ソラ君とウチのプレリュード第31番 アナお嬢様の決意と覚悟
歌を奏でる。
異なる二つのブースターを介し、聖なるエネルギーをまとった音達が周囲にフィールド効果をもたらしていく。
イントロは周囲に防御壁を形勢し、観客の安全を確保する。スパイトはこの防壁から逃げる事はできなくなる。
Aメロで観客からの喝采で高揚していく気持ちが、更なる力を生み出す。
Bメロで呼び込んだ力を体に漲らせ、そのときを待つ。
サビで練り上げた力を全て解放し、対象へ解き放つ。
二つの異なる魂の重なりで奏でる言葉の一つ一つがスパイトを脅かし、存在を否定する。
パリ公演でも出せなかったボク達の心と魂のハーモニー。
この神聖なる歌を聴いて苦悶の表情を浮かべているのはスパイトに寄生されたミミちゃんだけだ。その悲惨な姿を見ていると心が痛む。
それはアナマリアさんも一緒で、ボクに流れ込んでくる彼女の苦しみ、悲しみは生半可なものではない。
その一瞬の隙をつかれた――
スカートをたなびかせながらスパイトが凄まじいスピードで突っ込んでくる。
『ソラ君!』
わかってますって!
ボクの顔に飛んできた蹴りを体を捻って避ける。
本体であるミミちゃんはエオルでも一際華奢な体つきだが、スパイトの力を得た事で人間の限界以上の力を引き出されている。その証拠にかわした先にあった街灯を支える金属は、スパイトのとび蹴りでぽっきりと折れ曲がった。
生身の人間がこんなのくらったらひとたまりも無い。
だがボクだって多くの経験を積んできた滅却師の一人だ。
やつらの攻撃の傾向は把握している。
まず歌を止めるためこうやって声を発する顔や、声量を左右する腹部を狙って攻撃を仕掛けてくることが多いのだ。そこさえ気をつければ直撃を免れる事は容易。現にミミちゃんに寄生しているスパイトもそこを狙ってきたわけだし。
対処ができるといっても相手の攻撃を受け続けていたらこちらのスタミナが先に切れてしまう。このまま無尽蔵な体力で押し切られる可能性がある。
そうなる前に浄歌で弱体化させたいのだが――
「おかしい、私達の浄歌が届いていない?」
ボクも気にしていた事を口にするアナマリアさん。
人生で一番の歌を披露しているというのに、あと一歩とどかないもどかしさがあるのだ。
ここまでの耐性をもったスパイトに出会うのは滅却師として活動してから初めてだ。
レインさんが言っていた通りだ。
これは間違いなくレベル3を超えた強力なスパイトになっている。
本来ならヨシュアやスノウといったベテランの滅却師が請け負うべき案件。
それを未経験のボクとアナマリアさん二人で滅却しなければならない。
「アナマリアさん、レインさん。何かいい手はありませんか?」
『スパイトを弱体化させるより、一気にミミ君の意識を覚醒させたほうがいいかもしれないね。エネルギー源を絶つ方法だ』
「それはいいですが、どうやってそれを? 浄歌に耐性のあるスパイトに意識を支配されたミミを覚醒させる方法など私は知りません」
『アナマリア君。君がキーだ。ミミ君との運命的なつながりはウチやソラ君には立ち入る事が出来ない。耐性をぶち破る君たちだけに響く思い入れのある『浄歌』が必要だ。 覚えはないかい?』
「あるにはあります。幼い頃の思い出の歌ですが……でも、あれを歌といっていいのか……」
目を閉じたアナマリアさんからはずかしさや、困惑といった感情が流れ込んでくる。渋っている理由はそこらへんにあるようだ。
でも今は思い悩んでいる状況ではない。
長引けば長引くほどミミちゃんに負担がかかってしまう。
「あるのならその手を試しませんか? 相手は今まで出合ったことのないような強敵です。ボク達は挑戦者の立場ですから、出し惜しみをせず、最善手を打ち続ける必要があるはずです。違いますか?」
「そう、ね。私とミミ二人だけの秘密の歌だったのですが……。そんな事を言っている場合ではないわね……………………ソラさん披露する前に一つだけ約束をしてください」
「ええ、約束でも何でもしますよ」
「これから歌う私達の思い出の曲はかなり『特殊』なものです。なにせ私達が幼稚園の時に勝手に作った曲ですから。でもどんなに拙い曲だとしても絶対に笑わないでください。私達はこの曲でどんな辛苦でも乗り越えてきたんです。その思い出を汚されるのだけは我慢なりません。もし笑ったら――」
一瞬アナマリアさんの目が怪しく光ったような気がしたが……きっと気のせいだろう。
「そこまで人の気持ちを考えられない人間ではないつもりです。絶対に笑わないと約束します。だから二人の思い出の歌をお願いします」
嘘偽りのない気持ちはアナマリアさんに届いたようで
「約束しましたよ? これから歌いますので歌詞を覚えたらソラさんも私に続いてください」
と快諾してくれた。
目を閉じ一息つくと、アナマリアさんは『ポーズ』をとって歌いだした。




