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デブリと侵攻計画

 8月17日 1421時 エジプト カイロ西空軍基地


 サイード・バリス大佐は、渋い顔でブリーフィングルームに集まった部下たちを見ていた。後ろの席には、"ウォーバーズ"のメンバーが座っている。

 演習の結果は散々なものだった。が、バリスはある程度、こうなることを覚悟していた。近年では、エジプト空軍パイロットの訓練時間は減らされ、練度の低下を危惧していたのだ。これは、訓練自体の大幅な見直しが必要に鳴ってくるであろう。

「さて、まずはこれだ。爆撃編隊の中に、2機の迎撃機を混ぜておいた件。これは、予期せぬ事態に陥った時、君らがどのような反応をするのか、というのを見るためだったが・・・・・・」

 ゴードン・スタンリーが、集まったエジプト空軍パイロットに向かって言う。

「どう見ても対応が遅れていた。これが実戦だったならば、君らは確実に死んでいただろう。戦闘機パイロットに必要なのは、戦技は勿論の事だが、不足の事態への備えというものも忘れてはならない。実戦では、そういう事は、いくらでも起きるからだ。そういう事態に対応できなければ、我々は死ぬ事になる」

 スタンリーが言葉を一度、切った。

「さて、明日からの訓練だが・・・・・・これについては、バリス大佐から話があるそうだ。大佐、どうぞ」

 スタンリーが壇上から降りると、バリスが入れ替わってその場に立った。

「さて、諸君。明日の訓練だが・・・・・今から名前を言う者は、後席に"ウォーバーズ"のパイロットが教官として同乗することになる・・・・・・」


 轟音を立てて、C-5Mが次々と着陸した。これらの機体は、"アーセナル・ロジスティックス"という傭兵部隊が運用しているものだ。彼らは"ウォーバーズ"に雇われ、ディエゴガルシア島から機材を幾つかカイロに持ってきたのだった。

 輸送機のカードドアが開き、フォークリフトでコンテナが運び出されてくる。中身は兵装、航空機のスペアパーツ、電子装置などだ。

「よお」

 C-5Mから降りてきた男が、エプロンにいるゴードン・スタンリーに呼びかけた。スタンリーが挨拶代わりに手を上げる。

「バルカン半島の次はアフリカか。本当、お前らと付き合っていると、世界中、色んな所へ行けるから退屈せずに済むよ」

「仕事ついでに観光旅行か。楽しくて仕方がないだろ?」

「ああ。ここには3日程滞在するつもりだ。その後は、ギリシャへ行く」

 その男―――"アーセナル・ロジスティクス"の司令官、ハーバート・ボイドは言った。

ボイドは、軍を退役した後、主に後方支援稼業を行っている。輸送機で、契約している傭兵部隊に物資を運んだり、空中給油をする仕事だ。

「ところで、お前の部下たち、エジプト空軍と演習をしたんだろ?連中の腕前はどうだ?」

「他の国の空軍だったら、まあまあ・・・・・・と言うかもしれないところだが、正直言って、驚くくらい酷いものだったよ。以前、演習をやったことがある、UAE空軍とは雲泥の差だ。連係もおぼついていないし、何より、要撃管制官が、はっきり言って下手くそだ」

「そんなに酷いのか?」

「ああ。聞けば、パイロット一人当たりの飛行時間も、年平均60時間から80時間程らしい。今日のが演習じゃなかったら、エジプト空軍は、パイロット8人と最新鋭の戦闘機8機を同時に失っていたはずだ」

「確かに、最近は各国での軍の兵士の練度の低下は大問題になっているみたいだな。アメリカやイスラエル、ロシア、中国、日本、西ヨーロッパとかを除いたら、かなり深刻な問題らしい。それに、政府が機能しなくなっている国も多いしな」

 事実、そうなっている国は多い。ソマリアと西サハラ、オマーンは言わずもがな。最近は、タジキスタンやウズベキスタン、モルドヴァ、ジョージアといった国は、政府の力が急激に低下し、公共機関が国民にサービスを行うことができなくなっている。おまけに、軍や警察、国境警備隊への給料は滞り、治安も急激に悪化している。そのような国は早晩、テロリストやその他ならず者たちに目をつけられるだろう。

「それで、輸送機部隊のパイロットへの訓練は必要か?何なら、それを俺たちに任せてもらってもいいんだが・・・・・・・」


 8月17日 2023時 スーダン


 グラント・ウォーマーズは、砂漠の真ん中に建造された、急ごしらえの滑走路にAn-148が着陸し、エプロンにタキシングするのを眺めていた。

 この飛行場の建造工事はまだ続いている。管制塔、一部のエプロンと滑走路は運用が開始され、そこにはSu-27SKやJ-10Aが並んでいる。更に、門の近くにはT-90Mが配置され、所々にSA-10BやHQ-9といった地対空ミサイルのランチャーの姿も見える。


 この武装した愚連隊の目的は、ナセル湖からナイル川にまで至る水資源だ。西側先進国諸国にはピンとこない人間も多いが、アフリカや中央アジアでは、近年は天然資源や領土よりも、水資源を巡る争いが頻発している。

 ウォーマーズは、そこに目をつけた。そこを抑えてしまえば、エジプト国内で供給される水を自由にコントロールすることができる。そして、エジプト政府に高値で売りつければ、かなりの金儲けができる。水がなければ、人間は生きてはいけない。どれだけ法外な値段でも、どんどん売ることはできるとウォーマーズは踏んでいた。

 さて、侵攻を開始するには、まだ早い。それには、十分な下準備をしなければならない。入念に計画し、プランはできるだけシンプルに纏める必要がある。事を複雑にしすぎるのは、失敗のもとだ。

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