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異世界で幸せを手に入れました。  作者: 諏訪弘
プロローグ
23/40

壊滅と捕虜

 2×××年7月27日。魔物の姿等皆無のラザー大草原に歴史の大国ルガキタイルが侵攻を開始した。


 討伐という大義を欠いた侵攻は侵略。ルシミール王国はルガキタイルと近隣諸国へ使者を派遣した。


 歴史の大国ルガキタイルと国境を接する国。忍耐の大国シチート王国とサプフィール王国へは共闘要請。国境を接していない国へは中立要請と休戦交渉の仲介を求めたそうだ。


 2×××年8月2日。近隣諸国から良い返事を貰えぬままルシミール王国と歴史の大国ルガキタイルはラザー大草原で衝突した。


 初回の衝突はルシミール王国に雇われた冒険者と、ルガキタイルに雇われた冒険者達だ。事前の根回しと財政面で勝ったルシミール王国側が前哨戦を白星で飾った。


 2×××年8月3日。国境にルガキタイルの重騎兵団所謂正規軍が姿を表す。正規軍が越境した瞬間、これは正式な戦争として認識される。


 近隣諸国はルガキタイル正規軍とルシミール王国の正式な衝突の結果を待っているようだ。


 こんな状況の中で、国王陛下や軍務卿は顔面蒼白になりながらも気丈に振舞い、ルシミール王国の騎士団や正規軍の士気を上げるべく出陣式を決行した。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 私は、王都の王宮前広場に整列する兵士達を、王族や大貴族達が整列する左側面から見ていた。


「ローザ。戦争にルールが無いのは分かるのですが、どうして正面から迎え撃つ必要があるのですか」


「トシ様。じゃ無くて……トシ。それはですね。騎士道。貴族としての体裁があるからです」


「プライドやメンツを守る為に、10倍もの相手に正面から負けに行くのですか」


「負けると決まった訳ではありません。それに、ルガキタイルも自国の防衛もあるはずですから、動員するのは2分の1か3分の1だと思います」


 仮に2分の1で攻めて来たとして120万人強だ。3分の1でも80万人強。……ルシミール王国は、全軍で迎え撃ったとして、18万4千弱だ。無理があるだろう……考えるんだ私……


「国王陛下。私から提案があります」


「ドゥ―シャー様。式典の最中です。申し訳ありませんが」


「軍務卿。良いではないか。世はドゥ―シャー殿の意見を聞きたい」


「ですが……」


「神務卿。式典でドゥ―シャー殿の発言を規制する決まりはあるのか」


「存在致しません。ドゥ―シャー様は、世界の公の存在。国王陛下と立場を同じくされる御方です」


「ならば、問題あるまい。軍務卿どうなのだ」


「仰せのままに」


「うむ。ドゥ―シャー殿。出陣式が終わり次第、出陣する故手短に頼むぞ」


「はい……」


 手短にですか……


「正面から迎え撃つのは、貴族や騎士の中で、体裁を気にする人達に任せ。勝利し生き残りたい人達は私の指示に従って動いて貰えないでしょうか」


「それはどういう意味なのだっ」


 死にたく無い。何てこの式の場では口が裂けても言ってはいけないだろう。


「ですから、勝利する為です」


「ドゥ―シャー様っ。我等ルシミール王国軍に正々堂々と戦うなと仰るのですか」


「違います。貴族の皆さんや騎士の皆さんは体裁があるでしょうから100万の軍隊に正面からどうぞ。ですが、騎士でも貴族でも無い兵士の皆さんには体裁何てありません。少しでも勝利の可能性を上げる為に動いて貰いたいのです」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 出陣式から30日後の、2×××年9月2日。両軍は、禁断の森②とヤーブラカ南森林を南北に分断するラザー平原南西部で対峙した。


 正々堂々と正面から迎え撃つと主張した軍務卿閣下を始めとする軍閥の貴族や騎士達には、体裁を保って貰う為正面からの突撃の名誉を譲った。私には無駄死にとしか思え無い愚行も彼等には名誉。正面部隊が囮になってくれるのだから実に有難い。


「陛下。ルガキタイル軍は、凡そ140万。我々の9倍以上です」


「そうか……」


「国王陛下も正面から突撃するのですか」


「私は、開戦までの士気の為にいるだけだよ」


 一国の王がこんなくだらない戦争で死んでしまっては問題だ。そんなものなのだろう。


「それで、ドゥ―シャー殿よ。森の中に兵を隠したと聞いたが、それでどうするのだ」


 正面に意識が集中している間に両側面。うまくいけば後方からも攻撃を加える。出来れば夜の闇に紛れ混乱し同士討ちが始まると有難いのだが……


「前後左右4方向から攻撃します」


「我等の方が少ないのだぞ。囲む事は不可能だと思うがのぉ~」


 この国の戦術のレベルは低い様だ。私が子供の頃は近所に必ず身体の大きなガキ大将がいてチャンバラや相撲やプロレスや鬼ごっこや駆けっこやまぁ~色々やった物だ。軍隊ごっこもやったものだ。


 幼少の頃の私達の遊びの方が姑息であり卑劣であり容赦無かった気がする。子供だったからなのだろうか。ガキ大将の勉君が暴力的なだけだったのかもしれないか……勉君。名前が勉強の勉でつとむにも関わらず本当にただの馬鹿野郎だった。私が小学二年生で、近所のガキ大将は中学生に進級したにも関わらず、私達小学生組のリーダーを続け、幼少の私達を顎で使っていた。生きているなら69歳か70歳のはずだ。


「ドゥ―シャー殿。開戦時の名誉を与える故。任せたぞ」


「開戦時の名誉とは……」


 いったい何の話だ。


「トシ。開戦の魔法の事です」


「開戦の魔法ですか」


「迎え撃つ側が、布陣の完成を攻め手に伝え開戦する為の古くからの伝統です」


「何をすれば良いのですか」


「敵陣へ魔法を1撃だけ先制する事が許されています。敵陣の魔法使いはこの攻撃を凌ぎ、以降は次の日の戦闘開始まで魔法は治癒治療魔法以外全て禁止になります」


 何っ……。どうしよう……


「国王陛下。どうしましょう」


「どうしたのだ」


「戦争が始まったら両側面から魔法攻撃する様に指示してるのですが……」


「訓練された兵士達だ。戦争のルール位は弁えておるはずだ。気にせず開戦の魔法を敵陣へ打ち込むと良い」


「……わ、分かりました」


 変なルールばかりで、意味が分から無い。戦争に非人道的だ。非常識だ。と、騒いでいた世界の警察だと自負する国や産業を革命した国が私の世界にも存在したが、戦争を始める時点で非人道的な訳で、武力が抑止の域を超え行使になっている時点でルールは大国の強制押し付けでしか無いと思ってしまうのだが……


「トシ。どうしたのですか」


「あ……いえ。ちょっと考え事をしていました」


「集中してください。これは遊びでは無いのですよ」


「そうですね。守らなくてはいけない人が増えた身です。魔法に集中します。それで、魔法はどんな属性でも良いのでしょうか」


「開戦の挨拶の様な物ですので、通常は最も苦手な属性を敵陣に撃ち込みます」


「苦手な属性ですか……」


 私が苦手な属性……一番新しく覚えた雷属性か。敵陣に雷属性の矢を1本撃ち込んでも開戦の合図だと気付かれ無い可能性がある。全体に雷属性の矢を飛ばす事にしよう。殺傷力の無い乾燥した冬の静電気の様な魔法だ。開戦の挨拶には調度良いだろう。


「それでは、≪グロームストリエラー(雷の矢)≫」


 MP消費は適当で良いだろう。


 雷の様な轟音と稲光の閃光。敵陣の上空に雷雲等1つも無い。だが、上空から無数の雷属性の矢が降り注ぐ。ルガキタイルは大混乱に陥る前に壊滅した。


 それは、早朝に発生した靄による水滴であったり、武器や防具が電気を通しやすい素材であったり、沢山の条件が重なってしまったからだろう。私は悪く無い。……



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 誰1人命を落とす事無く全軍が王都に凱旋した。兵士達が各所属先へ帰還し通常任務に就いたのは、2×××年9月30日。出陣よりも帰還の方が2~3日も迅速だ。この結果には思う所もあったが、一戦も交える事無く十分な体力と気力と食料と空回りする闘争心を帰路に当てたのだろう。


 ローザと私は、ルガキタイルが壊滅すると、全力疾走で自宅に戻り、王国軍が王都に凱旋するまでの期間を、有意義に過ごした。


 戦勝パレードは、功労者が私しかいない為、私の提案で執り行わ無い事で王国は調整してくれた。


 論功行賞の式典も、前哨戦を白星で治めた冒険者や、敵軍を壊滅させた私しかいない為、執り行わ無い事で調整してくれた。


 国王陛下は、私への授爵を考えたそうだ。閣僚からの反対意見が予想以上に大きく諦めたそうだ。まぁ~爵位等貰っても私自身困るだけだと思う。閣僚の閣下達にこれは感謝して良いと思う。


 140万人から回収した武器や防具。そして食料や雑貨類。捕虜の身代金。ルシミール王国は多額の賠償金をルガキタイルに請求出来る。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 我家に国王陛下が妊活の為滞在を開始した。


 この5~7日間は、閣僚級の貴族達や護衛の兵士達が、我家を我が物顔で闊歩する。


 私は、王妃様に早く妊娠して欲しい。心から強く願っていた。そして、この家では私が理想とする日常生活を満喫する事に限界がある。そう考える様に成っていた。


 理由① 王妃様が御懐妊された場合。無事に出産するまでは環境の良い我家で……


 理由② 王妃様が出産された場合。子供がある程度成長するまでは環境の良い我家で……


 理由③ 王妃様が懐妊するまでは、毎月5~7日は王国の中心に我家が……


 理由④ 現状王妃様は常に滞在している。王妃様の使用人や召使や警備の存在は有難い。だが……


 私の思惑により、この地に邸宅を持つに至った。何1つ不自由の無い最高の生活。……果たしてそうだろうかっ。私は生粋の江戸っ子だ。3代以上続く本物だ。言うなれば、こう見えて都会っ子なのだ。



「のぉ~トシ。ローザから聞いたのだが、あの桧葉で出来た浴槽よりも格段に大きな浴槽を考えているそうじゃないか。それが完成した暁には、あの桧葉の浴槽を譲ってはくれないか」


「木製の浴槽愛好家が増えるのは大変喜ばしい事です。王宮に設置するおつもりですか」


「王宮には既にカワチ・アズマ作のフジノユと銘打った大浴場と、カゾクブロと銘打った小型の浴場があってな。カワチ・アズマはな……」


 西(かわち)(あずま)……はて、何処かで聞いた様な……誰だったかな。


「ルシミール王国の貴族階級に入浴の文化を広めた聖人教会の神官でイポーニィ出身だと書かれた文献が1つだけあってな。真偽の程は定かでは無いが、トシの姓ニノマエと響きも似ておる故、文献の内容は正しいのではないかと考える様に成った」


「なるほどぉ~。それで、そのカワチ・アズマはその後どうなったのですか」


「ベリョーザと王都に浴場を設置し他国へ旅立ったそうでな。神官らしい事は何1つしないまま次の町へ移動になったと言われている」


「陛下。風呂の話は公務の後でお願い致します」


「……そうだな。政務卿の言う通りだ。して、何の話だったかな」


「捕虜の引き渡し金です」


「そうであったな。軍務卿。説明せよ」


「畏まりました」


「交換の為の身代金とアドニスでの拘束期間中の食費や経費。総額大白金貨21000枚です」


「捕虜にした兵士達の身代金って凄い金額になるのですね」


「ドゥ―シャー様が、敵兵141万5000人全軍を捕虜にしたからです」


「して、軍務卿。戦利品の集計はどうなっておる」


「まずは食料ですが、捕虜の食料と解放時に渡す食料を差し引きし、保存が難しい物は商人ギルドに売却しました。捕虜に与えた食料と解放時に渡す食料と水の代金は身代金に合算してあります」


「ふむ」


「武器や防具等の軍事物資ですが、これもまた商人ギルドに売却しました。貴重な装備品や装飾品に関しましてはオークション或いは返却要請に合わせ請求金額を打ち合わせする事になっています」


「軍務卿閣下。賠償請求の交渉を進めていないと外務卿閣下から聞きました」


「政務卿閣下。賠償請求等出来るはずがありません」


「我々の大勝利なのですぞ」


「ルガキタイル本国には、捕虜と同数近い兵士が余力として存在します。重騎兵隊や魔導士部隊の主力部隊がそのまま温存されているのです。それにこの度の大勝利でルガキタイルは多額の身代金を支払う事になります。身代金の支払いは一括がルールです。追い詰め過ぎは回避すべきと考えます。年末年始に衝突する可能性を我等が高める必要はありますまい」


「主力部隊が攻め込んで来たとしてルガキタイルに何が出来る。ルシミール王国にはドゥ―シャー様がおられるのだぞ。次も魔法で全て捕虜にしてしまえば良い」


「政務卿」


「はっ。陛下」


「此度の戦の功労者は誰だと思う」


「勿論、ドゥ―シャー様です」


「その通りだ。だが、此度、出兵したのは誰でどれだけの兵士が動員されたか知っておるか」


「王都、州都、各集落から領主始め貴族、騎士でしょうか」


「兵士以外の従軍者を合わせると、約20万人だ。分かるか。この20万人に参加賞が必要だ。大勝利に終わったが誰も手柄を立てていない。だが出兵した事実は残る。王国から支払われる金銭は経費のみだ。皆今回の戦で回収したのは経費に少しばかりの色だけだ。王国は捕虜の交換費用や押収品の売却利益の半分を諸侯より税金として回収出来る。それ故、黒字が大きい。だが功績の無い者に褒美を与えるのは難しい」


「何の功績も無い者に褒美を与える等持っての他でございます」


「政務卿の申す通りだ。此度の王国の黒字の立役者はドゥ―シャー殿唯一人。取り分は王国とドゥ―シャー殿だけ。しかも、論功行賞等する必要も無い。1人だけなのだからな」


「は、はぁ~」


「授爵に反対されたからには、相応の金か名誉を与えるしかない。だが、ドゥ―シャー殿に今更金を与えても意味が無い。ルシミール王国に爵位を持たぬドゥ―シャー殿に名誉を与えたところで何の意味も無い。こんな大勝利の結果だ。ルガキタイルがまた攻め込んで来た時に、諸侯やドゥ―シャー殿はどの様に対応するか見ものだぞ」


「陛下の命令は絶対です」


「世の命令に、ドゥ―シャー殿が従う必要は無い」


「確かにそうですが……ドゥ―シャー殿はルシミール王家に縁を持つ身です」


『ダーン』


 我家の大広間の扉を乱暴に開ける粗暴な奴が……壊れるじゃないか。急いでる時こそ冷静になるべきだ。全く……


「申し上げます」


「国王陛下の御前であるぞ。何事かっ」


「国王陛下。軍務卿閣下。ルガキタイルがシチート王国とサプフィール王国の連合軍の攻撃を受け旧王都現在の首都アーセンが包囲され陥落寸前との連絡が入りました」


「何と……陛下。我々も兵を出陣させるべきです」


「政務卿。そんな余裕は我が国には無い。お主がそれを一番良く知っておるだろうぉ~」


「くっ……絶好の好機を……」


「申し上げます」


「次は何だっ」


「ルガキタイル王家より魔法書簡が送られて来ました」


「王家だと……10年近く経つが生かされていたのか……」


「軍務卿閣下。王家の魔法書簡なのか真偽する必要がありますな」


「あぁ~政務卿閣下よ。直ぐに調べさせよう」


 本物か偽物かの前に、内容を……まっ、私には関係無いか。

宜しくお願いします。

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