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ソラ君とウチのプレリュード第36番  代償

 


 新秋葉原公演は五万人を超すファンの地鳴りのような歓声に迎えられスタートした。

 無数のカクテル光線がステージと観客席を縦横無尽に照らしていく。ピンクを基調にしたファンシーな舞台には、フリフリして露出度の高いステージ衣装を見にまとった『100人以上』の女の子達とボクが歌を奏でていた。

 ゼクス社が用意したライブ当日直前まで知らされていなかった日本向けの仕掛けとは、日本が誇る大人気アイドルグループ『SAKB108』とのコラボセッションだったのだ。



 『SAKB108』とは新秋葉原のご当地アイドル。総勢108人と言う大所帯のグループで『あなたの好きなアイドルが必ず見つかる』をコンセプトにして人気を得てきた。また主戦場とするlive劇場ではファンとの距離を手に触れられそうなほど近くしたことで、遠い存在だったアイドルが身近なものとなり、顔なじみになりたいファンが結果的にリピーターになっていく既存のアイドル興行とは違う戦略がうまくいったわけだ。



 そんな大人気アイドルグループの情報がチケット販売時にはまったく記載されていなかった。完全なサプライズになったことでステージ上で発表され、アイドル達が入場したときの大歓声といったらなかったね。

 アイドル側なのか、ゼクス側の戦略かは知らないけど相当優秀な人間がいるのだろう。

 公演後、SNSの反響が凄そうだ。



 そんな彼女達とのコラボは学園にとっても有益なものになる。

 世界的な人気を持つボクたちエオルとコラボすることで海外進出の足がかりとしたい『SAKB108』側からの金銭的な援助がとてつもなくいいらしい(レインさん談)。

 ボクが特別に教えてもらった事だけでも、会場使用料や設営費などの経費の全負担、グッズや飲食売り上げの取り分や映像権などなど――全てこちらに有利な契約内容になっているそうだ。

 残念ながら学園長のユキさんがまとめた話ではなく、ゼクス側の法務部が取り仕切ったらしい。さすが世界的大企業なだけはあるといったところか。 



『ソラ君! ソラ君! そんな小難しい事考えていないで歌に集中しないと! お客さんに失礼じゃないか』

 本番中だというのに意識があらぬほうへ飛んでいたボクはレインさんから至極全うな注意を受ける。言われてから周りの反応をうかがったところ問題なくやれているみたいだったので一安心。

 


 そんな事言いますけどね。レインさんだってさっきから『SAKB108』の女の子に興奮しすぎです。

 最近絶好調なレインさんは起きている時間が以前より長くなり、この公演中でも元気一杯。

 周りで踊っているアイドルを見つけては『ああぁ~』とか『おほぉっ』とボクの脳内に情けない声を発し続けている。気が散るので止めて欲しいのだけれど。



『みんなかわいいんだから仕方ないじゃないかって、ああぁ! 見てみてソラ君。あの右前方にいる黒髪ロングの子。すっごいウチ好みだ。スカウトして学園に連れて帰りたいなぁ』

 レインさんの興奮は収まりそうに無い、放っておこう――。


 

 ボク達の歌とアイドルのパフォーマンスが融合し、パリ公演に続き新秋葉原公演も大盛況のうちに公演を終えることが出来た。

 会場に集まったファンはこの日、この時間だけは年齢も肩書きも全て忘れ、はしゃぎ、声をからし、全身全霊、汗だくになって公演を満喫した。その日ファンの歓声と嗚咽が新秋葉原周辺で止むことはなかった。

 


 パフォーマー側のボク達も、お金をかけ趣向が凝らされたステージ演出を楽しむ事が出来た。普段はお堅い舞台演出が多いだけに新鮮だったのもあると思う。

 個人的に気に入ったのは、6人の『エオル』メンバーと108人のアイドルが会場全体に散らばり、同時に歌を披露した演出だ。アイドル側の提案で行われたファンサービスで、ファンの熱狂をこんな間近でダイレクトに感じる事が出来たのはこっちも熱くなれたし、励みにもなった。(パリ公演にいたボクの親衛隊も駆けつけていたし。すごい) 


 

 日本での公演を終え、『SAKB108』と一緒に大規模な握手会をすませると、息つく暇も無くアジア圏の台湾や北京、シンガポールなどへ移動し、公演を重ねていった。

 行く先々で現れる『スパイト』を滅却し、同時に公演もこなしていたので疲労困憊になっていくが、その困難をエオルのメンバーと一緒に乗り越えていった事で絆が生まれ、ヒナ以外のメンバーとも急速に仲が深まっていった。そんな順風満帆に思えたある日、ボクの体に異変が起きる。



 公演直前、喉に違和感を覚え「ゲホッ! ゴホッゴホッ」と咳をすると今までに無い強烈な痛みがあった。喉奥にある粘着性の液体が気になり手のひらに吐き出すと、そこには赤黒い液体が付着していた――




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