焦らずゆったりのんびり
宜しくお願いします。
2×××年7月24日。今日は、私一 十四の四十九日に当たる日のはずだ。
成仏出来なかった。お迎えは来てくれなかった。そして、この事が、私を一つの確信へと導いた。
…………私自身の成仏のタイミングは私自身の手に委ねられている。…………
とっ。……
成仏は躍起になってする事では無い。未練があって何が悪い。誰かに迷惑を掛けている訳でも無い。何故なら、この国には日本で生活していた頃の友人知人裏切り者達や元同僚偽者の家族はいないのだ。
いるのは、何故だか分からないが結婚するにまで発展し一緒に暮らしているローザ姫様とその家族。穏やかで優しい家族。知性と教養に溢れる家族。絵に描いた様な家族。……と、その他大勢。
何もしていないと神様女神様仏様に叱責される事は避けたい。良い按配でドゥ―シャー関連の調査を進め成仏のタイミングを調整する。私としては、この期間をローザ姫様が神の下へ旅立つ1分後~1日位で調整したいと考えている。
成仏に早いも遅いも無い。どれだけ未練を残さず成仏出来るかが重要だ。これは本人の問題であって、強制される事では無いと考えた。
幸いな事に私はドゥ―シャーと呼ばれる最高位のヒーラーだ。生き返られせる事は無理だと思うが延命ならある程度は可能だ。
私は、この国で未練を絶ってから成仏する事を決意する。
2×××年7月24日。私こと、一 十四は、トシ・ル・ルシミールとしてこの国に居座る事にした。
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魔剣エクスの調査は何も進めていない。
遺跡の調査も進展していない。
湯船の性能向上と国王陛下と王妃様の世継ぎ計画、所謂妊活は環境や周期。考え得るあらゆる事項を熟考した結果。
「王都では子供は出来無い」と、私は無理矢理結論付けた。
国王陛下や軍務卿閣下や冒険者ギルドのギルドマスターや沢山の人達と協議はしなかったが、ルシミール湖の畔に屋敷を構えさせる事に成功した。
屋敷の家主は私だ。私は労せずしてルシミール王国に屋敷を手に入れた。一番近くの街『王都』から170Km程離れた場所に……
屋敷は、湖に面し森に囲まれ……大自然の中のただの大きな家な訳だが、一応高さ3mの壁に囲まれ、湖側のプライベートビーチと南北のゲートには王国軍が配備され、建物の周囲は定期的に冒険者達が警備する。高性能なセキュリティーハウスだ。
王妃様と侍女召使警護の者達が、私の家に滞在する様になってから10日が過ぎた。
周期計算のおかげで国王陛下が、次に滞在するのはたぶん来月の14日頃になるだろう。長くても7日間程の滞在として、暫くは気楽な日々を送れそうだ。
世田谷区に居を構えていた私にとっては何かと不便な立地条件だが、大自然の中の環境だけは素晴らしいこの高性能なセキュリティーと、タダで手足の如く働いてくれる召使達。何よりタダの家。非の打ち所がない。
「トシ様ぁ~ …… トシ様ぁ~ ……」
口の字型の屋敷の中央に造られた噴水付きの花花花、花達に占拠された中庭の寄棟造の建物、俗に言う東屋で真昼間からゴロゴロしながら麦茶を飲んでいると、誰かが私を呼ぶ声が聞こえて来た。
「こちらにいらしたのですね」
確か、王妃様のメイドで、イクラトカエさんだったかな……
「どうかしましたか」
「王妃様がお呼びです」
「何かあったのですか」
「お忘れになられたのですか。国王陛下が王都にお戻りになられたら、王妃様に回復魔法を教える事になっていたはずですよ」
おぉ……そうだった。私が不在の時に万が一の事があっては大変だ。王妃様自身にヒールを覚えていただこうと画策した事を忘れていた。
回復魔法には、無属性、土属性、水属性、火属性、風属性、光属性、聖属性。それと、闇属性の物がある。あるとは言っても、ヒールやキュアを扱える訳では無く、夫々の属性に合わせた簡易微弱回復魔法なのだが、それでも無いよりはましだ。
私は、王妃様のステータスを触診と称して接触時に何度も確認していた。
「室内よりも、水の流れや、草花に囲まれた中庭の方が学ぶ環境に良いと思います。王妃様に中庭までお願いしますとお伝えください」
「畏まりました」
私はだらけている訳では無い。決して無い。
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「トシ殿。本当に回復魔法を覚える事が出来るのでしょうか」
「トシ様。魔法やスキルは、生まれた時に最初から持っている刻魂型と、JOBを磨き身に付ける不定型によって所持する物なのですよ。トシ様の様に書物や巻物を読んで覚えられる物では無いのですが……」
「折角です。ローザ姫様も一緒に勉強しましょう」
「わ、私もですか」
興味があるから、ここに来たと思うだが……違うのか……
「見てるだけでは面白く無いと思いますよ」
「そ、そうですね。私も折角ですから、御一緒します」
屈託の無い眩しい笑顔だ。……見てると癒される。
「あらあら、仲が良くて羨ましいわぁ~」
何時嫌われるかと内心ビクビクしているのだが、そう見えるのであればそれはそれで嬉しい物だ。
「始めましょう」
「あら、相変わらず反応が薄いわね。トシ殿は、ローザを少しは見習ったらどう。この位反応してくれた方が楽しいわ」
でしょうね。……しかしこの娘は、遊ばれている事を学習出来無いのだろうか。見ていて面白いから良いのだが……たまに可哀想に思えてしょうが無い。人が好いと言うか正直過ぎる気がする。まっ、私が1分~1日。長く生きれば良いだけだ。……私もお人好しだな。
花に囲まれ、お花畑にトリップする御姫様か……素晴らしいお花畑をスキップしてるのだろうな。関わらないでおこう。触るな触れるなで行こう。
「王妃様。握手をする感じで、私の両手に手を乗せてください」
「はい」
腕時計の右側のボタンは一度押すと、視界から文字が消えても待機モードになっている様で、何度も押す必要が無い。
視界の右下ギリギリの所に腕時計を付けた天使様のロゴがある事に気付いた私は、ロゴをクリックしようとしたが上手く触る事が出来ず色々試した。
右目の視線でロゴを捉え視界中央にスライドさせると、腕時計の右側のボタンを押した時と全く同じ文字が視界に浮かび上がる事を知った。
そして、浮かび上がった文字もまた、中央にスライドさせると、クリックした時と同じ状況になる事を知った。
何も無い宙を一心不乱に押し続ける行為は、酒に酔い見えざる悪と戦うゾンビ達に重なる点が多い。人目を避け【☆UP☆】を確認する難しさ。
そう私は、この国ではドゥ―シャー。外を歩くだけで笑顔で挨拶して貰える。奇人変人の類に数えられたく無い。ローザ姫様や家族に迷惑をかけたく無い。
【☆接続☆】を中央にスライドさせ、王妃様の情報を視界に展開する。
【☆能力☆】と【☆状態☆】を中央にスライドさる。
2つを選択しスライドさせる事で2つの情報を視界に展開出来る事も新たに覚えていた。
杖 戦技 D ☆☆☆★★★★★★★
羞月閉花 A ☆☆★★★★★★★★
※他からターゲットされ難く成る※
土 魔法 E ☆★★★★★★★★★
水 魔法 D ☆☆★★★★★★★★
【アゴスマ】☆1(☆解放☆)
※体力回復魔法※
風 魔法 F ☆☆☆☆☆☆★★★★
【イコチル】☆1(☆解放☆)
※状態回復魔法※
≪記憶済魔法≫
【オーショード】☆1(☆解放不可☆)
※解放条件:水魔法&火魔法※
【キュア】☆1(☆解放不可☆)
※解放条件:聖魔法※
【ヒール】☆1(☆解放不可☆)
※解放条件:聖魔法※
レベル6
HP58 MP90
攻撃力 F ☆★★★★★★★★★★
魔力 E ☆☆★★★★★★★★★
防御力 F ☆☆★★★★★★★★★
魔耐性 E ☆★★★★★★★★★★
速度 E ☆★★★★★★★★★★
幸運 E ☆☆☆☆★★★★★★★
習得ポイント60
おっ。アゴスマとイコチルをちゃんと勉強していた様だ。記憶が完了している様だ。国王陛下に渡したオーシュードの魔法式と魔力変換式まで暗記している様だ。可哀想に……適正が不足し解放は出来ない様だがな。
習得ポイントは60。王妃様良かったですね。アゴスマもイコチルも解放に30ポイント消費します。
【☆YES☆】をセンターにスライドし決定した。
「あぁっ……私無性に魔法を使いたい気分です。身体が疼いて……あぁぁ―――」
「身体が魔法を試し打ちしたい衝動に駆り立てられているのは、王妃様がアゴスマとイコチルを使える様になったからです」
「えええぇぇぇ―――……叔母上様はトシ様に両手を触れられていただけですよ」
「習得済の魔法の知識が、属性やレベルの条件をクリアしていたので、私の力で知識を扱える様に解放しました。勿論、条件は他にもありますが、今回は簡単に解放する事が出来ました」
「トシ様は……ドゥ―シャー様はそんな事も出来るのですね」
「家族の秘密です」
「は、はい。私は私は知識の解放は出来そうですかっ」
ローザ姫様は、興奮した状態にある様だが、必死に自分を抑えながら両手を伸ばす。
「確認してみましょう」
私は、差し出された白くしなやかな手を取り、視界中央にスライドさせた。
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「これで二人とも回復魔法が使える様になった訳ですが……ローザ姫様聞いてますか」
「私は、イコチルを覚えられませんでした……」
ちゃんと記憶していなかった。つまり勉強不足だ。流石に記憶の習得が済んでいない魔法を解放する事は私にも無理だった。
「今度、覚えましょう」
「は、はい……」
「さて、王妃様。私にアゴスマを施してください」
「回復したかどうか分かりませんよ」
「なので、こうします」
『シュッ』
右袖から取り出した短剣で迷う事無く右の親指を切る。
意外に綺麗な血が飛び散る物だな。
「さぁ~王妃様。私を優しく治療してください」
「優しくですか……」
「はい、出来れば優しい方が嬉しいです」
「分かりました。≪アゴスマ≫」
短剣で切り付けた親指の傷が少しだけ回復し、血の勢いが穏やかに成った。
「体力回復の魔法であって、傷口の治癒魔法では無いので、こんな感じ何だと思います。使い続けレベルが上がると効果が高くなるかもしれませんが、今はこんな感じです」
「ヒーラーでも無い私が治癒魔法を使える様に……」
王妃様は何だかとっても嬉しそうだ。そっとしておこう。
「トシ様。私も試したいです」
この右手にそのままで良いか。……止血した訳じゃ無いし。
「ローザ姫様。それでは、王妃様と協力して私の指の出血を完全に止めてください」
「お任せください。≪アゴスマ≫」
指は完全に止血する事は無かったが、傷口を瘡蓋が数ヶ所出来ていた。
「出来ましたね」
「は、はぁいっ……うぅぅぅ」
「どうしたんですか」
王妃様もローザ姫様も何か様子がおかしい。
「聖属性ではありませんが、治癒魔法が扱える立派なヒーラーの仲間入りを果たしたんです。この国に生まれた者なら、ヒーラーに誰もが憧れ成りたいと願うのでしゅ。私のJOBは、スモールソード剣士ですが今日からはヒーラーでもありましゅ」
涙を流しながら説明してくれなくても良いのだが……まぁ~気持ちは有難い。ありがとう……
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水属性のオーシュードの魔法は、知識として習得したからと言って簡単に解放し使える様に成る訳では無い。
私がルシミール王国に渡した魔法式や魔力変換方式。
王国は、王立魔法研究所や王立魔導具研究所で解析を重ね。オーシュードを使える者も準ヒーラーと認める事を発表した。
水魔法と火魔法。反発する属性を持って生まれて来る人は少無い。使える人が少ないレア魔法の1つとして語り継がれる事になるだろう。
人には無理でも魔導具となると話は別だ。お湯を生み出す魔導具の開発は開始と同時に完成した。水を熱で温めお湯にする魔導具の開発は世界各国で行われていたが、どの国も成功するに至っていなかった。
1つの魔導具で、水を発生させそれを温めお湯にして放出する。魔力の世界では、優位属性の水魔法が、劣位属性の火魔法を無効化してしまい。水を温める為には倍以上の火魔法の発動が必要となる。魔導具にそれは危険でしかなかった。
私が王国に開示した熱い水の魔法は、熱いだけで水魔法だ。水魔法を発動させるだけの魔導具を開発するのに時間は必要無い。温度調整を可能にする機能があるのか、100℃近い熱湯しか出ないのか、多種多様な熱い水が出る魔導具が開発されルシミール王国から世界中に販売された。
話では、魔法特許は100年間守られる。熱い水の魔導具を1台製造すると、魔法特許使用料銀貨2枚。製造後には厳しい?検査が待っている。魔導具は各国が其々国単位で管理している。魔導具として登録する時に特許料が銀貨2枚。国によるが登録手数料がかかる。
ルシミール王国は、この熱い水の魔導具を世界各国に先駆け販売した。魔法特許使用料もルシミール王国の魔法研究所に集められ、70%が王国の財源として処理され。30%が私へと処理される。
毎月7日に魔法研究所が冒険者ギルドに依頼し私にお金を届ける事になっている。つまり、来月の8月7日からだ。先日、国王陛下から聞いた話だが、初回は誰も持ってい無い故に大白金貨1万2000~1万5000枚。日本円で、約2400億円~3000億円を私は得るだろう……
私は、魔法特許を【☆再構築☆】で更に生み出す事にした。お金になるからでは無い。生活が豊かになるからだ。これはとても重要な事だ。
ありがとうございました。




