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ソラ君とウチのプレリュード第27番  女の子のパッシブスキル


 頭の鈍痛で目が覚める。中身はわからないがレインさんのグラスに入った飲み物を飲んだからだろう。

 スマホで時間を確認すると朝の七時前だった。

 あくびをかみ殺し、シャキッとするために顔でも洗おうかと思ったとき、下半身の違和感に気付く。

 シーツをめくり確認すると下着を着けていなかった。



 というか全身裸だった。



 なにこれ…………。

 ベッドに思わず手をつくと柔らかい弾力があり、それが何か確認するため、こね回すと「あんっ」と色っぽい反応が返ってくる。


 

 ボクの真横で『裸』になってベッドに横になっているレインさんがそこにいた。



「お早うソラ君……昨日はすごかった……よ」

 ふぇぇぇぇぇぇぇぇ?

 こんなしおらしくしているレインさんを見たことがない。

まさか、まさかね?



「えっと、もしかしてしてボク……ヤッてしまいましたか?」

 裸の男女が、ベッドの上で二人きりになってやることといったら『アレ』しかない。

「うん……ウチ、あんなに求められたの初めてだったから……とってもよかったよ……」

 おひょぉぉぉ!? 

 一瞬で眠気が覚める。

 記憶にないが、酔った勢いで知らぬうちに過ちを犯してしまったようだ。



「覚えていないのかい? ソラ君は若さにまかせた激しいプレイで、ウチをなかなか寝かせてくれなかったというのに……ウルウル」

「そ、そんな……ボクまったく記憶にないんですけど。本当にボクはヤってしまったですか?」 

「ひどい!! あんなにウチの体を好きにしておいて、覚えていないだなんて! 男って本当に勝手なんだから!」

 そういってレインさんは大粒の涙をポロポロと流す。

 右手に目薬を持って…………。


 

「レインさん? 性質の悪い冗談はやめてください。生きた心地がしませんでしたよ」 

「もうちょっと引っ張ってもよかったけど、ソラ君の絶望しきった顔を見ていたら流石に気の毒になってきちゃった」

 そういって悪びれも無く笑う。

「もう、もう、もう!」



 間違いは起こしていなかったが、レインさんが裸なのはかわらない。

「もう満足したんじゃないですか? 目のやり場に困るのでそろそろ服を着てください」


「ソラ君だったらいくらでも見せてあげるのに。まぁいいや。着ればいいんでしょ、着れば」

 ボクの目を気にせず裸のままベッドから立ち上がり、イスにかけてあった服を着始める。その時の下着をつける衣擦れやホックの音が生々しすぎて思わず唾を飲み込む。

「気になるならみればいいのに」

 


 またそうやってからかうんだから。

「せっかく昨日はレインさんの事を見直したのに、これじゃ台無しですよ」

「あはは、あれもこれも全部ひっくるめてウチだから。初心だねぇソラ君は」

「初心でいいんです!」



「そういえばさ、ソラ君覚悟しといたほうがいいよ」

 何気ない切り口だった。だから怒っていた事を忘れ、聞き返す。

「はい?」

「早く宿泊ホテルに戻らないと『色々』やばいかもよ」



 その一言でヒナの顔がフラッシュバックする。

 うげぇ!

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイィィィィ。

「まぁ、ユキには外泊するって連絡はしておいたから、無断外泊扱いにはなってないよ。でも、ヒナ君はどうかなぁ。話が伝わっているといいけど……まぁユキのことだから多分――」



 宿泊先に戻ってからが大変だった。

 ヒナはボクが部屋に戻ってきたことに気づくと、座っていたソファーから飛び上がり、一足で距離を詰めてきた。

「ちょっと出かけてくるって書置きをしておいて、どうしてこんなに遅くなるのかな?」

 書置きを片手に問い詰めてくるヒナの気迫に押され、後ずさりしてしまう。

 当然気迫負けしたボクだったが真実をそのまま伝えることは避ける。

 ヒナはまだボクとレインさんの関係性に納得いってないからだ。

 ここは穏便に、穏便にだ。



「き、昨日は早起きしたから朝から色んなところへ行ったんだよ。マルシェや美術館、普段行かない所を気ままに散策してみたくってね。それで夢中になって歩き続けていたら、旅の疲れが一気に出てきて……。一人じゃ帰れそうになかったから、目についたホテルに泊まることにしたんだよ」

 


 同行者の事を隠しただけだ、ほとんど嘘はついていない。

 これなら怪しまれないはず。

 だったのだが――

 


 女のカンってやつなのだろう。すぐに何かを察知したヒナに背後から羽交い絞めにされ、そのまま尋問されてしまう。

「本当はどこ行ってたの?」

 口調は穏やかだが、怒っている事は明白だ。締め付ける力が本気だから。



「嘘はついていないよ、本当だって信じてよ」 

「スンスン…………じゃ、質問かえるね」

 なぜ匂いを嗅がれたのか、その意味に気付いた瞬間、全身に寒気が走った。



「ソラにべっとりついたこの女性用香水の匂いはなにかな? ううん? 普段香水なんかつけないのにねぇ~」

「ひっ」

 ここで臆せず平然と嘘をつければ今後女性で困る事はないのだろう。

 だけど、ボクはダメだった。

 この思わず漏れた短い悲鳴がボクの限界。

「ソォォラァァァァァ」

 

 

 ここからサンドバックと化したボクはヒナの怒りを正座で受け止め続けた。

 同室のアナマリアさんがいれば、途中で助け舟が来る可能性も億分の一の確立であったが、どうやらミミちゃんの部屋へ行っているようで不在だった。無念。


 

 どのくらい怒られていたかわからないが、足の感覚がなくなってきた頃、唐突にこの拷問のような事態に終わりが訪れた。

 こんな緊迫した場面で『ぐ~』とボクのお腹が鳴ってしまったのだ。

 それを聞いたヒナはため息をつき、「仕方ないなぁ」と小さくつぶやくと、ようやくボクを解放してくれる気になってくれた。

「……朝食済ませてないの? 私も怒りつかれてお腹減っちゃった。一緒に行こうっか。ここの食事とってもおいしいのよ」

「うん! そうしよう」



 ソファーに座って息を長く吐く。どうにかここはごまかせたようだ。

 ホッとしながらレストランへいく準備をするヒナを待つ。

「お待たせ、いこっか」

 機嫌が戻ったようだ。笑顔が覗いている。

「うん」

 二人で部屋を出る際、凄みのある声が耳元でした。



「次やったらこんなんじゃ済まないからね、わかった?」



 有無を言わせぬ物言いに反論することもなく素直に頷く。

 逞しくなったね、ヒナ……。





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