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ソラ君とウチのプレリュード第28番  ミミちゃんの大冒険

 

 色々あったがソウルカントリーまではいかないまでも、ボクもパリが大好きになっていた。 

 自分の気持ちをレインさんに吐き出せて人生のターニングポイントになった地でもあるし、初公演を成功させる事も出来た思い出深い地だ。

 レベル3のスパイトを被害が出る前に滅却できたことも大きい。スパイトに取り付かれた男性は容態を回復させ、心身のリハビリを開始したそうだ。これでパリでの心配事はなくなった。

 

 

 回りきれなかった美術館がいくつもある。今度はもう少し詳しくなってレインさんとまたこられたらいいな――



 パリ公演の日程を無事終えたボク等『エオル』はシャルル・ド・ゴール空港でたくさんのファン(ボクの親衛隊も来ていてメンバーが一気に増えていた……)や報道人に見送られ、次の目的地日本の『新秋葉原』へ向かう。



 

 目的地である『新秋葉原』は世界的にも有名なジャパニーズカルチャー発祥の地である。

 シアンさんから譲り受けた手作り感満載な『新秋葉原ガイドブック』によると、新秋葉原は戦後電気街として栄えた後、都市部としては未だかつて無いほど独自の発展を遂げていった奇妙な街と書かれている。



 犯罪やモラルに反していなければ、大概のことは許容する大らかな風土のお陰で、それまでは日陰者的な扱いだった特殊な趣味を持つオタクがその地に一斉に集まった。趣味には多額のお金を落とすオタクが集まったことで街は次第に巨大化していく。これが新秋葉原バブルの始まり。

 その後、金と人間の集まるところに商機を感じた企業が街の再開発を試みる。電気街に大型施設の建設ラッシュが始まったのが1990年代。



 今回の公演先の『新秋葉原ドーム』もその一つだ。収容人数六万人超の巨大ドームで、日本初の開閉式の屋根がついた球場として建設された。野球がオフシーズンの時は各種イベント会場として使われている。



他にも全長635m、日本一の高さを誇る電波塔『新秋葉原ツインテールタワー』やオタイベントの聖地『UDDXビル』等々、日本を代表する施設を次々と建設して他都市に追随を許さないほどの経済発展を遂げている。


 

 今回はそんな歴史を歩んできた『新秋葉原』でゼクストラベル主催の2days公演となる。衣装や事前イベントに日本向けの特別な仕掛けが色々あるそうだ。どういったものが催されるかはわからないが「期待してください」と主催者が自信満々にいっていたので今から楽しみ。



 今回もゼクストラベルが高級ホテルを手配してくれていた。

 バスで宿泊するホテルまで移動し、荷物をクロークに預けると少し休憩する時間が生まれた。

「ソラ、私お手洗いに行ってくるね」

「うん。ここで待ってるよ」

 

 

 ヒナを待つ間、一人でいることに居心地が悪くなっている事に気付く。 

 ツアーが始まってからというもの、ほぼ二十四時間ヒナと一緒にいるからか、いざいなくなるとこうなってしまうとは想像もつかなかった。もう一人のパートナー、レインさんに頼ろうとするが、パリで人型モードになった疲れからかチョーカーに戻ったままグースカーピースカーと眠ったままだ。

 


 遠くをぼーっと見つめ考える。

 二人に依存しすぎているかもなぁ。



 『エオル』の子達は、一人を除いて気さくに話しかけてくれる。

 状況に慣れ、普通に話せるようにはなった。だがヒナやレインさんのようにそれ以上親しくはなれない。原因は明白、性別を隠すために『嘘』をついているからだ。

 アナマリアさんの事が解決したらボクはヨシュアとスノウの元へ戻ることになるだろう、だからこのままでいいのかもしれない……。





 ――本当にそれでいいのだろうか?




「うわっ」

 スカートを急に引っ張られ、反射的にスカートを押さえる。

 『中身』を見られたらおしまいだ、必死に抵抗する。

 今居る場所はセキュリティーがしっかりした高級ホテル。変な輩が紛れ込んでいるとは考えにくいんだけど、これは一体。

 スカートからミチミチとやばそうな音が聞こえてきたので流石にまずいと思い、反攻を試みようとしたら

「はぁはぁ、ソラさん……お話が、あります」と聞き覚えのある声。

 この声は――。


 

 警戒を解き、振り向くと見知った顔がそこにあった。

 小さい体で息を切らせながら一生懸命スカートを引っ張っていた女の子。

 常にアナマリアさんと行動を共にする、『エオル』のマスコット的存在ミミちゃんだった。



「あのぉ~。そろそろその腕を離してくれませんか? スカートが破れちゃうので」

「あ、ごめんなさい…………」

 パッとスカートから手を離すも、今度は袖をつかむミミちゃん。

「あっちへついてきてくれませんか」

 ロビーから死角になる所につれていかれ、ようやくそこで解放される。

 大人しそうな顔に似合わない強引なやり方をとるな。



「アナちゃんのことで、はぁはぁ、話がぁ、はぁはぁ、ありますぅ」

 目を瞑り胸元に手を当て忙しなく呼吸を繰り返している。

 強引さを発揮したものの、ヒナのようにスタミナはなかったみたいだ。

「話を聞くから、落ち着いて。一度深呼吸しよう」

 ミミちゃんは素直にうなずくと、ゆっくりと深呼吸を始めた。

「すーはぁ~。すーはぁ~。すーはぁ~~~」

 息が整い始めたのを確認して、逸る気持ちを押さえ話の続きを待つ。



 依頼を受けてから進捗度がまったく上がらず、足踏み状態だったアナマリアさんの問題に進展が見られるかもしれないのだ。

「あの時は酷い事言って逃げてしまってすいません」

「あの時?」

「あの……その……アナちゃんの事を聞かれたときにケダモノって」

 泣きながら走って逃げちゃったあれか。事故とはいえミミちゃんには悪い事をしてしまった。

「ああぁ……気にしてないよあれは。ボクにも原因あるし」

「ですよね、寮内でああいうことするのは……流石にちょっと。しかも女の子同士とか……」

 うぐっ……


 

 あの場面は幼馴染同士の心の邂逅だったのだが、それを説明するわけにはいかない。苦笑してこの場だけでも取り繕う。これで許してくださいミミちゃん。

 疑惑の目でじーっと様子をうかがってくるが、どうにか自分を納得させたみたいだ。

 影が少しさしてはいるが、いつもの人懐っこい表情に戻っている。

「アナちゃんの事でお話があります。今日一日、時間をもらえませんか? 出来れば外で」

 ありがたい申し出に、笑顔で了承した。



 そうだ、外に出かけるならヒナにだけは連絡しておかなきゃ。

 パリの二の舞だけはごめんだ。ボクに肉体的な痛みを喜ぶマゾヒストな側面はない。

「ちょっとヒナに出かけるって電話しておくね――」

 バッグからスマホを取り出し、画面をタップしようとしたら小さな手が伸びてきて、ボクの手元のスマホを奪い取っていってしまった。

「ちょ、何するのミミさん? 返して」

「ごめんなさい。これは今日一日私が預かります。私と出かけるのは誰にも知らせないで欲しいんです」

「それは困る! ヒナに連絡しておかないと、後が怖いんだ」


 

 さば折や羽交い絞めの恐怖が甦る。

「聖母みたいなヒナタちゃんが怖いって、そんなのありえません。ソラさん大丈夫?」

 ミミさんはヒナタの嫉妬深い面を知らないからそんな事いえるのだ。次はどんな恐ろしい技が待ち受けているのか、サブミッションじゃ済まず、そろそろジャーマンスープレックスのような大技が来るかもしれない。ああぁ、考えただけでも恐ろしい。 



「どうにか返してもらえないかな?」

「ダメです」

「名前は出さないから、連絡だけでも、本当おねがい」



 頭を何度も下げ、情けない声で哀願してミミさんの情に訴えかける。

 痛みに比べればこのくらい楽勝だ。

「むぅ~。こちらもお願いしたいことがあるわけですし、連絡するだけなら……。でも、ソラさんに会っているってヒナタちゃん経由でばれちゃったら……」



 ここはもう一押しだ。

「ヒナにはうまく伝えるし、万が一うまくいかなくてもヒナは告げ口とかするような女の子じゃないよ。それはミミさんもよく知っているでしょ?」

「確かに……わかりました。これは返します」



 返してもらったスマホで即ヒナタに連絡を入れる。

 勝手に移動していたことに小言を言われたが素直に謝ると許してもらえたのだが、これから出かけなくてはならないと伝えると



「ふ~ん。誰とどこにいくの」と間髪いれずに突っ込まれる。

「いや、えっと一人だよ? そうだ仕事! 仕事を頼まれたんだよ。ゼクス社の人とプロモーションビデオの撮影? の打ち合わせだった、かな」

 黙っていると怪しまれる。

 とっさに頭に浮かんだセリフから順に出荷していく。



「へぇ~。一人で仕事ねぇ~。ソラは働き者だねぇ~」

 スマホ越しでも完全に疑っているのがわかる。

「あ、社員さんが移動するって言ってるから、電話切らなきゃ。じゃあ、また後で連絡するねヒナ」

「ソラっ! ちょっと待ちなさ――」

 スマホの充電が切れるまで追求が止まる気がしない、ボクはあわてて通話を切る。

 


 ふぅ……思い切ったことしちゃったけど、あとでヒナに会うのが恐ろしい。


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