ソラ君とウチのプレリュード第42番 最高と最悪
スパイト達は圧倒的な力と数、そして恐怖を増幅させる異形で人々の負の力を吸い上げ、無尽蔵に強力な力を得ていった。
滅却師を生業とするエオルのメンバーも当初は苦戦していたが、ボクとレインさんがそこにどでかい一発を食らわせたことで形勢は一気に逆転した。
スパイトと戦う術を持たないファンの皆が、必死になって恐怖に耐えながらボク達に声援を届け続けてくれる。
その声が、想いが、ボク達を勇気を与え更に前へ前へと突き進む力をくれた。この大惨事の中、こんなに心強い事が他にあるだろうか?
ボクは感謝の気持ちを歌に乗せ、歌の届く範囲内にいるスパイトを滅却し続けた。
スパイトに対する力なき者の抗う力が、数値に表れることのない想いを乗せ続けた結果、恐怖に支配されていたドーム内の空気は一変させた。すると本来のエオルのライブの時と同じような熱狂的なムードに包み込まれていった。
そんな状況を見たレインさんは『エオルは本当にいいファンを持ったね……』としみじみと呟き、それにボクも「はい! みんな最高の仲間です」と誇らしげに答えた。全てが好転している、そんな手ごたえを感じていたのだ――
歓声を浴びながらドーム中を飛び回り、無我夢中で浄歌を歌い続けてどのくらいたっただろうか。形勢を完全に逆転させたボク等は現地にいるエオル全員で集まり、スパイト達へ殲滅戦を仕掛けていた。
本来の曲目とは違えど、様々な浄歌を使ったライブのような形式でスパイト達を滅却し続けた。ライブ用マイクを介し、巨大スピーカーから浄歌がドーム内にあふれ出すと、スパイトの恐怖から介抱されるも疲労困憊になった30万を越えるファンからもう文字に書きおこせない歓声が乱れ飛び、ドーム内はむちゃくちゃなテンションになっていた。
それでもドーム内にいるセキュリティースタッフは仕事を放棄せず、興奮しきったファンがドミノ倒しにならないように体を張りつつ拡声器を使って指示を出し、ファンを必死になって守り続けている。
みんなこの状況の中、必死に抗い続けた。だから声を張り上げる権利をみんなが持っている。それに応えるようにボク達は両手をブンブンと振り、感動を分かち合った。
モニターに写っていた半人半スパイトの男もいつの間にか姿を消していた。ここまで来て姿を現さなかったという事は既に滅却されたか、ボク達の力を恐れて逃げ出したかのどちらかだろう。
もし逃げ出しているのなら見つけ次第滅却せねばならない。だが、いまのボク達の力ならそれも余裕だろう。これだけ圧倒的な力を発揮し続ける事ができたのだから――
『――ソラ君、ソラ君』
「なんですレインさん? 今いいところなのに」
ファンに向けた笑顔を崩さず、手を振りながらレインさんに答える。
『まだおわっちゃいないよ』
「えっ――」
ボルテージの上がりきったファンの歓声を切り裂く爆音が、ステージの後方から突然轟いた。
一瞬で音が鼓膜に到達すると、脳内をシェイクされたように平衡感覚を失ったボクは、ステージに両膝をついていた。ヒナやミミちゃん、シアンさんやエカテリーナさんも苦痛に顔を歪めていた。
『ソラ君、大丈夫かい!?』
「ええ、耳がキーーンとしますがレインさんの声はしっかり聞こえますよ」
頭がガンガン痛むが、徐々に回復していく。何が起きたのか確認するため音のした方向に振り向く。
広大なステージ上に敷設されたレールの始点からミニ列車が蒸気を上げながら動き出すところだった。
本来ならエオルのメンバーがあれに乗って、ステージを縦横無尽に走り回り、多くのファンに笑顔と歌を届けるはずだった。
全てのエオルがいるステージ中央に近づいてくるにつれ、何が今起ころうとしているのかがわかる。レインさんの言う通りまだ終わってなどいなかったのだ。
モニターの前から消えていた男が先頭車両に乗って、こちらを無表情に見つめていた。そして傍らにもう一つの人影。徐々に近づく列車。
『なんて悪趣味な登場だ! ウチは絶対に許さないぞ!!』
レインさんがいの一番に傍らにいた人影の全貌に気付き、はき捨てる。ボクも遅れて気付き、心臓がドクンっと跳ね上がり、怒りがこみ上げてきた。
それは顔を腫らし、意識を失った痛ましいユキさんの姿だった――




