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メモリー・リブート  作者: 愛生 佑城
第一章
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第四話 『名残惜しさを感じるほど幸せだったよ』前編

 勢いよく飛び出したはいいもののまるで見当がつかない。電話をかけてみたけど、ケータイを病室に置きっぱなしにしているのか繋がらなかった。

「とりあえず駅に行ってみるか」

 真白は学校以外ではほとんど病院にいる。だから、真白の知っているところは限られる。そんなに遠いところや知らないところには行けないはず。

 僕は真白と行ったことのある場所を辿ることにした。

 平日は毎日真白と歩く道。駅に続くこの道は少し下り坂になっている。僕は初めてこの道を走った。下り坂は足を踏み出したときにやたら負荷がかかる。普段から運動をあまりしない僕には少しきつかったが、そんなことあまり気にならないくらい真白のことが気がかりだった。

 途中、脇道はあるが僕は通ったことが無いし、多分真白も通ったことがない。だから一旦真っすぐ駅に向かう。

「はぁはぁ……」

 息を切らしながらも駅に着いた。普段はここから電車に乗って学校に行くし、一度バスに乗ってショッピングモールに行った。

 あたりを見渡す。サラリーマンや買い物袋を持った主婦、学校帰りの学生など、人は多い。でも真白らしき人はいない。

「どっちに行こうか……」

 とりあえす行く頻度の多い学校に行ってみよう。時刻表を確認し、時計を見てみると、都合よく三分後に学校方面に行く電車が出る。電車で二十分。駅から学校まで歩いて十分。片道だけで三十分はかかる。もしいなかったらかなりのタイムロスになってしまうが、仕方ない。

 五時間という時間は長いようですぐだ。




 学校の最寄り駅に着いた。ここから学校までも脇道はある。だが、僕と通学し始める以前は病院のスタッフや親父に送り迎えをしてもらっていたらしいし、僕といる時も通ったことがないから、これらを通っているとは考え難い。

 そうは思いつつ、覗き込む程度に脇道を一つ一つ確認しながら進む。ほとんどは家があるだけの細い道。やはりそれらしい姿は見当たらない。

 正門前まで来た。グラウンドや体育館からは熱心に部活に打ち込む生徒たちの声が聞こえる。もうすぐ完全下校の時間だ。

 僕はとりあえず教室に行ってみることにした。

 下駄箱で靴を履き替える。

「待てよ?」

 中にいるなら、真白の靴があるんじゃないか?

 そう思い真白の下駄箱を確認。そこには上履きがあった。「諸星」と書かれているので間違いない。

「中にはいないか」

 まだ生徒も先生も大勢いるし、あいつの性格上土足で上がるとも考えにくい。

 僕は踵を返し、学校の敷地内で土足で行ける場所を探した。

 体育館裏。校舎裏。倉庫裏。

 そのどこにも真白の姿はなかった。

 真白と過ごした時間の大半は学校。

 入学から数日が経った頃には、もう気になっていた。

 周りが既にグループを作っている中、僕と同じように孤立している彼女。僕が話しかける前に、その凛とした表情の裏を一度だけ見たんだ。

 僕と同じように真白に話しかけた女子生徒。最初の僕にしたように真白はあしらったが、真白の元から離れていく女子生徒を寂しそうな目で見つめていた。

 ああ、この子も同じだ。口先では友達なんていらないって言ってても、本心は違うんだ。

 別に真白のことを憂いていたわけではない。人って自分と似た人に惹かれるものだと思うんだ。まあ、蓋を開けてみれば、違うところはたくさんあった。全体的に見れば僕と真白は全然違う人間だと思う。だから、一人になった時に行き先が違って会えないのかもしれない。

 学校じゃないのか……。

「あれ?月山?」

 その声に振り返ると担任がいた。

「どうした?お前がこんな時間にいるなんて珍しいな」

「あの!まし……諸星を見かけませんでしたか!?」

「諸星?いや、見てないな。何かあったのか?」

「見つけないと、ヤバいんです」

「見つけ……はっ!」

 担任は何かに気づいた様子。

「月山。もしかして諸星の事情知ってるのか?」

「病気のことですか?」

「ああ……。基本的に俺にも守秘義務があるから、公にはしてなかったが、お前は知ってたみたいだな」

「今日、あいつの記憶が消えるんです。でも、何故か真白は薬も飲まずに病院から逃げ出して、行方をくらませた。早く見つけ出さないといけないんです!」

 しばらく考える素振りを見せる担任。そして、

「お前と諸星は仲良かったのか?」

「え?まあ、それなりに」

「そっか……。学校以外で諸星と会った場所とかあったか?」

「学校以外……」

 通学路と自分の家。それからショッピングモール。

「そっちに……いるのかな?」

「思い当たる節があるなら早く行った方がいい。学校周辺は俺が探しておく。見つかったら病院に連絡するから」

 その時、初めて先生が少し頼れると思った。

「ありがとうございます。明日学校に来れなかったら、すみません」

 そう言い残して走り出す。

「テストで赤点取んなかったら何も言わねえよ!」

 僕はショッピングモールに向かうことにした。




 電車を待っている途中、着信があった。

「黒沢?」

 連絡先を交換したはいいものの、一度も電話をしたことはなかった黒沢からだった。

「もしもし?今忙しいんだ。用なら後で……」

『月山!今どこだ!?』

「学校の最寄りだけど」

『そっか。俺の元にも連絡あってな。諸星を探してるんだ』

「そうだったんだ」

『学校はもう探したか?』

「ああ、一通りな。学校周辺は先生が探してくれるらしい」

『そっか。これからどこ向かう?』

「あいつと一緒に行ったショッピングモールに行こうと思う」

『分かった。俺は病院周辺を探してるから、何かあったら連絡してくれ』

「ありがとう」

 そう言うと通話が切れた。相当焦っている様子だったな。

 正直、検体として見ているなら、記憶がどういう形で無くなろうが関係ないと思いそうだが、黒沢にとってもこんな形は不本意らしい。今日の昼の件といい、あいつの思考はやはりよく分からない。僕たちのことを何だと思っている。ただ、少なくとも悪いように思っているわけではないのだと、あいつの態度で分かった。

 今頃必死に探してくれているだろう。親父やスタッフの人たちと同じように。

 真白。何があったんだ。

 いなくなったら必死に探してくれるような人が、お前を心配してくれる人がたくさんいる。

 何で逃げだしたりしたんだ。

 それを問いただしたい。

 それには余裕を持って見つける必要がある。

 ギリギリで見つけても問いただす時間がないし、次に目覚めた時には真白自身が忘れてしまって一生分からないままになってしまう。

 それに、「今の真白」に言いたいこともある。

 どうか、見つかってくれ。




 駅に戻り、電車に乗り、家の最寄り駅まで戻ってきた。

 この時点で夜八時。あたりはすっかり暗くなった。この時間にはデパートに向かうバスの本数が一気に少なくなる。時刻表を見てみると次のバスは二十分後。そんなに待っていられない。

 となると。

 僕はロータリーを見渡す。止まっているタクシーを見つけた。

「すみません。ショッピングモールまで行きたいんですけど」

 少し値が張るが、バスを待っている場合じゃないと思った僕はタクシーで向かうことにした。

「いいけど、君お金持ってるの?」

 そう言われ、財布を確認する。

「小遣いもらったばかりなので、五千円入ってます」

「なら大丈夫だね。じゃあ、乗って」

「ありがとうございます」

「ところで、こんな時間からショッピングモールって、何しに行くの?専門店とかはもう閉まりはじめてるんじゃない?」

「人探しです」

「はぁ……」

 タクシーが走っている間にも、僕は外を見ていた。もしかしたらこの道の途中に真白がいたりしないかと。でも、この道はバスで一度通ったきり。この道を一人で歩いているとも考え難い。

 この時間にゲームセンターに行っても、僕らの年齢だと入れない。行ったことのある専門店で、開いているところを探すしかない。

 そんなことを考えながら、タクシーに揺られること約十分。

「ありがとうございました」

 運賃を払い、タクシーから降りた。

 運転手は専門店に近い入口の前に止めてくれた。ありがたい。

「さて」

 僕は店の中に入る。

 案の定、閉店準備をしている店も多く、中にはすでに閉めている店もある。

 行ったことのある店の中でまだ開いている店の一つ、本屋さん。

 参考書のコーナーに行ってみる。いない。

『遊びに来てまで勉強のこと考えてるのか?』

『私、国語が苦手なの……。中間試験もあるし』

 あの時の情景が目に浮かぶようだった。

 次に向かったのはアクセサリーショップ。

 そろそろこの店も営業が終わるようで、お客さんも少なかった。

 その中に真白の姿はなかった。

『これは紘幸君にあげる』

 あの時もらったキーホルダーはスクールバッグの中にあるファスナーに付けている。周りに見られるのが恥ずかしいというのと、外れても無くさないようにという理由だ。

 ここでもやはり、あの時の情景が浮かんだ。

 やっぱり、僕は真白といて本当に楽しかったんだ。本当に楽しかったからこそ、失いたくないと今本当に思っている。でも、失ってしまう。その先で、僕は一体どうする?

 考えるのは後だ。真白を探さなきゃ。

 次に向かったのは、あの日昼食を食べたレストラン。ここはまだまだ営業中だが、外から店内の様子を見てみても、真白らしき人はいなかった。

 その次に向かったのはゲーセン付近。さすがに中には入れそうにない。

 その次は家電量販店。電球の売り場にもその他のところにも、真白はいなかった。

「ここにもいないか……」

 ショッピングモールを出ようとしたとき、電話が来た。親父からだ。

「もしもし」

『紘幸!どうだ!?』

「今学校とショッピングモールに行ったけど、見つからない」

『そっか……俺は病院内を一通り探したとこだ。他のスタッフは病院の近所を探してくれてるよ。引き続き頼む』

「親父。他に真白が行きそうなところに心当たりはないか?」

『そうだな……学校か病院にいることがほとんどだからな』

「だよな」

『悪いな。ケータイを持っていればGPSで場所が分かるんだが』

「とりあえず、駅前まで戻るよ」

『ああ、引き続き頼む』

 そう言って電話を切った。一旦駅まで戻るか。

 バスはもうないし、タクシーを呼ぶにも手間がかかる。ここは走っていくか。




 駅に向かって走りながら思う。

 何で僕が真白のためにこんなことをしているのか。

 人混みが苦手なのに電車に乗ったり、普段運動をしないのに息を切らしながら走り回って。

 僕と真白が過ごした時間はわずか一か月。それでも彼女は僕の初めての親友。今までと同じような日常は多分戻ってこない。お互いが同じ気持ちではいられないかもしれない。

 そうなることが分かっていたから悩んでいたんじゃないのか?

 この先どうするか迷ってたんじゃないのか?

 なのに、どうして僕の体は迷うことなく真白を探しているんだ。

 自問自答を繰り返している。

 いや、本当はとっくに分かっていたのかもしれない。

 友達を持ったことがない僕にはハードルの高すぎる付き合い。そんなこと最初から分かっていた。だからと言って、それを簡単に諦められる僕じゃなかった。

 親父にも黒沢にも答えられなかったこと。それを真白本人に、全てを忘れてしまう前の真白に言いたい。いや、言わなきゃいけないんだ。

 待ってろ。真白!




「はぁはぁ……」

 駅まで戻ってきた。でも、もう思いつくところはないから、がむしゃらに探すしかない。

 夜九時を回った。この時間にもなると駅前の人通りもまばらだ。仕事終わりのサラリーマンくらいしかいない。その中に真白の姿はない。

 もう時間がない。ギリギリ見つけられたとして、話をする時間はないかもしれない。なら、せめて薬だけでも飲ませてあげないと。

 真白が知っている場所は前回記憶を無くしてから今日までに行ったところだけ。病院と僕の家、学校、ショッピングモール。約半年の間に知ったということ、そして真白の性格を考えれば、学校やショッピングモールに行く以外で交通機関を使わないはず。

 だとしたらこの近辺。僕が知らない、真白が行った場所があるのかもしれない。

 僕は適当に駅から家に向かう道にある最初の脇道に入ってみた。

 そこは細い道で、すぐに行き止まった。

 次に向かい側の道。こちらは数件の店に挟まれていて、進んでいくと通りに出た。

 戻って次の脇道へ。

 こんなところ僕も真白も通ったことなんて、

「あれ?」

 と思ったが、どこか見覚えがあった。

 普段絶対に通ることがない道。なのにどこか懐かしい。

 右手には昔ながらの和菓子屋さん。

 その隣りには小さな楽器屋さん。

 その向かいには塾がある。

 どこからか湧いてくる記憶の中の景色とほぼ一致している。

 そう、この先にあるのは公園。

 多種多様な遊具が設置され、休日には子連れの親がよく集まる、そんな場所。

 その公園の端っこにあるベンチに人影が見えた。

「やっと見つけた」

 声をかけたその子は僕の方に振り返った。

「紘……幸、君」

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