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深夜便

 8月26日 0304時 スーダン北部


 1機のAn-124輸送機が滑走路に着陸した。輸送機が誘導路を曲がり、エプロンで停止すると即座に滑走路上の誘導灯が消え、飛行場にはほんの僅かな明かりしか残らない。ここを管理している人間がかなり厳しい灯火管制を行っているので、偵察衛星からも、夜間ではここがテロリストが侵攻作戦を行うために建設した基地であると捉えるのは難しいであろう。

 An-124から降ろされたのは、99式G戦車だ。中国製の最新鋭戦車で、その性能は西側第3世代主力戦車に匹敵するとも言われている。


 この飛行場は、すっかりテロ組織の展開基地となっていた。この組織の狙いは、エジプト南西部にある大規模な油田、ガス田施設だ。この施設は、フランスと日本の出資と技術提供を受けたエジプトの民間企業が保有し、開発を続けている。ここを接収できれば、今後の活動においてエネルギー源とすることができる。しかし、それには準備が必要だ。何事も、事を急いではいけない。じっくりと準備し、整った段階で実行しなければならないのだ。


 グラント・ウォーマーズは既に起床し、エプロンを歩いていた。輸送機から格納庫ではZ-10やJF-17といった機体の組み立てが行われている。ウォーマーズの部隊は、こういった飛行場や前方展開基地をスーダン国内に建設している。やり方は簡単だった。資材と人員を、ひっそりと送り込むだけだ。殆ど崩壊しかかっているこの国の政府には、これを止めたり咎めたりする人間は既にいなくなっていた。それどころか、周辺の住民は米ドル札欲しさに積極的にこの基地の建設に喜んで手を貸してくれた。

 この無政府状態の国は、経済的に破滅の一途を辿っている。南スーダンが分離独立後、凄まじいインフレがこの国を襲い、スーダン・ポンドの価値が大暴落、紙幣はただの紙切れ、硬貨は小さな金属のゴミ同然になってしまった。


 ジェットエンジンの風切り音が聞こえてきたので、ウォーマーズは空を見上げた。Su-27UBのような飛行機が4機、オーバーヘッドパターンで上空を通過した。だが、この機体の主翼の端をよく見てみると、丸みを帯びた特徴的なアンテナが取り付けられており、主翼の下には奇妙な形をした装備品がぶら下がっている。

 機体は前後一列になって、順番に降りてきた。機体は薄い灰色で塗装され、部隊を示すマーキングもナンバーも描かれていない。飛行機はゆっくりとエプロンまでタキシングして停止した。キャノピーが開き、降りてきたパイロットとECMOがウォーマーズに気づき、敬礼する。

「ご苦労だったな」

「くたびれましたよ、ボス。後で報酬はずんでくださいよ」

「それにしても、裏ルートで簡単に手に入るとはな。素晴らしい」

「あのメーカーは、裏で飛行機をどんどん流していますからね。しかも、何者に渡るのかも、ちっとも精査しない。代金さえ釣り上げれば」

「殆ど地球を半周か。もう休んでいいぞ」

「アイ、ボス」

 パイロットは敬礼すると、宿舎へと歩いていった。その一方で、ウォーマーズは新たな機体へと歩み寄っていった。

 J-16EW。中国人民解放軍空軍が持つ、電子攻撃機。中国政府の宣伝では、アメリカ海軍のEA-18Gグラウラー電子攻撃機に匹敵する性能を持つとされている。装備は戦術電子妨害ポッドに対レーダーミサイル、空対空ミサイルだ。この機体の由来はやや複雑だ。中国人民解放軍空軍がロシアから輸入したSu-30MKKを無断コピー、国産化したJ-16の源流を組んでいる。そして、J-16から30mm機関砲とIRSTを撤去、電子戦装備を追加した機体である。武装はPL-12中射程空対空ミサイル、PL-8短射程空対空ミサイル、YJ-12とYJ-91を発展させた対レーダーミサイルを装備、そして中国が独自開発した戦術電子妨害装置を搭載する。

 ウォーマーズは、ある手段を使い、成都航空機工業の内部にエージェントを送り込み、ある裏工作をさせた。それは、製造管理データを改竄させ、人民解放軍に納入する分よりも多めに生産するように仕向けさせた。その後、エージェントにこっそりと中国国外に持ち出させ、ミャンマー、パキスタン、イラン、シリアを経由させてスーダンに持ち込ませた。

 予定では、この機体があと10機前後、この基地にやって来るはずだ。近年、中国の軍事産業の腐敗は凄まじい。政府の兵器の調達が緩やかになったため、以前のような金儲けはできなくなり、業績が悪化した。しかし、急速に肥大化した中国の防衛産業は、こういった減速に耐えられなかった。そこで、連中は道を見つけた。傭兵組織などに密かに、無節操に兵器を売り出すのだ。

 国際的な武器取引がアンタッチャブルになった現在、様々な兵器が市場に流れているが、特に中国製兵器やロシア製兵器は、大本のメーカーが作った正規品が密かに流れている事もあって人気が高い。また、欧米製の兵器も、各地で密造されているが、こちらは玉石混交だ。正規品と同等か、それ以上の質の製品を作るメーカーがあったり、粗悪品を作るメーカーがあったりする。だが、メーカーの良し悪しを見分けるのは簡単だ。粗悪品は、市場での適正価格に比べて、信じられないくらい安い事が多いからだ。

 

 J-16EWはトラクターにトーイングされ、格納庫へと移動させられた。ウォーマーズは暫く休むことにした。作戦開始まで、まだ数日ある。それまでに、エジプト南部の国境警備の状況を確認せねばならない。明日には、電子偵察機材を搭載したビーチクラフトB350を国境沿いに飛行させて、偵察を行わせる予定だ。レーダーサイトの状況を探り、防空網を突破する計画を立てねばならないのだ。

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