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異世界で幸せを手に入れました。  作者: 諏訪弘
プロローグ
4/40

その剣の名は『魔剣エクス』

宜しくお願いします。

「貴族様」


 タメグチの娘の母ミランダは、やはりビクビクと怯えている様だ。私は何かしただろうか。距離は十二分に取っている。うん、実に申し分無い距離だ。


「どうかしましたか」


「貴族様は南東の森で何をなされていたのですか」


 森……はて、草原を歩いた覚えはあるが、俗に言う森って奴をこの都市までの途中で見た覚えは無いぞ。


「森が何処にあるのか分かりませんが、場所的には南東の草原を歩いていたのは確かです」


「娘はどうして、都市から離れてそんな場所にいたのでしょう」


 私に聞かれても実に困る質問だ。そんな事が分かる位なら、あいつに何もかも全て奪われる事は無かっただろう。……しかし、この母親は疲れた顔をしている。栄養の状態が良く無いと言った方が正解だろうな。


「娘さんを心配する気持ちは分かります。ですが、ミランダさん。貴方も少し休んだ方が良いのではないか」


「あっ。お店を任せっ放しで……夕方店を閉めましたら改めて参ります」


 ミランダもまた休憩所を後にした。


 仕事を抜けて来ていたのか。母娘2人で頑張る姿か……私の所とは大違いだな。あれ等が頑張った事と言えば私から何もかも全てを奪う事だけだったからな。思い出すと実に不愉快な気持ちになる。落ち着け。もう私を苦しめる者は居ないのだ。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「誠に申し訳ございません」


「申し訳ございません」×8


 どうしてこんな事になってしまったのだ。


「皆さん。土下座は止めてください。皆さんは探してくれただけで、皆さんが盗んだり紛失させた訳ではないのですから」


 私は土下座する守衛9人に必死で言葉を並べた。存在しない物を探させたのは私だ。彼等は何も悪く無い。何も悪く無いのにも関わらず、見ず知らずの初老のおっさんに土下座し謝罪している。こんな事はあってはならない。理不尽がまかり通る世の中が許されてはいけない。全てを失った私には分かる。


「貴族様」


「剣と盾という話でしたので、剣と盾を中心に探しながら、商人や旅人に聞き取りをしたのですが、落ちていた物は、こちらの剣6本と盾4個だけでした。大切な身分証や所持金等々高価な所持品をベリョーザの周辺で盗難されたとあってはベリョーザの恥。……直ぐに警備担当責任者へ報告を上げベリョーザの威信にかけ探し出してみせます。まずは、剣と盾の確認をお願いします」


「あ……はい」


 良く無い方向に話が進んでいる気がする。気のせいであって欲しい。だが、残念な事にこれは現実だ。


 この状況を乗り切る最善の策は何だ。……剣と盾を見せて貰う。これしか無さそうだ。だが、問題は剣と盾を見たところで私に何が分かる。剣と盾を片手に生活した覚えは、当然の事だが1度も無い。目を閉じていても分かる事と言ったら、某駅から某団地の周回ルートに設置された停留所の名前くらいだ。


 ……まぁいいさ。成仏するまでの辛抱だ。ここは手に取って見たふりをして、私の物では無いと言えばいいだけだ。本物の持ち主が現れたら騒動だからな。


「皆さん。荷物を探してくれて本当にありがとうございました」


 私はお礼の言葉を伝えると、剣を1本手に取った。視界に【☆接続☆】と文字が浮かぶ。


 何だ……まさかさっきのあれみたいな物だろうか。…………しかし、見た目よりも意外に軽いな。


 私は、コバエを払う様に手で視界に浮かぶ文字【☆接続☆】を払った。視界に手に取った道具の情報が飛び込んで来た。


「どうされたのですか」


 傍からでは、おかしな行動に見えてしまったか。


「虫がいた様な気がしただけです」


 名称  青銅の剣

 格付け ☆★★★★(1)

 等級  通常品

 攻撃力 17/23 劣化率 26%


 私は次々手に取っては確かめた。不自然な動きをセットにして。


 名称  青銅の剣

 格付け ☆☆☆★★(3)

 等級  通常品

 攻撃力 25/47 劣化率 49%


 名称  鋼の短剣

 格付け ☆★★★★(1)

 等級  通常品

 攻撃力 7/30 劣化率 77%


 名称  鋼の剣

 格付け ☆☆★★★(2)

 等級  通常品

 攻撃力 3/52 劣化率 94%


 名称  鉄の短剣

 格付け ☆☆☆☆★★★(4)

 等級  良品

 攻撃力 14/62 劣化率 77%


 そして最後の剣を手に取り、視界に浮かんだ文字を払う。


 名称  魔剣エクス

 格付け ***************

 等級  神級品

 攻撃力 *****

 共鳴率 ****

 所有者 なし

 状態  封印(孤独)


「おや」


 魔剣。妖刀村正の様に禍々しい怪し気な名を持つ剣があるとはな。しかし、この剣は錆の状態が酷いな。


「剣は見つかったのですね。良かったです」


 ん。何か勘違いしていないか。長年放置し錆びだらけになったこんな剣が私にはお似合いだ。そう言いたいのか。……いや、そうでは無いだろう。魔剣らしいが神級品。実に怪し気な業物を見てつい声を出してしまった私に、反応しただけだろう。


「次は盾を見させていただきます」


「そうですね」


 名称  小さな木の盾

 格付け ☆★★★★(1)

 等級  通常品

 防御力 5/12 劣化率 58%


 名称  木の盾

 格付け ☆☆☆☆☆★★★★(5)

 等級  優良品

 防御力 19/50 劣化率 62%


 名称  鋼の盾

 格付け ☆★★★★(1)

 等級  通常品

 防御力 3/30 劣化率 90%


 そして最後に焼け焦げた細い盾を手に取った。


「それは、炎の魔法で焼かれたのでしょう。盾としての原形を留めておりません」


 私は文字を払った。


 名称  魔剣エクスの鞘


 おや。……これは、盾では無く剣の鞘ではないか。しかも、先程の怪し気な剣の鞘だ。……こんなにボロボロになってしまうと神級品とはいえ見るに堪え無い物だな。まぁ~何というか、神級品の意味も良く分からない訳だが。ふむ。…刃物は鞘と2つで1つ。だからこそ美しい。この剣と鞘もきっとそれを望んでいるだろう。納めてみるか。


「私の……その剣を取って貰えますか」


 いかんいかん。つい私のと、言ってしまった。私の物では無い。私は泥棒では無いのだよ。


 私は守衛の1人から剣を受け取ると、ボロボロになった鞘に剣を納めた。


「そ、それはその錆びた剣の鞘だったのですか」


「はい」


『ビキ ビキ ピキ ピキ パァッ――――ン』


 鞘の周りに付着していた焼け焦げた塊にヒビが入った。そのヒビはあっという間に塊全体へと広がり、塊を粉塵へと変えた。


 ゆで卵の殻がこんな感じで剥けてくれたらさぞ気持ち良いだろうな。私はどうしようも無い事を考えていた。週に1~3度の一人での晩酌。グラスに注いだキンキンに冷えたビールとゆで卵。焼いた枝豆も実に美味い。暑い夏は、トマトや豆腐も良い物だ。私は少量の塩で味わう事が好きだった。


 今にして思えば私が好む食べ方は、私から全てを奪って行ったあれ達には味気無かったのだろう。醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、塩、味噌、砂糖。良く肥えたあれ達は、どんな料理食材に対しても分け隔てる事無く満遍なく、その姿が見え無く成るまで、一心不乱にかけ続けていた。


 もしかしたら、私の高血圧を利用して……もう良い。終わった事だ。死んでまで惨めな気分に、こんなくだらない感傷に浸りたくは無い。


『ピィッ カァ―――』


「貴族様。剣、剣がぁ~……光、光輝き、何が何が……」


『ファ―――――』


「目がぁ~・・・何ですかこれは」


 何とも晴れやかで、そして清らかな輝き。そう例えるなら、正月元旦の朝の御来光。……何故、剣が。


「あ……うえぇぇぇ~~~」


 いかん。こんなところで大人が取り乱すな。恥ずかしい。ここは自分の娘よりも若い青年達の良い見本に成らなくてはな。


「安心しなさい」


 とは、言ってはみたものの流石に私も不安になって来たぞ。魔剣がどうしてこんなに清らかなのだ。この一向に収まる気配を見せ無い光は何なのだ。……折角、視力が良くなったと言うのに、良くなった途端に失明したとあっては惨め過ぎる。どうする私。


 1.剣を抜く。鞘に納める前は光を発していなかった訳だ。


 2.捨てる。元々私の所有物では無い。


 3.守衛の誰かに託す。拾って来た責任は重い。


 4.腕時計。


 まず4は論外だ。魔剣なのに神級品という怪しさ全快の剣に腕時計で何をする。パスだ。パス。3はどうだ。存在しない荷物を探させ、挙句に土下座までさせ、更に魔剣の責任を負わせようと言うのか。それは総理大臣が許しても、全ての国民が許さないだろう。却下だ。パスだパス。つまり、1か2という事に成る訳だ。さっきは②を選び失敗した。ならば、私の苗字でもある1。そうだ2の前(にのまえ)に、1を選ぶべきだ。


 選択は1だ。


 私は迷う事無く鞘から剣を引き抜いた。眩し過ぎる輝きの嵐は去った。為せば成る為さねば成らぬ何事も為さぬは人の為さぬなりけり。人間やってみるものだな。いざとなれば存外何でも出来るものだ。あぁ~しかしちょっと漏らしかけたぞ。危なかった。


「貴族様。今のはいったい」


 私が聞きたいくらいだ。だが、ここは冷静に対応しなくてはな。


「何と言うかあれだ……」


「あれと言いますと」


 まずい。冷静になったからといって、私の知識でどうにか出来る次元の話では無いぞ。


「何と言いますか変わった剣ですね。剣と鞘を別々に持ち歩かなくてはいけないとは、不便ではありませんか」


 守衛の青年の1人は、私の所有物だと勘違いし追い打ちを掛けて来た。


 不便だと私も思う。……ダメだ。良い説明が全く思い浮かばない。考えるんだ私。……無理だな。私にペラペラと良く回る口があったのなら、あんな結末にはなっていないはずだ。……そもそも、この剣は私の物では無いのだ。これはきっと考えても無駄な部類の話だ。


 話を変えてしまった方が良いな。……


「いやー守衛の皆さんのおかげで、剣だけでも見つかって助かりました。本当にありがとうございました。盾は、最悪無くても困りませんので、後は気にしないでください」


 この話は終わりだ。申し訳無い。


「ですが」


 ダメか……。そうだろう。この程度の言葉では、話の挿げ替えには足りない。分かっていたさ。だが、ここは押し切るしか道は残されてい無い。強行突破だ。


「いやぁ~本当にありがとう。お礼をしたいのですが、残念な事に荷物を紛失……」


 いかん。剣の光から荷物に話を挿げ替えてどうする気だ。数時間前の状況に戻るだけではないか。考えろ。もっと考えるんだ。


「貴族様。そこなのですが、今のままですと、身分証も路銀もありません」


 おや。私を最初に発見してくれた通行管理所の守衛の青年。君は本当に好青年だよ。ありがとう。


「そうですね」


 金か。確かに金の事を考えていなかった。成仏までの繋ぎのつもりでいたからな。


「在留許可カードを臨時発行致しますので、滞在中は在留許可カードを身分証の代わりとしてお使いください」


 先程からやけに身分証に拘っている様だ。異国に赴く際のパスポートやビザの様な物なのだろうか。所持して困る物でないのであれば善意からの申し入れだ。快諾するべきだろうな。


「何から何までありがとうございます」


「いえ。私は当然の事をしたまでです。カードを作るにあたり、貴族様の御国の名前と爵位をお聞かせ願えますか」


 爵位だと。……俗に言う公爵侯爵伯爵子爵男爵って奴だよな。戦後の日本にそんな物は存在しないぞ。どうする私。


 ①男爵と答える。


 ②子爵と答える。


 ③伯爵と答える。


 ④侯爵と答える。


 ⑤公爵と答える。


 ⑥天皇と答える。


 ⑦王だと答える。


 ⑧腕時計。


 またしても腕時計が……⑧はありえん。パスだ。⑦はどうだ。一国の王が浴衣と下駄という装いで他国の草原を一人で散策などするはずも無い。却下だ。⑥……⑦とほぼ同じ理由で却下だ。それに恐れ多い。そうなると、①か②か③か④か⑤になる訳だが……どういう事だ3つも選択肢から削除したというのにまだ5つも残っているというのか。


 良く考えるんだ私。良いか、①は男爵だ。男爵芋。う~ん……他に思い浮かぶ言葉が無い。ただ分かる事がある。私は男だ女だ子供だ年寄だという言葉を区別する為に必要だと考える男だ。けして偏見などで物を申している訳では無い。だが、一言申すだけで差別主義者だと勘違いされる世の中だ。そうだ。①と②は却下だ。女爵や老爵が選択肢の中に存在しない以上①や②は不公平であり不平等だ。


 つまり、③か④か⑤だな。私の名前は十四(とし)だ。


 選択は④だ。


「私は、侯爵。公爵の1つ下の侯爵です」


「上級貴族様……も、申し訳ございません。貴族家の一族の方とばかり勘違いしておりました」


「それは構わない。退職した身です。無職みたいな物ですからな」


 確かに、この様な身なりの初老のおっさんだ。隠居の身だと思って当然だ。……これはしくじった。元侯爵にしとくべきだったのではないだろうか。いや、今更遅いか。


「御身分は、侯爵閣下御本人様。御国の御名前を御聞かせください」


 日本……ニッポン、にほん、う~ん悩むところだ。この国の名前はロシア語圏に近い印象を受ける。日本はロシア語で、イポーニィだったか。間違っていたところで誰かを困らせる訳では無い。これで行こう。


「イポーニィです」


「な……」×9


 守衛達は何故か口から泡を吹き出し全員気絶した。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 夕方。城から迎えの馬車が到着し、私は話の流れが全く見えないまま、マンダリーン王女様から夕食会の招待を受け登城した。そして、意味も分からないまま食事の席についている。


「ニノマエ侯爵様は、古の大陸ヴェーチノスチ(神魔王悠久大陸)を統治する神魔国イポーニィから、スィリディーナ(中央大陸)へは何をしに参られたのですか」


 えっと、目の前の30代後半~40代前半の女性がマンダリーン王女様で、隣に座ってる若い女性がマンダリーン王女様の娘で、ローザさん。姫と呼ぶべきだろうか。王女様の娘なら姫様か。


 しかし、自分の国の天皇陛下とも食事をした事が無い私が、どうしてこんな事になったのだろう。しかし、あれだ。折角の夕食会だというのにこの料理の不味さは何だ。いったい何事が起きたと言うのだ。まっ、おかげで緊張は一瞬で何処かへ吹き飛んでしまったが。しかし、不味い。この人達は、これを美味しいと思っているのだろうか。疑問だ。


「ローザ姫様。私は成仏の時を迎えるまでの地として、この地に参りました。残念な事に荷物や盾を失ってしまいましたが、それは……そう。運命だったのです」


「じょうぶつ……運命……ニノマエ侯爵様。どういう意味なのでしょうか。言葉の意味が私には分かりません」


 成仏。確かに仏教の国の者でも成仏という言葉が通じない可能性がある。ここの文化や宗教は分からんが、死に対する概念が無いとは思えない。げんに守衛の青年も言っていた。ブラックは死だと。つまり死という概念は存在する。


「成仏とは、肉体としての死では無く、魂の死、精神の死を迎える瞬間の事です」


「生まれ育った国では無く、他国でですか」


 いかん。難しい話になって来た様な気がする。


「ホッホッホ。流石は神と魔神が住まう国の者と言ったところでしょうか。ニノマエ侯爵はどちらなのでしょうか」


 どちらとは、どういう意味だろうか。今の話の流れで察するに、神か魔神かという事になると思うのだが、私を見てそれを聞いているのか。……日本は神の国だと自称していたい時代があった。そういう事か。これは引っ掛けだ。流石王女様といったところか。危うくメッキをいとも簡単に剥がされるところだった。ここはもう一度質問されるまでは流して良い場面だ。たぶん。……


「王女様。本日は夕食会へ招待していただきありがとうございます。心よりお礼申しあげます」


「ニノマエ侯爵。光輝く剣を見せてはくれないだろうか」


 夕食会の席が騒めく。


 やはり正解だったか。今の質問はあの剣への前振りに過ぎなかったのだ。


「はい。ですが、剣は兵士に預けております。残念ですが手元にはございません」


「もって来させよ」


「はっ」


「一緒に預けました。鞘も一緒にお願いします」


「畏まりました」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 私は剣を鞘へ納めた。1つになった剣と鞘から眩い光が飛び散る。


「おぉ~。ニノマエ侯爵よ。この清らかな光は如何なる魔法なのか」


 魔法。……これは魔法という現象だったのか。何でもありだなこの国は……ふ~ん。一度確認した情報をもう一度確認する事は出来ないのだろうか。


 それに、この剣は、魔剣らしいが、神級品というかなり怪しい物だ。考えてみよう。剣は魔剣だ。鞘に納めると王女様が仰った様に清らかな光が発光する。……ダメだ日本人の私ではこの奇怪な世界の現象を紐解く事は無理そうだ。ここは後から困らない言い訳を考えるべきだろう。どうする私。


 1.剣を鞘から抜く。


 2.剣を献上する。


 3.剣で王女様に襲いかかる。

 

 4.腕時計。


 1しかありえないだろう。……そうなると、言い訳が必要だ。……その手があったか。


 私は、剣を抜き光を納めた。 


「実は、この国には、成仏の他に目的があって参りました。それは、この剣の謎を解く為です」


「ルシミール王国にその剣の謎を解く鍵があるのですか」


 鍵だと……いかん。そこまで考えていなかった。適当に言った国名が存在していただけで、私はこの国と適当に言った自称私の生まれ育った国の名前しか知らない。どうする私。


 ①.成仏までの道楽です。深く考えていません。と、答える。


 ②.隠居の身の道楽です。仮に解く事が出来なかったとしても、次の世代に託すつもりです。ですが、成仏するまでは、ベリョーザを中心にのんびり真相究明の散策でもするつもりです。と、答える。


 ③.王女様と2人でなら解け無い謎は無い。と、答える。


 ④.腕時計。


 普通に考えて④は無いな。③はどうだ。私の人格を疑われる。日本から遠く離れた異国の地で王族の女性を相手にとんでもない暴挙だ。あってはいけない事だ。そうなると①か②という事になる。


 良く考えてみよう。①を選んだ場合だ。考えも無しに、かなり遠い場所にある国からここまで何をしに来たのか。成仏が目的ではあるが理由としてはインパクトに欠ける。却下が妥当だろうな。正直なところ成仏まで乗り切る事が出来ればそれで良い。だが、何が起こるか予測出来ないのが世の常だ。慎重である事を否定出来る者いないだろう。


 選択は②だ。


「隠居の身の道楽です。仮に解く事が出来なかったとしても、次の世代に託すつもりです。ですが、成仏するまでは、ベリョーザを中心にのんびり真相究明の散策でもするつもりです」


「隠居ですか。失礼ですが、侯爵はお幾つなのですか」


「私は、10月生まれなので、65歳です」


「ホッホッホ。65歳とな。……愉快じゃ」


 はて、俗に言う65歳って奴の何処に面白さが隠されている。……分からん。まさか、ここはユーモアで返答するところだったのか。しくじった。


「ニノマエ侯爵。私は幾つに見えますか」


 なに。王女様の年齢を答えろだと。……ついに始まってしまったか。役職や身分の高い者は何気無く言ってるつもりなのだろうが、聞かれた下民は人生の分岐点に突然立たされた挙句、人生がかかった瞬間にも関わらず途轍も無く短時間で即答しなくてはいけない。時間のかけ過ぎはNGなんだ。どうする私。


 1.40歳と答える。


 2.30歳と答える。


 3.50歳と答える。


 4.20歳と答える。


 5.34歳と答える。


 6.37歳と答える。


 7.腕時計。


 ……冗談でも女性の年齢を上に言う何てダメだ。ありえない。3と7は却下だ。若く言い過ぎるのもここは避けるべきだろうな。そうなると4は自然とボツだ。見た感じ30代後半~40代前半。間をとるなら1という事になる。……だが、冷静に考えよう。37歳と微妙に若く答えるのであれば、いっそ34歳と答えた方が良いのでは無いか。いや待て、その理屈が通じるのなら30歳と答えても良いだろう。ダメだダメだ。……サッパリ分からん。……


 はっ、そうだ私は何を悩んでいるのだ。どうせ死んだ身だ。何を恐れる。成仏するだけでは無いか。ここはユーモアたっぷりに行こうじゃ無いか。


 選択は7だ。

ありがとうございました。

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