことだった。おかげで簡単に武器が手に入る。流石に核兵器を手に入れるのは難しいが、スカッドやムスダンといった弾道ミサイルは簡単に手に入る。2S19ムスタやT-14アルマータ、05式水陸両用歩兵戦闘車なんかは言うまでもない。
「ボス」
部下の一人が話しかけてきて、ウォーマーズは振り返った。そいつはタブレットPCを手にしている。
「この前雇った奴らが苛立ってきています。いつになったら始めるのかと不満を漏らしている奴らが増えてきていますよ」
「もう間もなくだ。それよりも、北朝鮮から手に入れたジャミング装置のテストはどうだ?」
「完了しています。いつでも実戦投入可能です」
「各班の指揮官を集めろ。これより作戦の調整を始める」
9月15日 1204時 スーダン北部
テントに置かれたホワイトボードに赤、青、黒のマーカーによって描かれたタイムラインがみるみるうちに書きあがっていった。後方支援部隊の動き、切込み部隊の動き、その後から続く後続部隊の動き・・・・・・。
「まずは北部にジャミング装置を設置して、通信と防空レーダーに妨害を仕掛ける。そして、Su-24MとJH-7で敵の防空レーダーを破壊する。切込みをするのはSu-25MとトーネードIDS。護衛はJ-10BとMiG-29Mで行う」
ウォーマーズは集まった班の指揮官たちに作戦の概要を説明していた。彼らはチンピラが集まっただけの愚連隊では無い。皆、軍出身、それも元将校が大半を占めている。連中はプロ揃いだ。
「最初の標的は・・・・・アスワン空軍基地と言っていたな。攻撃して、勝てるだけの算段はあるのか?」
「ああ。対レーダーミサイルで早期警戒レーダーを破壊したら・・・・・こいつの出番だ」
ウォーマーズは1枚の極めて鮮明な写真をホワイトボードに張り付けた。12輪ものタイヤが取り付けられた巨大で、背の低い車両だ。
「スカッドか?いや・・・・・・見慣れんミサイルだな。そいつは何だ?」
「ムスダンだ。北朝鮮製の弾道ミサイル。北朝鮮人は、こいつを火星10号と呼んでいるらしい。ムスダンってのは、まあ、他の国での通称みたいなものだ。アメリカ人がそうやって呼び出したのが広がっただけだ。元々は旧ソ連製のSS-N-6潜水艦発射型弾道ミサイルなんだが、北朝鮮には当時、潜水艦に弾道ミサイルを搭載するだけの技術が無かった。そのため、北朝鮮人は移動式の陸上発射型弾道ミサイルとして運用を始めた。おまけに、イランにこれを輸出したとの情報も入っている。今や、こいつは世界中に拡散して、闇市場で広く取引されている。アメリカやヨーロッパは取り締まりを強化しているが、当然のことながら上手くいっていないのが現状で、連中は頭を悩ませている。それに、こいつには化学兵器や核兵器の弾頭を搭載可能にした派生型まで外部で生まれているらしい。西側諸国にとっては悪夢のような存在だな。残念ながら、そのようなBC兵器の弾頭を手に入れることはできなかった。ところが、通常弾頭でも十分な破壊力が出るのは実証済みだ。次」
ウォーマーズは別の写真を張り付ける。これもミサイルだが、ムスダンよりは小型で、8輪の専用の移動式ランチャーに載せられて運用される。
「こいつはCJ-10。中国製の巡航ミサイルだ。射程は1500kmで、専用の移動式ランチャーの他、駆逐艦や潜水艦、H-6K爆撃機から運用できる代物だ。これは闇工場で大量生産されていて、闇市場でかなり出回っているから見たことがある者も多いだろう。こいつで都市部を攻撃する。これによる攻撃がフェーズ1だ。フェーズ2は地上部隊による侵攻だ。フェーズ2を始めるまでには時間がかかる。よって、始める前には準備を入念にしておく必要がある。作戦開始と同時に行動できるよう、部隊を配置しなければならない。各部隊の隊長は何をすべきか、しっかり把握しておけ。地上部隊は自分の仕事が終わり次第、その場で次の指示を待て」
「後方支援は・・・・・・また追加する必要がありそうか?電撃的な作戦にはなるが、どんどん侵攻して、場所を確保することになる」
「ああ。後方支援部隊は、作戦の進行具合にあわせて前進させていく。だが、あまり前に出しすぎると、敵が反撃を始めた時に壊滅させられる可能性がある。それを防ぐ部隊がこれだ。戦車と対空ミサイルで編成し、地上部隊と航空部隊を追い払う。S300と2S19、HQ-9を用意している。かなり強固な防空網だから、ここを突破するのは難しくなるだろう。エジプト政府には、特に要求を伝える気は無い。我々の目的は交渉ではなく略奪だからな。敵が反撃してくるようなら、排除するまでだ」
「なるほどな」
「攻撃の開始は、勿論深夜だ。9月18日の0000時に開始する。勿論、事前通告も、攻撃後の声明も出さない。油田と鉱山を奪って占領するまで続ける。強奪したら、その場に橋頭保を築いて占領する。石油は我々で精製しながら使用するが、闇市場にも流す。闇市場に流して得た金は勿論、しっかり洗う。攻撃は電撃的かつ、素早くしなければならない。奴らになるべく反撃の機会を与えるな。エジプト政府側には一切要求のようなものは出さない。以上だ。行動に移れ」




