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メモリー・リブート  作者: 愛生 佑城
第一章
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第二話 『いつか忘れるものだとしても』前編

第二話に入ります。

今回から新たな人物が加わります。

 諸星、もとい真白と打ち解けた翌日。

「じゃあいってきます!」

「おう!」

 普段通り、七時ちょうどに家を出て学校に向かう。

 今日もいい天気。いつもと同じ制服に身を包み、いつもと同じ駅に向かう。

 そして、目の前にはいつもと違う光景。

「おはよう!」

 満面の笑みを浮かべる真白。

「待っててくれたのか?」

 訊くと、焦ったような顔になった。

「い、今来たところだから!」

 これは、結構待っててくれたみたいだな。

「僕はいつもこの時間に出るから、そんな早く来てもらわなくてもいいぞ。もしくは僕が迎えに行ってもいい」

「だ、だから、本当に今来たところだってば!」

 そうやって、いつもと違う日常が始まろうとしていた。




 こういうことは教室では内緒、的な展開になる、と思いきやそうではないみたいだ。

「誕生日は?」

「七月三十日」

「血液型は?」

「O型」

「得意な科目は?」

「数学」

「えーと、えーと」

 教室に着き、席に座るなり、僕の机に両肘をついて質問攻めである。普段はそれぞれの話で騒がしくしているクラスメートもこちらに注目している。

「それから」

「なあ、諸星」

「真白って呼んでって昨日言ったでしょ?紘幸君」

 その言葉にざわつくクラスメート。焦る僕。

 この子には羞恥心というものがないのか。僕は恥ずかしすぎて死にたいくらいだ。

「なあ、もう少し周りを見て」

「他の人なんて関係ないでしょ?私は今、紘幸君と話をしてる。ただそれだけでしょ。いつも他の人はそれぞれの会話をしているのに、私たちはしちゃいけないの?」

 何とも反論しづらい物言いで困る。最初、僕の方から詰め寄っておいてこんなことを言うのもなんだが、この状況は非常に恥ずかしい。

「ごめん。ちょっとトイレに行ってくる」

 できうる限り愛想良くそう告げ、席を立った。

「そう?行ってらっしゃい」

 笑ってはいるが、少し寂しそう。そんな目で見ないでくれ。後ろ髪を引かれるだろ。

 真白に、そして周りのクラスメートにも見られながら教室を出た。

 はぁ、彼女と仲良くなれたのはいいが、クラスメートたちの視線に慣れる努力もしないとな。

「月山君よう!」

「うわあっ!」

 急に背後から声をかけられ、肩に手を回されて驚いてしまう。右隣りを見てみると男子生徒がいた。

「誰?」

「いきなりご挨拶だな。クラスメートじゃないか」

「生憎僕には友達と呼べる人がいない。クラスメートと言えど名前を認識している人はほとんどいないんだ」

「あの諸星真白とは仲良さげなのに?」

 この言葉に一気に顔が熱くなる。

「あれは、訳あって」

「その訳とやらも気になるが、一旦置いておこう。俺は黒沢陸くろさわ りく。よろしくな!」

 明るい自己紹介。こいつ、友達がすぐできるタイプだな。羨ましい。それに、こんな僕をよろしくしてくれるらしい。ありがたい。

「僕は月山紘幸。よろしく」

「ああ。知ってるさ!前から諸星にアプローチしてたもんな!想いが実を結んで、それはそれはおめでたいことじゃないか!」

「ちょっと待って。何か勘違いしてないか?」

「え?付き合ってるんじゃないの?」

 やっぱりかー!そういう勘違いされると思って恐れてたのに!

「違う違う!僕らはただ友達に!」

 と、ここで昨日の真白の言葉を思い出した。

『そんな安っぽい関係はいらない。私たちは「親友」。そういうことにしない?』

 ただ、これをありのまま伝えるのか?

「どうした?」

 僕の顔を覗き込んでくる黒沢。

「い、いや!」

「ま、別にお前らがどういう関係か何ていいんだ。あ、少しは興味あるけど」

「じゃあ、何が目的で話しかけてきたんだ?」

「んー。友達になりたいって言うのが目的と言えば目的なんだけど、それ以上の目的がありまして」

「ほお?聞こうか」

「んじゃ、言うぞ?」

 黒沢は、周りを見渡し、誰もいないことを確認してから口を開いた。

「諸星ってもしかして、<メモリー・リブート>なのか?」

 驚いた。

 驚きで声が出なかった。

 何でこいつがそんなことを。

「あ?やっぱり?」

「何で知って…」

「あー、うん。ちょっとね。諸星の様子を見ていて思い当たる節があって」

 複雑そうな顔で言う黒沢。何かあったのか?そう思ったのも束の間。すぐにさっきの調子に戻って、

「あのタイプのこと仲良くなるなんて、お前ただものじゃないな?」

「ただものだよ」

 親父のことを考えるとそうも言い難いが。

「いや、ただものじゃないね。だってお前、月山精神科医療センターの院長の息子だろ?」

「いや、何で知ってるんだよ!?」

 僕この学校では真白以外に言ったことないよ?

 僕の問いに、黒沢はニヤリと笑って答えた。

「俺、実は個人的に<メモリー・リブート>について調べているんだ。何と幸運なことに、この地域にはその第一発見者がいる!ともなればその人についてまず調べてみるほかない!と、そこでお前の存在を知ったのさ」

「いろいろ端折られてる気はするけど、まあいいか」

「というわけで!今日お前ん家行っていい!?もしくは病院!」

 グイグイと詰め寄ってくる黒沢。

「い、いいけど、親父と会える保証はないぞ!あれでも忙しそうにしてるんだから!」

「それならそれでいい!」

 いや、良くないだろ!何しに行くんだよ!

「とりあえず行くからな!放課後、俺を置いて帰るなよ!」

 そう言い残して教室の中へ入っていった。目がマジだった。

 そして、教室にいる真白と目が合った。

(そこで何やってるの?早く戻ってきて)

 そう言われている気がした。




 昼休み。僕は普段とは違う場所にいた。屋上に出る扉のすぐ前だ。

 何故僕がここにいるかと言うと、話は十分前に遡る。


『紘幸君。お昼ごはんご一緒していい?』

『え!?』

『そんなに驚かなくても…』

『こんな教室のど真ん中で男女が一緒にメシとか』

『私とじゃ、ダメ?』

『わ、分かった!とりあえず場所変えよう!』


 というわけでここに来た。

 あの時点でクラスメートの注目を浴びまくっていたからな。あの場で食べようものなら本格的に精神がやられるところだった。

「ところで、あの男の子と何の話をしていたの?」

 さっきのことか。思いっきり目が合っていたから、訊かれるかもとは思ったが、果たして真白の病気のことを話していたと、本人に言っていいものか。

「別に大したことは……僕と友達になりたいのだそうだ」

 適当にごまかしておいた。まあ、嘘は言っていない。

「そう……よかったじゃない」

 少し寂しそうに見える横顔。箸の動きもゆっくりになった。

 僕も鈍感ではない。自分で言うのも何だが、僕が離れていくのではないかと恐れているのだろう。真白にとって親しい人は、同級生の中では僕だけだから。

「大丈夫。他に友達ができても僕はお前の元を離れないから」

「別にそんなこと考えてないよ!」

「いや、寂しそうな顔してたから」

「寂しくなんか、ないよ…。紘幸君は、私のこと見捨てたりはしないでしょ…」

 後半はぼそぼそと言っていたので聞き取れなかったが、どうやら寂しくはないらしい。

「そういえば、僕以外の生徒はお前が<メモリー・リブート>ってこと知らないんだよな?」

「知らないと思うけど」

「知られたくないのか?」

「別にそういうわけじゃないけど。親しくない人に個人情報知られてたら気持ち悪いと思わない?」

 ごもっとも。

「じゃあ、親しくなったら知られてもいいと?」

「まあ、そうだね。逆に知っといてもらわないと困るよ。そもそも、紘幸君以外に私と親しくなりたいって言ってくれる人がいるのかな」

 クスクスと笑いながら寂しいことを言う。自虐ネタなのか?笑えばいいのか?

「あ、あはは…」

 中途半端なまま結論を出してしまい、苦笑いになってしまった。

「それより私は、あなたのことをもっと知りたいな」

「今日は朝から質問攻めだったな」

「いや?」

「そうじゃないけど、僕はお前のことももっと知りたいかな」

「いいよ。何が訊きたい?」

「じゃあ、朝僕に訊いてきた順番に。誕生日は?」

 訊くと、真白の表情が曇った。

「ごめんなさい。分からないの」

「分からない?」

「私が捨て子なのはお父さんから聞いてる?」

「ああ」

「そこにね、手紙が置いてあったらしいんだけど、私の誕生日は書かれていなかったらしいの。ただ、お父さんが検査をしてくれて、七月一日から十七日の間っていうのは分かってる」

「そっか……じゃあ、血液型は?」

「それははっきりしている。あなたと同じO型」

 今度は寂しそうな笑顔ではなく、本当の意味で笑っているようだ。

「じゃあ、好きな科目は?」

「それも同じ。数学」

「じゃあ……将来の夢は?」

「それ私訊いたっけ?」

「オリジナル。で、どう?」

 訊くと、真白は顎に人差し指を当てて、

「うーん。正直考えたことないかな。私、こんなだからね、病院から一生出られないと思うんだ。だから、夢とか持っちゃいけないんじゃないか、って。高校に通っているのも、最低限普通の子のような生活を送りたいって私のわがままだから。大学は行くつもりないしね」

 また寂しそうに笑う。

「別にそんなことないだろ」

「え?」

「お前は高校に通えてるんだ。だったら仕事だって、やりたいことできるだろ。自分の状況をそこまで悲観することない」

「……ありがとう。なんか安心するね。紘幸君にそう言ってもらえると。紘幸君は、夢あるの?」

「こんなこと言っておいてなんだけど、僕もない。まだよく分からないからね」

「何それ……」

 ぷくっと頬を膨らませ、ジト目で見てくる真白を見て、僕は思わず、

「ぷっ……あっはははは!」

 笑いだしてしまった。

「ど、どうして笑うの!?」

「いやぁ、昨日までのお前と何もかも違うように見えてな。物静かなやつかと思ったけど、案外感情が出やすいタイプなんだな」

「そうだね。私も初めて知った。これも、紘幸君のおかげかもね」

 そう言って、今度は心の底から笑っているようだった。




 その後も他愛のない話をしながら昼休みを過ごした。教室のように周りに気を遣う必要もないから心の底から楽しかった。初めて五時間目に遅れそうになったよ。

 そんなこんなで放課後。

「紘幸君!帰ろう!」

 何ともまあ、嬉しそうに駆け寄ってくる。かく言う僕も、ホームルームが終わってすぐに来てくれるのは嬉しく思う。

「ああ」

 バッグを持って立ち上がり、教室を出ようとした、その時だった。

「おーい!月山!」

 聞き覚えのある声だ。

「黒沢」

「おいおい、何帰ろうとしてるんだ?俺との約束忘れたか?」

「病院まで来るものだと思ってたよ」

「お前も行くんだろ?だったら一緒に行こうぜ?」

 僕は視線を横に向け、真白の方を見た。

「私は、構わないけど」

 何となく不服そうだったが、約束は約束だしな。

「分かった。どうせお前の目的は親父なんだろ?ついて来いよ」

「おう!」

 こうして、僕たちは三人で学校を後にした。




 黒沢は明るいやつで、お喋りだから、帰り道も会話が絶えないのだろう。そう思っていたのだが、黒沢は僕たちの三歩後ろという距離を保って歩いていた。ニコニコ笑いながら。

 俺はお前のお父さんに会うのが目的だから、お二人さんはいつも通りの帰り道を楽しんでくれ!

 そんなことを言われても気になって仕方がない。いつも通りって言っても今日で二日目だし。真白も黒沢の様子が気になるらしい。

「どうした?諸星」

「あ、いや、あの……」

 一歩僕の方に近づいて、僕の制服の裾をきゅっと掴む。僕の時には見せなかった反応だ。怖がってるのか?

「あらぁ、可愛い反応だこと。いいわねぇ、若いって」

「キモイ喋り方するな。若いって何だよ。同級生じゃないか」

 横には不安そうな顔で黒沢に背中を向ける真白。

 後ろには依然としてニコニコ顔でついてくる黒沢。

 僕はどうしたらいいんだ?

 その後、電車に乗っても、電車から降りても、黒沢は僕たちから一定の距離を置いて観察しているように見えた。不気味な奴だ。

「じゃ、じゃあ、また明日ね。紘幸君。それと……」

 困り顔で目線を黒沢に向ける真白。それに応えるように黒沢も笑顔で手を振る。そして、逃げるように病院へ入っていった。

「何だよあれ。怖がってたじゃないか」

「そうか?悪いことしたな」

「観察するように後ろから見やがって」

「え?だって観察してたもん」

「え!?」

 サラッと衝撃的なことを言われた。え?本当に観察してたの?

「今更?<メモリー・リブート>の人の生態を探るのが、今の俺の研究テーマ」

「あいつはお前の検体じゃないぞ」

「分かってるよ。手荒な真似はしない。んで?お前ん家どこよ?」

「そこ」

 僕は病院の隣りの自宅を指さす。

「あら、近くだこと」

「だからその喋り方やめろよ。親父いるか分からないぞ」

「いいよ、とりあえず上がらせてくれ」

「図々しいやつ……」

 僕は玄関の鍵を開け、扉を開ける。

「どうぞ」

「おっじゃましまーす!」

 考えてみれば、同級生が家に来るのは初めてか。それがまさかこいつとはな。

 靴を脱ぎ、入ってすぐ左にある階段へ。

「こっち、親父の研究室だから」

「すげー!地下室があるのか!?」

 黒沢、地下室に驚く。まあ、地下がある家は珍しいか。

「親父いるか?」

 扉を開け、中を見渡す。機械音だけが静かに鳴っている。いないのか?そう思ったのだが、

「月山。あれ」

 黒沢が指をさした方向を見てみると、ハンモックが揺れていた。

 あれは親父が昼寝をする時によく使うものだ。もう夕方だというのに。

 僕たちはハンモックに近づき、その上で寝ている親父を見つけた。

「親父。ただいま」

「ん……」

 ぐっすりだ。

「おーい!」

「……」

 起きない。こうなったら。

 僕は近くの机の上に置いてある時計と耳栓を手に取った。

「ん」

「な、何?」

「今からこれ鳴らすから、耳栓」

「そんなにうるさいのか?」

「なかなか起きない親父用に改造したやつだから。爆音だぞ」

 お互いに耳栓を付け、アラームを設定する。

「よし。鳴らすか」

 僕はゆっくり長針を回す。

 カチッ。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「うおわっ!!!!」

 親父が起きたのを確認してアラームを止める。

「よっ、ただいま」

「俺は今、意識が逝きかけたぞ……」

「三途の川からおかえり」

「くぅ……目覚めが悪い。お?そいつは?」

 親父は僕の後ろで耳を押さえている黒沢を見て訊いてきた。

「ああ、お客さんだ。親父に会いたいんだとさ」

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