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侵攻拠点

 9月1日 2011時 スーダン北部


 急ごしらえの舗装滑走路に戦闘機が2機編隊で着陸した。このやや小ぶりな機体はJF-17サンダーまたはFC-1とも呼ばれている中国とパキスタンが共同開発した戦闘機だ。性能面ではF-16の中期型に匹敵するとも言われ、傭兵部隊が利用するブラックマーケットでは人気が高い。特に、高価なF-15やSu-27などを買うほどの財力の無い傭兵部隊の間ではF-16、JAS-39と並び頻繁に使われている機体だ。各地で低価格で大量生産されているため、戦場で見かける機会は多い。

 グラント・ウォーマーズは満足げに基地を見回した。航空機は揃い、地対空兵器も充実している。エプロンのIl-78からは次々とミサイルの部品が下ろされてきた。これは北朝鮮とシリアのブラックマーケットで手に入れてきたものだ。まあ、こんなものは、当節ではどこでも簡単に手に入れることができる。スマホとクレジットカード、銀行口座に十分な預金さえあれば。

「ボス、これでボスが目標としていた戦力は整いました。後は命令さえあれば、いつでも侵攻作戦を実行できます」

「ご苦労。では、最初のターゲットを決めなければな・・・・・・ついてこい」


 ウォーマーズはコンクリートと複合装甲で強化された掩体壕の中に入った。その中の真ん中に置かれている机にはスーダン北部とエジプト南部の地図が広げられている。

「エジプト軍は、最近はかなりの戦力の増強をやっていたな。ロシアやアメリカ、ヨーロッパから節操なく戦闘機や戦車、ミサイルを買い叩いている」

「おまけに、今は傭兵部隊と演習をしているようですよ」

 ウォーマーズが部下を見た。

「聞いていませんか?ボス。何処の誰なのかはわかりませんが、それほど大規模な部隊では無さそうですが」 

「ふむ。だが、警戒は怠るな。我々の計画にとって、厄介な存在になるかもしれん」

「ええ、確かに。奴らを侮ってはいけません。奴らは次から次へと戦場から戦場へと移動する渡り鳥です。実戦経験も豊富で、装備も充実しているでしょう」

「ああ、全くだ。奴らを甘く見た連中は、たいていの場合は死んでいくか、この稼業から引退せざるをえなくなるまで追い込まれたかだ。我々はよく知っている」

 甲高いジェットエンジンの音が響き渡り、ウォーマーズは外の様子を確認した。滑走路にIl-76輸送機がタッチダウンし、フォローミーカーに続いてエプロンへ向かう。

「あれは何の便だ?」ウォーマーズは近くにいた別の部下に訊いた。

「ええと・・・・北朝鮮から物資を運んできた便です。奴ら、金と兵器さえ与えれば、いくらでも取り引きするんですよ。あの便は、MiG-23の部品と引き換えに受けとる大量の劣化ウラン弾を積んでいるはずです」

「ふん。まあ、いいだろう」

 北朝鮮は、ブラックマーケットに於いて積極的に取り引きをしている。自国で生産している弾道ミサイルや産出するウランを売り付ける代わりに、戦闘機や戦車を買っている。ほぼ物々交換に近い形態だが、テロリストにとってはまたとない取引先だ。劣化ウラン弾は管理がやや厳しく、市場に滅多に出回らないが、北朝鮮はそこに目を付けた。北朝鮮には、豊富なウラン鉱山があり、そこから採掘され、加工され、核施設で利用された使用済み燃料棒を劣化ウラン弾として加工し、闇市場に垂れ流して外貨を稼ぐ。

 アメリカや日本などが、経済制裁から逃れる方式の一つだとして調査を行っているが、なかなか確たる証拠を掴めていないのが現実だ。

 ウォーマーズにとっては好都合だ。決してスポンサーになっている存在の証拠を残さず、自分自身も幽霊のように存在を表沙汰にせず、犯罪行為に手を染める。ウォーマーズ、まだ各国の当局に目を付けられてはいないのだ。と、いうのも、ウォーマーズは当局の手が及びにくい、殆ど無政府状態の国を選んで活動している。ここに来る前は、内戦が続くイエメンを拠点に活動していた。そこでは、闇業者を雇い、石油を違法に採掘して山分けしていた。いい儲け話となっていたため、ウォーマーズが報酬をちらつかせると、現地人たちはすぐにその仕事に飛びついた。国連は現在、イエメン産の石油及び天然ガス、アスファルトなどを禁輸品に指定しているが、当然の如く、闇市場では違法に流通している。

 ところが、半年前頃から原油価格が右肩下がりになってきたため、儲けが少なくなった油田警備からウォーマーズは手を引いた。原因は、アメリカとカナダのシェールガス事業の拡大と日本の海底油田開発の推進である。


 ウォーマーズは机の上にエジプト南部の地図を広げた。まずするべきことは、敵の防空網を弱体化させることだ。攻撃目標は地対空ミサイルサイトと早期警戒レーダーだ。更に、エジプト空軍はE-2Cホークアイ早期警戒機を持ち、国境地帯の上空の警備をさせている。アフリカでも最大の航空戦力を持つ国であるだけに、攻撃をするには十分な下準備をしなければならない。

 計画の第一段階は、電子戦だ。これに使用するのは、HG-5電子妨害機とJ-16EW電子攻撃機だ。防空レーダーを電子的に妨害して、対レーダーミサイルでレーダーサイトを破壊する。その後、エジプト南部の各拠点を破壊。これには航空機だけではなく、北朝鮮から仕入れた短距離弾道ミサイルや多連装ロケットランチャーも大いに役に立つはずだ。

 まだ攻撃を実行に移す時ではない。それは、十分な戦力を整え、計画を固めた時だ。だが、ウォーマーズの頭の中には、攻撃のシナリオは描いてある。まずは敵のレーダーサイトを航空機で破壊し、南部の主要都市と軍の基地を短距離弾道ミサイルで攻撃。電撃的に地上部隊を侵攻させて南部の油田とガス田を確保する。エジプト政府には、金銭的要求は一切しない。何故ならば、その油田やガス田を掌握することこそ、ウォーマーズの目的の一つであるからである。

 再び飛行機が着陸する音が聞こえた。今夜はどんどん輸送機が着陸し、様々な装備を届けに来るだろう。資金だけは潤沢にある。サイバー戦分隊に、金持ちの銀行口座をハッキングさせ、ウォーマーズの部隊の口座に不正送金をさせ続けているからだ。勿論、世界中の様々なサーバーを経由させて、足が付きにくいようにしてある。ウォーマーズは腰のホルダーのペットボトルを手に取り、水を一口飲んだ。スーダンは、経済的混乱により、政府が国民に水をまともに供給することすらままならないらしい。なるほど。これは利用できる。ウォーマーズは、これからやるべきことを一つずつ、確実に片づけていくことにした。

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