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異世界で幸せを手に入れました。  作者: 諏訪弘
プロローグ
6/40

冒険者ギルドランクN

宜しくお願いします。

 おっ。在った在った。これで10本っと。さてとギルドに戻るとするか。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「あっ、トシ君お疲れ様ー」


「デイリークエストの尻火付草(しりひつけぐさ)10本。採集して来たのでお願いします」


「今日も、ノービスクエストだけなのね。……まぁ~良いわ。カードを出してちょうだい」


 カードをギルドの受付カウンターに提出し、素材鑑定カウンターへ移動する。


「おっ、トシィー。今日もノービスクエストの尻火付草だけかっ」


「そんな感じです」


 浴衣の左袖から、尻火付草を10本取り出しカウンターの上に置く。


「う~ん……」


 素材鑑定カウンター担当の男は唸りながら尻火付草の鑑定を進める。


「始めて尻火付草を持って来た時もそうだったが、午前中の短い時間だけで良く10本も極上級を……どうやって採集してんだトシィー」


「ヒミツです」


「それ聞き飽きたっつぅーの。たまには違う事言えっつぅーの……ほらよっ。極上級が10本。大銀貨10枚。受付カウンターでカードを受け取ったらクエストコンプリートだ」


 大銀貨10枚を受け取り、浴衣の右袖に放り込み、受付カンターへと移動する。


「カード更新は終わりましたか」


「ちょっと待ってくださいね」


「今日もサザンカさんだけなんですか」


「まだ9時前だしね」


 まだ9時前か。……何故か朝5時頃には目が覚める。何故か夜10時前には眠く成る。健康的で良いと思う。


「11時過ぎたあたりから、クエストを確認しに来る冒険者が増えるのよ。だから、ギルドもそれに合わせて職員を配置してるのよ。冒険者って言っちゃ何だけど午前中は使い物に成ら無い人が多いじゃない」


「そうなんですか」


「だって、コンプリートした後は、ギルドの食堂で大宴会でしょう……」


「へぇ~見た事無いんで分からないけど、皆そんな感じ何ですか」


「皆って訳じゃ無いけど、8割9割コンプリート後は飲んで帰るみたいよ」


『チーン』


「更新が終わったみたいね」


 受付担当のサザンカさんは、更新専用の機械からカードを抜き取り、内容を確認する。


「どれどれぇ~。……うわぁ~今日も極上級10本なのね。登録初日からこれで10日続けてよ。外壁の外って尻火付草(しりひつけぐさ)ばかりでしょう。極上級だけをどうやって採集してるの」


「企業ヒミツです」


「詮索はしない決まりになってるけどホント気になるわぁ~。……はい、カードとクエストの報酬」


 冒険者カードと大青銅貨4枚を受け取り、浴衣の右袖に放り込む。


「ありがとうございます。明日も、7時頃にオーダーしに来ます」


「ギルドランク上げる気は無さそうね」


「ランクNノービスで間に合ってますからね」


「普通はNランクで、生活って成り立た無いはずなんだけどねぇ~」


 ギルドランクを上げる。説明を聞いた限りではメリットが大きい。だが、その分デメリットも当然存在する。クエストの強制召集。ノービスクエストの卒業。


 早朝支度を整え7時にクエストをオーダーし、早朝6時に開門する外壁の門から、7時30分頃にカードを提示し出門。小一時間程掛けて尻火付草10本を採集。8時30分頃にカードを提示し入門。9時頃にはギルドに報告。


 こんな楽な作業で、大銀貨10枚も稼げる。


 ルシミール王国の貨幣制度は、青銅貨10枚=中青銅貨1枚。中青銅貨10枚=大青銅貨1枚。大青銅貨5枚=銀貨1枚。銀貨4枚=中銀貨1枚。中銀貨5枚=大銀貨1枚。大銀貨10枚=金貨1枚。金貨10枚=大金貨1枚。大金貨5枚=白金貨1枚。白金貨4枚=大白金貨1枚。


 青銅貨1枚=日本円の1円位だと把握している。乗り合い馬車の1駅の移動に大青銅貨1枚だったからだ。


 つまり、小1時間の草摘みで、10万円も稼いでいる事になる。何処に無理する理由がある。


 因みに、何かを作る為の素材、尻火付草(しりひつけぐさ)の買取価格は、粗悪級=青銅貨3枚。通常級=中青銅貨2枚。上物級=大青銅貨1枚。特上級=銀貨1枚。最上級=中銀貨2枚。極上級=大銀貨1枚。普通は1000本採集して1本でも上物級が混ざっていれば良い方らしい。


「皆さんはどうしてるんですか」


「そうね。初心者クエストは、ノービス専用クエストでしょう」


「はい」


「ギルドランクがFに上がった時点で受けられ無く成るのは知ってるわよね」


 それ故に、ギルドランクを上げる気は無いのですが。


「初日にサザンカさんから教わりました」


「普通の冒険者は、登録初日でギルドランクをFかEには上げてしまうのよ」


「初日でですか」


「そうよ。ランクEまでなら冒険者登録が出来た人なら比較的簡単に上げられるもの」


 冒険者として登録した後で知った事なのだが、適正が無い人は登録時の判定機の審査で落とされる。


「ランクEって何をやったら成れるんですか」


「ランクEの警護クエストか討伐クエストを3回。もしくは、ランクDの討伐クエストを1回コンプリートするとランクEよ」


「ランクFでランクDの討伐クエストですか……」


「ランクNからランクFになるのはとっても簡単よ」


「当分上げる気はありませんが、聞いておいて損はありませんし、お聞きしますが、そんなに簡単ですか」


「はい。隣街、州都ベリョーザの冒険者ギルドに手紙を届け、受領書を持ち帰るだけです」


「確かに簡単ですね」


「はい」


 州都ベリョーザは、ここサスナーの街から東へ徒歩2時間。乗り合い馬車なら約40分位の場所にある。


 確かに、手紙を届け受領書を持ち帰り報告してから、ランクDの討伐クエストを1回コンプリートする。正午から夕方。5~6時間もあれば可能そうだ。


「上げたく成ったら。相談します」


「分かったわ」


「それじゃ。また明日来ます」


「朝の9時ちょっと過ぎですが、お疲れ様でした」


「はい。お疲れ様」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 ギルドを後にし、魔法資料館へと向かう。歩きながら、左腕につけた腕時計で時間を確認する。


 何て事だ。いつもより13分も押してるじゃないか。


 少し早足に切り替え歩く事にした。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 魔法資料館の入口に立つ警備員さんに挨拶をし中へ入ると、迷わず2階の受付カウンターへ移動した。


「おはようございます。ライチさん」


「おはようございます。トシさん。今日も初級魔法の指南書で良いですか」


「はい。いつもの席に座ってますので、宜しくお願いします」


「104番ですね」


「はい」


 104番の席に座り暫くすると、テーブルの上に書籍が現れる。書籍のタイトルを確認し、席の番号の横にあるボタンを押す。


 書籍に間違いが無い時は、このボタンを押す事で、書籍に触れる事が可能になる。書籍が間違っている場合は、そのままにしておくと3分後に消える。


 さてと、昨日の続き続きっと……


 15ページを捲る。


 光を生み出す魔法。【スヴェート】MP消費3・持続時間10秒~・詠唱の言葉『スヴェート』


 読む事でスキルとしては所有した事に成る。だが扱う事は出来無い。意味はあるのか。……初日に覚えた土魔法【ピソーク】。砂を掌に出す魔法だ。翌日の朝の尻火付草の採集時に試したが砂は出なかった。……2日目に覚えた土魔法【グリャージ】。泥を出す魔法だ。翌日に試したが泥は出なかった。10日目の今日も風魔法【ウラガーン】。一筋の風を出す魔法だ。さっき為したが出なかった。


 今日で初級魔法を10個覚えた事になる。スキルとして所有しているだけで使え無いのでは意味が無い。


 実は、この初級魔法を使える様になったら、冒険者ギルドのギルドランクをCまで上げ、ランクBの討伐クエスト【狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)見習い兵】をオーダーする予定でいる。狂骨影戦士(きょうこつかげせん)より弱い。だが、1匹討伐するだけで金貨1枚だ。尻火付草10本と同じ稼ぎだ。


 今使える魔法は、聖魔法【ヒール】。治癒する魔法だ。この魔法で、11日前に狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)53体を一瞬で討伐した。つまり、狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)見習い兵1体で金貨1枚は非常に魅力的という事に成る。


 ヒールしか使えない状況で、ギルドランクCになる自信は無い。世の中オレンジポヨポヨの様に手拭で倒せる魔物や亡霊ばかりでは無いだろう。


 記憶がおかしな事になっているのも気になる。何故、州都ベリョーザの宮殿に居たのか覚えてい無い。雑貨屋の店主でミランダという名の女性とその娘でエミリーという名の少女。この2人に何故お礼を言われたのか、お礼を言われる理由を覚えてい無い。


 何より、自分自身が、ニノマエ トシという名で、20歳(はたち)で、10月23日生まれ。後は、断片的に記憶が残っている程度だ。


 そして、州都ベリョーザからサスナーの街へ移動したのは、ローザと名乗るベリョーザの領主の娘に付き纏われ身の危険を感じたからだ。容姿的には好みだったが、誰なのか分からない人に必要以上に付き纏われる恐怖。自分自身の事が良く分から無い恐怖。整理の為に距離が必要だと判断した。


 因みに、ローザは、琥珀色の大きな瞳に銀色の長い髪。細身の身体に大きな胸。身長は160cm位。かなりの美少女だった。新雪の様に白く透き通った肌も、良く通る澄み切った綺麗な声も嫌いでは無い。


 美少女レベルの高い彼女が、僕に必要以上に近付いて来る事が信じられ無い。怖い。とっても怖い。何か裏が在る。……断片的な記憶の中にその答えがある。僕はそう思っている。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 お世話に成っている宿屋の隣にある定食屋で昼食を食べていると、赤茶色の皮の鎧に鉄の鎖を巻き付け背中に大きな斧を背負った180cm位の髭面で良く日焼けした厳つい男と、真新しい焦げ茶色の皮の鎧と左右の腰にシャムシールを1本ずつ装備した170cm位の小太りで豚鼻の男と、紺色のローブと深緑色のつば広帽子を装備し長い木の杖を持った170cm位のもやしの様な男。3人組が声を掛けて来た。


「おい。お前がトシってノービス野郎だな」


 ……うわぁ~俗に言うチンピラって奴だな。馬鹿そうな顔の3人組がいったい何の用だ。


「無視すんじゃねぇー」


 大声を出せばそれで良いと思っている。脳まで筋肉で出来た体育会系の阿呆の方だったか。


「頭の上に布を乗せた恥ずかしい恰好をした馬鹿を探せば直ぐに見つかるって言われて探してみたら、もう見つけちまったよぉー。俺様スゲェー」


 180cm位の日焼けした髭面は、筋肉と覚えておこう。


「おいこらぁ~。寝た子も泣き出すサスナーの野良犬ってぇーちっとぁー名の知れたリーダーが話してんだぞぉー。目を見て聞けやこらぁ~」


 えっと……このブヒブヒは、そのまま豚で良いか。


「まあまあ2人とも落ち着きなってな。初心者冒険者君が余りの恐怖で声も出せずにいるってな」


 このてなって男は、もやしと覚えておこう。


「お客さん。困ります」


「うるせぇーババァ~。俺様は困ってねんだよ。あっち行ってろぉ」


「ほらぁ~。上腕三頭筋だけ優しさで出来てるリーダーが言ってんだぁー。その水を置いて、あっちにいけよぉ」


「まあまあ2人ともお年寄りには優しくってな。金を巻き上げる為にも信用第一ってな」


 第一印象通り粗大ゴミの類だったか。初心者冒険者。ノービス。トシ。……冒険者ギルドに登録する冒険者か。いや、山賊か盗賊か阿呆のどれかだろう。


「おい。おーい。こらぁ~無視すんじゃねぇー」


 筋肉。距離を考えて話てくれ。


「まあまあ余りの恐怖に声も出せ無い初心者冒険者君を脅かしてどうするんですかってな」


「リーダーはお前に用がある」


 でしょうね。この状況でそれ以外に理由があると……


「お前ノービスのくせして荒稼ぎしてるそうじゃねぇか。よわっちぃー野郎が大金を持ってとぉー危ねぇーから俺様が預かっといてやるよ。感謝して有り金全部預けろ」


「ほらぁ~。リーダーが上腕二頭筋にまで優しさを見せてんだぁー。さっさと出せぇっ。怪我したくねぇーだろうっ」


 何だ。ただのカツアゲか。……街の中に盗賊の類が生息してる街だったのか。トリオ名が野良犬の筋肉と豚ともやし。確り記憶したぞ。


「まあまあ初心者冒険者君ここで暴れたらお年寄りに迷惑が掛かるってな。外に出てゆっくり話合おうじゃないかってな」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 手拭で、『バッチィ―ン』『バッチィ―ン』『バッチィ―ン』


 僕は頭の上に乗せた手拭を右手に持ち。手首のスナップを意識し手拭で、豚、筋肉、もやしの順番で顔面を叩いた。3人は手拭で吹き飛ばされ地面に転がった。


『ピー ピピ―』


 街の治安を預かる警備兵がやって来た。


「野良犬に金を巻き上げられたと通報があり駆け付けたのですが……これは、君がやったのか」


「えっと、気絶してるだけで、特に怪我はして無いはずです」


「そ、そうか……逮捕の御協力に感謝します。申し訳ありませんが、身分証の提示をお願いします」


「はい……」


 浴衣の右袖から冒険者カードを取り出し警備兵に渡す。


「冒険者ギルドの方でしたか。ランクNっ初心者。……ランクNでランクCの野良犬を……」


 へぇ~。筋肉と豚ともやしってギルドランクCなのか。これでランクC。……もしかして今の僕でもランクCって簡単に成れるんじゃ。 

ありがとうございました。

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