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ソラ君とウチのプレリュード第24番  まさかのさば折り


 半開きになったドアから、ヒナの半身がのぞいた。

 こちらをうらみがましそうな目で睨んでいる。


 

「ソラ、私の言うこと一つ聞いてくれる? 聞いてくれるなら許してあげる」

「本当? 何でも言うこと聞くよ!」

 ツアー中不機嫌なままだったらどうしようと思っていたのでヒナの提案は願ったり叶ったりだった。願いを叶えるだけで機嫌が直るならそれに越した事はない。

 それに優しいヒナのことだ、さすがに無茶要求はしてこないはず。

 

 

「そのチョーカーを外して私をギュって抱きしめて」

「う、うん?」

 ここでチョーカーの話がまだ出てくるあたり、ヒナはまだレインさんの事を気にしている。

 本当にやましい事はないんだけど……さっきの説明じゃだめなのか。

 レインさんのことをわかってもらうのは長引きそうだ。長期戦を覚悟せねば。

 


 とりあえず今はヒナの願いを叶えることを優先させよう。

 先ずはヒナが一番気にしているチョーカーを外す。すると、ようやく部屋から出てきてくれた。

 それでもまだ不安げな顔をしている。こんな顔をさせちゃっていたのか、ごめん、ヒナ。

 


 自分では悪い事をしたつもりは無いのだが、そんな事は関係なかった。受け取り側のヒナがどう思っているかが大事なのだ。

 反省の気持ちと慈愛をもってヒナを優しく抱きしめる。するとそれに応えて体を預けてくれたヒナが、こちらの腰に両腕を回してくる。

 愛しさがあふれ、頭を撫で始めたあたりで異変が起きた。

 腰回りに強烈な痛みが襲ってきた。 

 要するに二人は優しく抱きしめあって仲直り! とは行かなかった。

 


 痛みの正体は、ヒナがボクに万力のような力でさば折りを仕掛けている事だった。



「ソラってさ、なんかこういうの慣れてない? まさかとは思うけど、他の子にも同じことしていたりしないよね?」

「そ、そんなわけないよ。ボクがそんな器用な人間じゃないって一番知っているのはヒナじゃないか。ぐへぇ、それにいつも一緒にいるじゃない、ぎゃぁぁぁ」

「本当に?」

 本当のことなのだから、更に力を入れて締め上げてくるのをやめて欲しい。

 それにしても、この細腕にどうしてそんな力が宿っているのか。

 このままさば折りを続けられたら、腰から体が真っ二つになってしまう。

「ほ、本当だよ。そ、それにボクが一番大切だと思っているのはヒナ、君なんだから!」

 


 その一言が決定打となり、さば折の力が一気に緩められる。

 今度こそ許してくれたみたいだ。

 最初から本心を言葉にして伝えていればこんな事にはならなかったのにボクのバカバカバカ。

「私のことが一番大切っていうなら。行動で示してよ」

「行動って……」

「んっ」

 

 

 目を閉じるヒナ。唇を少し突き出し、踵を上げて背伸びをしてくる。

 うっ! これはどう考えてもキスの催促だよな。

 ボク達は付き合っているわけでもないのに、ヒナはこれでいいのだろうか? 

 それ以前にキスという行為にそこまで真剣に考えてしまっているボクのがおかしいのか……

 


 ええい、考えている場合じゃない。

 ヒナが望んだことだならするまでだ。

 ボクだって男だ、こういう事に興味がないわけじゃない。それにこれ以上ヒナに恥をかかせられない。

 両肩を優しく掴みとヒナはビクッと体を竦ませたが、ボクはかわまず顔を近づけていった。

 お互いの体温と息遣いが聞こえてくる超至近距離、あとはこのままヒナの唇に――

 

 

 ガチャっとなってバサっと音がした。

 その音を聞いた瞬間、ボクの心臓と心拍数が文字通り跳ね上がった。

「二人共聞きましたよ。Lv3のスパイトの滅却おつかれさまでし――」

 ヒナを正面に据えたまま、目だけで声の主を確認すると、ミミちゃんがボク達二人を見て固まっていた。

 手に持っていたであろうトランプなどのパーティグッズと、お菓子を満載した袋が床に散らばっている。



「もう早く中に入りなさい。ミミ、どうしました? 聞いているんですか…………まさかっ!」

 何かを察したのか、ドア前で固まっているミミちゃんを素早く横に退けて、アナマリアさんが部屋に入ってきた。



 前とまったく同じ展開。

 この後どうなるか手に取るようにわかる!



「やっぱり! あなた達はいっつもなにをやっているの!」

 二人でこの部屋に移動したから勘違いしたけど、学園での集団行動のシステムを考えたら三人部屋になっているはずだよな。

 気を抜いていたらこうなることは明白だった。



「二人共そこに正座なさい!」

 キス寸前でいい雰囲気は消え、残ったのはアナマリアさんの怒りと惚けてしまったミミちゃんのみ。

「エオル同士仲良くするのはいいことだと思いますが、あなた達は度が過ぎると思います。そもそも――」

 アナマリアさんの説教は深夜まで続いた。

 横で同じく説教を喰らっているヒナが、なんだかうれしそうだったのが唯一の救いか。


 

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