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ソラ君とウチのプレリュード第9番

 作戦決行時間まであと一時間。

 教師から渡された『スパイト』を滅却するための曲目を見つめる。

 この地方の人間なら誰でも歌える伝統曲だった。

 幼い頃スノウに聞いた話だと、こういった地方に根付く伝統曲には本来悪しきものを遠ざけ、消滅させるために『スパイト滅却師』によって作られ語り継がれてきたものが多いという。

 

 

 曲はこの世の中に数え切れないほどあるが、長年語り継がれ現代まで生き残っている伝統曲ほど『スパイト』は嫌がる。効果が実証されているからこそ後世まで語り継がれてきた。簡単なことだ。

 ユキさんに披露した『母のまなざし』もそうだが、少年期のボクは知らずうちにスノウから英才教育を受けていたことになる。そして、『スパイト』滅却師としての実戦も、ヨシュアが現場に散々連れまわしくれたのでボクは色々な経験を積ませてもらえた。何度か死にそうな目にあったけど、それを乗り越えて成長してきたから今のボクがいて、誰かを救う力を得ることが出来た。

 この誇らしい力を授けてくれた二人には感謝しかない。

 


 まだ学園にきてから一日しかたっていないがこれまでの事を思い返していたら、時間を忘れていたみたいだ。

 気がつくと目の前にアナマリアお嬢様がいて、ボクを冷たい視線で見下ろしていた。

「ぼけーっとしているけど、現地では私の足を引っ張らないでくださいね、編入生さん」

 初めて交わした言葉がこれか。

 本来の仕事のためにもここで舐められちゃだめだ。

 丹田に力を込め、睨み返す。



「ボクは言われたとおり万全の準備をして挑むだけさ、アナマリアさんこそボクの足を引っ張らないようにね。それとボクにはソラという名前があります。自己紹介したはずですが、もう忘れてしまいました?」

 よし! 言ってやった――

「あんまり調子のいいことを言っていると――」

 アナマリアさんの冷たい視線に感情が宿る。

 それが想像を絶する美しさと、スラム街でも見たことのない冷酷さを兼ね備えていたため、緊張のあまり無意識に唾を飲み込む。

 気迫に押され、視線を一瞬切ると、目の前にいたはずのアナマリアさんの姿が消えていた。

 次に彼女を知覚したのは、ボクの背後にアナマリアさんがいて、耳元に唇を近づけてると気づいた時だった。

 ゾクッとし、一筋の雫が背中を伝う。



「後で後悔しますよ? 鈍間なソラさん」

 ボクのチョーカーを優しく撫でながら耳元でささやく。

 悔しいがまったく反応できなかった。

 だが、後方を取られ、劣勢な状況になっても虚勢を張らねばならない。そうしないと、ここでなし崩し的に、ボク等の格付けが済んでしまう。



 それではダメだ。

 ボクが学園に来たことで彼女に劇的な変化をもたらせなくてはならないのだから。

 破れかぶれでもかまわない。

 誰かボクに、このピンチを脱することの出来る起死回生の策を授けて欲しい。

 勝負が決まらないように、うやむやにさえ出来ればいいのだ。

 頭をフル回転させ、意識を内へ内へ集中させる。

 


 すると全ての感覚が鋭敏になっていき、背中に感じる二つの感触に気付く。

 これしかない!

 男のボクにしか発想できない、あまりにも馬鹿馬鹿しい解答が思い浮かんだ。



「とても大きい、ですね」

「は? 何をいっているの」

 本当にわけがわからないといったトーンで聞き返してくる。

 よし気づいていないようだ。

 これなら彼女に強烈なカウンターを決める事ができる。



「アナマリアさんっておっぱいとても大きいですね。さっきから背中に当たっていて、うらやましいなって思っていました。ボク、まったく胸が育たないから……」

「このっ!」

 アナマリアさんは豊満な胸を両腕で隠し、後方へ飛びのく。

 よかった、こういう所だけは年相応の女の子みたいだ。

「今日の任務が終わったら大きくなる秘訣でも教えてください。それでは」

 そう言って背中を見せ、歩き出す。

 怒りに満ちた熱い視線を背中にビンビン感じるが、うやむやにすることは出来たようだ。今はこれでよしとしよう。




『アナマリアお嬢様っておっぱいとても大きいですよね。はぁはぁ』

 もうっ。

 そんな変態みたいな言い方していません、止めてくださいレインさん。

 それに起きていたなら助けてくれてもよかったじゃないですか。

『ごめん、ごめん。さっき彼女がウチに触れたでしょ? その瞬間ウチの美少女を愛するゲージが高まって一瞬で目覚めたのさ。だから話はの最後のほうしか聞いていない』

 ブレないですね……。

 そうだレインさんに聞きたいことがあります。

『なんだい?』



 さっき教室でレベル三の『スパイト』って話を聞いたんですが、レベル分けなんてボク初耳です。

『ヨシュア君と仕事しているのにそういう話してないの? 彼も大概大雑把だなぁ』

 そこは否定しません。

 それよりレベル分けの話を教えてくださいよ。



『しょうがない。このレインさんが教えてあげよう』

 お願いします。

『『スパイト』のレベルだけど一から五まである。数字が大きくなればなるほど、やっかいな存在だ。一と二に『スパイト滅却師』の出番はない。力も弱いし、悪意をなんらかの形で解消すれば自然消滅するくらいには貧弱だからね』



 消滅するなら確かに脅威にはならなそうだ。

 問題はレベル三以降か。

『レベル三、ここからプロの出番。これは力の弱い『スパイト』が徒党を組んで一つになり、初めて考える力、人間のような知能を持ち出す。そして今までにない強力な力で人間の脳に寄生し、行動をコントロールしてしまう。寄生されている人間の自意識が消失するのが特徴で、異常犯罪が起きた場合はだいたいレベル三以上の『スパイト』が原因と言われている。ひとまずは以上かな』

 


 ヨシュアと解決してきたのは大体このレベルだったようだようだ。

 知らないままレベル三の『スパイト』を滅却して回っていたらしい。

 それ以上のレベル四とレベル五の脅威はどうなっているんですか?

『滅多に観測されないし、ソラ君達じゃ対処できないから今は知らなくていいかも。国もそんな危険な仕事は腕の立つ同業者にしか回さないはずだから、ソラ君達はその点は安心していいよ』

 ヨシュアやスノウも、ボクがいない時はそのレベル帯の仕事を請け負っているのだろう。同行を拒否される案件は何度かあった。



『他に何か聞きたい事ある? よく寝て気分もいいから、出欠大サービスで答えてあげるよ』

 実はもう一つあります。

 これも教師が言っていたことなんですが『ブースター』ってなんです?

 この学園では何か力を増幅するような機器でも配布されているのですか?

 ボクそんなの持っていないです。 



『ああ、それならウチのことだよ』

 はい?

『『ブースター』とはウチみたいな妖精が契約者の歌声を変化、増幅させるデバイスの名称さ。強力な『スパイト』を滅却するために必要なのさ』

 レインさんがブースターだったのか。



 そうしたら、『エオル』のチョーカー持ちの子達にも妖精がパートナーとしてついていると?

『そうだね。でも、ウチみたいに契約者とコミュニケーションを取るのは珍しいみたいよ? 普通の妖精は莫大なエネルギーを使うのは嫌がるらしいね。その点、ウチはそんじょそこらの妖精とは鍛え方が違う。妖精界最強の名は伊達じゃないのさ。ふふん』

 妖精界のチャンピオンもよくエネルギー切れを起こして寝ているような?

 なんてことは言えない。



『考えている事は全てウチに丸聞えなの知っているだろうに、悪口かい?』

 ごめんなさい、ほんの冗談です。

 細かいことはいいじゃないですか。

 妖精界最強のレインさんの力が加われば鬼に金棒ですよ。

『ソラ君は自分を鬼に例えるほど自信があるのか。その意気やよし。他の妖精に負けるのは癪だし絶対No.1の座を勝ち取るよ。それに頑張り続ければ『ソラ君の願い』もきっと叶うさ』

 


レインさん……プライベートな部分は覗かないでって言ったじゃないですか。

『あはは、現場に着くまでさらばだー』

体の内にあったレインさんの気配が消える。

都合が悪くなるとすぐいなくなるんだから!

でも、まぁいっか。

スパイト化した男の悲劇を聞かされてから暗くなっていたし、レインさんなりにボクを励ましてくれたのかもしれない。

レインさんは困ったときにいつも頼りになるのだ。



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