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ソラ君とウチのプレリュード第41番 花火のような二人


 久しぶりの運動で息も絶え絶えになりながらもようやくたどり着いたベルリンドームの正面ゲートは物々しい雰囲気に包まれていた。

 ゲート付近にいる警備のスタッフであろう大人達が無線を駆使して大声でどこかと連絡を取り合っている。

 その人達の話を盗み聞くと、どうやらどこのゲートも外部からのアクセスが遮断されているみたいだった。



 関係者専用通路とかもダメなんでしょうね、これって。

『だろうね』

 中はスパイト達があふれ、とんでもない事になっているというのに……どうすればいいのか……考えなしで来てしまった事を悔やむ。

 ライブ資料でさらっと目を通しただけだが、最先端のセキュリティで守られていベルリンドームに侵入するのは容易ではない。本来はファンの安全を守るためのシステムが今日に限っては完全に裏目に出てしまっている。内側から物理的に遮断されてしまっているので人力でどうにかできるわけがない。そして、外部からシステムに干渉するような能力をボクは持っていない。


 いい案がまったく思いつかない……。

 なにか名案ありませんか? 八方塞のボクはレインさんを頼った。



『もちろんある。しかもウチとソラ君にしかできないスーパーミラクルなやつさ』

 レインさんの覇気のある声色がボクの頭に流れ込む。相当自信があるみたいだ。

 それって一体どんな?

 

 

『ソラ君は目をつぶってウチに全てをゆだねて欲しい。ふふ、お楽しみは目を開けてからさ』

 危機的状況にも関わらず茶目っ気たっぷりな物言いに苦笑しつつ、ボクは目を閉じてレインさんの言うとおり、全てをゆだねた――





――ボクはベルリンドーム内の『上空を飛んでいた』。

 

 例えや冗談ではなく文字通り空をゆらゆらと飛んでいるのだ。

 滅却師となってから普通の人が一生体験できない事を散々してきたが、これはその中でもダントツだと思う。

 擬似的であれば誰でも体験できる事だろうけど、人類が縛り続けられている重力に逆らってここまで自由に空を飛んでいる人間はボクが初めてに違いない。

 スカートの中身が下から丸見えなのが少し気になったが、今日のステージ衣装はスカートの下にスパッツを履くものだったので注目を集めてしまってもファンの夢を壊さずにすみそうだ。



『コラっ! そんな事を気にしている場合じゃないでしょ』

 すいません……ところでこれってどんな原理で飛んでいるんです?

『スーパーミラクル妖精レイン様に不可能はないぃぃっっ』

 予想通り答えになってない答えが返ってきたので深く考える事をやめ、今起こっている事を素直に受け入れた。そして息を長く吐き、現実と向き合う準備を整えた。



 上空から俯瞰した景色は壮絶の一言だった。

 


 人間が本能的に恐れや嫌悪感を抱く、虫や動物の形に変化した巨大なスパイトの群れが、捕食対象である人間のエオルのファンの心をもてあそぶ様にしてジリジリと距離を四方八方から縮めていく。

 ステージ上にいるエオルの面々も滅却師の力を解放し、各自でスパイトに対抗しているが多勢に無勢。いつスパイトの群れに飲み込まれてもおかしくない状況だ。

 そして大型モニターには、この状況を心の底から楽しんでいるような笑顔を浮かべている半人半スパイトの異様な存在が流され続けていた。



『あれが親玉だね。間違いないよ』

 わかるんですか?

『そりゃそうだよ。モニターからでもわかる桁違いの悪意をビンビンに感じるもん。見ているだけで胸糞わるいや。イーーっ!!』


  

 あれをどうにかしないといけないわけですね。でもどこにいるんでしょうか? 

『性格の悪いあいつらのことだ。この会場内にいてライブ感ってのを味わっているのは間違いないよ。ただ闇雲に探しても時間ばかり浪費しちゃうからね。まずはファンの安全を確保するのが先決だ』

 はいっ!

 今日のレインさんはいつになく頼りになる。その心強さに返答も自然と力がこもった。 




『ここまで来たら今更何を言っても仕方ない。ソラ君も、ウチも過去最大級の覚悟を持っている。最初っからかましていくよ。準備はいい?』


 

 レインさんの鼓舞に答え気持ちを集中させる。

 でも、もしも多くの助けがいるこんな状況でもまともに声をだせなかったら――

『ほらっ! ネガティブな事を考えないの。リラックス、リラ~~っクス』

 レインさんの気遣いに思わずハッとなる。そしておかしな言い方に思わず笑みがこぼれていた。不安はかき消されている。



 大丈夫。今のボクならやれる。


 

 目を閉じ胸元に手を添え

「………………ん、ん」と恐る恐る声を出してみる。

 そこに痛みはない。


 

 今度は「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ~」と声を出してみる。すると声に掠れもなくしっかりと音階を出す事が出来た。

 自分の声に愛おしさすら感じる。声を出せるって事がこんなに素敵な事だとは!

「やれますっ! みんなを助けに行きましょう」 



 ボクとレインさんはスパイトが一番ひしめくメインステージへ高速で突っ込んでいった。




「うわぁぁああああぁぁぁぁ」

 いくらなんでもスピード出しすぎです。空中浮遊初級のボクはみっともない声を上げていた。

 これはステージフロアに頭から突っ込むのでは!? と目を閉じかけた直前、急激にGがかかり急旋回、急停止しボクはエオルのみんながいるメインステージ中央に無事たどり着いた。

 その瞬間、人間、スパイト、全ての視線がこちらに集まる。

『いまだソラ君! 浄歌を歌うんだ』

 無音に近い今がチャンス。

 ボクとレインさんはエオル伝統の浄歌を奏でた――






 おびただしい数の高音域の悲鳴や絶叫が周囲に拡散していく。音の主はもちろんスパイト達だ。

 浄歌はスパイトを滅却する前段階で奏でるものでものでこういった効果を発揮するものではない。どうしてここまでの威力を発揮しているのか、それはボクにはわからないが、ファーストインパクトがうまく決まりメインステージににじり寄っていた全てのスパイトが滅却されていた。



『奴ら、勝ち戦だと思って油断してたからうまく決まったね。カウンターパンチみたいなものさ』

「それはよかったんですけど、この威力異常すぎません?」

『そんな細かい事はいいから。それよりヒナタ君やシアン君達と連携を取るのが先だろ?』

「そ、そうですね」




 そう、まずはやれる事。やれる事からだ。

「ヒナ、みんな。大丈夫?」

 ボクにむいた視線に優しく語りかけた。その中にあるヒナの険しい視線は恐ろしいが……。


 

「ソラ、どうしてここに……体は大丈夫なの?」

 ボクの体を心配し続けてくれていたヒナは悲しい表情を浮かべていた。

「この通り大丈夫さ。それよりもっと気にするべき事があるでしょ?」

 これ以上心配させまいとボクは最高の笑顔をつくって答えた。

「…………そうだね。うん、今はファンのみんなを守らなきゃだね!」  

 呆れたのか、それとも諦めたのか、ヒナはすぐに本来の滅却師としての顔に戻った。

「シアンさん、ミミさん、エカテリーナさんも大丈夫ですよね」 

 三人ともうなずく。



 ボク達はすぐに作戦を立て実行した。要はコンビを組み、死角となる背中をお互いで守りながら戦う事。当たり前の事だが仲間と連携を取ったほうが効率がいいからだ。

 本当なら今はいないアナマリアさんも含めて6人で戦えるといいのだけれど、アナマリアさんはいないし、危機的状況に陥っているファンの数が多すぎる。

 だから多少の危険も承知のうえで出来るだけ多くのファンを救うためにコンビを三組作り(ヒナとミミさん。シアンさんとエカテリーナさん。そしてボクとレインさん)激戦地へ散らばっていく事にした。



「ソラ! これが終わったらいーーーーーーーーっぱい説教する事あるからね! だから絶対戻ってきてよね」

「わかってる、だからヒナも無事で」

「うん…………約束だよ」

「うん、約束だ」

 子供の頃のように指きりをして二人の契約が成立した。この契約を守るためにもボクは絶対に勝たなければならないのだ。



 二組を見送るとレインさんが『さて、そろそろウチ達も行こうか』と言った。

 うなずくとボクの体は再度空中へと浮き上がる。慣れない感覚だがそんな事を言っていられない。空中から戦況を見渡し、危険度の一番高い場所を見つけた。

『見てよソラ君。あそこなんてスパイトが随分偉そうにしているよ。ウチ達でお灸をすえてやらなくちゃだね』

「ですね。奴らがああやって慢心している今がチャンスです。滅却しまくっちゃいましょう」 

『いいねそれ。今日は全部だしきっちゃるぜい! スパイトよ、恐怖に震えて待つがいい……』



 たどり着くまでの間も浄歌を奏で続け、進行方向にいるスパイトたちを根こそぎ滅却していく。今日のボク達の滅却する力はやはり凄まじい。この力を持ってさえいれば未体験の高レベルスパイトが来たところでボク達の相手にはならなそうだ。


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