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ナイル上空の演習-1

 8月29日 0917時 エジプト カイロ西空軍基地


 休み明けの空軍基地で、2日ぶりに戦闘機のAPU音が響き始めた。APUを回しているのはF-15C、F/A-18C、Su-35S、タイフーンFGR.4、そしてラファールBとCが2機ずつである。

 "ウォーバーズ"の他の戦闘機パイロットたちは、午前の訓練は休みとなったため、整備員たちと共に戦闘機の整備点検を行うことになっている。今回の"ウォーバーズ"のエジプトでの演習は長期演習を予定しており、9月半ばから後半まで滞在する予定であった。

 

 佐藤勇はコックピットの中で、F-15Cの機体システムをチェックしていた。かつてアナログ式の計器が大部分を占めていた計器盤は様変わりし、多数の機械式のメーターが、イスラエル製の3枚の大きなデジタル式の多機能ディスプレイに置き換えられている。操作方法は殆どがF-15Eと共通化されていたため、慣れるまでは佐藤はウェイン・ラッセルからレクチャーを受けていたが、操作に習熟するまでにはそれ程時間はかからなかった。と、言うのも、従来の機械式の操作パネルよりも、こちらの方が格段に操作しやすく、わかりやすくなっていたからだ。

「よお、調子はどうだ?」

 整備隊の高橋正がタラップを上ってきて、佐藤に話しかけた。

「こっちに来る前に慣らしておいたからな。むしろ、こっちの方がわかりやすくなったよ。操作も単純になったし」

「ボーイングの説明じゃ、演算能力と情報認識能力が、従来のF-15の倍以上になっていると言われているからな。お前がやっていた仕事の大部分を、コンピューターが肩代わりしてくれるって訳だ」

「だけど、ラダーペダルとスロットル、操縦桿が動かないのにはまだ慣れないな」

「フライバイ・ワイヤになったからな。余計な可動部分は故障を増やす元だし、普通はオミットされるものさ」

「なるほどね。まあ、そこは仕方ないな」

「それと、センサー・フュージョンが搭載されているから、いつもみたいにE-737からの機影と自機のレーダーが捉えた機影が重複することは無いから、格段にレーダー画面が見やすくなったはずだ」

「さて、そろそろエンジンを回すぞ」

「ああ。じゃあな」

 佐藤がJHMCSのバイザーを下ろし、エンジンの点火スイッチを入れ始めた。高橋はタラップを降りて、機体から離れる。その間、整備員たちは、機体の最終チェックを完了し、アクセスパネルをしっかりと閉じていった。


 基地のエプロンで戦闘機が次々と動き出し、滑走路へと向かっていく。全部で8機。離陸しない機体のパイロットたちは、地上で待機となった。

「退屈か?」

 エプロンで駐機しているMiG-29Kのそばでオレグ・カジンスキーがワン・シュウランに話しかけた。

「当たり前だ。仲間はずれにされた気分だ」

「仕方ないだろ。ボスからのお達しだ。今日、戦闘機班は、俺たち5人は休暇だ。ゆっくり休んで、明日からの演習に備える。で、入れ替わりで、明日は奴らが休みだ」

「ううむ」

「よし、明日に備えて、機体の点検をしておこう。それが終わったらだらだら朝寝でもしようや」

「こんな暑い中でか?」

「勿論、冷房をガンガン効かせるのさ」

「だな。さて、まずはチェックリストを確認しないとな」

 ワンはタブレット端末を取り出し、ミラージュ2000CのTOを表示させた。


 8月29日 0923時 エジプト上空


 F-15Cの機内はエアコンが効いていて快適だ。戦闘機に本格的にエアコンが搭載され始めたのは、第4世代以降の機体で、それ以前の機体には殆ど搭載されていない。先人たちは、夏は暑く、冬は寒い、過酷な環境の中、空中戦を行っていたのだ。

 佐藤はコックピットのデジタルディスプレイを操作した。右には戦術GPSマップ、左にはレーダー画面、真ん中には残燃料、エンジン回転数などの機体の状態の情報が表示されている。HUDとJHMCSの表示は従来のF-15と同様なので、全く違和感を感じない。

「データリンクオンライン。マスターアームスイッチ、オフ。エンジン内温度、正常。回転数、正常。速度、マッハ0.83」

 佐藤は、航空自衛隊にいた頃から、空中で機体の状態を独り言でつぶやく癖があった。だが、彼に限らず、戦闘機パイロットは意外とコックピットの中で独り言を言う人間が多い。

 佐藤は後ろを見た。Su-35SとF/A-18C、ユーロファイターがしっかりとフィンガーチップ編隊を組み、ついてきている。そろそろ訓練空域に入る。

『"ゴッドアイ"よりウォーバード1へ。敵機捕捉。距離291、機数4、速度0.82』

 程なくして、F-15のレーダーが対抗部隊の機影を捉えた。多機能ディスプレイはアナログ計器板と違い、不要な情報はカットできるので、その分、更に空戦に集中することができる。対抗部隊はやがて、AIM-120Dの射程距離に入りつつあった。

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