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射爆訓練-3

 9月1日 0836時 エジプト上空


 エジプト空軍の"要撃部隊"は電子妨害のせいであらぬ方向へと飛び去って行った。一方で、佐藤勇とアフマド・アリー・シャリク大尉が率いる攻撃機部隊は目標の攻撃地点へとどんどん接近しつつあった。

『"サンド1"より全機へ。攻撃目標まで後15分。攻撃に備えよ』

 シャリク大尉はラファールのコックピットで火器管制画面を表示させ、AASMを選択した。レーダーを避けるために、攻撃編隊の戦闘機が高度を下げる。ミサイルの狙いを付けることができる距離は短くなるが、敵のレーダーや対空兵器の追撃を躱して帰ることを優先した。

『"サンド2"、攻撃準備完了』

『"サンド3"、AASMスタンバイ』


 アフリカでも最強クラスの戦力を持つと名高いエジプト空軍だが、電子戦という大きな弱点を露呈してしまっていた。それも、アメリカやフランスといった同盟国との演習を通してでは無く、傭兵部隊を相手に、だ。

 一方で、"ウォーバーズ"は、バルカン半島から帰還して以降、電子戦能力の向上を図っていた。具体的には、F-16Vに搭載するAN/ALQ-184を最新バージョンに更新させ、Su-35Sに電子妨害装置を搭載し、E-737の電子戦装置を更新し、スタンドオフジャミング能力を追加するというものだった。しかも、このような装置は、各国の軍では最高機密レベルであるにも関わらず、普段、武器調達に利用しているインターネットサイトで簡単に手に入れることができた。

『"サンド1"より全機へ。目標照準、攻撃開始!』


 ラファールからAASMが発射された。更に、Kh-29やAGM-65マーヴェリック、ブリムストーンといった空対地ミサイルが戦闘機から放たれる。ミサイルはあっという間に短い飛翔を終え、目標物である錆びて廃車になったトラックや、建物を想定して組まれたコンクリートブロックの塊を破壊した。戦闘機が一度、目標物の上空を低空で飛び、時計回りに旋回して戦果を確認した。


「"ウォーバード1"よりHQへ。目標の破壊を確認。任務完了。帰還する」

 さて、先ほどはMiGの追跡から逃れることはできたが、帰り道では、再び迎撃するために待ち構えているはずだ。行きはよいよい、帰りは怖い。とりあえず、最大の訓練任務目標は達成したが、これからは敵の攻撃を躱して生還するという別の目標が待ち構えている。

「"ウォーバード1"より各機へ。帰還する途中で"敵機"と交戦する可能性が十分考えられる。帰還するまで対空警戒を続けろ」

『"ウォーバード2"了解。SAMサイトにも注意を払う』

『"ウォーバード3"了解』

『"サンド1"了解。お前ら、聞こえたな。目標の破壊を完了したからと言って油断するなよ』


 9月1日 0838時 エジプト上空


 佐藤勇の考えている通り、ハッサン・アル・ハキーム少佐率いるMiG-29Mの編隊は燃料の残りを気にしながらも、戻ってくる攻撃編隊を再び迎撃するための態勢を整えていた。

「"ウォーバード1"より各機へ。敵機をレーダーで捉えた。方位002、距離323、速度マッハ0.73で接近中」

『"2"了解。やはりおいでなすったか』

 ジェイソン・ヒラタはF-16Vのマスターアームスイッチが"OFF"に、火器管制装置が"演習モード"に設定されているかどうかを改めて確認した。演習のため、搭載しているAMRAAMとサイドワインダーは、シーカーのみが機能する演習用弾薬だが、用心するに越したことは無い。実際に、模擬弾を搭載していたつもりが、実弾を搭載したまま演習を行い、仲間を誤射する事故は起きている。

「"ウォーバード2"、ジェイソン、君は僕の僚機の位置につけ。"ウォーバード3"と"ウォーバード4"は編隊の右側に、"ウォーバード5"と"ウォーバード6"は左側に。サンド隊は低空へ退避。高空は奴らの正面だ。他の機は自由戦闘。但し、単独行動はするな」

『"2"了解』

『"3"了解』

『"4"了解。隊長、射程圏内に入ったら、中距離ミサイルを使っていいか?』

「ああ。ぶっ放して、その後は残った奴らをドッグファイトで倒す。セオリー通り。基本中の基本的なやり方だが、これが一番だ。古巣では、ずっとそうしてきたからな」

 佐藤勇が常に描いている空戦のセオリーは、航空自衛隊の飛行教導群の指導プログラムに基づいている。それには、映画や小説のエースパイロットが行うような奇抜な戦術は殆ど想定されておらず、全て基礎的な空戦の理論に基づくものだ。

 この傭兵の戦闘機パイロットの強みは、殆どミスをしないことだ。時々、要撃管制官を兼ねるゴードン・スタンリー司令官らの指示に対して、"ノー"ということもあるが、それは今までの実戦や訓練での経験に基づくものである。


 佐藤はHUDとMFDのレーダー画面を確認した。"敵"はじきミサイルの最大射程圏内に入る。コックピットの多機能ディスプレイを操作して、火器管制画面を表示させ、AMRAAMの発射準備を整えた。

「"ウォーバード1"、攻撃準備完了」

『"ウォーバード2"、"敵機"を捉えた。隊長、やるか?』

「ああ。全員、合図したら撃て」

『"2"了解』

『"3"了解』

 佐藤は火器管制レーダー画面を見ながらリズムを取り、攻撃のタイミングを見計らっていた。既にミサイルの安全装置を解除され、操縦桿の発射ボタンに指をかけている状態だ。攻撃は遅くても、早くてもダメ。"敵"をミサイルの"ノーエスケープ・ゾーン"に入ったところを狙わねばならない。

 佐藤はE-737からデータリンクで送られてきた目標をレーダーでロックし、AIM-120Cを"発射"した。仲間たちも次々と攻撃に加わる。


「くそっ!ミサイルだ!ブレイク!ブレイク!」

 ハキーム少佐は"発射"された"ミサイル"を避けるために機体を上昇させた。だが、その直後、ビーッという電子音が鳴った。ハキームは冷や汗が背中を伝うのを感じた。これが実戦であったならば、自分は死んでいたのだ。

 ハキームはデータリンクを確認して嘆息した。こっちは全滅。"敵編隊"は依然として空を飛んでいる。どうやら、自分は傭兵部隊を甘く見すぎていたようだ。

 ハキーム少佐は部下たちに編隊を組み、帰還するよう命令を出した。傭兵部隊は、確かに正規軍と比べると規模は小さいが、その練度は相当なものであった。各地で実戦を重ねていただけある。それに引き換え、ハキーム自身と部下たちは、実戦といったら時々国境地帯に接近してくるスーダンやリビアのミグを追い払いに行く程度である。さて、帰ったらバリス大佐にくそみそに言われることになるだろう。ハキームは酸素マスクの下で大きく嘆息し、部下たちに基地へと帰還するよう指示を出した。 

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