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ソラ君とウチのプレリュード第48番 終曲

 どうして今になって人間形態のレインさんが現れたのだろう?

 理由もわからぬままボクは歌い続けた。

「みんなそのままで聞いてほしい。このまま戦いが長引いたら、確実にウチらが負ける!」

 え? 声も出さず表面上は何の変化も表さなかったが、ボク以外みんな同じ反応を心の中でしたはずだ。

 誰この人? いきなり現れて何を言い出すのだろうと。 

「こいつは本当に大悪党だよ。真相に気づいたウチは心底驚いたね」



 レインさん、レインさん。

『なんだい、いいところなのに』

 みんな顔には出していませんが、誰この人って感じですよ、きっと。

『ありゃりゃ』

 ありゃりゃって……

『レイン式多重中継!』

「「「「えっ?」」」」

 その瞬間、歌っているはずの四人の女の子の驚いた声が頭の中に届いた。



『ウチはレイン、妖精のレインさ! ソラ君のブースターの役割も担っているスーパーレディ。よろしくね!』

 


 妖精って…………うん? 今レインって言ったわよね、この人。レインってソラのパートナーも同じ名前だったような…………どこが手のひらサイズなのよソラ! すっごい美人で大人の女性じゃない!

 


 多重中継のおかげというかせいというか、ヒナの思考が全て流れ込んでくる。すさまじい怒りと嫉妬。心臓に悪いので双方向性はやめて……。



 って言っているソラさんの思考も駄々漏れだ~。ドロドロした三角関係って楽しいね~これ。あんたもそう思わない? エカテリーナ。



 いや面白いっちゃ面白いけどそんなこと言っている場合じゃなくない? この戦いが終わったらいっぱい話聞いてあげるからさ、今はやるべき事やろ。



 エカテリーナさんの言うとおりです。今はレインさんがここに現れた理由を知るべきです。どうしたんですか、レインさん?

『流石アママリア君。いいまとめ方だ』

 レインさん続きを。 

『うん。驚かないで聞いてほしい。このままだとウチらは負ける』

 それはさっきも聞きました。どうやってここから負けるって言うんですか? 

 倒し切れはしないが完全に押していたのでレインさんの言っている事がにわかに信じられなかった。

『ウチはずっとソラ君の意識の中にいるから気づけたんだけど、今日倒したスパイトの因子が体内にあるんだよね。それは君たちも一緒だと思う』

 私はファンの皆様があのようになった時点で、その可能性は考えていましたが。

『あれ、そうなの? 流石アナマリア君』

 いえ。



『シュナイダーコークは最初から時間稼ぎが目的だったんだよ。ここまでの戦いで確信した。奴に君たちを倒しきる力はない。のらりくらりと戦いを長引かせ、君たちが体力を失ってスパイト化への抵抗力がなくなる時を待ち望んでいるんだ。その証拠にウチが出てきてから一度も攻撃してこない』

 その前にこのまま押し切れそうですが、だってあれ見てくださいよ。

 シュナイダーコークの実体はおぼろげになってきて今にでも滅却できそうな感じですよ?

『あれはブラフだよ』

 ブラフ? そうは見えませんが。

『あいつはこの地、ベルリンにいる限り耐久力はほぼ無限なのさ。いくらでも過去のネガティブなエネルギーを吸い上げることが出来るからね。そこらへんは奴の戦略勝ちかな』

 


 過去の……大戦の惨劇のことだろう。悪意の塊であるスパイトからしたら確かにこの地は好都合かもしれない。でも、それはあくまでも過去のこと。悲しみから開放され喜びや新しい命の息吹で祝福されていっているはずだ、それでも足りませんか? ダメなんですか?



『そこでウチが出てきた事につながるのさ。このまま我慢比べをしていたら体力差で負けてしまう。だからここでとっておきを披露してやるのさ』

 とっておき? そんなのありましたっけ初耳ですよ。今まで幾度もピンチに陥ることはあったがこんな提案一度もなかった。



『こういうジリ貧な時は高出力のエネルギーで、一気に相手を消滅させるってのがセオリーなの。その手段をウチは持っている!』

 複数人の安堵の気持ちが流れ込んできた。ここまで言い切ってくれると流石に心強いってのはある。どういった手段を用いるのかは知らないけど。

『ウチがみんなのブースターになる! だからね、全ての力をウチに集めてもらっていいかな。それを増幅させて全てあいつにたたきつけてやる』

 


 ブースター本来の役割を担うわけだけど、一人でそんな器用なこと出来るのだろうか。レインさんの負担がとてつもなく大きすぎる気がする。力を使うたびに長い睡眠を必要とするほど疲労しているはずなのに。



『気遣いはうれしいけどね、ファンやミミちゃんの事だってある。これが終わったらユキを見舞わないとだし、悩んでいる暇はない。お願いだ、ここはウチに賭けてほしい』

 助けるためとはいえ、もう数え切れないほどの半スパイト化したファン達を傷つけてしまっている。気にしないようにしているけど、ボディーブロウのように蓄積されている心へのダメージは、いつか許容量を超えて取り返しのつかない事になってしまう危険性を常にはらんでいる。

 そして、判断を遅らせ続けていると、ミミちゃんみたいに戦いから離脱するメンバーも増え続けるだろう。それは避けねばならない。

 判断の時――――既にみんなの気持ちはひとつに固まっていた。

「「「「「やります!」」」」」

『よく言った! あとは任せなさいっ!』



 明日以降のことは考えない。全てを出し切る。出し切って大切な人を守る。

 ボクの気持ちに同調してくれたエオルのメンバーからすさまじい出力のエネルギーが放出され、レインさんの下へ集まっていく。

「シュナイダーコーク! 好き勝手に悪意をばら撒きやがって、ウチは絶対に許さないからね」

「ふんっ。妖精風情が我々に歯向かうとは片腹痛いわ」

『両腹痛くしてやる。ってか綺麗さっぱり、存在の全てをまとめて、根こそぎ滅却してやる。いくよみんな!』

「「「「「はい」」」」」



 もうアンコールもない。これが正真正銘のラスト演目。

 終曲 ベルリン賛歌 

 歌詞なんかない、即興のアカペラだ。

 五人の意識がつながり、ひとつの目標に向かって死力をつくしているからこそ出来る、エオルの神技。

 それに応え、レインさんの羽が横に大きく展開すると、今まで見たこともない光量で発光し周りの全てを浄化していった。寄生され苦痛に満ちた顔の半スパイトは、母に抱かれる赤子のように安心しきった顔で意識を失っていく。

「ギヤァァァァァァァァァ」


 

 軽口や憎しみの声すら発することも出来ないシュナイダーコークはもがき苦しみながら、絶叫し続けていた。 

 こんなすさまじい力を隠し持っていたなら、最初から使って欲しかったなぁと一瞬考えもしたがすぐにそれを改めた。

 シュナイダーコークの実体が薄れていくことに比例してレインさんの実態もおぼろげになってきたからだ――――



 こんな大事なことを隠していたんですね。

『いやぁ~バレちった』

 このまま歌い続けてしまったらレインさんが消えてしまう。

『最後に伝えておくことがあったや。アナマリア君、ユキには優秀な君が必要だ。あとは頼むね』

 ええ、完璧にこなしてみせます。

 アナマリアさんの固い決意と悲しみがボクに流れ込でくる。


 

 唐突過ぎてボクは心の準備が出来ていない、こんな結末、ボクは望んでいない。

 すぐには思いつかないけど、他に何か方法があるはず。

 そうだ、こんなに大騒ぎになっているし救援がそろそろ来るはず。



 だからここでボクが歌うのをやめても大丈夫なはず――――

『ソラ君!』

 何でそんなのほほんとしていられるんですか! このままいなくなっちゃうんでしょ?

『感情に流されて見誤らないで欲しい。ウチは信じているからね』

 レインさんは卑怯だ、そんな事いわれたら歌い続けなければならないじゃないか。

 涙で視界がぼやける。

 瞬きをするたびにレインさんが透明に近づいていく。

『楽しかったよ、またねソラ君』

 暖かな光がドーム全体に広がり全ての悪意を包み込む。そして役目を終えたその光はシュナイダーコークとレインさんと共に消えてなくなった――――





 

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