その電車の行き先は?②
ま、いっか。
次で降りてまた待とう。……にしても、今日も疲れたなぁ。ふぁ〜、あー眠い。
ダメダメ、すぐ降りなきゃいけないんだから、起きて、、な、きゃ……zZZ
「あらあらあらぁ〜!どうしましょっ‼︎」
プラチナブロンドのウェービーヘアに、グラマラスでしなやかな身体。エメラルドグリーンの瞳を持つ女性――女神フリディッシュ――は驚いていた。
「どういう事かしら。何故ココに徒人が居るの?
変ねぇ。普通ならこの乗り物自体、認識されないはずなのに。」
フリディッシュは文字通り頭を抱えた。
魔素も何もない異世界の人間が、徒人には認識さえ出来ないはずの転移装置に乗り、居眠りまでしているのだ。
非常に由々しき事態である。
元来あまり考える事が得意ではないフリディッシュが、思考を巡らせる。
「どうしたらいいの、、まずはこの子を起こしてみる?
――いえいえダメよ。急に女神が現れたらびっくりするわ。
うーん、うーーーゔん。っそうだわ!そう、神託よ!
何で紛れ込んだかは知らないけど、これも何かの縁よ。そうに違いないわ!でなきゃ彼方の人間が此方の世界に来る理由がないもの!」
女神は気付かない。自分の世界に存在しない異世界の娘が、自分が女神であると知り得るわけがない事に。
従って、娘を起こしても、多少は驚いても「ああ、親切な乗客が起こしてくれたのか」程度にしかならず、パニックなど成り得ない。
もっと言うならば、異世界に到着する前に、彼女を眠らせたまま、こっそり引き返せば良かったのだ。
むしろ、目が覚めたら異世界でした。え?何、神託?女神様?何それ、ココどこ。の方が確実にパニックである。
しかし女神は気付かない。
何故なら思考する程の頭脳を持たないからだ。
他の神ならば、直ぐに引き返した事だろう。
だが、不運にも彼女が乗り合わせてしまったのは、アホの子フリディッシュだった。
女神は神託の内容を考える。
わざわざ異世界から連れて来なければならない理由を。
そして仕方ないかと、諦めてくれる理由を。
なかなか思い付かないまま時間は過ぎ、もう間もなく、電車は異世界へと到着する。
「あ゛、やば。」
車窓から柔らかい陽が射し込む。
光は女神と彼女を包み込んだ。
「ぅん…あ。寝ちゃってた。降りなきゃ。
――あれ?ココどこ、、」
彼女の目の前には、駅のホームも駅名が書かれた看板もない。
あるのは、拓けた土地に生い茂る草と、小さな花々。
空には燦々と輝く太陽に。並んで空を舞う色鮮やかな小鳥。
そして彼女の周りを囲うように、ふわふわと浮かぶ淡い光の粒。
「え゛ぇ〜っと、夢、覚めてない?
何だ夢か。でもそろそろ起きないと電車が車庫に入っちゃうよね。よし。」
ぐっと眉間に皺を寄せ、気合いを入れて起きようとする。
―が、なかなか起きられない。
もちろん、彼女の目は覚めている。気合いなど入れても、何も変わりはしない。
すでに起きているのに、起きようとしても意味がない。当たり前である。起きているのだから。
「……。」
うそ。私こんな短時間で深い眠りに入っちゃったの?
でも着いたら普通、駅員さんが起こしてくれるよね。
じゃあ、私が長く感じてるだけで、実際は2・3分しか経ってないのかな。
よっぽど疲れてるのね。こんな草原が夢に出てくるくらいだし。
癒しが足りないんだ、きっと。
うん。あ゛〜、緑っていいわぁー。癒される〜。
彼女は柔らかい草の上に寝転んだ。
雲ひとつない空は澄んでいて、時おり涼しい風が頬を撫でる。
先程から空を舞う2羽の小鳥は可愛らしく、優雅で。ふわふわ浮かぶ光の粒も、心地良い。
彼女の心はいつになく穏やかだった。
はぁ〜、出来ればまだ起きたくないな。
こんなに心が休まるのはいつぶりだろう。
「もうちょっとだけ、こうしてたいなぁ、、、」
「あらあら、ココが気に入ったの?嬉しいわぁっ!」
「――っ⁉︎」
ガバリと起きて、声の主を探す。
誰っ?周りには誰も居ないのにっ!
キョロキョロと周囲を探す彼女に、女神はふふっと笑んだ。
「私はココよ。可愛い異世界の住人さん?」
ニコニコ顔でフリディッシュは話しかけた。
――さっきまで姿が見えなかったのに!
それに凄い綺麗な女性。ヨーロッパの人かな。
というか見た事もない人がこんなに鮮明に夢に出てくるなんて。
ほんとに私、どうしたのかしら。今日。
「フリディッシュさま、この人間、なんか呆けてるよ。」
光の粒が女神に話しかけた。
「まあ、困ったわ。大丈夫?えっと――
そういえば名前を知らないわ。
ねーぇ?貴方のお名前は何て言うのかしら。、、聞こえてる?」
「おーい、人間。フリディッシュさまに聞かれてるぞ?」
兎にも角にも、東雲 春(22)は異世界に降り立った―――…
チュートリアルがなかなか終わらない主人公ですね、、、。
次回更新ではファンタジーに入る予定です。