ソラ君とウチのプレリュード第32番 決着と告白
「ニャンニャンニャン。ワンワンワン。ガォガォガォ!」
ううん!?
大切な歌を披露するといっていたアナマリアさんが歌ったのは、動物の声をかわいらしくアレンジした声真似だった。
約束どおり笑いはしなかったが、呆気には取られる。
普段はクールで高貴な彼女が猫のように体をしならせてニャーニャーと泣く姿は、こんな状況下においても愛しさと邪な感情を抱かせてしまうほどだ。
「ニャア! ニャア!ニャア! グワッグワッグワッ」
今度は猫からアヒルの声真似。
かわいい、かわいいけど…………。
かわいらしいポーズと動物の鳴き声だけの歌にどんな意味があるのだろうか?
『ソラ君、深く考えちゃダメだ。これは幼年期の感性で作られた二人の思い出の歌なんだから』
そういえばそうでした。
「ニャア! ニャア!ニャア! グワッグワッグワッ」
早く私に続いてきてください。やっぱり一人じゃ恥ずかしいです。
歌いながら脳内に囁きかけてくるそのマルチタスクぶりに驚嘆しつつ、ボクも後に続く。
「「ニャア! ニャア!ニャア! グワッグワッグワッ」」
動物の動きも声のタイミングも綺麗にはまる。ボクの洞察力とアドリブ力がすごいのではない。
レインさんが全て調整してくれているのだ。
レインさん、神すぎる。
猫だったり犬だったり、アヒルだったりゾウだったり子供が知っている身近で知名度の高い動物の声真似が続くとさっきまであった悲壮感はどこへやら。最初は戸惑っていた観客もいつのまにかボク達のショーに魅了されていた。
その中にレインさんも当然入っていたわけで。
『あの腰のしなり具合を見たかい、ソラ君? アナマリア君はなんて素晴らしい女性なんだ! ウチこの戦いが終わったら最高画素のカメラ付きスマホを買いにいくんだ……』
「ソウデスネ」
『冗談はさておき、歌の効果はちゃんと出ているよ。あのスパイトからさきっまで眠り続けていたミミ君の意識を微かに感じる。しかも彼女は意識を乗っ取られながらも懸命に歌おうとしているんだ。二人共ミミ君の口元を見てごらん』
確認すると必死に何かを伝えようとしてか、ミミちゃんの口元がわずかだが動き続けていた。
「ニ…………ワ………………グ、グワ」
意識を取り戻しはじめたミミちゃんの抵抗が始まったのだ。
どんなことにでもいえるが、成果が出れば活気付く。
ボク達は声も意識も絶え絶えのミミちゃんを励ますように歌をあわせていく。
「「「ニャン……ニャン……ニャン。ワ……ンワン……ワン。ガォガォガォ!」」」
ミミちゃんの内からの抵抗と、ブースター越しの浄歌による二重苦。
このまま消滅を待つだけはごめんだとばかりにスパイトがミミちゃんの体から這い出てくる。
後ろを振り向かず蛇行して、防壁の外へ出ようともがくスパイトをボクは追い詰めた。
ミミちゃんをここまで苦しめたお前を逃がすわけがないだろ!
意識を集中させ、レインさんに力をゆだねる。
街灯の光が明滅を繰り返し、防壁の内側で青白いエネルギーの渦が、木枯らしのような動きを見せ徐々に光度をあげる。
『ありゃりゃ、これはすごい……底なしだねソラ君の力は。これならウチの歴史上最高パフォーマンスが出せそうだ。いくよソラ君!』
「はいっ」
熱を帯びはじめたブースターが光り輝き、全てをスパイトに解き放つ!
「「天、滅!」」
ボクとレインさんの声が一つになり、莫大な量のエネルギーが生まれ、そして拡散した。
光りの速さでスパイトを絡め取ったその聖なるエネルギーが、徐々に圧縮されていく。
一瞬だけ幻想的な光で大きく輝くと一気に収縮し、スパイトは音を発することなくこの世から完全に滅却されていった――
アナマリアさんはミミちゃんの顔を膝に乗せて介抱していた。
コンクリートの上に直で正座していて痛いだろうに、そのそぶりすら見せずにミミちゃんの髪の毛を愛おしそうに撫でている。
何か二人でボソボソ喋っているが聞き耳を立てることはせず、少し離れて日本の滅却師が来るまで静かに見守った。
『ソラ君、割とノリノリだったねぇ。セクシーな猫のポーズとか決めちゃったりして』
「もう余韻に浸らせてくださいよ。かっこよく締まったと思っていたのに」
日本の『スパイト』滅却機関である陰陽師連が現場に到着し、事態の収拾に乗り出した。陰陽師と言っても昔のような式服ではなく、屈強そうな体躯にスーツを身を纏っているさながらシークレットサービスのようだ大男達だ。
ミミさんは意識はしっかりしていたが、念のため大事を取るということで日本の陰陽師が用意した特別な車で病院へ搬送されていった。当然アナマリアさんもその車に同乗しようとしたのだが、ミミちゃんに耳元で何かを囁かれ乗り込むのを止めてしまった。
仲直りできなかったのかと一瞬だけ肝を冷やしたが、ドアが閉まる際ミミちゃんが笑顔で「頑張れ」と言っていたので大丈夫そうだ。何が『頑張れ』なのかはわからないけれど。
「ちょっといい?」
帰りしなホテルまであと少しという所でアナマリアさんから声を掛けられる。
何かを決心した顔つきだった。それはレインさんにも伝わったようで
『ソラ君、話しを聞こう』と言われる。
は、はい。
『それと変身を解きたいから、人目のつかないところに移動してくれないかな』
「わかりました」
ホテル近くに神社があるとシアンさんのガイドブックに載っていたのを思い出し、そこへ向かう。
既に夜だ、あたりは街頭の光と空からうっすら覗く星の瞬きだけだった。ボク達以外に人は見当たらないことを確認すると、レインさんはチョーカーから妖精へと変身する。
『ふぅ~お待たせ』
暗闇を照らすレインさんの穏やかな光と気楽さが心強かった。
あてもなく境内を歩き続け、設置されているベンチを発見したボク等はそこへ並んで座る。
移動中一言も話さなかったきまずさで、緊張感が増してしまったボクは夜空に心の退避先を選んだ――
「お話があります」
うおっ!
まっすぐこちらを見据えいつもより声のボリュームを上げてきたアナマリアさんに驚く。
何もかもが普段どおりではない。緊張感がさらに高まっていき呼吸が浅くなってしまう。
出だしはよかったアナマリアさんだったが、すぐにうつむいてしまった。その後は手を握ったり、緩めたりを何度も繰り返している。
どこからどう見ても緊張しきっているよな……。
舞台慣れしたアナマリアさんのこんな姿初めて見る。
ボクはアナマリアさんからどれほどの爆弾発言がくるか、ビクビクしながら対ショック体制を取った。
それとは対照的にボクの太ももに落ち着き払って鎮座しているレインさんの胆力が凄まじいったらないね。
虫の音一つ無い静寂の中でどのくらい経っただろうか。
月に掛かっていた大きな雲が通り過ぎた頃、ようやくアナマリアさんが重い口を開いた。
「ミミから聞いたと思いますけど、私のこと覚えていませんか? レインさん」
『どういうこと??』
「…………私はあなたを以前から知っているし、話したことだってあるんですよ」




