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異世界で幸せを手に入れました。  作者: 諏訪弘
プロローグ
5/40

亡者にヒール(シーン無し)

宜しくお願いします。

「ハアァァァ―――アッ」


『ブン…… ガッ ピキピキ』


 大剣が地面に敷かれた石板を砕く。


 何処で何を間違えたのだろうか……。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 私は、考えた。魔剣の件は誤魔化し切ったと思う。腕時計の件も御夫人を褒めちぎり無事に乗り切ったと言って良い。……そうか、なるほどな。原因はこの件だな。夕食会の終盤。王女様より「ニノマエ侯爵よ。我がサテリット宮殿に部屋を用意させました。今宵はそこを使うとよい」手拭と浴衣と下駄以外に持ち合わせの無い私には非常に有難い申し入れだ。私は、暫し考えるふりをしてから快諾した。


 私の為に用意された部屋は、35年ローンで購入した都内23区のあれに奪われた一軒家がすっぽり収まる広さだった。……絨毯が厚過ぎないか。……天井が高過ぎるだろう。……運動会が出来そうだ。チープな私にはこんな感想しか出て来なかった。


 只々広い部屋の左右の入り口から遠い中央部には、只々高級なソファーセットが置かれていた。私は、沈み込む様に身体を委ね贅沢を満喫していた。ふと気付くと、目の前のソファーに姫様が腰掛けていた。


 ソファーの誘惑に溺れていた私のミスだ。思えば……


「オレンジポヨポヨを1人で討伐し若い娘を救ったのは本当ですか」


「そんな事もありましたねぇ~」


「とても高価なポーションを惜し気も無く庶民に与えたのですか?」


「あぁ~あのポーション高価な物だったのかぁ~」


「オレンジポヨポヨ討伐時は魔剣を所持していなかったそうですね」


「あぁ~そうだったかもぉ~」


「頭に載せた布は何ですか? イポーニィのトレンドなのですか?」


「あぁ~これは手拭って言いましてですねぇ~。……水を拭いたり、入浴の際に身体を洗ったり、儀式の際には装身具として頭に被ったりもする。優れ物なのですよぉ~」


「巫女の釵子や神官のカマウロ帽の様に神聖な頭飾りにも関わらず、タオルの様に水を拭いたり身体を洗ったりもするのですか」


「そうですねぇ~」


「宮殿に報告に来た兵士が言う様に、ニノマエ侯爵様は御強いのですか?」


「生まれ育った国では私は凡人も凡人下から数えた方が早い方です……」


「10日程前にもオレンジポヨポヨ1匹が討伐され報告が上がっています。その時は、ベリョーザの騎士団100名による討伐だったそうです。戦死者こそ出ませんでしたが重軽症者を22名も出したそうです」


「ドロドロヌルヌルムニュムニュポヨンポヨンで、ムニュっと体当たりして来る。30cm位の何となく丸いオレンジ色の物体でですかぁ~」


「ムニュムニュ、ポヨンポヨンの意味は分かりませんが、そのオレンジポヨポヨでです」


「あれ本当に危険な魔物なんですかぁ~。……1発払っただけで倒せましたよぉ~」


「1撃でですか……ニノマエ侯爵様。ベリョーザ騎士団の中でも選りすぐりの精鋭部隊。オレンジポヨポヨを討伐した者達と手合わせをし、私に1人で討伐した実力をお見せください」


「どうぞぉ……何でも好きな様に見て行って良いですよぉ~」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「デェヤァ―――ア――ハァッ」


『ブゥ―――ン』


 鋼の大剣が虚しく空を切る。


「ゼェーゼェー ゼェーゼェー。……どうしてだ。ハァーハァー、……何故当たらん。どうして今のを()わせるんだ。ハァーハァーハァー」


「何をやっておるか。相手は丸腰だ。もっと良く狙わぬかこの愚か者が」


「副団長殿。ゼェーゼェー……な、何が……間違い無く切って、ハァーハァーいるのです」


「戯けた事を申すな。……もう良い。お前は降格だ。オレンジポヨポヨを1人で討伐したと嘯く男に一撃も当てる事が出来なかった者は、全員降格処分だ」


『ビュ―――ン』


「王女殿下や姫様は欺けた様だが私は騙されんぞぉっ」


 副団長を名乗る男は、口より先にジャベリンを予告も無く投擲する。


 私は、ジャベリンを回避し、ジャベリンが通り過ぎると同時に元の位置に戻る。


『ザシュッ』


 ジャベリンは、40m程後方の地面に突き刺さった。


「なっ……俺の槍は確かにお前を貫いたはず……何が起こっている。おかしいぞ」


 副団長の降格も決定した。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


『シュシュッ シュシュシュ シュシュシュシュ』


 レイピアで、何度も何度も突剣技を繰り返すローザ姫様。


「どうして……掠りもしないなんて。ニノマエ侯爵様。貴方は何者なのですか」


『シュシュシュシュ』


 姫様や騎士団員の青年達には申し訳無いと思います。皆さん動きがとても鈍いと言いますか遅過ぎます。重そうなプレートアーマーのせいかもしれません。私が時速80Kmで走る高速バスなら、皆さんは停留所から動き出したばかりのバスです。避わせ無い訳が無い。


「ローザ姫様。そろそろ終わりにしませんか。陽も沈み完全に夜ですよ」


「まだです。エェ―――イ」


『シュッ シュッ』


 私は、騎士団の訓練場に移動してからずっと丸腰だ。手合わせと称し殺意を向き出しにし襲い掛かって来る青年達は完全装備。この国には、武士道や騎士道なる物は存在しない。勝ち負けがそのまま生死に直結する。奇襲、騙し討ち、暗殺、大勢に無勢、何でもござれの勝てば官軍。私には卑怯この上無い倫理観道徳性だ。


 1国の姫君様ですら例外無くこれなのだ。


 成仏はまだですか。神様まだですか。お願いします。早く迎えに来てください。


「余所見ですか。余裕ですね。私では相手に成らないと言いたいのですかぁ~」


『シュシュシュシュ』


「突剣技【蝉時雨・空】ハァ―――」


『シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ...

...シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ』


 少しだけ加速したみたいだ。それでも、遅過ぎる。


『ドーン』


『バサァッ バサァッ バサァッ』


『カカカカカカ』『カカカカカキカカカ』


『ドーン』


 何だ。


狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)だぁ~。夜の影に紛れ込んでたみたいだぁ~」


 イベントでも始まったのだろうか。


「ニノマエ侯爵様。禁断の森の魔王アフグリエーフ子爵の亡者が攻め込んで来た様です」


 魔王なのに子爵。……それに魔物の次は亡者ですか。この国。どうかしてるだろう。


『バサァッ』


「キャァ~」


 影だけが動いてるのか。これはいったい何だ。


 私は目の前に突如飛来した陽が沈んだばかりの夜の闇に蠢く影に近付いた。


「危ない」


『ブーン』


 何かを振り回した様だ。騎士団員の青年達より少しは動きが良い。それでも私が高速バスなら、この影は通勤ラッシュ時の専用道の無いバスだ。


『ブーン』


「ローザ姫様。この影は魔物の一種なのですか」


狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)。騎士団の精鋭部隊が力を合わせてたとしても討伐出来るかどうか……」


 ん。えっと、待てよ。オレンジポヨポヨ1匹を100人がかりで討伐して22人も怪我人を出す騎士団の精鋭部隊だ。


『ブーン』


 あれは、危険度☆5だと守衛の青年が話てくれた。目の前の影は、☆6か7そんな感じなのか。☆5で22人も重軽傷者が出るとして……


『ブーン』


 人が考え事をしている時に、騒がしい影だ。


 私はコバエを払う様に、右手を軽く動かした。


『ドゴォッ』


 何だこの鈍い音は……


『バラバラバラバラ』


 私の右手が軽く触れた影は、地面へ崩れ落ちる。


「ニノマエ侯爵様。今、何をされたのですか」


「右手で払っただけです」


「速過ぎて何が起こったのか見えませんでした」


 速過ぎるだと。余り女性の口から聞きたく言葉だ。しかし、払っただけの手が見え無い。あぁ~俗に言う誇張表現って奴か。


 私は、地面に崩れた影を改めて確認する。


 騎士団の精鋭部隊はこの程度の影にも勝て無い程に軟弱なのか。


『カカカカカカカカカ』


「ニノマエ侯爵様。狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)狂骨再生(リプレイ)です。次が来ます」


 なるほどな。倒しても倒しても復活する。酒に酔ったゾンビ達と同じか。埒が明か無いな。さて、どうしたものか……


『ブーン』


 脅威でも何でも無いが、流石に目障りだ。考えるんだ私。……崩れ落ちた後に、復活し無い方法は無いのか。


「ローザ姫様。この影には復活する回数とかありませんか」


「分かりません。何度も地面に倒せる相手では無いので……」


 何て事だ。復活する以前の問題だったか。やはりこの国の騎士団は軟弱だ。


「例えばですが、地面に崩れ落ちた後に、焼却するとか飛散させるとか出来ませんか」


「分かりません。狂骨再生(リプレイ)もあっという間ですので、試した者がおりません」


 何て事だ。動きの鈍さを、戦闘時以外でも見事に発揮しているのか。


『ブォーン ブォーン』


『カカカカキカカカカキカカ』


「仲間が集まって来ます。ここは一旦退きましょう」


「普段。この影に襲われた時はどうしてるのですか」


「建物の中に隠れ朝が来るのを待ちます。朝日の訪れと共に狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)達は森へ帰って行くからです」


 何と無くだが話が見えて来た。ここベリョーザの人達は虚弱何だ。影や魔物達から幾度と無く襲撃を受け慢性的な食糧難の状態何だ。力が弱く。動きも悪い。倫理観や道徳性が養われてい無いのは貧しさが知性知識品格教育の向上を阻害している。なるほどな。食料不足に、死と隣合わせの環境に、心の貧しさ。私が生まれ育ったあの国も近い将来心の貧しさ……いかんいかん。私は既に死んだ身だ。成仏を待つだけのおっさんに心配されても迷惑なだけだ。


『ブーン』


「ローザ姫様。御1人で避難出来ますか。私は試したい事がありますのでここに残ります」


「何を仰っておられるのですか。一緒に退きましょう。朝に成れば終わる事です」


『カカカカカカカ』


『カカカキカカカカキカキカキ』


『カッカカカキッカッキカカ』


 ▲▽割愛▽▲


 私の目の前には、7個の影が集まっている。


 狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)かぁ~。……影の中身はやはり骨なんだろうか。どうする私。


 ①ローザ姫様の提案を受け入れ緊急離脱する。


 ②影には朝まで復活を繰り返して貰う。


 ③油出来ればガソリンと火を準備し焼却してみる。


 ④腕時計。


 まず、①は却下だ。動きの鈍い影からなら余裕で逃げ切れるだろう。体力に限界を感じ、睡魔に襲われた時には迷わず離脱を選択しよう。③は……油と火を探し出すまで待っていてくれる保障は何処にも無い。却下だ。そうなると必然的に②か④という事に成る。なるほど、分った気がするぞ。


 神様は、困った時は腕時計の右側のボタンを押す様にと仰っていた。きっと凄い何かが起きるに違い無い。困った時推奨の機能だ。


 選択は、④だ。


 私は、時計のボタンを押した。視界に、【☆所持品☆】と文字が浮かんだ。


 これだけ……。あぁ~きっとこの中に状況を改善する素晴らしい物がある。そうに違い無い。


「危ない」


『ブーン』


 私は、コバエを払う様に、右手で【☆所持品☆】を払う。


『ボッゴォーン』


 何だ。あぁ~影か……。


 私の右手は3つの影を地面に崩れ落としていた。そして、視界には、実際には所持していないが所持しているらいい道具のリストが浮かび上がっていた。


 名称  野営用寝袋

 種類  寝具

 備考  消耗品

 個数  7個


 名称  水道水

 種類  水

 備考  1本=500ml

 個数  24本


 名称  おにぎり

 種類  食料

 備考  梅

 個数  3個


 名称  おにぎり

 種類  食料

 備考  鮭

 個数  3個


 名称  おにぎり

 種類  食料

 備考  銀シャリ

 個数  3個


 名称  サンドウィッチ

 種類  食料

 備考  BLTスタンダード

 個数  24個


 名称  ビーフジャーキー

 種類  食料・嗜好品

 備考  ソフトタイプ

 個数  101本


 名称  イエローダイヤモンド

 種類  宝石・贅沢品

 備考  燃えます

 個数  6個


 名称  魔剣エクス

 種類  武器・剣

 状態  外出中

 召喚  可能


 名称  取扱説明書

 種類  参考書

 備考  改訂版随時

 個数  1冊

 ※使用すると瞬時に理解します※


 ……何てラインナップだ。これが神様から贈物だと言うのか。考えるんだ私。……寝袋。今は必要無い。水、おにぎり、サンドウィッチ、ビーフジャーキー。これも今は必要無い。イエローダイヤモンド……宝石。成仏を待つだけの私に何故こんなにも高価な物が……分からん。とりあえず今は必要無い。


『ブーン』


 魔剣エクス。夜の明かりには便利だ。些か眩し過ぎる点において問題はるが今後の活用法として検討しておこう。今は必要無い。……残ったのは取扱説明書。瞬時に理解出来るだと……また胡散臭い物を……それに、何についての取扱説明書何だ。取扱説明書の癖に説明不足だろう。


 まぁ~良いさ。どうせ成仏までの気楽な1人旅だ。取扱説明書に罪は無いのだ。ここは冷静に行こうじゃないか。これは……どうやって使うのだ。あぁ~こんな事ならコンピューターの操作。後輩に任せるんじゃなかった。マウスの右をクリックだと……何故ねずみの話を今ここでする。私のコンピューターのレベルはこの程度だ。


『カカカカカ』


「ニノマエ侯爵様……20…30…それ以上です」


「うん?ローザ姫様。避難されるのでしたら御先にどうぞ」


『ブーン』


 人が考え事をしている時に……


 私は、コバエを払う様に。右手を軽く払った。


 私の右手は2つの影を地面に崩れ落とす。視界に、取扱説明書を使用する【★Да★】と文字が浮かんだ。


 何だこれは。絵文字……俗に言う顔文字って奴か。いや、待て……何処かで見た事があるぞ。ロシア語のYES。ダーか。


 私は、【★Да★】に触れてみた。


 な……頭の中がぁ~~~。……あっ思考からクッキリ鮮やかになった感じだ。靄が晴れた気分だ。


『ブーン』


 私は、前方を見渡す。


 どうして、狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)がこんなにいるんだ。それにここは何処だ。


「ニノマエ侯爵様。私達囲まれてしまいました」


 ニノマエ侯爵?


≪パチン


 ▽▲▽世界停止中▽▲▽


「取扱説明書を間違えたね。こっちに【☆YES☆】更新だね。随時更新タイプで良かったね」


≪ピィッ


≪キュィィ―――――カタカタカタカタ カタカタカタカタカタ カタカタカタカタ


≪・・・更新完了


「うんうんだね」


≪パチン


 ▽▲▽世界起動中▽▲▽



 ▽▲▽世界作動中▽▲▽


 あっ。僕の事か。


「どうしました。ローザ姫様」


「ですから、狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)が……」


 何してたんだっけ?思い出すんだ。……確か誰かを成仏させる……イヤ、成仏するのを待って……あれ。


『ブーン』


「おっと。人が考え事してる時に、邪魔しないで貰えるかな。ローズ姫様。この影は、この国の兵士か何か何ですか」


 思い出した。確か騎士団のおっさん達に実戦形式の腕試しだとかって絡まれたんだっけ……


「これが騎士団の正体ですか」


「何を仰っているのですか。私達を取り囲んでいるのは禁断の森の魔王アフグリエーフ子爵の亡者達です」


 魔王……子爵……思い出すのは後だ。


「こいつはこの国の兵士では無いんですね。倒しちゃって良いって事ですよね」


「ルシミール王国の兵士ではありませんし、討伐出来るのでしたらお願いします。今直ぐここから私を助け出してください。朝日をもう1度この瞳で見られるのでしたら。ニノマエ侯爵様。貴方に嫁いでも構いません」


 狂骨影戦士(きょうこつかげせんし)。骨だし死霊の(たぐい)だよなぁ~。……だったらこれありだよね。


 腕時計の反対側のボタンを押した。視界に、【☆スタート☆】と文字が浮かんだ。迷う事無く【☆スタート☆】をクリックした。

ありがとうございました。

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