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カイロ西空軍基地

 9月2日 1007時 エジプト カイロ西空軍基地


 "ウォーバーズ"とエジプト空軍の戦闘機が列を成して着陸アプローチに入った。エジプト空軍機の方はかなり余裕を持って着陸したが、"ウォーバーズ"の戦闘機は極めて短い間隔で着陸する。


 マームード・アル・カルム少尉は、今日のこの訓練の結果に衝撃を受けていた。空軍は飛行訓練の時間をここ数年で削減していたが、その影響がこれ程まで目に見える形で表れるとは思いもよらなかったからだ。

 この結果は、空軍上層部のみならず、早晩、国防省にも持ち上がるだろう。実際、国防費の内訳を見てみると、比較的潤沢な予算を与えられている陸軍とは対照的に、海軍と空軍の予算は削減される傾向にあった。航空機や艦船などの稼働率は維持される程度の予算は確保されていたが、それが、兵士たちへの訓練時間の削減という形でしわ寄せが来ていた。

 しかし、今まで年間100時間程度与えられていた戦闘機パイロットの訓練時間は、今では70時間程度に削減されていた。この3割減という数字はかなり大きい。いくらラファールやF-16Vといった新鋭機があったとしても、それに見合ったパイロットの腕が無ければ、そんなものも宝の持ち腐れだ。


 佐藤勇はF-15Cをエプロンまでタキシングさせ、マーシャラーの指示に従って機体を停止させ、エンジンをアイドル推力まで落とした。整備員が機体の周囲を歩き回り、損傷などが無いかどうかを確認する。

マーシャラーの合図でエンジンをカットした。動力がAPUに切り替わる。

 APUが作り出す電力を使って、キャノピーを開き、地上整備員の合図でAPUのスイッチも切った。目の前のディスプレイの明かりが消え、これでF-15Cは完全に停止した。


 取り付けられたタラップから降りて、整備員と敬礼を交わす。佐藤はヘルメットを被ったまま、機体の周りを歩き、自分の目で見て、手で触れて機体の状態を確認する。この時、極めて高温になっているエンジン回りには不用意に触れないよう注意した。


 エプロンでは、他の仲間たちが、それぞれの戦闘機の状態を整備員たちと共に確認していた。エジプト空軍の若い(と、言っても、佐藤とは10歳も離れていない)パイロットたちも、同じように機体をチェックする。


 相変わらず、旅客機がひっきりなしに離発着していた。B787が飛んでいったと思ったら、A350が着陸アプローチに入る。その後、F-16戦闘機が列を成して誘導路に入り、訓練に向かった。


 佐藤はこの光景を見て、古巣である飛行教導群が配置されている小松基地を思い出した。だが、あの基地はここまで規模の大きい基地では無く、滑走路も1本だけだった。


 やがて、戦闘機の集団からやや遅れて戻ってきたE-737が着陸した。デブリーフィングは、訓練の様子を全て見渡してきたボスたちがいなければ始まらない。あれには、今日はエジプト航空部隊の若い飛行隊の将校も乗っていたはずだ。


 9月2日 1053時 エジプト カイロ西空軍基地


 デブリーフィングのために、訓練に参加した"ウォーバーズ"とエジプト空軍の戦闘機パイロットたちがお偉いさんが来るのを待っていた。しかし、用意されていた椅子には着席せずに、戦闘機パイロットの視点により、独自に今日の訓練の検証をしていた。

「少尉、なんであんな妙なことをしたんだ?あんなことをしないで、基本に忠実にやれば良かったんだ。フランカーだからって、そんなクルビットやコブラを毎回使う訳じゃない。君は、俺がそれをやることを期待して、減速し、コブラ機動をした時に、機関砲で撃とう。そう考えたんだろ?そんな事はしなくてもいい。確かに、あの機動を使えば、後ろから近づいてきた敵機をかわせるかもしれないが、本当の事を言うと、あれは実用的とは言えないんだ。だから、フランカーを相手にしても、それほどコブラを警戒する必要は無いんだ」

 ニコライ・コルチャックが、フランカーを相手にした時の事を若いパイロットに丁寧に講義していた。コルチャックはSu-27とそのサブタイプ、Su-35Sに精通している。彼は、フランカーの長所とその弱点を"ウォーバーズ"のパイロットの中で最も熟知している。

 コルチャックの前に座るカルム少尉は彼の講義を真剣な表情で聞いて、メモを取っていた。今回は、エジプト空軍側は授業料ろして莫大なお金を"ウォーバーズ"に支払っている。それにしても、おかしな話だ。今や、戦争、紛争、テロ的攻撃は、世界各地で頻発しているというのに、それらの鎮圧で多く活躍しているのは、各国の正規軍では無く、傭兵やPMCの方であるという。

 アメリカやイスラエルが行っている"対テロ戦争"も、未だに先が見えてこない。それに、テロを行う側も数年前から変質してきている。政治信条や宗教的信条では無く、どちらかと言えば、経済的背景がある場合が多い。例えば、企業が商売敵となる他の企業が所有もしくは整備しているインフラを攻撃させたり、天然資源などを無理やり強奪するためにテロ攻撃を行うのだ。


 暫くすると、ようやくサイード・バリス大佐がPCを持ってブリーフィングルームに入ってきた。その場にいる全員が起立し、大佐を迎える。

「諸君、遅くなって済まない。ちょっとした問題が起きてな。それに少々首を突っ込まねばならなくなってね。さて、今日の演習のデブリーフィングといこう。ミスター・スタンリー。今日の訓練機のフライトデータはあるかね?」

「用意してあります。こちらに」

 スタンリーは1枚のBR-ROMをバリスに渡した。これには、E-737ウェッジテイル早期警戒機が今回の演習で捉えた航空機の動きが全て記録されている。そのため、デブリーフィングでは、一切の言い訳やごまかしは通用しない。

「さて・・・・・それでは見ていこう。重要なのは、問題点を洗い出して、その解決策を見つけることだ。何も諸君の失敗を責めるためにこの場を設けている訳では無いし、そんな時間があれば、もっと有用なことに時間を使うべきだからな・・・・・・・」

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