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第一章 旅立ち

―――あなたはまだ知らない。

この世界とは少し違う場所には無数に流れている時空がある。

人生には黙視できない選択の連続があり、運命と結末はひとつではないのだ。

―――これはとある少女が自分の運命と戦う物語。

◆◆


《リコラ、リコラ……》


―――声をかけるのは誰、私の名前はヴァリハナよ。

不思議、眠っているはずなのに声は鮮明に届いているわ。


《さあ目を覚まして、小さなリコラ》


暗闇の中に小さな光、そして性別も感情もわからない不思議な声が聞こえる。


「私はリコラじゃないわヴァリハナよ。あなたはだれなの?」


私は目映い光に向かってたずね、その痛いほどの輝きを放つものに目をとじつつ手をのばした。


《私はミーゲンヴェルドの神・ミグー》


ミーゲンヴェルドとは知らないものはいないこの世界の中心にあるとされる伝説上の神の世界の総称だ。


「え……神様が私になんのご用なんですか?」


前触れなく現れた相手が王や貴族を越える存在。

膝まづこうにも私の体はまだ寝ていて、今はかろうじて腕が動く程度だった。


《聞いてほしいことがある》

「はい……」


神様にそういわれて、たんなる人間の私が嫌だなど言えるものだろうか?


《君はこれから、旅をすることになる》

「旅ですか?」


旅とは文字通りの物理的な冒険の旅、それとも人生の荒波に乗るという精神的な方の旅だろうか?


《……突然こんなことを言われ、君が不安なのは想像できる》

「はい、とても怖いです」


私や家族になにか不幸なことがおきるだろうのか。とても心配でたまらなくなる。


「大丈夫、君が運命を選び間違えなければきっと幸せな未来が待っている」


ミグー様はそういってくださるけれど、私は落ち着いてなんて――――


《おやすみ。儚いリコラ……また会えるといいね》


◆◆


「……て……さよ……」


なんだか声がするけれど、こんな朝はやくから誰だろう。

私の意識はまだまだ夢の中だ。


「……おきなさいヴァリハナ!」

「おっ起きたわ!」


私を耳元で起こしたのは母、ちなみに小人族でとても小さい。

片側だけカーテンの開かれた窓があり、そこから見える空は薄暗い。

つまりまだ鶏も鳴いていない早朝か雨天のはず。


「何か大事な用事、それとも私寝坊したの?」

「ええ、話があるの着替えをすませたらリビングへいらっしゃい」


――普段は微笑みを絶やさない母だが、いつになく神妙な面持ちだった。


朱色の髪を大きなクリーム色のリボンで柔らかく背中半分まで延びた髪を下のほうで一つまとめる。

細い紐を蝶々結びにした白のブラウス、軽くふわりとした赤茶色のスカート。

真っ赤なフードのついたケープをかけた。


リビングへいくとただならぬ雰囲気が私に襲いかかった。


「おはよう父さん」

「ああおはよう」


私は背伸びして上を見上げながら挨拶し、父は背を丸めながら返事をした。


父は巨人族で、家のスペースの大半をしめているのだ。


「お話って?」

「父さんと母さんは離婚します」

「ヴァリハナ、貴女どっちについてくるの?」


――――拝啓ミグー様、私はいったいこれからどうなるんでしょう?



「ええ!? 突然そんなことをいわれても困るわ!!」


二人は相反する巨人と小人でありながらも仲のよい鴛鴦(おしどり)夫婦。

そう信じていたのに突然の離婚宣言で、私はとてつもない衝撃を受けた。


「考え直す気はないんだね」

「ええ、さようならだわ」


テーブル上の母はメガホンを持ちながら叫ぶ。いつもなら父が母を手にのせて話をする。


「そして貴女には結婚相手がいるのよ」

「……どういうこと?」


王族や貴族は政略結婚だが、この国の民は自由恋愛が許されている。

二人が異種族同士で結婚が可能だったのも王候貴族ではないからだ。


「父さんについてくれば巨人族でありながらたった3メートルでギリギリ大丈夫な相手がいる。ちなみに公爵家の次男で長男より楽だ」


巨人族なのに3メートルなんて天井に頭をぶつけてしまうわ。


「母さんについてきたら小人族の王子様よ。彼に憧れる乙女は数知れず。小さいけど美形で紳士よ」


王子様はとても魅力的だけれど、小さいならお姫様抱っこもできないはずだわ。


「父さん母さんどちらも大切だし、結婚相手はどちらも嫌で選べないわ!」


二人が一方的すぎて理由も話してくれないので、私はつい家を飛び出した。


◆◆


森へ走った私はただじっと膝をかかえた。湖の近くで戯れる白鳥の姿や、小鳥の鳴き声が聞こえる。


「どうした?」


幼馴染のルヴァト=ディーチェから声をかけられた。


「なにもないわ……」

「さっき聞いたよ、あの二人離婚するんだってな」


――なぜルヴァトがそんなことを知っているのだろう?


「どうしてそれを?」


いくら私の幼馴染とはいえ軽々しく話したりなんてしないはずだ。


「いま聞いたからな、ほら」


指をさした先には二匹の白鳥がいた。


「……忘れてたわ」


ルヴァトは怪鳥人ラヴァトの息子で、鳥の声がわかる。

彼の母親は人間でまだこの村にくる前、幼い頃に行方がしれなくなったそうだ。


「たしかにここ一週間あってないが忘れてたのか」

「だって私達は生まれが普通と違っても見た目や考えは人間だもの」


そういうとルヴァトは考え込むそぶりをみせた。


「話したくないなら聞かない」

「え?」


私は去ろうとする彼を呼び止め、二人の離婚と私の結婚相手の話をした。



「……なら俺と逃げるか?」


とつぜん風が吹き、ルヴァトの藍色の髪がなびく。


「そんなこと……」


できないといいかけ、少し考えた。もしも私がいなくなれば二人は考えを改めてくれるんだろうかと。


ルヴァトの手をとれば先延ばしにするだけでも、二人がもう一度考えて離婚をとりやめてくれるんじゃないだろうか。


「よし、私旅にでるわ!!」


私はミグー様の言葉の意味をようやく理解し、この村をでた。


●冒険が始まる前に、行き先をきめなきゃ。


【巨人族に会いに行く】

【小人族に会いに行く】

【いきあたりばったりでいく】

【ルヴァトに決めてもらう】

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