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ソラ君とウチのプレリュード第29番  すれ違い、二人の想い



「大将! タン麺大盛り、チャー丼三つ」

 話を聞くはずだったボクが今いるのは背油ましましのラーメン屋であった。

 ミミちゃんが「日本のラーメンは世界一美味しいからどうしても食べておきたい」ということでついてきたのはいいのだが、このラーメン屋で飲食店は五件目だ。

 食べてばっかりいないで、いい加減用件を伝えて欲しいのだけれど――




 ボクはアナマリアさんの話を聞かせてもらうために、休憩できそうなお店がいっぱいある新秋葉原の中央通り沿いを案内した。シアンさんからもらった『新秋葉原ガイドブック』がここでも役立つ。飲食店や、長い時間休憩可能なお店が網羅されているのだ。助かりますシアンさん。



 ミミちゃんが話してくれるのを待つだけのボクは、彼女の話しやすい環境を作ろうと『新秋葉原ガイドブック』を見せ、行きたい所はないか尋ねた。

 すると、ミミちゃんはこういったのだ「お腹が減ったので行きたい所がある」と。

 それで着いていったのが、まさかまさかの五軒の飲食店だ。



 一軒目『焼肉屋千世』でのミミちゃん。

「カルビ、豚トロ、上タン塩、ハラミ、砂肝、それにホルモン。全部三人前ください。あ、ライスは大盛りで」

 日本の焼肉に興味がある。だけど、一人で入るのが恥ずかしいっていう理由はいいんだけど、頼みすぎである。注文を聞いただけでお腹一杯になってしまった。



 二軒目ドネルケバブ屋さんでのミミちゃん。

 次の目的地に向かう途中で路上販売していたお店の匂いにつられ、食べる事に。

「それ二十個ください。テイクアウトで」

「えっ? お嬢ちゃん本気?」

 突然の大量注文にお肉をカットしてた店員さんの手が止まる。

 こんな細身の女の子がそんな量頼んだら冗談にしか聞こえないですよね。

 でも余裕で食べますよこの子は……。

 


 三軒目カレー屋ヨヨ一番でのミミちゃん。

「なすカレーにライスは一.三kgで三辛。トッピングは全部持ってきてください」

 全盛りというやつらしい。時々注文されるのか店員さんにあまり驚かれずに注文は通った。 

 驚いたのはボクのほうだった。みんなで取り分けるような食材が皿にこれでもかと盛られ、テーブルいっぱいに運ばれたからだ。これを一人で食べきっちゃうんだから恐ろしい。

 帰り際、完食記念に写真を撮られていたミミちゃんはまだまだ余裕の笑顔で写っていた。

 


 四軒目お寿司屋『蔵寿司』でのミミちゃん。

 「日本に来たからにはお寿司もね」とミミちゃん。

 カウンター席に座り、流暢な日本語を駆使して謎のメニュー「お任せ、サビ抜きで」を注文する。

 その後はとても気に入った食材があったらしくそればかり五十皿を注文し、それを食べ続けた。

 ミミちゃんマジやばい……。



 そして五件目がラーメン屋だった。ミミちゃんはここまで全部のお店で料理を完食している。

「お嬢ちゃんいい食べっぷりだね。これおまけしちゃう」

 新たにチャーシュ二枚と味付け卵が丼に投入されるが、それもぺろり。

 小動物的なかわいさのあるミミちゃんになにかしてあげたくなる気持ちはわかる。

 こんなに可愛い子が自分の作ったものをおいしそうに食べてくれる。料理人冥利に尽きるってものだろうし。

「ありがとう大将! あ、替え玉おかわり」

 ミミちゃん、その小さな体のどこに料理が消えていくの? 体の積載量を超えていません?



 五件目のラーメン屋さんでようやく満腹になったらしい。

 「はぁ~満足した~」と言いながらお腹をさすっていた。

 思ったより時間が掛かってしまったがそろそろ話を聞かせてくれるだろう。

 ボクは一緒に歩きながらその時をじっと待った。



 隣で鼻歌を歌い、スキップするミミちゃんを眺める。よくあれだけ食べて軽快に動けるなぁ。

 それとこのウェスト。なんでこんなにほっそりとしているんだ? 限度ってものがあるような……

『エオル』のポテンシャル恐るべし。ボクが知らないだけで他のみんなもこういった人並みはずれた特技や能力があるかもしれない。まぁ、ミミさん以上のインパクトはそうそうないだろうけど。



 考え事をしていたら気付かないうちにミミさんは五メートルほど先を歩いていた。

 小走りで追いつこうとしたら、急に歩みを止めるミミちゃん。

「うん、もう大丈夫。話せそう」とつぶやいた。

 それは自分に言い聞かせるためか、ボクに聞かせるためかはわからない。



「随分待ちましたよ。それでお話って何ですか?」

「それはね……」

 体を百八十度回転させ、夕日の方へ体の向きを変えてしまった。

 自分から誘っておきながら中々話を切り出せなかったのにはそれなりの理由があるようだ。ここで気が変わってもらっては困る。ボクはひたすら待った。



「アナちゃんを助けて欲しいの」

「え? どういうことです」

 彼女の身に何か良からぬことでも起きたのだろうか。

 ボクには公演中もいつも通りのアナマリアさんに見えたのだが。



「そのチョーカーってさ、学園長から譲り受けたものだよね」

「そう、ですけど。何でミミさんが知っているんですか?」

 誰にも話したことは無い。レインさんの正体を知っているヒナだって知らないくらいだ。



「アナちゃんから聞いたの。妖精のレインっていう面白い子がそれに変身していて、あなたの力になっているって」

 レインさんの事まで知っているとは……ヒナが誰かに言うわけないし、一体どういうことだ?



「そんなお伽噺みたいな話あると思います?」

 ここは相手の出方を伺うため、わざととぼけてみる。

「うん。アナちゃんが言ってたことだし、私は信じてる」

 アナマリアさんの事をそこまで信頼しているのか……とぼけるのは止めてミミちゃんの真意を探る。



「アナマリアさんはそこまで知っているんですか。驚きです。でも、その事とアナマリアさんを助けて欲しいって言葉が繋がらないんですが。一体アナマリアさんを何から救えばいいんですか」

 目を伏せて、とつとつと語り出すミミちゃん。とてもつらそうだ。

「そのチョーカーは……特別な意味を持つんです。アナちゃんからしたら。それをあなたが着けているだけでアナちゃんは毎日苦しんでいる。だから」



「だから、アナマリアさんに譲ってください、とかですか? 申し訳ないですがそれは無理です。このチョーカーは、レインさんはボクにとっても大切な存在なんです」

「そっか。ダメかぁ……」

 道路に落ちていた石を蹴飛ばす姿が、物悲しそうだった。



「ごめんなさい。これだけはどうしても譲れません。それよりアナマリアさんがどうして苦しんでいるか、根本的な問題を解決したいというのであれば『ボクたち』は全力で協力しますよ」

 石を蹴飛ばす動作が止まる。

 だが、そこからが長かった。

 

 

 夕日が傾きかけ、暗闇が世界を覆い始めようとしたその時

「実は学園長とアナちゃんは――」

 ついに決心したのか、ミミさんのか細い声が聞えてきた。

 ボクは一言一句聞き漏らさないように集中する。

 この情報で仕事の目処が立つ。そんな確信があった。



 ようやく真実が語られる。その直前、この場に一番いてはならない人物の声が響いた。

「ミミ! 私のことをベラベラしゃべらないで! よりによってこいつなんかに」

 驚いて声のした方向へ視線を移すと、怒りに身を震わせたアナマリアさんがそこにいた。



「わ、私はアナちゃんのためを思って」

「そんなこと一度だって頼んでいないでしょ、この裏切り者! あなただけは信じていたのに」

「アナちゃん私そんなつもりは……」

 アナマリアさんはつかつかと歩み寄ってきたがボクを無視し、ミミさんを濁った目で睨む。

「あなたの言葉はもう聞きたくありません。うっとうしいので私の視界から直ぐにでも消えて! そして金輪際話しかけてこないで」



「うっ」

 ミミちゃんの大きくてクリっとした瞳から大粒の涙が瞬時にあふれる。そしてもと来た中央通りの方へ走り去ってしまった。

「アナマリアさん……見損ないましたよ」

「あなたにいわれる筋合いはありません、この変態。こんな奴に相談するなんて本当に馬鹿な子ね」



 その瞬間、アナマリアさんのために今日一日ミミちゃんが思い悩んでボクに見せた儚げな笑顔を思い出す。その気持ちを考えると我慢なんてできる分けがなかった――



 堪えきれない怒りが『オレ』を突き動かす。



「ふざけんな! お前にミミさんを悪く言う資格なんかねぇ!」

「な、なによ! 大声を上げれば皆黙ると思っているのかしら? 私はそんなやわな女じゃない!」

「そんな事はどうでもいい! なんでお前はミミさんの気持ちを! 想いを! 彼女の気持ちになって考えてやれないんだ」

「ふん。いいたい事はそれだけかしら」

「待てよ。まだだ」

 


 アナマリアの手を強引に掴み引き寄せる。

「痛っ。話しなさいよ」

「ここでミミさんに謝ると誓うんだ」

「あなたのいうことなんて絶対に聞きま――」



「キャァァァァァアアー」

 ミミさんが向かった大通りの方から、女性の悲鳴が聞える。

「いくぞ」

 抵抗されようがオレはアナマリアの手を離さず、力づくで彼女を従わせようとする。

「手を離しなさい!」

「いいから来い! 今の悲鳴がもしもミミさんだったらどうする。行かずに後で後悔しても遅いぞ!」

「くっ」


 

 勝気な表情は消え、目を伏せるアナマリアを強引に引っ張って大通りへ駆ける。

 大通りに近づいていくと人波が段々と激しくなってくる、人の数が増えれば増えるほど胸のざわめきが増す。



 人垣を掻き分け続け、騒ぎの中心へ向かっていく。

 掻き分ける人間がいなくなり、人垣の先頭へ躍り出る。



 そこでボク達が目にしたのは『エオル』の制服を着た女の子が『スパイト』に寄生されている姿だった――


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