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Four by Four-2

 8月25日 0923時 エジプト上空


 教官と訓練生の空戦訓練が始まった。最初に仕掛けてきたのは教官たちの方だ。それぞれ2機ずつの編隊に左右に分かれ、学生パイロットたちを挟み撃ちにしようとする。

「"サンド1"より各機へ。計画通りに」

 佐藤勇が僚機たちに指示を出した。やはり、エジプト空軍の教官たちは、佐藤の思った通りの行動に出た。訓練生たちは、佐藤の指示に従い、教官組と同じように2機ずつの編隊を2組作った。しかし、片方は上昇し、もう片方は下降を始めた。


 上空には段々と雲が湧き出てきていた。佐藤は、この雲を利用させて貰うことにした。古典的な手法だし、IRSTを搭載したMiG-29Mには通用する可能性は低いとも言える。

 だが、全くもって有効な方法では無くなったのかというと、決してそうとも言い切れない部分もある。佐藤は、自分が対抗部隊のパイロットだったら、次はどうするのかを考えていた。

『"ゴッドアイ"より"サンド1"と"サンド2"へ。敵機が左右に分かれてに展開しています。距離36、方位355』

 原田景の鈴の音のような声が無線から聞こえてきた。では、こっちは正面の雲の中に突っ込んでみるとしよう。ラファールのRBE2パッシブフェーズドアレイレーダーは、複数の標的を同時に識別、追跡し、攻撃することができる。更に、ミッションソフトウェアには、高レベルのセンサー・フュージョンシステムが搭載されており、パイロットが作戦行動中に情報過多に晒されるのを防いでいる。

 佐藤はレーダー画面を確認した。"敵機"は、レーダー断面積データから、MiG-29であるという情報が表示されている。まずは、観察に徹し、学生パイロットがどう考え、どうこの最新鋭機を飛ばすのかを見極めることにした。


 教官部隊が先に仕掛けた。MiG-29Mがレーダーを照射し、ロックオンした後に、R-27Eを"発射"した。訓練生が乗るラファールは編隊を解いてECMを作動させ、チャフをばら撒く。ミッションソフトウェアは、ミサイルがチャフに騙され、外れたと判断した。

「ちっ」

 ラファールBの編隊は高度を下げ、低空へと逃げていった。すかさずMiG-29MがスプリットSで追いかけ始める。ラファールBは"敵機"からどんどん距離を取り、反撃の機会を伺うことになった。さて、AEWからこの戦いはどのように映っているのだろうか。戦闘機乗りとAWACS/AEWのレーダーオペレーターから見える戦場の様子は違う。そのため、常に戦闘機乗りたちにとっては、自分たちとは別の方向から空の戦場を眺めるAEWのオペレーターの指示が命綱となるのだ。


 8月25日 0945時 エジプト カイロ西空軍基地


 C-5Mが滑走路にタッチダウンした。機体はアーセナル・ロジスティックスが保有しているものだ。更に同じ機体が連続して着陸する。持ってきたのは各種戦闘機のスペアパーツと兵装だ。


 ゴードン・スタンリーが訓練で上空へ上がっているため、ハーバート・ボイドを出迎えたのは装備管理部門のクルーたちだ。

「やれやれ、ゴーディは仕事中か」

 エプロンに降り立ったボイドは少々不満げに言った。彼はアジアとヨーロッパを経由し、荷物を積み込んで注文の品を空輸してきたのだ。

「ミスターボイド?」

 アフリカ系の男がボイドに近づいてき、小切手を差し出した。

「ボスから、品物の代金と輸送費とのことです」

 ボイドは小切手に書かれた金額を確認した。契約通りの数字がちゃんと書かれている。

「この前はヨーロッパで、今度はアフリカか。やれやれ」

「あと50分少々は戻って来ないと思いますよ。今日は、新人パイロットをみっちりしごいているようですから」

「新人?どこの出身だ?」

「言葉足らずでしたね。エジプト空軍の新人パイロットですよ。ミスター・サトウたちが、新人パイロットが操縦するラファールBの後席に乗って、教官部隊相手に空戦訓練をしているのです」

「ああ、なるほど。ミスター・サトウは、あの日本人の若い奴だな。飛行隊長だっけか?あいつに鍛えて貰えば相当腕の立つパイロットになりそうだが、あいつは徹底的にしごきそうだな」

「なにせ、彼は元々アグレッサーにいたパイロットですからね。腕は確かですよ」

「そいつに鍛えてもらえば、ケツの青いひよっこも、すぐに腕のいい空の殺し屋になるんだろうな」


 8月25日 0946時 エジプト上空


「よし、ムハンマド。そのまま旋回を続けろ!タイミングはこっちで指示を出す!」

 佐藤勇はラファールBの後席で、後ろから迫ってくるMiG-29Mを目で追い続けた。フルクラムのパイロットは、リード・パシュート気味で追いかけてくる。この場合は、タイミングをあわせて減速するか降下し、敵をオーバーシュートさせるというのがセオリーだ。勿論、佐藤はそれを狙っているし、"敵機"もそれを警戒しているはずだ。

「ムハンマド。合図したらローGヨーヨーだ。敵を先行させろ!」

 佐藤はミグの動きを見続けた。ムハンマドは簡単にロックオンされないように機体を上下させ続けた。やはり敵はリード気味で追ってくる。佐藤は"敵機"の機首の角度に注意を向けた。彼はフルクラムが機首の角度が僅かに上を向くのを見逃さなかった。

「今だ!」

 ムハンマドはラファールを減速させつつ急降下させた。その上をミグが通り抜けていく。ラファールが再び上昇したとき、フルクラムはMICA-IRの絶好の射程圏内に入り込んでいた。

「Fox2!」


「くそっ、今のはまずかったなサイード。実戦では絶対にやるんじゃないぞ」

 パトリック・コガワとサイード・ハティ・カジム少尉が乗るラファールは"撃墜"されていた。原因は、カジムが敵をオーバーシュートさせるために減速を行うタイミングを誤り、敵の30mm機関砲の絶好の射程圏内に入り込んでしまったせいだ。

「わかりました」

 カジムの声は震えていた。多分、自分が撃ち落とされる場面が頭に浮かんだのだろう。呼吸も乱れているようだ。

「サイード、大丈夫か?操縦を代わろうか?」

「はい・・・・・お願いします。ユーハブコントロール」

「アイハブコントロール」

 コガワはオレグ・カジンスキーからMiG-29UBで操縦を習っていたため、フルクラムの特性については熟知していた。"ウォーバーズ"の戦闘機乗りたちは、お互いにそれぞれが乗っている戦闘機の複座型で機種転換操縦訓練を行っていたため、保有している戦闘機なら一通り操縦する技能を持っている。これは、万が一、普段乗っている戦闘機が手に入らなくなってしまった時などに対応するための措置であった。  

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