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着陸と補給物資

 9月5日 1733時 エジプト カイロ西空軍基地


 "ウォーバーズ"とエジプト空軍の戦闘機が傾き始めた太陽の光に照らされながら高度を下げ、滑走路への着陸進入を始めた。管制塔からのGCAによる誘導のため、かなりゆっくりした速度で着陸してくる。

『カイロタワーより""サンド1"へ。北東から7マイルの風が吹いている。着陸まであと50マイル。視界は1000メートル程度だ。注意してくれ』

 カイロ西空軍基地での周囲では急に風が強くなり、砂塵が舞って視界が悪くなってきた。エジプト空軍の管制チームは目視での着陸が難しくなってきていると判断し、全ての航空機をGCAで誘導することにしたのだ。

『カイロタワーより"サンド1"へ。以後は周波数132.34で交信せよ。繰り返す。無線の周波数を132,34に設定せよ』

『132.34だな。了解』

 アフマド・アリー・シャリク大尉はラファールCのHUDを見て、高度とグライドスロープの数値が着陸を行うのに適正になっているかどうかを確認した。全く問題ない。年に250回以上もやっていることだ。

『"サンド1"、着陸まで30マイル』

 シャリク大尉はギアを再度確認した。パイロットは常に何度も同じことをチェックする癖を付けている。安全に関わることであれば、何度チェックしても十分と言えない。

『"サンド1"、着陸まで20マイル。進入角度適正。そのまま進入せよ』

 ラファールCはふわりという感じで滑走路にタッチダウンした。そのまま誘導路に入り、エプロンに向かう。


 シモン・ツァハレムはAH-64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリのコックピットから戦闘機が着陸しているのを見ながら真っすぐヘリパッドへと機体を進入させた。後ろからはCV-22BオスプレイとHH-60Wペイブホークも付いてきている。今日、一緒に訓練をしたエジプト空軍のアパッチは元々所属していた航空基地へと帰還していった。

 周囲は暗くなってきているが、まだ暗視装置を使うまでも無さそうだ。普段、ディエゴガルシア島の周りにあるサンゴ礁の上空を飛んでいたため、故郷のイスラエルと同じ、一面黄色の広大な砂漠の上を飛ぶのは久々だった。勿論、ツァハレムも、相棒のデイヴィッド・ベングリオンも、今日の訓練を全く問題なくこなした。目標であるコンクリートブロックを30mmチェーンガンで撃ち、クラスター弾頭のロケット弾で吹き飛ばしてきた。いつもやっていることだ。

「やれやれ。早いところシャワーを浴びて、飯にしたいところだな」

 ベングリオンが相棒に話しかけた。

「ああ。だが、整備班の連中はここからが大仕事だ。きっと、エンジンやAPUのエアフィルターが砂まみれになっているぞ」

「全くだ。故郷を思い出すな。いつだったか、シリアのテロリストの拠点をぶっ潰しに行ったことがあっただろ?あれはやばかったな。グレイルやスティンガーをぶっ放してくる奴が大勢いたからな」

「ここに来る2年前か?3年前か?まだ俺たちがひよっこパイロットだった時だったな。まさか、あんなにすぐに実戦投入されると思わなかったから、必死だったな。コックピットのすぐそこをミサイルが飛び抜けて行った後は、冷や汗が暫く止まらなかったからな」

「全くだ。ズボンの中を濡らさずに済んだのは奇跡的だったな。まあ、そのミサイルを撃ってきた奴は、チェーンガンでミンチにしてやったがな」

「あれは、戦闘は2時間、その後の休暇でバギーに乗って砂漠を爆走したからな。3日間」

『アナコンダ、聞こえるか?着陸を許可する』

「了解だ、タワー。着陸する」


 AH-64Eがまっすぐ基地のヘリパッドに向かった。地上では"ウォーバーズ"のマーシャラーが大きなライトスティックを両手に持って振りながらヘリを誘導する。アパッチはふわりとヘリパッドに着陸し、エンジンをカットした。HH-60Wもアパッチと同様、直接ヘリパッドに着陸したがオスプレイは滑走路に着陸し、誘導路に向かってタキシングしてヘリパッドに滑走していく。


「さて、晩飯の前にデブリか。デイヴ、今日の射撃訓練、自分ではどうだった?」

「まあまあ、といったところかな。まだまだ改善の余地はありそうだ」

 ベングリオンはアパッチ・ガーディアンの周囲を歩き回り、手に持った懐中電灯で茶色と明るい黄色の迷彩に塗り替えられた戦闘ヘリの状態を確認しながら相棒に答えた。機体をよく見て見ると、機体のパネルの隙間という隙間に、ダウンウォッシュで巻き上げられた砂が詰まっているのが確認できる。

「くそっ、こいつはまた酷いな。整備チームに後でビールでも持って行ってやらんとな」

 ツァハレムが機体を撫でつけると、黄色い砂が手のひらにびっしりと付着した。こいつは機体の洗浄が大変な事になりそうだ。

「電子装置は大丈夫なのか?これだけ砂まみれだと、心配になってくるな」

「デイヴ、そろそろ整備を始めますよ」

 整備班のホーマー・カニンガムが話しかけてきた。彼はアメリカ陸軍でアパッチの整備をやっていた。

「ああ、頼む。結構大変なことになっているぞ。アクセスパネルの隙間からも砂が漏れ出してきているからな」

 ベングリオンが答える。

「なあに、明日の朝までにはきっちり仕上げてやるよ。あまり心配せんでいいぞ。いつものことだからな」

「すまんな。後でビールでも奢ってやるよ」

 エジプトはムスリムの国ではあるが、一部の商店では観光客向けに酒は手に入る。

「ああ。だが、飲みすぎないように注意せんとな。グデングデンにな、明日から飛行機の整備が出来なくなったら洒落にならないからな」

「言えてる。そんなことになったら、ボスから散々どやされるからな」

 カニンガムとベングリオンが話している後ろで、整備員たちがアパッチやオスプレイのアクセスパネルを開け、機体の清掃を始めた。


 9月5日 2003時 エジプト カイロ西空軍基地


 真っ暗な夜空に小さな星の瞬きが突如として現れた。それはエンジンの轟音を立てながら飛行場の滑走路に向かってどんどん接近してきた。その星の正体はC-5Mスーパーギャラクシー輸送機だ。暫くすると、同じ飛行機がどんどん滑走路にアプローチして、着陸する。C-5Mの機体にはケイマン諸島で登記されていることを表す民間の登録記号が表記されている。この輸送機の持ち主は傭兵部隊"アーセナル・ロジスティックス"だ。


 着陸した輸送機からは戦闘機やヘリのスペアパーツやその他物資が次々と降ろされ、"ウォーバーズ"が利用している格納庫に向かって運ばれていく。その様子を司令官のゴードン・スタンリーが見回っていた。

「よお、ゴーディ。今度はエジプト観光か。いいご身分だな」

「そういうお前は何をしていたんだ?」

 スタンリーに話しかけたのは現役の軍人だった時からの友人、ハーバート・ボイドだ。かつてはオーストラリア空軍でC-17A輸送機のパイロットをしていた、"アーセナル・ロジスティックス"のボスだ。

「いつもと変わらんよ。知り合いから配達の注文を受け付けて、荷物の受け取りと配送だ。おかげで、一生使っても使いきれないほどのマイレージが貯まっちまってる」

「何か噂話は聞いたか?」

「ああ。アフリカや中央アジアは今や怪しい連中のたまり場だ。ソマリア然り、スーダン然り、タジキスタン然り。NATOはやっとこの前のバルカン半島の件の後処理をやっているらしい。それに、また東ヨーロッパがきな臭くなってきた。どうやら、今のロシアの政府がベラルーシと共謀してラトビアを狙っているらしい。バルカンの次は、こっちだな」

 やれやれ、とスタンリーはかぶりを振った。

「それから、ちょっと噂程度に聞いたんだが、東南アジアで怪しげな奴らが暴れまわっているらしい」

「"らしい"とは?」

「ああ。そいつらは、いきなり現れてベトナム籍やフィリピン籍の船や飛行機を襲って、幽霊のように消えているらしい。どこに拠点をもっていることやら。まあ、思い当たる容疑者は一つしか無いが」

 なるほど、中国か。現在、中国は周辺諸国に対する恫喝を露骨に行っている。いきなり台湾やベトナムの()()()に海警船舶を進入させて漁船を取り締まったり、露骨に台湾や沖縄の領空に爆撃機を侵入させたりしている。

「裏で糸を引いている奴が誰なのか見え見えだな。全く、困ったもんだ」

「さて、あいつらは荷物を下ろし終わったようだな。燃料が入ったら、俺はすぐ行くぜ。じゃあな」

「ああ、また頼むぜ」

「お前らはいいお得意さんだからな。依頼があれば、アフリカだろうが南極だろうが、すぐに駆け付けてやるさ」

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