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異世界で幸せを手に入れました。  作者: 諏訪弘
遺跡を求めて
39/40

深海に咲く水宝の薔薇①~アクヴァマリンローザ~

宜しくお願いします。

「父上、母上」


 早朝にしては場違いなまでに良く通る青年の大きな声が、眩しい朝日の降り注ぐ大きな屋敷に響く。


 ▽▲▽


―――――――――――――――――――――――


≪歴史の大国ルガキタイル王国≫

 王都アーセン&セプト半島&大運河の地図


挿絵(By みてみん)



 【ドゥ―シャー自治区

       セプト半島自治管区セプト半島】


 王都(首都)『アーセン』の外壁の南門より

 南(南南東)へ(直線距離)約200Km。


 気候、温暖。



 ≫≫セプト半島(家の別荘地)≪≪


 北には、イーリス・ヤーブラカ川に繋がる

 全長約200Km幅約3Kmの 『中央運河』


 中央運河に臨む運河専用の小さな港

              『セプト港』


 西、西北西、北西、北北西には、

 全長約18.6Km幅3Kmの  『西運河』


 北北東、北東、東北東には、

 全長約17.1Km幅約3Kmの 『東運河』


 半島の南端にそそり立つ五つに分断された断崖。

 高さ約200m長さ約7.8Kmの

            『セプト南断崖』

 高さ約200m長さ約8.5Kmの

            『セプト東断崖』

 高さ約190m長さ約4.2Kmの

            『セプト西断崖』

 高さ約200m長さ約28.1Kmの

               『西の崖』

 高さ約180m長さ約20.7Kmの

               『東の崖』

 全長約69.3Km


 セプト東断崖とセプト海の間に広がる

           『東セプトビーチ』


 セプト海に臨む東セプトビーチに設置された

         『ポールトスタールィ(古い方の港)

  ※正式な名称はまだ無い※


 セプト西断崖とオクト海の間に広がる

            『セプト小砂丘』


 オクト海に臨むセプト小砂丘に設置された

          『ポールトノーヴァ(新しい方の港)

  ※正式な名称はまだ無い※


 セプト南断崖とセプト海オクト海の間に広がる

            『セプトビーチ』


 セプト南断崖の中央はセプト海とオクト海の

 境界線上に位置する。


 セプトビーチのセプト海とオクト海の

 境界線上最も海寄りの地点が

 セプト半島の最南端。


 セプト半島の最南端より北へ2.8Kmの

 位置に建つ屋敷    『我が家の別荘』

  ※住民達(・・・)は王宮と呼ぶ※


 我が家の別荘を中心に発展成長し続ける

 所有者曰く家の別荘地。


 清潔感漂う白漆喰壁に、

 鮮やかな緑煉瓦屋根の石造りの綺麗な街並み。


 広葉樹や針葉樹や果樹が、

 等間隔に植えられた緑豊かな街路樹の通り。


 何処までも澄み切った

 コバルトブルーの空と海。鮮やかな花。


 家の別荘地の人口は20万人を超え

 ルガキタイル王国独自の呼称を用いた場合、

 二級集落に該当する。

 所有者曰くあくまでも家の別荘地。


 家の別荘地は、

 ルガキタイル王国の領土内にある。

 ルガキタイル王国第四位の人口を誇る。

 別荘地故に正式な名称は無い。

 資源循環型の自然に配慮した造りになっている。

  ※運河を造った時点でかなり怪しい※

 中央大陸スィリディーナに於いて

 最先端の科学工業魔法魔工技術を持っている。

  ※古の大陸ヴェーチノスチの情報無し※

 

 ルシミール王国、歴史の大国ルガキタイル、

 芸術の大国プーシカ王国、サプフィール王国、

 アンバル王国、マルフィール教王国、

 ルゥビーン議長国、アガート共和国の八ヵ国は、

 自治区を個人の所有地だと認めている。


 忍耐の大国シチート王国、

 秩序の大国ラヴーシュカ王国、

 文化の大国シレーム王国、グラナード大公国、

 アクトプラーン・グラナード王国の五ヵ国は、

 自治区を『完全自治(・・)集落』

 一つの国家として認識している。


 家の別荘地は、形式上ドゥ―シャー自治区と

 呼ばれてはいるに過ぎない。



 ≫≫セプト岬≪≪


 東の崖の北の端と西の崖の北の端を

 直線で繋いだその内側セプト半島の

 南に広がるセプト海岸の

 最南端から北へ約3Kmまでの地を

 セプト岬と呼ぶ。


 我が家の別荘は、セプト岬に建っている。

 我が家の別荘は、大国の王宮殿や王城と

 余り代り映えしない気がする。

 


―――――――――――――――――――――――


 ▽▲▽


 季節は春。


 セプト半島の南端セプト岬にはオクト海とセプト海二つの大海から心地良い風が吹く。


 眩しい朝日の降り注ぐ大きな屋敷。大国の国王の宮殿と代り映えしない屋敷に、良く通る青年の声が響いていた。


「父上っ、母上っ。どちらにおいでですかっ」


 そうこの屋敷は、所有者曰く我が家の別荘。トシと言う名のドゥ―シャーのセカンドハウスである。



 ▽▲▽



「こちらでしたか。探しましたよ。父上母上」


「ドル。朝から騒々しいぞ。いったいどうした?」


「お腹が空いたのね。朝食にはまだ少し早いみたいだし、一緒に紅茶でもどうかしら?」


「そ、そうですね。それではお言葉に甘えて、じゃないです。父上母上温室に付いて来て下さい」


「もう子供じゃないんだ。一人で行けるだろう」


「そうよドル。もう可愛いんだから。フフフフフ」


「ち、違います。そうではなくて、ついに咲いたんです。例の花がっ」


「例の花……」


「はい。母上。例の花です」


「どの花だ……」


「父上……。お忘れですか。父上が増やせないかと実験していた花が咲いたんです」


「ふむ。どれの事だ。……あり過ぎていったいどれの事やら」


「どれでも良いんで、温室に付いて来て下さい。エレーナさんも待ってます」



 ▽▲▽



 ドルとローザとトシの三人は、トシが設置した花専用の温室へと移動した。


 温室では、花と草と茸の管理を任されている薬草の世話係エレーナが、淡いターコイズブルー色の花を咲かせる植物の前に置いた椅子に座り真剣な表情で花のスケッチを取っていた。


「おっと、ソーリローザの花が咲きましたか」


「トシ。聞いた事が無い花だわ」


「以前話したと思うのですが……そうですね。折角ですからもう一度話しましょう。ソーリローザは、水深800mから1000mの海底にのみ自生する薔薇科の植物です。この大陸だと一番近い群生地はセクト湾の深海です。古の大陸ヴェーチノスチ(神魔王悠久大陸)では、アクアマリンローズ(水宝の薔薇)と呼ばれています。信じられないかもしれませんが、素材としての価値が非常に高く手に入れる為には最低でも白金貨が一枚は必要になります」


「白金貨一枚もする薔薇の花な訳ね。聞いた事が無いわはずだわ」


「父上っ……。こ、この薔薇の花一輪が白金貨一枚って本当ですかっ」


 ドルは、ソーリローザを指差しながら声を張り上げる。


「違いますよドル様」


 エレーナは、スケッチを取る手を止め、


「花びら一枚が……この薔薇の花びら一枚が」


 ソーリローザの花びらを筆で指し示しながら、


「白金貨一枚以上になるんですよ」


 誇らし気な表情を浮かべ口にした。


「はっ、は、花びら一枚がっ……こ、こ、こここに九輪咲いてるから……」


 ドルは、花びらの枚数を数え始める。


「一輪二十六枚の花びらです。ソーリローザは八重咲きの品種」


「八、九、に、二十六枚ですか」


「はい。ドル様」


「ほえぇ―――」


 ドルは、エレーナから花びらの枚数を聞き、目を見開き間の抜けた声を上げていた。


「ソーリローザは八重咲きの薔薇でしたか。出回っている物は花びらになった物ばかりで、素材全集や素材大百科にも詳しくは載っていませんでした。エレーナさん、ドル、ローザ。これは大発見ですよ」


「トシは、薔薇の図鑑を作るつもりなのかしら」


「図鑑ですか」


「新しい薔薇の花が咲くと必ずエレーナさんにスケッチを取らせているでしょう」


「私もローザ様と同じ事を考えていました。トシ様のお屋敷のお庭や温室には沢山の植物が植えられていますが薔薇科の植物が多いですよね。何か目的とか意味があるのでは無いかとずっと気になっていました」


「そうですねぇ~。薔薇科が多いのは私自身が薔薇の花が好きだからですね。それに、花びら、花粉、蜜、種子、棘、茎、葉、根が薬の素材になってしまう訳です。好き序としては最高じゃないですか。そう思いませんか。……他にも思うところはある訳ですが、とどの詰り私にとって相性が良い」


「そうね。トシと私は相性が良いものね」


 ローザは、笑みを浮かべ嬉しそうに言い切った。


「……まぁ~そう言う事にしておきましょう」


「違わないわよね」


「かもしれませんね」


「ねぇ~」


「……」


「ねぇ~」


「違わないです」


 ローザとトシは、平常運転だ。普段通りじゃれ合っていた。


「……相性ですか。そうですか。つまり、薔薇の図鑑を作る訳ではないのですね」


 エレーナは慣れたものである。若干飽きれていた様にも見えたが、気を引き締めトシに質問した。


「作るかもしれませんがまだまだ先の話ですね。今日のソーリローザで三百八品種目。五百品種は欲しいかな」


「薔薇科の研究を開始してから二年弱で三百品種。来年の冬頃には図鑑が完成してそうな気がするのですが」


「おっ。素晴らしい。そうですか来年の冬には……。エレーナさん頑張りましょう」


「は……い…………」


 ▽▲▽


「ねぇトシ。そろそろ朝焼けの間(ダイニングルーム)に行きませんか」


「ですね。……」


 トシは、ドルの顔を見つめながら微笑を浮かべる。


「我が家には腹を空かせた男の子がいますからね」


「男の子がね」


 ローザもまたドルの顔を見つめながら微笑みを浮かべていた。


「えっと、違いますからね。さっき否定しましたから」


≪グゥ~―――


 ドルの腹の音が鳴る。


「えっと……ち、違わないみたいです」


「ドル様。育ち盛りは食べ盛りなのです。恥ずかしい事なんかじゃありません。健康な証拠なんですから寧ろドンドン鳴らしてください」


「えっと、それはそれで恥ずかしいかと」


「そうよ。エレーナさんの言う通りよ。あっ、でも、いつもグーグーお腹を鳴らしてる男の子って言うのもどうかと思うのよね。満足に食事も与えてない家って思われるのも問題よね」


「ローザ様。流石にこの(いえ)に限って」


 エレーナは、温室の植物を見回してから、トシ、ローザ、ドルへと視線を動かし、


「それは無いかと……」


 そして、最後にもう一度ソーリローザの花々を見つめた。



 ▽▲▽



 エレーナ、ドル、ローザ、トシの四人は、朝食専用の朝焼けの間(ダイニングルーム)へと移動した。


 朝焼けの間では、魔王アフグリエーフ子爵ことカシュちゃん、ルガキタイル王国第一王女ユリヤ、春休みを利用し別荘に滞在中の長女アルマと次男ラズと三男トポが、既にロングテーブルを囲んでいた。


「吾は腹が減り過ぎた。この際だからこのテーブルでも良いかと思うっておる」


「カシュちゃんは、テーブルも食べるのですか」


「これは桜の木だからな余裕だぞ。ラズも一緒に食うか」


「止めておきます。消化する自信はありますが噛み砕き飲み込む自信がありません」


「人間と言うのも大変だな」


「カシュちゃん。普通の人間は木を食べたりしません。それと、昨日の夕食の時みたいに漆塗りの椀も食べたりしませんから」


「おっ。ドドル」


「ドドルじゃなくて、ドルです。いいかげんちゃんと呼んでくださいよ」


「「「お兄様。おはようございます」」」


「ドル様。おはようございます」


「皆、揃ってるみたいですね」


「あら、待たせてしまったみたいね。さぁ~朝食にしましょう」


「「「お父様お母様。おはようございます」」」


「「おはよう」」


「トシ様。ローザ様。おはようございます」


「皆様。おはようございます。新しい花が咲きましたので、ドル様、ローザ様、トシ様を朝早くからお借りしておりました。朝食の時間に遅れてしまい申し訳ございませんでした」


 エレーナは、朝焼けの間に入ると同時に深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。


「クンクンクンクンクンカクンカ…………。エレーナまた薔薇の花の様じゃの。吾は腹が減っている。我儘は言わん食わせてくれ」


 席に座りながら香りを嗅ぎ分けるカシュちゃん。


「だ、ダメですよ。トシ様の研究対象です」


 エレーナは、ブンブンと右手を大きく振る。


「トシの研究対象……か……残念じゃのぉ~。何とも絶妙な塩加減で食欲を大いに刺激する良い香りだと言うに……クンクンクンクンクンカクンカ」


「貴重な薬の素材です。食べちゃダメですよ」


「クンクンクンクンクンカクンカ」


 ▽▲▽


「エレーナさん。ドアの前に立ってないで自分の席に座ってからお話しませんか」


 アルマに話し掛けられ、エレーナはカシュちゃんから視線を放す。


 トシもローザもドルも自分の席に座り、朝食を待つ束の間の時間を楽しんでいた。


「トシ様。新しい花は今回も薔薇の花なのですか」


 エレーナとカシュちゃんの話を聞いてたユリヤは、興味津々な様子でトシに話し掛けた。


「気になりますか」


「はい」


「今回の薔薇はですね」


アクアマリンローズ(水宝の薔薇)じゃろう」


「アク……です。カシュちゃん詳しかったりしませんよね」


「トシ様。カシュちゃん……」


 ロングテーブルをバニラのアイスクリームを舐める様に舐め続けるカシュちゃんを凝視するトシ。


 ユリヤは、そんなトシとカシュちゃんへと何度も交互に視線を動かす。


「詳しいも何も吾の城のローザサート(薔薇園)には、吾の如き煌びやかで優雅なプリンツェッサローザ種が一年を通し咲き乱れておるわ。アクアマリンローズはヴェーチノスチ原産のローザ種で正式な学名はアクヴァマリンローザ。スィリディーナではソーリローザだったかな。清水が如く汚れ無くそして美しい魔力を多く含む湧水と夕焼けの陽光を遮る空間。それと確か16度以下にしない事だったかな」


「カシュちゃんの居城には薔薇園がある……と」


「左様。吾はメタノイア大緑地を統べる者。メタノイアの魔王カチューシャ・ル・アフグリエーフ・ヴィリーキイである。魔王とは、美しくも気高き妖艶なるローザを愛でるもの」


「セクト湾の深海に群生していたのですが何故だか分かりますか」


「海底火山の近くだ。大方イーリス山脈の地下水が熱水となって湧き出しておるのだろう。群生地は熱水噴出孔の傍らにあったであろう」


「……素潜りで、根を痛めないように気を配りながら丁寧に海底から抜いて、左袖に入れたら息が切れる前に海より離脱。一回に二本から三本収穫出来れば良い感じで周囲を観察している余裕はありませんでした」


「人間は不便だのぉ~。あぁ~腹が減ったのじゃぁ~」


≪ペロペロペロペロペロ 


「……」


≪ガブ ゴリゴリゴリ


「あっ、あぁ―――。カシュちゃんっ」


 ドルは、隣の席でロングテーブルを美味しそうに頬彫るカシュちゃんを、またかと言う表情で凝視し、避難混じりに名前を叫んだ。


「うよぉーいたぁ、うみゃいじょ。……ドドルお前も食うか。食前(じゅ)みたいなものだ」





 ▽▲▽


「ねぇトシ。テーブル大理石とか金属製の物に変えた方が良いと思うの」


「ローザの意見に賛成です。四月に入ったばかりだと言うのに20台目です」


「吾としては、チタンやロンズデーライトあたりが良いのぉ~。混ざり物の岩石を刳り貫いただけの物は止めておいた方が良いぞ」


「……一応聞いておきますが、どうしてですか」


「御影石はビヤン・キュイ。大理石はブルー。どちらもそれなり美味いが、チタンは口の中で肉汁がジュワワワァ~と溢れ良い感じに蕩けブルなんだなこれがっ」


「ほう。それで、ロンズデーライトというのは金属ですよね」


「金属だな」


「それはどうなんですか」


「歯ごたえ十分カッチカッチのジャーキーだな。噛めば噛む程に口いっぱいにその旨さが広がり得も言われぬ満足を我に齎す。吾は約束しよう」


「何をですか」


「何をかしら」


「明日の朝焼けの間にロンズデーライトのロングテーブルがセッティングされていた暁には、朝食はロンズデーライトのロングテーブルのみで良い。他は要らぬ。そして、吾の城に咲き乱れる草花をローザサートもろとも全てトシ貴様にくれてやる」


「だからね。カシュちゃん。テーブルは食べ物じゃないの」


「いっ……いいの」


「トシ……」






 ▽▲▽▲▽






 翌日の朝食。食卓には何処で入手したのかロンズデーライトのロングテーブルが並んでいた。

ありがとうございました。

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