表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/84

戦術要撃訓練-1

 9月2日 0853時 エジプト カイロ西空軍基地


「やれやれ。エジプト空軍は西側と東側の機体をまぜこぜに使っているが、ちゃんと運用できているのかね」

 デイヴィッド・ベングリオンは、自分のAH-64Eの方に向かって歩きながら相棒のシモン・ツァハレムに言った。

「さあな。ポーランドなんかは、F-35を買ってからはミグを引退させ始めたが、マレーシアみたいに未だにロシア機とアメリカ機を両方使い続けている国だってある。俺たちだって、人のこと言えないだろ」

「それは、俺たちが小回りが利く傭兵だからだろ?」

「ん、まあ、確かにな。それに、オレグやニコライに、今さらフランカーやフルクラムに乗るのをやめて、イーグルやホーネットに乗れと言うの無理だけどな。だけどよ、国家規模だと大変じゃないのか、という話だ」

「まーあ、1970年代までイスラエルと対立していたのもあるだろ。必然的にソ連との結び付きが強かったと言うのもあるさ。それに、武器の供給先を複数用意しておくのも、悪い話じゃないさ」


 ヘリパッドに並んだ機体が、徐々にローターを回し始めた。機体は4機のKa-52と8機のAH-64Dだ。ヘリ部隊は、これより対戦車攻撃を模擬した演習を行う。スタブウィングには、増槽のみが取り付けられ、ミサイルランチャーと多連装ロケットポッドは無い。搭載する弾薬は、機関砲の訓練弾だけだ。というのも、最新鋭の攻撃ヘリに搭載する対戦車ミサイルは、確かに高性能だが、その分高価なので、頻繁に実弾射撃訓練ができるものでは無い。


 ベングリオンは、エンジンの出力を確認し、システムチェックを行った。多機能ディスプレイには、全てのシステムが正常に作動しているとパイロットに知らせている。

やがて、ヘリのローターの回転音をかき消す程の轟音が鳴り響いた。音がする方向に目を向けると、アフターバーナーを点火させた戦闘機が、滑走路から次々と離陸していくのが見えた。E-737とKC-10A、KC-130Jもそれに続く。

『カイロタワーよりアナコンダ。離陸を許可する』

「アナコンダ、離陸する」

 シモン・ツァハレムは、後席の操縦棹を引き、アパッチ・ガーディアンを上昇させた。エジプト空軍のアパッチとホーカムも続く。エジプト軍のKa-52を1番機に、攻撃ヘリの編隊は基地の南部にある、広大な砂漠の射撃演習場を目指した。


 9月2日 0904時 エジプト上空 訓練空域


 佐藤勇はF-15Cのコックピットの物入れからタブレット端末を取り出し、ブリーフィング資料を改めて確認した。今回の演習内容は、こっちが防空側となり、エジプト空軍側が攻撃側。攻撃目標を破壊できればエジプト空軍の勝利。攻撃側の戦闘機を全滅させれば"ウォーバーズ"の勝ちだ。防空戦闘の訓練は、日常的に頻繁に行っている。どちらもAEWの支援を受け、組織的な戦術を研究している。だが、第4次中東戦争以降、まともな実戦を経験していないエジプト空軍飛行隊と、発足以降、数々の実戦を経験してきた"ウォーバーズ"。傍から見たら、どちらがより優勢になりやすいのかは歴然だ。

 しかも、今日、F-16Cに乗って訓練の相手をするパイロットたち。まるで、高校をつい先週卒業したばかりとも言えるような若さだ。自分よりも、5つか6つは下だろう。恐らく、戦闘機の操縦資格を取ってそれほど時間は経っていないような若鳥たちだ。だが、自分自身、飛行教導群に引き抜かれるほんの少し前までは、2番機を引き連れて"ノックイットオフ"を宣告されずに基地に帰還するのが精いっぱいだったのだ。

 それが、戦闘機乗り3年目であっという間に飛行教導群に引き抜かれ、その2年後のコープノース・グアムでゴードン・スタンリーとジェイソン・ヒラタ、パトリック・コガワに出会うことで、佐藤の人生は一変したのだ。


 佐藤はデータリンク画面をMFDに表示させた。E-737のMESAレーダーが既に"敵機"を探知していたようだ。だが、F-15CのAN/APG-63(v)3レーダーにはまだ捉えられるほど接近してきてはいない。

 僚機は一定の距離を取り、南北に広く展開している。普段通りにやればいい。敵編隊を分断し、1機ずつ編隊から引きはがして刈り取る。多数の戦闘機を相手に戦う時の、いつものやり方だ。

「"ウォーバード1"からウォーバード各機へ。正面から敵機接近。攻撃開始」


 F-15CのMFDには、E-737からのデータリンクで送られてきた俯瞰画像が表示された。これで敵と味方の動きがリアルタイムで把握することができる。SF映画に出てくるような、三次元立体ホログラムであればもっと都合がよいが、佐藤はそこまで中距離・長距離戦闘を重視していない。航空自衛隊でドッグファイトの訓練に多くの時間を割いてきたことから、どちらかといえば『ナイフで切りあう』距離での戦闘を好んでいた。

 しかし、今日の訓練はそれを想定していない。あらゆる武器を駆使して、"敵"に殺される前に殺す。航空自衛隊時代にいた上官が見たら、恐らく卒倒するだろう。航空自衛隊の交戦規則(ROE)では、敵が明らかに攻撃してこない限り、こちらから撃つことを許されていない。だが、ここ、"ウォーバーズ"では違う。相手を脅威だと個人で判断した時に、武器を使用する要件が揃う。

 佐藤は兵装選択画面を表示させた。搭載されているミサイルは、パイソン5と貴重なAAM-4Bだ。佐藤は空自にいる知り合いからAAM-4BやAAM-5をこっそり横流ししてもらっていたが、その知り合いがこの悪事から手を引いたため、純正のものを手に入れることはできなくなっていた。だが、それはあくまでも純日本製のこれらのミサイルであり、"ウォーバーズ"と契約している兵器製造企業に設計図を密かに横流ししたため、そのメーカーがコピー生産するものを手に入れることは可能だ。勿論、こんなことが明るみになってしまったら、市ヶ谷と永田町は紛糾するだろう。日本は自衛隊装備品を同盟国に対して限定的な輸出を行ってはいるが、勿論、PMCや予定外の国に装備品が渡るようなことは無いよう厳しい制限をかけているからだ。しかも、その兵器を現役の自衛官が横流ししていたとなると、尚更だ。

 さて、そろそろレーダーに"敵機"が映る頃合いだ。佐藤はレーダーモードを遠距離交戦モードに切り替え、AAM-4Bの発射準備を整えた。

「"ウォーバード1"よりウォーバード各機へ。交戦せよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ