ソラ君とウチのプレリュード第46番 悪意
供給に勝るスピードでスパイトを滅却し続けた結果、シュナイダーコークは新たなスパイト生成することをやめた。エオルのメンバーもメインステージに集結し、いよいよ最終局面。
シュナイダーコークの元へ一歩進んだあと、皆に目配せをすると皆黙ってうなずいた。
ここはボクに任せてもらう。
「チェックメイトって所でしょうか。勝負は決したようですね」
「ふ、んふふふ……ふぁっはっはっはぁぁーーっ」
面白い事を言ったつもりはないのに、いきなり大笑いするものだから体がビクっとなった。レインさんも負けじと、大笑いしているが、もっと意味わからないし、大事な所なので無視しておく。
「何かおかしい事でも?」
「いやぁ、笑わずにはいられないだろ。お前達が既に勝った気でいるのだからな」
「この状況を理解できればそんな事を言っていられないと思いますが」
このスパイトは言葉を操り、知性を有している所からしてレベル五のスパイトであるのは間違いないが、タイプ的に自分ひとりの力で局面を打破するような力を持つタイプには思えなかった。今まで格下のスパイトを何度もぶつけてきたが、その隙に自分から攻めようとした気配が一切なかったのは、ボク達に敵わないと既に気付いているからだと思うのですが、そこんとこどうなんですかね、レインさん。
『決め付けるのは早いよ、あの顔を見てごらん。まったくひるんでいる様子はないだろ? まだ何かを隠している、そんな雰囲気だ』
「この密閉されたドーム内で、あれほどの数を同類を滅却してくれたお前達が気付かないのであれば、チェックメイトをかけるのは私のようだ」
どういうことだ?
残るスパイトはこのシュナイダーコーク一体のみで、こっちにはエオルのメンバー全員が残っている。それに、力の源であるファンがボク達を後押ししてくれている。余裕かましているわけじゃわけじゃないが、負ける気も一切しない。
「ところで……ソラといったか、お前は」
「いまさら名前なんか聞いてどうするんです」
「まぁ、いいから聞けよ。本当は回りくどい事をせず私が直接相手をしてやってもいいのだ。だが、それをしないのは何故だと思う」
「自分に勝ち目がないと気付いて怖気ついているのでしょ?」
あおりで返す。こんな事じゃ腹の虫も収まらないが。
「お前は私をひどく見くびっているようだが、かつて私の正体に気づき、滅却しようと立ち向かってきたお前達のような輩がいたが、その全てに私は勝ち、闇に葬ってきた。全部返り討ちにしてやったのだ、完膚なきまでにな。中には命乞いをするものや、許しを請い、私に忠誠を誓う者もいたな。その様が実に滑稽だったぞ、人間」
「もういいです、その手には乗りませんから。滅却士をやっている以上、覚悟は出来ています。だからその程度の事を聞かされても動揺なんかしませんよ」
「人間はすぐ嘘をつく」
「お互い様です」
「んふふ、お前の大切なものはなんだ?」
「ここにいる全ての人です」
さっきからなんなのだ。時間稼ぎか? いやそんな事をした所でこちらの優勢は変わらない。もしかして逃げる算段でもしているのだろうか?
更に一歩、二歩と進み出ても、シュナイダーコークは話をやめず話し続けた。
「そう、ここにいる50万を越えるお前達のファンだ。私との戦いで何度もこいつらの声援に救われただろう? 同じ使命を持つ仲間がいて心強かっただろう?」
本当に何が言いたいのかわからない。
だけどなんだろう……。
さっきからわいて来るこの嫌な感覚は……長年磨いた直感めいたものが、これからよくない事が起きると警告してくる。
それは、徐々に熱を帯び出したシュナイダーコークの会話を聴き続けるうちに確信へと変わる。こいつまだ何か隠しているぞ。
「私はそれら全てをお前から奪う。その時、お前はどんな顔をするのか、楽しみだ。実に楽しみだ」
これ以上奴の好きなようにさせてはいけない。それだけはわかった。だからここで決着をつける!
ヒナ、アナマリアさん、ミミちゃん、エカテリーナさん、シアンさん全員と目を合わせ、うなずきあう。
今日ここで披露するはずだった最終演目・『ベルリンへの鎮魂歌』の上演だ。
歴史的な過ちを起こしてしまったこの地へのレクイエム。過去、現在、全ての人々への安息を願い、末永く続く安寧を願うこの地のために作られた曲だ。強力な破邪の力も有し、その力でどんなスパイトも滅却し、清める事が出来るといわれている。
難解な曲ではあるが、ボク達が完璧に歌いこなす。
「もう付き合っていられません。これからあなたを滅却します!」
勝負を決めにいったその瞬間、異様な事が起きた。
ボク達のやり取りを見守ってくれていた客席からの声援がピタっと止んだかと思ったら、代わりにあちこちから悲鳴や、怒声が聞こえだしたのだ。それは時間がたつにつれて加速度的に増し、ボク達は決戦を前にして歌うことが出来ないでいた。
そして、何が起きたか理解した時、ボクの視界の先には地獄絵図が広がっていた。
『どうしてこんな事に……』
ファンのみんなが『スパイト』へと変質していく姿を目の当たりにしたボク達は、言葉を発せず、ただ呆然と見つめ続ける事しか出来なかった――




