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空戦演習-4

 8月17日 1122時 エジプト上空


 エジプト空軍のラファールBが撃墜判定を食らった。これで、エジプト空軍側の迎撃機の残りは5機となった。その5機は、全て"爆撃"に向かっているグリペンとタイフーンの撃墜に向かうことにした。この編隊を指揮しているのは副隊長の中尉で、隊長を務めていたアフマド・アリー・シャリク大尉は既に"撃墜"されていた。この中尉は、まだ複数編隊長資格の取得過程に入ったばかりで、2機編隊以上の部隊を指揮したことが無かった。だが、残り5機を指揮できるのは、この時点で自分以外いなかった。ので、中尉は指揮を引き継ぎ、まずは邪魔な護衛機の排除をすることにした。

「こちら"スカラベ2"、指揮を引き継ぐ。護衛機は無理に撃墜しなくていい。爆撃編隊だけを撃墜しろ。護衛機は妨害するか、爆撃編隊から引き離すだけでいい」

『"スカラベ4"了解』

『"スカラベ5"了解』

『"6"了解』

『"8"』

 まだ対抗部隊の戦闘機は、全て生き残っている。これで5対9。かなり不利な状況だ。しかし、だ。これほどまでにパイロットの練度が低下してしまっていることに、シャリクは改めて衝撃を受けていた。しかし、それもある意味で仕方がないことではあった。


 経済危機により、国防予算は削減され、それは兵士の訓練にも影響を及ぼしていた。装備の調達はおろか、兵士の教育・訓練のためのお金も減らされ、一部の国の軍では、兵士の練度が急激に低下していった。そのため、軍の即応性、危機対応能力も低下。その結果、重武装化したテロリストや傭兵部隊による組織的犯罪に対応できなくなり、それが、軍に対する国民の不信感を募らせる結果となった。更に、兵士に対する俸給も満足に支払うのも難しくなり、結果、軍よりもずっと稼ぎの良い傭兵部隊に続々と人間が流れ出ていった。


 8月17日 1132時 エジプト上空


 ゴードン・スタンリーはE-737ウェッジテイルの機内でガムを噛みつつ、レーダー画面を注視していた。スタンリーは、こちらが有利に訓練を進めている事に満足しているよりは、エジプト空軍の戦闘機パイロットの練度を心配していた。またエジプト空軍側の戦闘機が撃墜判定を食らう。一方で、こちらの部隊には、未だに被害は及んでいない。これがもし、実戦で、自分がエジプト空軍側の人間だったらと考えるだけでゾッとする。だが、かつてはイギリス空軍やフランス空軍、イスラエル空軍と積極的に訓練・交流を行ってきたエジプトではあったが、近年は、その頻度が急激に減っていっている。果たして、エジプト空軍は、それをどう捉えているのだろうか。

「これは・・・・・・酷いな。まさか、こうもあっさりとやられるものなのか?アフリカ随一の戦力を誇る空軍が」

「またです・・・・見てください」リー・ミンがレーダー画面を指さした。残ったエジプト空軍側の編隊のうち、1機が"撃墜"された。長射程ミサイルによる攻撃だ。残るは4機、このままでは、エジプト空軍部隊は、取り囲まれ"全滅"してしまうだろう。

 エジプト空軍部隊は、面目丸つぶれになってしまった。再び"撃墜"され、残りは3機。これでまず、勝ち目は無くなった。


 エジプト空軍部隊で"生き残っている"のは、2機のラファールCと1機のラファールB。そのうち、単座型の2機は、2機編隊長資格を取ったばかりの若手だ。複座型には、前席には飛行時間2000時間で、教官資格を持つベテランが乗っており、その後席には、操縦資格を得たばかりの新米がいる。

「おい、新米。お前は後ろと横を見ていろ。ミサイルや爆弾を落とすだけが、WSOの仕事じゃないぞ」

 その言葉に、新米パイロットは、さっと振り返り、目を凝らした。

「それと、レーダー画面もな。爆撃編隊は、どこにいる?」 

「ええっと・・・・・・ターゲットまであと30マイルです。このままでは、爆撃されてしまいます」

「そうだ。これが実戦ならば、俺たちの基地が無くなる。それだけは、なんとしても阻止せねばならんのだよ」


 佐藤勇は、後ろにニコライ・コルチャックのSu-35Sを引き連れ、"敵機"の攻撃に向かった。20マイル程東に離れた場所には、MiG-29Kとミラージュ2000Cがいる。もうすぐ、攻撃機編隊のミサイルの射程内にターゲットを捉えるはずだ。

 それにしても、この結果は酷すぎる。佐藤は思った。最新鋭機を用意しながら、こうもあっという間にやられてしまうものなのだろうか?後で、バリス大佐にパイロット一人一人の飛行訓練の状況について聞いてみなければならない。

『"ウォーバード4"より"ウォーバードリーダー"、敵を確認。やるか?』

「ああ。だが、これは・・・・・」

『今は考えていても仕方がない。文句ならデブリで言ってやろう』

「そうだな、やるぞ。3、2、1、ブレイク、ナウ!」

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